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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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十六章 前半
  一乗谷への突破口

ある川のところで、長尾景虎と部下である少女と話していた。

「御大将ー。軒猿どもが越前一乗谷近辺にて、織田の軍勢を発見したっすよー」

「ふーん。案外早く着いたみたいね。それだけ織田が強いってことかしら?」

「そーでもないみたいっす。どうやら敦賀と手筒山、どっちも鬼がさっさと退却しちゃったらしいっす。あと未確認情報だと、黒い鎧を着たのが敦賀城の城門を蹴りで貫いたらしいっす。あと鬼以外の化け物もいたそうっすよ」

「退却ぅ?・・・鬼ってケダモノでしょ?逃げるってんならともかく、退却するってどう言うことよ?その黒い鎧ってなんなの」

「さぁ?そういう報告を受けたってだけで、良く分かんねっす。黒い鎧についてもまだ分からないっす、何せ聞いたときは疑ったっすから」

「ふむ。・・・・頭が居るってことかしらね?」

「頭っすか?」

「そっ。ケダモノを制御する調教師。猿回しが居るって言うなら、鬼の動きも納得できるわ」

「なるほどっすー。けど厄介っすねー」

「ホント、厄介だわ。あいつら大して強くないし、すぐに鬼が逃げちゃうし」

「そりゃ御大将の威圧感は半端ねーっすし。そもそも御大将には神仏の加護があるんっすから、鬼が逃げるのも当然っす。神仏で思い出したっすけど、織田の軍勢の中に神仏の類がいるそうっすよ」

「ケダモノのくせに臆病過ぎんのよあいつら。折角、越前くんだりまで来たんだから、もっと私を楽しませてくれないと。織田の軍勢に神仏ですって?それは確かな情報なの?」

「無茶言うっすねー。それについては確かな情報っす。織田の軍勢には、田楽狭間の天人と呼ばれる者が神仏の類らしいっすけど」

「田楽狭間の天人ねぇ。それはいいとして、織田の方はどんな動き?」

「それがどうやら、織田、松平、浅井の連合軍の中に、源氏の白旒旗が靡いていたらしいっす」

「なにそれ。公方が織田についたってこと?」

「っすかねー?軒猿が言うには、白旒旗の横には二つ引き両もあったらしいっすけど」

「へぇ~・・・・あの一葉様がねぇ。どういう風の吹き回しかしら」

「分かんねっす。・・・・で、どうするっす?」

「んー?観戦よ観戦。こんな面白そうな戦、見逃したらダメでしょ」

「了解っす。・・・・けど御大将。さっさと帰らないと秋子さんがうるさいっすよ?」

「分かっているわよ。この戦が終わったら帰るってば」

「なら良いっすけど」

「さて・・・・織田の力、鬼の力、とくと拝見させて頂きましょ」

で、早朝になった。山岳地帯特有の、靄のかかった陣幕の中で、一真隊の面々は出陣の準備を終えていた。ちなみに黒鮫隊は、既に完了済みで野営も片づけている。

「陣太鼓の音だな」

「進軍の合図ですね」

「うむ。いよいよじゃな!」

「一葉様。・・・・少しは落ち着いて下さいますように」

「そうだぞ、一葉。まだ戦場じゃないんだから」

「うむ。気を付けよう!」

はぁー。注意しても目はキラキラしている。開戦を今か今かと待っている一葉の姿に苦笑していたけど。

「・・・・・・・(ゴクッ)」

「・・・・・ふー・・・・・・」

一部というより一葉と俺達黒鮫隊以外の者たちは、緊張の色を隠していない。これからやるのは決戦という大戦だしな。緊張で硬化していってるから、身体と心をほぐすためにいつもの口調で話す。

「雫、一乗谷とはどういうところ?」

「東西二町、南北一里程度。一乗谷川下流沿いの細長い谷間に築かれた城と城下町を合わせて、一乗谷と呼称されると、母に聞いたことがあります」

「雫のご母堂というと。黒田の職隆殿でしたか」

「母を知っているのですか?」

「風の噂程度には。・・・・律儀で温和、しかしながらその方寸には深みのある知恵を持つ賢人と聞いております。雫を見れば、その噂は本当だったと信じられますね」

「あぅぅ、あ、ありがとうございます・・・・」

褒める詩乃と、それを受けて照れる雫。二人の関係は良好に見える。

「谷の間にある町ねー。・・・・不便そうだな」

「多少の不便はありましょうが、一乗谷の南北は袋の口のように狭っており、外敵の侵入を拒絶する、まさに難攻不落の地でありますよ」

「難攻不落ねー」

難攻不落の堅城は、織田が落としたというより黒鮫隊の力があったから落とせたしな。稲葉山城に観音寺城は、両方とも降下作戦により簡単に侵入できたし。

「攻められづらいってことは、それだけ人が集まるってことなのかな?」

「ひよさん、なかなか鋭いですわね。一乗谷には、応仁の戦火を逃れた公家たちが身を寄せ、一時は北の京とまで呼ばれた町なのですわ」

「公家だけではなく、風流人や高僧、果ては高位ではあるが無力な侍たちも移住したと聞く」

「そんな一乗谷も今では・・・・」

ころの言葉に、一同の雰囲気が沈む。

「やれやれ。ころ殿は陣中の士気を落としたいと見えますなぁ」

「ううう、へ、変なこと言ってごめんなさぁい・・・・・」

「大丈夫だ。例え鬼がたくさんいおうとも、黒鮫隊もいるんだから安心しろ。それに一乗谷を取り戻すためにここまで来たのだからな」

「ハニーの言う通りですわ。鬼に占拠された一乗谷を解放し、越前を取り戻すことこそ、我らの使命!」

「そ、そうだよね!そのために私たちは上洛して、越前までやってきたんだもん!」

「そうだよころちゃん。・・・・一緒にたくさん頑張っちゃおう!」

「うん!」

「その意気だ。暗く考えないで前向きに考えればいい」

とは言っても、一乗谷の入り口は二つだけ。南と北のみ。戦いはかなり厳しいと思われる。それに両脇には峻嶮な山が連なっているらしく、北の入り口からの侵入は飛騨を通って、越中、加賀より至る道はないそうだ。でもまあ、何とかなるだろう。前向きに考えれば入り口は一つなんだし。

「入り口は一つしかないとなると、大軍の持ち味が発揮出来ません。力押ししか方法はないですね」

「まぁ一葉様が如何に前向きであろうとも、嫌な地形であることは違いありませんなぁ」

「時間があるならば、南北の出入口を長期に渡って封鎖し、兵糧攻め・・・・と行きたいところですが」

「それだと凄く時間がかかるぞ。2年はかかるんじゃないのか?」

「人命を無駄遣いするよりはマシでしょう」

「だけど、俺達の隊にはやりかたなんてたくさんあるし、だいたいいつも空からだろうに。それも短時間で終わらせる方法もね」

まあ、俺たちにかかれば例え谷越え山越えだろうと関係ない。空を飛んでやるか、ミサイルで落とすかのどちらかでやると思うが。だが、この時代に居る以上は、そういう作戦はしたくないしな。織田勢の力だけで何とかしたいものだ。 
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