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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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十七章 幕間劇
  隊の様子見×二人の素質

「一真様!」

そんな悲痛な叫びと共に俺の体にしがみ付いてきたのは、小さな体。俺の体をきゅっと抱きしめ、離さない様に必死で力を込めてくる。

「おやおや。モテモテですな、一真様」

「・・・どうした、ころ」

ひよならいつも通りこんなテンションだが、ころは珍しいな。それに滅多にないことだし。

「・・・・・・」

「黙っていないと分からないよ」

押し付けてくる小さな頭を撫でながらだったけど。

「・・・・・・っ!」

響いてきた足音を聞いたのか、ころは俺から離れた。

「あ、ころ!一真様も!」

「どうしたんだ?みんなで揃って」

俺は左耳に掛けてあった通信機を外して、話を聞こうとした。さっきころが抱き着いたのを悟られないように聞いたけど。

「ええっと・・・・ですね」

抱き着いたことで落ち着いたのだろうな、目元に浮かんだ涙を軽く拭ってから見上げる。

「一真様。やっぱり私、このお二人の指揮を預かるの、自信がないです」

「自信?家柄か」

野武士と武士は、結構気にしている部分でもあるけど。

「はて。一真隊は、そのような身分云々には緩い部隊だと思っておりましたが」

「そうですよ。私たちは一真隊では一番の新参ですし・・・・状況次第では、ころさんは一葉様や鞠様の指揮も行うと聞きましたが?」

「それとこれとはワケが違いますよ。・・・・一葉様や鞠ちゃんはその場の勢いですけれど、お二人は長柄隊だったらいつもじゃないですか。何より、二人とも一騎当千の強者ですし・・・。私より二人が長柄隊の指揮を取った方が・・・」

「何を言ってるんだか、川並衆の棟梁だろうに」

「ええ?ころ、棟梁したことあるです!凄いです!一国一城の主です!」

「棟梁って、国持ちになったわけじゃないよぅ・・・。ただの野武士の棟梁ってなわけで」

「それでも凄いと思うが・・・」

一夜城のときも、活躍したのは川並衆と黒鮫隊スナイパー班だったけど。川並衆があったから、ここまでついて来れたんだし。

「それに前にも言ったが、ころを手放す気はないと言ったよな」

「離れるつもりはないのですけど・・・・」

ふむ。梅のときは、単に役割分担だったけど今回は違うようだ。同じ長柄としてだけど、レベル的にはころより綾那たちが上ということか。

「長柄隊の長はころ殿以外に適役はいないと思いますが」

「俺も幽と同じ意見だ。綾那達が長になると、つっこむ以外ないと思うし。的確に指示できるのはころだけだと思うよ」

一真隊の安定性を見ると、ころの存在は必要不可欠。そのはずだけど、肝心の本人は自覚がないらしいからな。

「・・・何だか賑やかですわね。楽しいお話ですの?」

「梅ちゃあん・・・・」

「あらあら。・・・ハニー、どうかなさいましたの?ころさんがこんなに涙目だなんて、随分と可愛らし・・・・いえ、珍しい」

「それがな、自分よりも格上の、綾那と歌夜を指揮する自信がないんだと」

「まあ。ころさんともあろうお方が何を情けないことを。そんなの、つっこめー!とか、やっつけろー!と言っておけば良いだけではありませんの」

「いやはや・・・・これは立派な」

「牡丹・・・・」

「牡丹だな」

「・・・・牡丹ですね」

「分かりやすいです!それいいです!」

「って阿呆!」

パシイィィィィィイン!パシイィィィィィイン!

