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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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ニ十章
  作戦開始

と隊長たちはそう言っていたそうだ。で、現在に至る。今は本隊が登るために、安全確認として登っている。俺と綾那さんと鞠さんで。隊長はもうすでに上にいる。そこで登ってくるのを待ちながら近付いてくる者がいないか監視をしている。

「さてと、あと少しだ」

「・・・・うわぁ。こんな高い所まで登ってきたですか」

「すごいのー!」

「あまり下見ない方がいいですよ」

今の所150mくらいは登っているだろう。ビルでいえば40階くらいだ。そう考えると大した高さではないが、ビルの中とここでは全然違うな。

「綾那、高い所が大好きなのですよ!別に恐くなんかないのです」

「鞠も平気なのー」

「それならいいんですけど」

それでも結構な高さなんだけど。普通の人なら下を見れば怖がるけど、俺達はこれ以上のところを登っているから問題はない。二人と話していたら彼方から鋭い音がなったけど。

「鏑矢の音です!」

「どうやら始まったようですね。俺達も一気に登りましょう」

美空たちは大手門に到着した様子だった。それは俺も気付いている。トレミーからの情報でもある。一方大手門の方では。

「城方の極悪謀反人ども、御大将の言葉、耳かっぽじってよーく聞くっすー!」

「聞けぃ!越後に仇なす謀反人どもよ!貴様の頼みの綱であった人質二人、この長尾景虎がしかと取り返した!もはや貴様らの勝ち目無し!己の罪を認め、降伏するならばしかるべき温情を与えよう!それでも戦おうというのなら、越後の武士として、勇壮に殺し合おうではないか!越後の龍に付き従う兵どもよ!天高く旗を掲げよ!この越後の支配者は誰なのか、天に!地に!衆目に教えてやれ!」

「長尾の御旗たてぃっすー!」

「越後が英傑、長尾景虎。その守護を務めるは、武勇名高き毘沙門天の旗」

「我らに毘沙門天の加護在らん事を!」

「もひとつ掲げるっすー!」

「大日大聖、架かり乱れ龍の旗」

「我らに不動明王の加護在らん事を!」

「毘沙門天よ、不動明王よ!勇猛なる我らの戦い。存分に照覧あれ!」

「かかれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぃ!」

崖を登り切った蒼太たちは、素早くひよたちがいるところに合図を送った。素早く登れとな。すると、足軽が来たと思えば、すでに兵は倒れていた。本人は何が起こったのか分からないのだろうな。目は不思議そうにしていて、眉間には穴が開いていた。

「・・・・烏です?」

「今のはな」

俺も撃てたけどあえて烏に撃たせた。射撃音も聞こえていなかったけど、サイレンサーがない時代なのに音がないとは。ここから見えるということは目はけっこうな事だと思うな。いずれにしても全員が登り終えるまでの間は、バックアップとして烏がいることだ。

「一真ー。下に小夜叉ちゃんたちが来ているの」

鞠に言われて下を覗き込めばはるか下に一真隊の兵たちと、小夜叉たちが見えた。今は登っている最中だったけどな。蒼太たちを見れば装備を確認中。今回はアサルトライフルにサイレンサー付きと一応照明弾を持たせている。あとは煙幕や手榴弾も。

「俺達はしばらく待機だ。蒼太たちはしばし休め」

「ふぅ。疲れたのー」

「一真様。お水飲んでいいですか?」

「程々にな。・・・・美空たちは今頃城門前で前半戦だと思うな」

「どうかなぁ。前の時は、馬出辺りで柘榴ちゃん達がずーっと戦ってたの」

「馬出でか・・・・?」

馬出とは城門の前に設けている広場の事だ。周囲には土塁や堀が備えてあって、敵が城門にまっすぐ突っ込んでくるのを阻んだり、ここに兵を溜めて一気に出撃する場面に使われるスペースなんだが。前回は柘榴たちが侵入しての激戦だったようだ。

