魔法科高校~黒衣の人間主神~
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入学編〈下〉
公開討論会当日
公開討論会の前日の夜、一方で九重寺で司甲とブランシュリーダーについて聞いていた頃であった。壬生紗耶香を追っていた小型偵察機がある雑居ビルというか廃墟化した建物の中にいた。数十名いて、その中に壬生紗耶香もいた。そして目の前にはブランシュ日本支部のリーダーである人物がケースを開けたら、指輪が入っていた。それを受け取る壬生紗耶香とお仲間である者たち。
次の日の放課後に行われる公開討論会に、何やら妙な物を運び出す者たちがいた。その時にはすでにCBのメンバーを配置し終えていた。講堂にはオートマトン待機モードにして、会場の隅に置いた。生徒たちはこれがオートマトンという兵器だというのは知らないと思われるし、光学迷彩で各隊員は隠れているけどな。講堂側と図書館に実技棟に実験棟などにも。もしテロリストによる行動だとしたら、俺の命令無しで行動を開始してもいいと命じといた。オートマトンは各機の意志によって行動されたしと、敵味方の個別識別しておけとも言っておいた。あとはソレスタルビーイングの隊員たち50人をそれぞれに配置させた。もうすぐ始まるが、通信機だけは耳にはめたままにしといた。
「意外に集まったようですね」
「予想外、と言った方が良いだろうな」
「当校の生徒にこれ程、暇人が多いとは・・・・学校側にカリキュラムの強化を進言しなければならないのかもしれませんね」
「笑えない冗談は止せ。市原・・・・。そういう風に言うのなら、学校側でもあるここにいる一真君に進言しているようなもんだぞ」
「すみません、織斑君」
「いえいえ。生徒側の意見はサンプルになりますからね。あとで、蒼い翼関連の者たちに言っておきますよ」
と上から深雪、俺、市原先輩、渡辺先輩、市原先輩、俺、のセリフである。まあ進言するなら俺を間にしてからの方がいいと思うけど。俺たちは、舞台袖から場内を眺めていたけど。七草会長は少し離れたところに副会長と二人で控えている。反対側では同盟の三年生が四名、風紀委員会の監視を受けながら控えていたけど。その中には壬生紗耶香の姿はなかった。
「実力行使の部隊が別に控えているのかな・・・・?」
独り事のように、渡辺先輩が呟く。まあいるな、昨日偵察機から撮ったデータの中にはそいつらが映っていたことを。あとキャスト・ジャミングに使用される指輪を受け取っていたけど。これについては、CBの諜報によるもんだ。
「それについてですが、あそことあそこに蒼太と沙紀を配置してありますから。もし実行部隊がいたら、自らの意志でやってもいいと言っておきましたから」
「おやおや、手回しが早いじゃないか。一真君」
「相手がテロリスト紛いの者たちですからね。それに事前に配置させるのも手かと」
会場を見ていると、一科生と二科生の割合は五分五分だった。思った以上に多くの生徒が、二科生だけではなく一科生もこの問題について関心を持っていたらしいのだろう。その中には同盟のメンバーだと判明している生徒は、さっき俺が指差したところにいた十名前後。あとは外にいる数十人のテロリストたち。ただし放送室を占拠した生徒の姿はいない。
「何をするつもりかは分からないが、・・・・こちらから手出しはできんからな」
またそう言ってたが、先手は常に向こう側でこちら側は見守るしかないからだ。
「専守防衛といえば聞こえは良いが・・・・」
「渡辺委員長、実力行使を前提に考えないでください。・・・・始まりますよ」
また何事か反論しているが、市原先輩の一言で視線を舞台の方に向ける。討論会が始まった。パネル・ディスカッション方式の討論は、今回の経緯から必然的となるが。
「生徒会長、今季のクラブ別予算配分について質問します。私たちが手に入れた資料に寄りますと、一科生の比率が高い魔法競技系のクラブは、二科生の比率が高い非魔法競技系クラブより、明らかに手厚く予算が配分されていますが、これは一科生優遇が授業のみならず課外活動においてもまかり通っている証ではないんですか!生徒会長が本当に一科生と二科生の平等な待遇を考えているなら、この不平等予算はすぐに是正すべきです」
「クラブ別の予算配分は在籍人数と活動実績を考慮した予算案を元に、各クラブの部長も参加する会議で決定されています。魔法競技系のクラブに予算が手厚く配分されているように見えるのは、各部の対外試合実績を反映した部分が大きく、また非魔法系クラブであっても全国大会で優秀な成績を収めているレッグボール部などに魔法系競技クラブに見劣りしない予算が割り当てられているのは、お手元のグラフでお分かり頂けると思います。クラブの予算配分が一科生優遇の結果とは誤解です」