と猪武者にはハリセンをお見舞いしてやった。

「そうすると兵たちはますますついて来ないぞ。あと的確な指示が出せない、それはただの猪だ」

「うぅぅ・・・・ハニーのは相変わらずですのね。でしたら、お二人とも。鉄砲隊に来てみませんこと」

「なるほどな。人間、何が向いているか分からんしな。長柄隊以外にも向いてるのがあるかもな」

そう言ったら、梅は頷いたが、何か考えでもあるのだろか。ふむ。ここで話してると、ころが沈むから他の場所に行くとしよう。

「いかがです?お二人とも」

「うぅぅ・・・・これが一真様のハリセンですか。行ってみたいです!綾那、鉄砲撃った事ないですよ」

「そうですね・・・。一真隊の鉄砲は気になっていましたし、一真様と梅さんが良いのなら、後学のためにもぜひ」

「ふむ・・・。ころはどう?」

「私はかまいませんけど・・・」

「では、少しお借りしますわね?ころさんはどうなさいます?」

「私は大丈夫です。皆さんで行ってきて下さい」

「ふむ。俺はどうしようかな」

ふむ。ころの事はどうしようかなと考えていると幽が声をかけてきた。見ると幽は小さく頷いてるので、ころの話し相手にでもなってくれるのかなと思い俺も行くことにした。で、綾那の声に従って立ち上がった後に、ちらりと残る二人を見ると、幽はお任せをといった感じであったので、歩きながら手を振った。

「なあ、歌夜」

梅と綾那が先に行ってしまったがため、隣にいる歌夜に話しかけた。

「はい?」

「ころは別にお前らのことを嫌っているわけではないからな。ただいきなり強者が来たから動揺しているんだろうよ」

「大丈夫です。分かっていますから。以前から綾那と一緒に一真隊に遊びに行くと、いつも良くしていただきました。兵も他の隊の皆さんも、ころさんの事、凄く信頼されております。長柄隊でころさんほど信頼される指揮を取るのも、今の私たちでは無理があるでしょう。それに三河武士と一緒に扱われると混乱しますし」

「そう思うのは助かるよ、綾那も不満を漏らすとは思っていない事だし」

「そうですね。それに私も一葉様や鞠様の指揮を取れと言われたら、躊躇しまうと思います。気持ちは分からないでもありません」

「そんなもんなのかね」

一葉は足利将軍で、鞠は元国持ちのお屋形様。この世なら、久遠や眞琴も同格。野武士と武士、武士と将軍。この間にある見えない壁が立ちはだかれているんだろうな。俺らで考えるなら上司と部下。上官は俺で、兵たちは部下。部下たちからの下はないけど、トレミーのクルーたちには位はないけど、ブラック・シャーク隊のことは仲間だと思っているからな。