「でもそうしたら、大手門は戦場のど真ん中ですよ!?」

問題があるのは、この馬出は大手門のすぐ外にあるということだ。

「(ご主人様)」

噂をすれば来たな。

「(小波は今どこ?)」

「(大手門付近の偵察が終わりましたので、ご報告に。現在、柘榴様の本隊が馬出にて戦闘中。大手門は閉じたまま、春日山勢は籠城の構えを取っております)」

さすがに昨日の今日だと出てこないか。

「(大手門は戦場のど真ん中だ。挑むのは厳しそうだな)」

「(恐れながら)」

「小波ちゃん?」

「ああ。大手門は閉じていて、前みたいに柘榴が馬出まで入って戦闘中とのこと」

「・・・・だったら、大手門は捨てるです?」

「まさか。俺達は戦場だろうが、行くに決まっているさ。俺達にはこれがあるから」

俺達には俺たちの支援方法はいくらでもある。

「(ご主人様?)」

「(悪い。千貫門の方は分かるかな?)」

「(今移動中ですが・・・・付近に丸の内に万字の旗が見えますので、恐らく松葉様が攻めていらっしゃるかと)」

千貫門も戦闘中か。燃えてくるな。

「(分かった。詩乃たちからは何か連絡はないか?)」

「(いえ、今の所はなにも。また変事がありましたらご連絡致します)」

「(頼んだよ。こちらは本隊と合流待ちだ。順調に行ってるから小波も気をつけろ)」

「(はっ)」

小波の短い返事が聞こえて、連絡は切れる。

「何だ、暇そうじゃねえか」

「まあな。小夜叉もお疲れ、他の皆は?」

「言われた通り、何人かずつかで登らせているぜ。全員登ったら、八咫烏の連中も来るとよ」

「わかった」

潜入部隊の他の兵の皆も、一定の間隔を置いて次々と登ってきている。このペースなら、全員が揃うのは夕方になって頃かな。

「けどよ、よくもまあこんな事思いついたな」

「こんなの思いつかない方がおかしいと思うぞ。森一家だとこの崖を駆けて登れって言うんだろ?」

小夜叉は肯定してたからきっとそうなんだろうな。実際あのときは崖を走り回っていたし。

「た、ただいま着きましたー!」

そういう話をしてたら、今度はひよが登り切ってやってきた。

「お疲れ、ひよ。大丈夫か?」

「すっごく恐かったですよー」

「ンだよー。情けねえなあ。一真たちが確認してから、登ったんだから大丈夫だろうに」

「それでも、風が吹いたらギシギシ言うんですよ・・・・切れたらどうしようかって、ずーっとドキドキしてました」

「あのロープは頑丈だから大丈夫だよ。そのために用意したんだから。それに落ちたとしても黒鮫隊が見ているから心配ないよ」

今回は2本がメインで1本はサブだ。無論落ちない様に中間辺りにIS隊を配置させている。

「それは分かってますけど・・・・」

今回は本格的な登山用のを使っているから強度はあるし、数十人が吊るされても切れない代物だ。実戦投入した物だから、安心して使える物だ。

「こんなに恐いんだったら、歌夜ちゃんの代わりに撤収部隊の指揮をしてた方がよかったです・・・・」

歌夜は八咫烏隊の侵入を見送った後、前回と同じように登攀ポイントの確保にあたる事になる。俺達がしくじることはないが、万が一を考えてまたそこでお世話になる感じ
ではある。

「歌夜は敵に見つかったらそのまま戦闘ですよ?ひよで大丈夫です?」

「だ、大丈夫じゃないけど・・・・誰も来なかったら、戦いはならないでしょ・・・・?」

「そんなにビビってたら、攻めて下さいなんて言っているようなモンだろうが。辺り全部囲まれて、良い的だぜ?」

「あ、あぅぅ・・・・」

「あんまり悪い方向で考えない方がいいぞ、ひよ。そうしないためにも上で監視をしているんだから。それにそうなったときでも支援対策はバッチリなんだから」

「そ、そうですよね。それに桜花さんたちもいましたし、きっと大丈夫です!」

「その意気だ。そろそろ動くとしようか」

一方武田の諜報隊である一二三と湖衣は。

「あのような所を登るのですか・・・・」

「一ノ谷の逆落としの逆だから、逆逆落としとでも言うべきか。清和源氏にも縁の深い今川や本多からすれば、まさに坂東武者の誉れの極みといったところだろうね」

一ノ谷の逆落とし・・・・源義経が行った崖下り。騎乗のまま、ほぼ垂直の崖を駆け下りて敵陣を急襲した。

「湖衣は思いついたかい?あの策」

「思いつきはするでしょうが、実践するかどうかはまた別ですね・・・・。利はともかく、危険が大きすぎます」

「けど、彼は似た策を何度も成功させている。織斑入れば落ちにけるかな・・・・湖衣が言い始めたことだよ?」

「三度目の正直という言葉もありますよ」

「ははは。そう言われては返す言葉がない。・・・・なら、彼のお手並み拝見といこうじゃないか」

「・・・・典厩様のお迎えは?」

「長尾・・・・いや、織斑殿いや様かな。織斑様の視察で出迎えに遅れたと言えば、怒るようなお方ではないよ。羨ましがりはするだろうけどね」 
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