魔法科高校~黒衣の人間主神~
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入学編〈下〉
有志同盟×一時的拘束
今週は何事もなく過ぎた事に、満足感があった気がした。風紀委員の見回り中も、勧誘週間のような闇討ち紛いは無くなったり差別用語を発する者が激減していた。中には前科が無い者が、時折差別用語を言う輩もいるそうだが。美月が言ったような予言が当たったのか、概ね平和であった。俺はようやく高校生活を平穏でいけると思ったが、それは束の間の平穏であった。授業が終わった直後の放課後だった。これから部活動の生徒はロッカーへ着替えや荷物の入ったバッグを取りに、タブレットや紙のノートを持ち込んでいる生徒は机の横に掛かる鞄を手に、どちらのない生徒はそのまま身軽に帰り支度を始めていた。その時だった。
『全校生徒の皆さん!』
ハウリング寸前の大音声が、スピーカーから飛び出した。
「何だ何だ一体こりゃあ!」
「落ち着けレオ。これで張り倒されたいのか?」
「そうよそうよ。ただでさえ暑苦しいんだから」
「落ち着いた方がいいのは、エリカちゃんも同じだと思う」
少なくない生徒が慌てふためく中で、蒼太は俺のすぐ近くにまで来た、いつでも動けるように。
『・・・・失礼しました。全校生徒の皆さん!』
スピーカーからもう一度、今度は少し決まり悪げに、同じセリフが流れ出たけど。
「恐らくですが、ボリューム加減を間違えたのかと」
「通りで、ハウリングがあった訳か。にしても、音量をミスるのは放送委員会じゃなさそうだな」
「というか、落ち着いてツッコんでいる場合じゃないからから。きっと」
俺と蒼太の呟きに、拾い上げたエリカがツッコミが入る。エリカもなと思ったのは美月だと思うけど。
『僕たちは、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です』
「有志ね・・・・。差別撤廃なら、こちらからもうやったんだけどな」
「きっとまだ差別撤廃をしていない連中がいるのかと思います」
スピーカーから威勢良く飛び出した男子生徒声を聞いた俺と蒼太にクラスメイトたち。俺と蒼太はそう呟いたが、先週のカフェでの事が頭に思い浮かんだが。この放送ジャックは壬生先輩の言っていた「待遇改善要求」の為のものだろう。政治的な集団を形成するメンバーが自発的に「有志」となった事例が、有史以来どの程度いたのだろうと考え込む俺だった。
『僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します』
「ねぇ、行かなくていいの?」
俺と蒼太はスピーカーに目を向けていたら、エリカが何事か期待でもしているかのような声で訊ねてきた。
「どうやらそのようだ。放送室を不正利用しているのは間違いない事だろう。委員会からのお呼び出しがそろそろ来ると思うけど」
俺がそう言うのと同時に、備え付けの情報端末ではなく内ポケットの携帯端末であるスマホにメールの着信があった。
「噂をすれば、もう来たな。という事で俺と蒼太は言ってくるわ」
「あ、はい、お気をつけて」
席を立つと同時に、不安がる美月の声を聞いてから、一瞬クラスメイトの方を向いて見回した。座ったままや立ち上がったクラスメイトも、教室から出ようとはしなかった。エリカのように面白がる生徒やレオのような好奇心をあらわにしている生徒は少なく見える。大半のクラスメイトはこのまま帰宅してもいいのか、不安げな顔だった。そう見た後に蒼太からの声で現実に戻り、腕章を付けてから走った。
「あ、お兄様に蒼太さん」
「深雪たちも呼び出しか?」
「はい。先ほど会長から、放送室前に行くようにと」
「俺達は委員会からの呼び出しだと」
と言いながら、深雪たちと合流して放送室へ向かう。その足取りは速いものではなかったけど。
「これはブランシュの仕業でしょうか?」
「私はエガリテかと思いますが」
「団体は特定できないけど、その手の輩に違いないな」
「俺もそう思いますね」
そんな話をしながら、四人は放送室の前に到着する。放送室前には、既に委員長と会頭と市原先輩、そして風紀委員会と部活連の実行部隊が顔を揃えていた。ということは、俺達が最後だったらしいけど。
「お、やっと来たか」
「遅くなって申し訳ありません。で、状況は?」
「全員揃ったので、状況を報告しよう。電源をカットしたのでこれ以上の放送は出来ないだろう。犯人はマスターキーを盗みだし扉を封鎖していて、中に立てこもっておりこちらからは開けられない状態となっている」
「明らかな犯罪行為だな」
「ですよね~。こういうのは強盗とかでやるパターンですよ」