「一真様は神様ですからね、それに恋人ですものね。そういう所が、ただ者ではないと思います」

「まあ、俺は一真隊の長の前に黒鮫隊の長だからな。神というところは否定はしない」

で、歩いてると梅について来てから、連れてこられたのは鉄砲隊が訓練しているところだった。

「あ、梅さん。皆さんも・・・・どうかなさいましたか?」

「ええ。このお二人に鉄砲隊の素質があるかどうか、見定めようと思いまして」

「お二人は、ころさんが預かったのでは?」

「一騎当千の二人を指揮する自信がないからとね。それで梅が、他にも得意分野があるのではということで来てみた訳」

「ころさんは?」

「今は幽が話相手をしている。その内解決するだろうとね」

「なるほど・・・。では、お二人とも。試しに鉄砲を使ってみますか?」

「やってみるです!」

「よろしくお願いします」

で、烏と雀を呼んで、二人に鉄砲の火薬入れについてレクチャーしていた。

「・・・はーい。そこに火薬と弾を入れてー・・・・。そのまま、朔杖で軽く突いてねー」

「はいっ」

「烏、悪いな。八咫烏隊にまで手伝ってもらって」

「・・・・・・(フルフル)」

歌夜と綾那に鉄砲のレクチャーを受ける様子を見ながら、烏も頼もしく首を振ってくれる。

「ありがと。俺はここの鉄砲の仕方が分からなかったからな、助かるよ」

「・・・・・・(コクッ)」

「軽くで構いませんわよ。お二人の力であまり力一杯突くと、尾栓が壊れてしまいますから」

「後は、火皿に少し口薬を注いでー。・・・・そんなに多くなくても大丈夫だよ」

「うぅ・・・・何だか難しいのです」

「火縄を挟んだら、そのまま構えて・・・・」

「はいっ」

梅や雀の指示に従って準備を整えた二人は、ここから距離20mくらい離れた的代わりの木の幹に銃口を向ける。ついでに俺もいつものハンドガンで、狙いを定める。

「狙いの付け方は説明したよね?よーく狙って・・・・。撃てーっ!」

と言ったので、二人とも撃った。ついでに俺は連続で撃ったけどね、サイレンサー無しだから相当うるさいけど。

「ふむ。二人ともなかなかいいんじゃねえの?」

二人の放った弾丸は、表面を削られた木の幹の隅に当たっていた。初めて撃ったのに、的に当てるとはな。俺のは連続だったけど、全て真ん中に当たった。俺の腕は百発百中だからな。

「自分で使うと、音が凄いですね・・・・」

「ふわ・・・・。なんだか、耳がわんわんするです・・・・」

「へぇ~。筋は悪くないんじゃないかなー?狙いもしっかりしてたし、練習したら結構良い線いくかもー。あとお兄ちゃんはさすがだねー、3発撃って全て真ん中に当たってるから」

「・・・・・・(コクッ)」

「まあな。伊達に黒鮫隊の長をしているんだし。それに二人もいい筋だと思うぞ」

歌夜が出来るのならともかく、綾那は向いてない気がしたけど・・・。梅の言う通り、他のを試せば向いてるかもな」

「綾那、鉄砲上手になれるですか?」

「うんうん!なれるかもよー!」

「そうだな、筋はよさそうだし」

という事で、もう一発撃ってみることにした二人とも。

「梅は二人の指揮も問題なさそうだな?」

「もちろんですわ。我が蒲生家は、部下の家柄などで指揮を乱れさせたりなどいたしません。ハニーのお願いとあらば、一葉様だって指揮してみせますわ」

まあ、梅なら一葉相手でも行けそうな気がするな。でもさすがに久遠は無理か。憧れの久遠のシチュはないなと思いながら、ハンドガンをホルダーに入れてから空間からアサルトライフルを取り出す。

「そうそう。火薬の量はそのくらいですよ」

「なんか分かってきたです!こうなったら綾那、鉄砲も上手になるですよ!鉄砲でばったばったと並み居る敵をやっつけるです!」

「・・・え?無理だよ」

「・・・ふぇ?」

「鉄砲って、弾を込める時間が必要だからさー。ばったばったと撃ち倒せるのは、私たちやお姉ちゃんは無理だけどお兄ちゃんたち黒鮫隊なら可能だよー」

「えー。出来ないですかぁ・・・?一真様の鉄砲とは違うのです?」

「雀たちだったら、敵が来ない遠くから、相手の頭をめがけて一発でバキューンってね!」

「・・・・・・(コクッ)」

「でもお兄ちゃんが今持っている鉄砲なら、ばったばった倒せるよー!でも触らせてくれないの」

「そりゃそうだろうよ。俺らのは未来の兵器なんだ、この時代の子には触らせないよっと!」

と言いながら、アサルトライフルで的を狙い撃つというより、乱れ撃ちかな。しばらく撃ったら、雀たちもそれで撃ちたいというから、持たせてあげたけどセーフティーかけてるから撃てない状態だ。

「一真様なら楽しそうですが、綾那たちにはつまらないです」

まあ、綾那は鉄砲には向いてないだろうよ。銃は後衛で、狙い撃ちだし。綾那は前衛だろうに。で、アサルトライフルを返してもらったけど変な事させてないだろうなと思い、セーフティー外して撃ったけどね。

「・・・・あや?」

「どうした?綾那」

「なんか、引き金引いてもぱーんって言わないですよ?」

そんな事を言いながら、綾那は鉄砲をひょいとひっくり返してっておい。

「馬鹿者!銃口を覗き込む馬鹿がいるか!」

俺は綾那の鉄砲を奪うようにしてから、持つ。危ねえ、火薬と弾ががしっかりと装填されている状態だった。そして、撃つ状態にしてから試しに撃ってみたけど、やはり俺には合わないなと思った。