とこのように、同盟側の質問と要求に対し会長が生徒会を代表して反論するという流れであった。あと手元にあるグラフについては、蒼い翼が調査して作成してくれたものであって生徒会が作成した訳ではない。それに俺は学校側と生徒側の五分五分の間にいるからな。同盟が言う要求や質問とかはボイスレコーダで録音している。無論会長のもだけどね。これを素にして、学校側である校長や理事長に改善するように言えるからだ。あとは同盟側は特に具体的な要求がないからか、予算配分を見ても「平等に」というだけであってどこの部で何割増しにするのかという要求もない。
「二科生はあらゆる面で一科生より劣る差別的な取扱いを受けている。生徒会はその事実を誤魔化そうとしているだけではないか!」
「ただ今、あらゆる、とのご指摘がありましたが、具体的にはどのような事を指しているのでしょうか。既にご説明した通り、施設の利用や備品の配布はA組からH組まで等しく行われていますが」
聴衆に紛れた扇動の中ならば有効なスローガンであっても、舞台上では具体性が特にないことばかり過ぎない。具体的な事例と曲解の余地がない数字で反論を繰り出す会長に、実質のないスローガンで対抗するしかなかった。討論会というより、ただの七草会長の演説会というシャレたものとなりつつある。
「・・・・生徒の間に、同盟の皆さんが指摘したような差別の意識が存在するのは否定しませんが、それを失くそうと動く蒼い翼から派遣された方々もおります事は既にご存じのはずです。その差別の意識というのは固有化された優越感であり劣等感でもあります。特権階級が自ら持つ特権を侵食されることを恐れる、その防衛本能から生まれ、制度化された差別と性質が違います。ブルームとウィード、学校も生徒会も風紀委員会も禁止している言葉です。そしてそれを発した事で取り締まりをする蒼い翼関連の皆さんにとっては、それはただの幼稚化した生徒としか見えないでしょう。なぜならばそれはいじめとしか変わらないのだから。ですが、いくら取り締まりをしてもそれは一時的な処置としてしかならずに、未だに多くの生徒が発する者も多いでしょう。そして一科生が自らブルームと称し、二科生をウィードと呼んで見下した態度で取る、というのは先ほども言った感じではありますが、その態度だけでの問題ではありません。二科生の間にも、自らウィードと蔑み、諦めと共に受容する。そんな悲しむべき風潮は存在します」
いくつか野次が飛んできたが、表立った反論は一切なかった。その中には蒼い翼関連の者たちによって処罰された者もいたし、未遂犯もおったが。いつもの小悪魔的なスマイルを封印し、凛々しい表情と堂々とした態度で熱弁を振るっていたのか、同盟側はもう既に尽きていたけど。反論する余地もないのだろう。
「この意識の壁こそが問題なのです。蒼い翼関連の者たちが取り締まりをしても、一時的な処置でしかならない。一科と二科の区別は、現在学校側の制度では中々難しく変えられないですが、全国的な指導教員の不足を反映したという解決には程遠い背景もあります。全員に不十分な指導を与えるか、それとも半数の生徒に十分な指導を与えるか。当校では後者の方法で採用されており、そこに差別が存在しています。私たち生徒会側であっても、私たちにはどうすることもできません。できるとしたら学校側に問題があり、今現在この事を検討中と聞いております。話が少し逸れましたが当校で学ぶにあたり、当校の生徒に受け入れるべく強制されているルールですから。しかしそれ以外の点では、制度としての差別はありません。意外かと思われがちですが、第一科と第二科のカリキュラムは全く同一です。進捗速度に差が生じることはあっても、講義や実習は同じものを採用されています」
それについては、俺ら学校側である蒼い翼の者たちにとっては頷いていたが、他の者たちは意外と思ったのか驚愕をしていた顔をしていた。一科と二科の差別というのは、魔法実技が得意か得意じゃないところで分かれられている。たったそれだけで一科の生徒は二科の事を見下す行為をする。それを何とかするのが学校側だが、現状は今の制度で手一杯だからだ。
「課外活動においても、部活連と生徒会で、可能な限り施設の利用は平等になるように割り振られています。所属人数の多いクラブが所属人数の少ないクラブに対して優遇されている事は否定しません。ですが、一人当たりの機会の均等も、クラブ間の機会の均等と同様に無視できないものだと、考えた上での事です。決して、魔法競技系の課外活動を、制度として優先しているのではありません。先程『同盟』の方から魔法競技系クラブに予算が手厚く配分されているというご指摘がありました。結果としてはご指摘通りの通りですが、この予算配分は活動実績をを加味した結果である事は、先程グラフでご覧頂いた通りです。指導教員以外の問題については、一科と二科の区分以外の要因で全て説明可能なものであり、合理的な根拠に基づくものである事は、ご納得頂いたと思います。他に原因があり、それ分かっているにも関わらず、一科と二科の区分に所為にするお互いの隔てる意識の壁こそが問題なのです」