目的が手段を正当化すると考えている辺り、この連中は典型的な「活動家」のようで。あと蒼太の言う通り、まるで銀行強盗で立て籠もる輩みたいだなと思った。ただし、銀行強盗と違う事は人質がいない点だけだ。あとはあちらはCADを持っていると思うから、もし強行しても多少は中に入れないよう工夫をするだろうと思った。
「その通りです。だから私たちも、これ以上彼らを暴発させないように、慎重に対応するべきでしょう」
「こちらが慎重になったからと言って、それで向こうの聞き分けが良くなるかどうかは期待薄だな。多少強引でも、短時間の解決を図るべきだ」
生徒会と風紀委員会の方針は真逆のようで、生徒会側は慎重派で風紀委員会側は強行突破側か。こういうときは冷静に対処するべきだと思うけど。
「十文字会頭はどうお考えなのですか?」
俺の質問に、意外感をたたえたような視線が返ってきた。こういうのは、残りの部活連の方にも意見を聞くべきだろうと思ったからだ。生徒会側と風紀委員会側、そして部活連側は、権力はあっても所詮子供であり大人ではない。大人はここにいるけど、今は擬態中だから子供に見えるけどな。大人の対応でもあるように見えたと、後々蒼太に聞いたけどな。
「俺は彼らの要求する交渉に応じても良いと考えている。元より言いがかりに過ぎないのだ。しっかりと反論しておくことが、後顧の憂いを断つ事になろう」
「ではこの場は、このまま待機しておくべき、と?」
「それについては決断しかねている。不法行為を放置すべきではないが、学校施設を破壊してまで性急な解決を要するほどの犯罪性があるとは思えない。学校側に警備管制システムから鍵を開けられないかどうか間合せてみたが、回答を拒否された」
なるほど。慎重派は生徒会と部活連にあるが、一部強行派にも見える。ならば、このまま待つのもやむを得ないが。一礼をした後に下がったあとに携帯端末を取り出した。待機は俺ら以外ならそうするが、生憎俺らは不正行為をする輩を見過ごす訳にはいかないので、何もしないよりかはマシな方法をしてみた。こちらを見る視線があったが気にしないで相手からのコールを待ったら出たようだった。
「百山校長ですか?こちら織斑です」
ギョッとした視線が数本あったが、こちらは気にしないでスマホで電話をしていた。
「今放送室前にいますが、そちらの対応についてはどうされるつもりで?」
俺をマジマジと見る視線という本数が更に増えたけど。
「・・・・なるほど。そういうことですか、それで理事長と蒼い翼数名と百山校長の判断はどうされるおつもりで?」
委員長に市原先輩、その他数人が、聞き耳を立てている。が、校長との声は外からは聞こえないようにしているので、聞き耳をしても無駄だ。こちらとあちらの音声は聞こえないように端末に細工をしてあるからだ。まあこれから俺が言う事について、聞き逃さないためであろう。
「で、今こちらに生徒会長が来ると?こちら側は生徒会と部活連は慎重派で、風紀委員会は強行派のようで対応をどうしようか考え中です」
会長がこちらに来ると知った他の面々は驚きで一杯であったが、一真の事をまるで大人の対応の仕方だと思ったらしいが。
「なるほど。交渉の打ち合わせに場所、日程、形態についてですね。ですが、このまま放送室に突入をしても逆に怪我では済みませんが、・・・・分かりました。一時的に拘束をすればいいのですね。はい、あとは任せて下さい。では、失礼します」
とスマホでの電話を終了させてから、俺は生徒会、部活連、風紀委員会の先輩方に向いた。
「今こちらに会長が来るそうです」
「今のは、学校側の校長先生か?」
「ええ。こう言う事になったら、とりあえず学校側に報告をするので。俺らは生徒側でもありますし、学校側でもありますので」
俺の背後にいる蒼太と沙紀はあくまで護衛の者だが、派遣先は蒼い翼となっているし。こういうことになるのであれば、一度学校側の最高責任者に電話を入れる決まりだ。
「手が早いな、それでこれからどうするんかね?真由美が来ても抵抗されるだけだぞ」
「分かっています。深雪、少しだけ沙紀を貸してくれないかな?」
「はい。ご自由に」
「という訳で、俺と沙紀で突入します。中にいる者たちの内男子生徒は3人で女子生徒は2人と確認したので。その中に壬生先輩もいるそうですが・・・・」
沙紀を貸してくれと言った俺は、沙紀を俺の近くにいて蒼太を深雪の近くに寄った。だが、いくら魔法でも突入などできる訳がない。扉を破壊とかしないと入れないと思う奴らだらけだったが、ここで俺はようやく神の力の一つである空間切断を使えるからだ。
「突入って、どうやってなんだ?ここは扉を破壊してまでして中の奴らを拘束するのが、先決だと思うが」
「先ほども言いましたが、ここに会長が来るのですよ?なので一時的に拘束するまでです。ということで行くよ、沙紀」