「ハニー。では私は、ころさんと幽さんの様子を見て参りますわ」

「頼む。俺より、梅の方が話しやすいと思うから」

女性同士じゃないと分からない問題もあったりするからな。まあ、俺もそういう相談を受けたことはあるな。だけどここでは、女の子同士で話した方がいいと思う。

「うぅ・・・・。火縄銃、難しかったです・・・・」

「火縄銃は危ないからねー。お兄ちゃんのおかげで何とかなったけど、ちゃんと気を付けてね!」

「まあまあ。事故も起きませんでしたし、一真様のおかげで何とかなりました。勉強にはなったと思います」

「そうだな。それに綾那は鉄砲は向いていないだろうし」

「綾那、鉄砲隊に入るより、鉄砲隊を守って近寄る敵をばったばったとなぎ倒す方がきっと向いてるです」

「あ、それ助かるー。鉄砲って、近寄られると当てにくいし」

「・・・・・・(コクッ)」

「なら、そっちは綾那に任せるですよ!」

「俺なら近距離でも当てられるが、今の時代の鉄砲は無理だからな。さてと、ついでに他の隊も回るかね」

「いいんですか?」

「うむ。一真隊は人数が少ないからね、他の隊の仕事を兼任してる者も結構いるのさ。それに梅の言った通り、意外な所が向いてるかもしれないし」

「なるほど・・・。でしたら、お願いします」

なら、近くの隊はと行って見ると、速攻で許して下さいと言われた。小荷駄隊に歌夜や綾那が入るのはどうなのだろうか、弓の方が慣れているとは思うけどと言ってみたがそう言う問題ではないらしい。

「弓ですか?」

「ああ。小荷駄隊は、弓部隊も兼任してるから」

矢を補充する必要もないし、部隊の後方でそのまま待機してるという選択肢は、今の一真隊には厳しいかな。無論小荷駄隊だから、前に出る必要はないというか来られたら困るし。ひよの指揮で危険ではないところでうまくやってはいる。

「なるほど、そういうことですか」

「歌夜は弓は?」

「そうですね。あまり得意ではありませんが・・・・」

とか言いながら、置かれた弓を慣れた様子で取り上げて弦の張り具合を見る歌夜。

「少し軽いですね。もう少し強い弓はありませんか?」

「えええ・・・・。それ三人張りの、ウチで一番強い弓だよ?」

「・・・・三人張り?」

「弦を張るのに、三人が力を合わせて作業する程度の強さの弓の事です。・・・・引いてみますか?」

「ああ・・・・。ふむ、俺では引けないな。ああ、現代では一人で弦が張れるからか」

「そうなのですか。コツがあれば引けますよ、私でも引けますから」

「それだって、ウチの隊じゃちゃんと使える人がいなくて予備になっているのに・・・・」

「三河では、三人張りが使えて一人前と言われていましたから」

鉄砲よりもはるかにスムーズな動きで、三人張りの強弓に矢を番えると、引き絞ってひょうと放つ。僅かに弓なりの弾道を描いた矢は、はるか彼方の木の幹に突き刺さって・・・・よく見ると蛇の頭を貫いているな。

「えええ・・・。それで得意じゃない・・・・!?」

俺もそう思う。それで得意ではないのなら、三河の者はどんだけなんだろうと。こっちのレベルと三河武士のレベルが明らかに違うと分かったな。

「一応聞くけど、綾那はどのくらい引けるの?」

「為朝公の五人張りとまではいきませんが、四人張りくらいまでは使えたかと。当てるのは苦手でしたけど」

「一真様・・・・」

「なんだ?」

「・・・・尾張の兵が弱卒って言われるわけ、何だか分かった気がします」

「俺もそう思う。・・・・あれ?綾那は」

歌夜の弓講座から見ていないが、どこに行ったんだ。

「これを引けばいいですか!」

お、いたいた。けど何してんだ?