再び野次が飛んできたが、今度は賛否両論を含む感じではあった。同盟の支持者が飛ばす野次を二科生が固まっている辺りから飛んできたのが、「うるさいぞ、同盟!」であったけど。いくら二科生であっても、魔法実技が苦手だけであったという事実を誤魔化す者ではなかったけど。まあ二科生の中にはそういう奴もいるという事だ。いくら同盟が差別だと言ったとしても、それを信じるか信じないかは己次第。
「私は当校の生徒会長として、現状に決して満足していません。時に校内で対立を煽りさえするこの意識の壁を、何とか解消したいと考えてきました。そしたら今年度の一年には解消をするべく補助してくれる人がおりました。ですが、その人たちがいくら解消をしてもそれは一時的なもので、と同時に新たな差別を作り出す事による解決であってはならないと。二科を差別しても一科を逆差別しても解決には至りません。一科生も二科生も、一人一人が当校の生徒であり、当校の生徒である期間はその生徒にとって唯一無二の三年間なのですから」
拍手が湧いた。満場一致とはいかないが、手を叩いているのは少人数であったけど。疎らな拍手でもないし、手を叩いている者たちは一科と二科の区別は無かった。拍手が無くなり再び静寂が訪れた事により、俺は携帯端末を取り出してから会長がいるところまで歩いて行った。それも風紀委員会と蒼い翼の合同と現す腕章と共に。
「制度上も差別を無くすこと、逆差別をしないこと、私たちに許されるのはこの二つだと思います。そしてここに来た織斑君は、学校側でもあり蒼い翼から派遣された人間です。そして彼の手に持っている携帯端末からある御方を紹介したいと思います」
俺はスピーカーモードとして、電話をかけているかのように見せかけて俺が話しているかのように見せたのだった。
『マイクテストマイクテスト。聞こえているかな、諸君』
「聞こえておりますよ、零社長」
とあるキーワードを言ったので、講堂にいる生徒が皆驚愕の声を上げた。
『講堂にいる全ての生徒の諸君に挨拶を申したい。私の名は零達也。大企業である蒼い翼のCEOをしている。それで私を呼んだのは何かな?七草会長』
「せっかくなので、零社長と共に私の希望を聞いてもらいたいと思います。生徒会には一科生と二科生を差別する制度が、一つ残っています。それは生徒会長以外の役員に関する制限です。現在の制度では、生徒会長以外の役員は一科所属生徒から指名しなければならないことになっています。この規則は、生徒会長改選時に開催される生徒総会においてのみ、改定可能です。私はこの規定を、退任時の総会で撤廃することで、生徒会長として最後の仕事と共に零社長と一緒に学校の規則を変えたいと思います」
どよめきが起こった。生徒たちは野次を飛ばす事を忘れたかのように、前後左右にいる生徒同士で囁きを交わしていた。会長はそのざわめきが自然に収まるのを無言で待っていた。俺=零社長も同じ事だったが。
「私の任期はまだ半分が過ぎたばかりですので、少々気の早い公約にはなりますが、人の心を力づくで変えることはできませんし、してはならない以上、それ以外のことで、できる限りの改善案に取り組みながら、零社長にお約束致します。先程言った公約は絶対に果たしてみせます」
『その公約、聞きました。そして共に学校経営者となる私を始めとする者たちと共に、問題解決に時間は無限ではありませんが、出来る限り一緒に問題解決させることをここに宣言致します!』
七草会長と零社長の宣言を聞いて一科生と二科生も、同盟の支持ではなく七草会長と零社長を支持することが明らかとなった。会長が訴えたのは差別意識の克服。そしてそれを支援する学校側と青い翼。同盟の行動は、確かに学内の差別を無くしていく方向へ足を踏み出すきっかけとなった。ただしそれは、同盟が望む変革とは正反対なモノだ。革新派は往々にして、目的の達成だけでは満足しないものだったし、彼らは自らの思い描いた手段で目的を達成させる輩だ。この結末に対して同盟側とその背後にいる者たちが何もする訳ではないと思った一真は、携帯端末をしまってから講堂に轟音が鳴ったのだった。
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