と言いながら、俺は左手を手刀の形にしてから縦に一刀両断にした。会頭も委員長も市原先輩も何をしているのか、よく分かっていないようだったが。一刀両断したあとに、一真と沙紀は扉をまるで抜けるように姿が消えることに驚く一同だった。そしてその後に放送室の中から声が聞こえた。どういう理屈なのかは分からなかったが、無事に潜入できたようだった。放送室の中では。
「な、いつの間に。どこから入ってきた!」
「どこからって、この扉を潜ってきただけだが。とりあえず一時的ではあるが、拘束してもらう」
「そうはさせるか!」
と言いながら、CADを取り出した有志同盟の奴らの内4人は魔法を使用しようとしたが、魔法処か起動式も発動しないことに驚く一同だった。
「お前らは一時的にだが、壁に張り付いてもらおうか」
と言ったあとに壁に手を当ててから、もう片方の手を壬生先輩以外の者に向けて発射。そしたら一瞬の内に壁に張り付けにされた者たち。そして張り付いたあとに不正所持していたのを回収する俺。沙紀は壬生先輩を確保していた。最も抵抗していなかったので、張り付けにはしなかったけど。そのときノック音が聞こえたので、俺は扉を開けた。
一方俺らが入ったあとに、扉に向かったが一真達が通り抜けたように見えたのが驚いていた事に蒼太と深雪は失笑していた。先ほど通り抜けた一真たちが侵入したあとに扉を触れてみたが、そこはただの扉であり通り抜けるところなどないかのようだった。驚いたのは、同じ一年の者たちもだ。でもここで種明かしを言うべきではないと思い、深雪と蒼太は静かにしていた。
「深雪さん。今のはいったい?」
「あれはお兄様のお力の一つです。詳しくは秘匿なので言えませんが」
「ということは魔法なのか?」
「分かりません。私も何が何だかで、どういう原理で通り抜けたのかどういう魔法なのか?考えても分からず仕舞いです」
としばらく待機していると、放送室内に声が上がったのと同時にこちらに来る人影があったので見ると七草会長だった。
「状況は?どうなっているの?」
「今織斑君が放送室内に入りましたが、摩訶不思議な方法でこの中に入った模様です。それで今回の件は生徒会に委ねる事については本当ですか?」
「リンちゃん、それ誰から聞いたの?『織斑君が学校側である校長に電話をしていて、こちらに会長が来ると』なるほどね、行動力早いわね。そういえば、学校側は私がここに到着したら扉をノックしろと言われたからノックするね」
と扉の前に行き、ノックをした会長だった。ノックすると扉が開いたので突入すると、壁に張り付けられた4名の生徒と壬生先輩を見ていた沙紀さんがそこにいました。なるほど、同性の方が良いとお考えのようでしたか。お兄様。
「来ましたか。ご覧の通り、生徒を拘束という張り付けにCADを没収していたところです」
「ご苦労様です。ですが、そろそろ放してあげて下さい。壬生さん、学校側はこの件に関しては生徒会側に委ねるそうです。あと生活主任と話してきましたが、鍵の盗用、放送施設の無断使用に対する措置もですが」
と言ったので、俺は壁に手を当てると張り付けの生徒を解放した。それと不正使用したCADについても、一時的に預ける事となった。
「壬生さん。これから貴方たち有志同盟と生徒会ので交渉に関する打ち合わせをしたいのだけど、ついて来てもらえるかしら」
「・・・・・ええ、構いません。それに逃げる気などありませんから」
「じゃあ決まりね。十文字君、お先に失礼するわね?」
「先ほど織斑の言う通りとなったので、既に承知済みだ」
「摩利もごめんなさいね。一真君と私だけで、手柄を横取りするみたいで気が引けないけど」
「気持ちの問題だ。第一あたしたちが突入したら怪我どころでは済まないのだろう。それを一真君が怪我させずに拘束をした上で、ここに真由美が来るのが分かっていたようだったからな。手柄は冷静に対処方法を詮索した一真君だろうね」
「一真君もご苦労様。それと深雪さんと、貴方たちも今日は帰っていいわ」
「・・・・それでは会長。これにて失礼します」
と言ってから、俺は無言で歩いて行った。深雪たちも分かっているからか、丁寧に一礼をしてから一真を追ったのだった。ちなみに、理事長と蒼い翼関連の者たちに関してはソレスタルビーイングに連絡をしていた時だった。俺がそうしろと言ったからである。脳量子波で。そして月中基地支部にいるプトレマイオスクルーと、待機状態であった隊員たちは娯楽をしていたが、コンディションブルーからイエローとなったのでトレミーに乗りいつでも戦闘準備をしていたのだった。
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