「本多様。俺達三人がかりでも動かなかった奴ですよ?もうちょっと人数集めた方がいいんじゃないですか?」

「何かあったか?」

「あ、一真。補給の荷車が戻ってきたんだけど、車輪がぬかるみに取られちゃったの」

確かにハマっているな、でも綾那なら平気じゃないのかな。

「このくらいなら綾那には平気だろうな」

「その通りなのですよ!このくらい、綾那にお任せなのですっ!」

まあ、拠点には鈴々がいるし、小さいけど身長より長い槍持ってるもんな。俺は行けるだろうと判断をして綾那は荷車の梶棒をしっかりと両手で掴むと・・・・。

「ふにゅううううううううううううううううううっ!」

ほらね。綾那が顔を赤くして踏ん張ると、さっきまで動かなかった荷車が・・・・。

「ううううううううううううううううっ!」

「綾那、凄いのー!」

呑気に見学もいいけど、ここは押した方がいいな。

「おいお前ら!綾那を手伝うぞ、押せ押せ!」

「はいっ!みんな、押すよー!」

「了解です!うおおおお・・・!俺達三人でもどうにもならなかったのに!すげえっす本多様!」

俺と一真隊の者達で押していくと、綾那に引かれた荷車はぬかるみを抜けた。

「ぬふー!どうですか!」

「綾那、すごいのー!びっくりなの!」

「このくらい、お安い御用なのです!どこまで引っ張ればいいですか!」

「でしたら向こうの隅まで・・・・」

「あそこですね!でえーいっ!」

あ、ヤバい。綾那の勢いだと止まらない気がするが。

「って、ちょっと綾那ちゃん。そんなに勢いを付けると・・・・・!」

「はれ・・・?止まらないですよこれっ!?」

「あー・・・・」

と皆の叫び声が聞こえたので、綾那の荷駄を念力で停めた。危ないところだったな。あと少しで危ない所だったけど小荷駄は向いてないらしいな。次にやってきたのは我らの頭脳と呼ぶべき軍師隊。

