復縁

第一章

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　復縁
「あれっ、御前等って」
「そうだよ、別れたんだよ」
　山村充は不機嫌そのものの顔で友人の海道茂久に応えていた。黒い癖のある量の多い髪を伸ばしており細長い顔にやや鋭い光を放つ目を持っている。そしてその口は小さく顎は先がやや細い。少し癖のある感じであるがそれでも整った顔なのは間違いない。
　黒いジャケットに青いジーンズ。ティーシャツは白でハリーポッターの字が英文で書かれている。そんな彼が不機嫌な顔で道を歩きながら茂久に応えていたのである。
「もうな」
「ついこの前まであんなに仲良かったのにかよ」
「それでも別れたんだよ」
　声まで不機嫌なものであった。
「悪いかよ」
「何で別れたんだ？」
　茂久が次に尋ねたのはこのことだった。
「また何でなんだよ」
「下らねえ理由だよ」
　憮然とした顔で述べる。充は背が高い方なのでその顔は一七〇の茂久からは少し見にくいがそれでも見えることは見えていた。
「実際な」
「下らないって何がだよ」
「ったくよ、何だってんだよ」
　ここで声を荒いものにさせた彼だった。
「普通よ、酒位どうってことねえだろ」
「酒の飲み方にもよるな」
「俺は幾ら飲んでも酔わないんだよ」
　酒乱ではないというのである。
「代々酒豪なんだよ。兄弟や親戚も含めてな」
「じゃあ酒代でもかかったか？」
「そっちもねえよ」
　それもないのだという。
「別にな」
「酒代はかからねえっていうのかよ」
「飲み放題でしか飲まないんだよ」
　だからだというのである。
「酒にばかり金かけても仕方ねえだろ。酒ってのは安く飲むのが一番なんだよ」
「まあそれはそうだな」
　そのことについては茂久も賛成した。納得した顔で頷く。
「酒とかギャンブルで身を持ち崩すってのはな」
「だからそれはねえよ」
「じゃあ何でなんだよ」
「あれだよ。話せば長くなるけれどな」
「ああ、聞いてやるよ」
　こうして茂久が彼の話を聞いた。そしてその頃。大学のキャンパスの中の木の下にあるベンチの下で一直線の眉に優しい目をした整った顔立ちの女の子がふてくされた顔になっていた。黒い髪をポニーテールにしている。ジーンズにシャツという格好だがその胸の大きさがやけに目立つ。その彼女が自分の隣に座っている背の高いボーイッシュな女の子にそのふてくされた顔で話をしているのであった。
「これ、どう思う？」
「どう思うって？」
「だからよ。どう思うのよ」
　こうボーイッシュな彼女に尋ねるのである。この胸の大きい彼女の名前を涌井房江という。そしてボーイッシュな彼女は早坂千絵という。二人はこの大学の同じ学部の親友同士である。高校の頃から一緒である。なお充と茂久も高校の頃からの付き合いである。
「これって」
「ええと、日本酒を大ジョッキに入れて」
「そこにコップ一杯の焼酎を入れて飲むのよ」
　それが彼の飲み方だというのである。
「あいつって」
「またそれは変わった飲み方ね」
「それが美味しいっていうのよ。日本酒を大ジョッキよ」
「普通はビールにするね」
「ところがあいつはそうするのよ」
　こう言って口を尖らせるのであった。
「有り得ないでしょ」
「だから変わった飲み方って言ったじゃない」
「しかも中に焼酎まで入れて」
　それもだというのだ。
「有り得ないわよ、本当に」
「山村もおかしなところあるのね」
「おかしいなんてものじゃないわよ。有り得ないわよ」
　こうまで言う房江だった。
「全く。何だってのよ」
「それで別れたの」
「そうよ」
　ぷりぷりとした顔になって怒る房江であった。