「綾那さん達の他の可能性ですか。確かにあの才は、長柄隊だけで埋もれさせるのは惜しい気もしますけど」

「とりあえず、長柄隊の槍と小荷駄の弓の教練をお願いしようとは思う」

槍が達人級なのは、知ってるけどまだまだ隙があるんだけどな。しかも弓の腕前が一流とは知らなかったな。それだけ分かっただけでも、大きな収穫だとは思う。

「それが正解だと思います。一真隊は鉄砲隊が主力とはいえ、玉薬がなければただの棒ですから」

その点、矢なら玉薬に比べて補充も容易い。玉薬の節約はしなくても構わないけど、今後高度な運用を行うらしいから、弓隊のレベルアップは必要なことだ。

「あと見回っていないところは、軍師だけど。必要ないもんな」

「はい。私たちのところはもういっぱいですし、一真様の策を使うときもありますからね」

綾那と歌夜はどっちかというと、前線向きだから、頭で考えるより体で行動するからな。

「くー・・・・」

綾那は床几に腰掛けた俺にもたれて、気持ちよさそうに寝ている。

「ちょっと綾那、寝ちゃダメだよ」

「んみゅぅ・・・・。難しい話、苦手なのです・・・・。眠くなっちゃうのですよ・・・・」

「護衛という意味ではこれ以上なく頼もしいお二人ですが、あえて後方に置いておく意味はないかと」

「そうだと思ったよ」

軍師組は無理となると、あとは思い小波のところに向かうとひよみたいに即キャンセルみたいだった。

「後生ですから、自分に綾那様と歌夜様の指揮を取らせるなど、おっしゃらないでくださいませ」

これは本気だな。小波はこれ以上もなく嫌がっている。

「そんなに嫌がらなくてもな」

「嫌がってなど、とんでもありません。ですが、本多家と榊原家のお二人といえば・・・・」

「気にしなくてもいいのに・・・・」

「ですよ。小波は一真隊では先輩なのですから、普通に指揮してくれたらいいのです」

「気にしますっ!」

「悪かったな、小波。このことは忘れてくれ」

予想通りといえば予想通りだな、詩乃も「小波の隊ですか・・・・?」みたいなことを呟いていたし。

「でも、小波って部隊を持ってたですか?」

「工作隊を任している。だいたい小波は物見で留守が多いから、実際は雫やひよが指揮をすることがほとんどだが」

陣地や宿営地の準備もここの担当。小波が偵察即設営が出来るから、アクションが早いんだよな。という事で、今は何もすることがないから、戻ってきた。一真隊を回って綾那達にできそうなのは、ないな。やはり長柄かな。隊の紹介というふうに回っているから、どんな隊なのか分かってもらえただけでも十分なんだが。

「やはり綾那たちは長柄だな」

ころの相談はどうなっているのやら。幽と梅に任せっきりだけど大丈夫かな。

「そういえば、三河での指揮はどうだったんだ?」

「どうと言いますと?」

「歌夜はなんとなく分かるけど、綾那はどうかなって」

「綾那ですか・・・・」

「綾那も本多衆を率いてたですよ」

ああ、こりゃころがへこむのも分かるな。一軍の長だからなのかね。

「突撃!とやっつけろ!だけで全部通じてたです!」

「それは・・・。うん、綾那に指揮させるとウチの場合は混乱するな」

綾那の隊はそれだけで通じるのは、まるでマニア同士の会話みたいな感じだな。一言だけで、何かを分かるみたいな感じで。あと三河武士は想像しただけで、分かるな。

「でも、綾那は殿さんにお願いされたですから、一真様をお守りしたいです!それで、鬼を片っ端からばったばったとやっつけるですよ!」

「一真様の護衛はどうなっているのですか?」

「俺の護衛というより、俺の背中を守る者なら鞠がいる。俺は指揮官でもあり前線で戦う者でもあるから」

「じゃあ、綾那も一真様をお守りしたいです!」

「いや、二人も三人もいなくても平気だよ。だいたい、俺の武器は刀から銃まである。守るのであれば、詩乃たちを守ってほしいのだが」

俺の剣は、擬態だから鞭のように伸びるしな。あと銃を持っているから、近距離から撃つとなると護衛は邪魔になる。それに俺は一真隊の指揮ではなく、黒鮫隊の指揮及び戦闘をする。一真隊の前で戦うから、鉄砲隊メインの周りの護衛くらいかな。

「俺が前に出る時は、鉄砲隊が弾を装填している間に倒してくれたり、少人数で動くときはお願いするけど」

「お任せです!歌夜もですよね?」

「はい。私も、一真様のお邪魔にならないようにお守りします。それが・・・・葵様にいただいたお役目ですから」

「それなら、頼むよ。まあ、俺をというより背中を守るだけで助かるからな」

「ひゃ・・・・」

「おっと。悪い悪い、いつもの癖だ」

いつもの調子で頭を撫でてはいるが、綾那も歌夜も嫌がっている様子はない。

「えへへ・・・。一真様の手、暖かくて気持ちいいです」

「私も、嫌じゃありませんから・・・・」

「そうかい?」

「それに、私たちも一真隊の一員になったのですから・・・・他の皆様と同じように、扱って下さいませ」

「だから、もっと撫でてほしいです。歌夜もですよね?」

「え、あ・・・・・そういうわけ、じゃ・・・・」

「一真隊は、仲間外れはしないから。綾那が満足するまででいいだろう?」

「・・・・・はいっ」

で、しばらく撫でた後に、戻ってきたわけだがころは落ち着いたであろうか。

「あっ!いい匂いです!」

「そういえば、そろそろ昼だな」

時計を見るとお昼の時間だった。回っただけなのにこんなに時間が経つとはな。

「一真様。二人も、お帰りなさい!」

戻ってきた俺に思いっきりしがみ付いてきたころは、表情から見るに元気を取り戻した様子だった。

「ただいま戻りました・・・・って、ころさん、何を・・・・!?」

「あー。何だか羨ましいです・・・・」

「ん?羨ましいなら、綾那ちゃん達も来ればいいよ」

「ふぇ・・・・・っ!?」

「いいですかっ!」

「あ・・・で、でも・・・ころさんは一真様の恋人だから、そうしていただいているのでは?」

「だったら、綾那もなるですよ!」

「えええっ!?」

「そんなに簡単に決めていいのかねぇ」

軽いノリで来られても俺が困るわけなんだが。

「だって綾那も、ころみたいに一真様に抱っこしてもらいたいです!それに、綾那も鬼と戦う気持ちまんまんですよ!」

そういえば、俺との恋人の条件は鬼と戦う気持ちがあれば誰でもだったけ。また増えるのか。

「綾那。でも・・・・私たちは、あくまで松平家から・・・・」

「雫も小寺家から出向ですよね?一真様」

「・・・そういえばそうだったな」

馴染んですっかり忘れてたけど、雫は播州の小寺家から俺達のところに出向したんだったよな。

「なら、いいのかなぁ・・・・?」

まあ雫の性格からして、そのへんは間違いなく勝手に進めているよな。小寺家、今回の件も思いっきりノータッチだろうし。あとで何か面倒になりそうなときは神の姿になれば、何とかなるか。

「・・・恋人の件は、葵に了解してからな?」

「分かったです!でも、くっつくのは・・・?」

「それは綾那がいいなら、来ればいいよ」

「じゃあ・・・・っ!」

思いっきり笑顔を浮かべて、綾那はころと俺に全力でしがみ付いている。

「ひゃ・・・・っ」

「ほらほら、歌夜も来るですよーっ!」

「え、えええ・・・っ」

「来ないです?」

「あ、あぅぅ・・・・・っ。そ、それは・・・・」

綾那の声に押されたのか、歌夜もおずおずと俺の脇に身を寄せてきた。三人分なので、翼を展開して風も俺の背中を押してくれている。で、そっと手を伸ばすと、小さな身体は一瞬ひくっと震えたけど。その後は、綾那達がしがみ付くようにして、俺に身体を委ねてくるけど。

「えへへー。一真様、あったかいです」

「一真様・・・・」

暖かくしてるのは、俺の体温じゃなくて翼からの大気熱で身体を暖かくしている。俺は低体温だからなのか、冷たいと言われるからな。

「うぅ・・・・。自分で言っておいて何ですけど、なんかまた恋敵が増えた気が・・・・」

「それ、気付くの遅くないか?」

まあ、こうやってワイワイするのは久しぶりだからいいんじゃねえのと思ってしまう。

「あと、抱き着いてきて悪いんだが・・・・」

「はい。幽さんと梅ちゃんに色々聞いてもらって、落ち着きましたから。・・・なんか、悩んでいたのがバカみたいです」

「なら、良い」

さすが幽と梅だ。あとで礼をしておこう。

「それよりころ、なんだか凄く良い匂いがするですよ!」

「ちょうど、お昼の支度をしてましたから。・・・それじゃ、二人は食事の支度の手伝いをしてもらえますか?これも、私の隊の大事な任務ですよ!」

二人に指示を出すとか、やれば出来るじゃんという感じだった。ホントに吹っ切れたようで。

「はいっ」

「わかったです!」

「つまみ食いはダメよ、綾那」

「わ、分かっているですよー!」

「なら、ここは任せるよ。ころ、俺は黒鮫隊の様子を見てくるのと食事してくるから俺の分はいらないからな」

「はい!分かりました!」

といい返事が来たので、俺は翼を展開しながら垂直に飛んで行った。空間切断で、トレミーに戻りいろいろと回った。主に武器庫やガンダムの調整とか。しばらく、トレミーを回ったあとにワープして食堂に行った。食いに行ったら、ちょうど昼だったのか隊員でいっぱいだったが、俺を見るや立ち上がろうとしたが手でいいと言ってから食券並びに並んでから隊員と一緒に食べた。 
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