| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法科高校~黒衣の人間主神~

作者:黒鐡
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

入学編〈下〉
  居残り実習×遅い昼食

俺と美月は無事にクリアしたが、肝心のレオとエリカはまだやっていた。二人ともクリアできないでいたため、昼休みになってもクリアできないのでレオとエリカに懇願されてしょうがなく居残りとなったけど。

「1060ms・・・・あと少しだ、頑張れ。もう一息だ」

「と、遠い・・・・0.1秒がこんなに遠いなんて知らなかったぜ・・・・」

「バカね、時間は『遠い』とは言わないの。それを言うなら『長い』でしょ」

「エリカちゃん・・・・1052msよ」

「あああぁ!言わないで!せっかくバカで気分転換していたのに!」

「ご、ごめんなさい・・・・」

「うぅん、いいのよ美月。どんなに厳しくても、現実は直視しなくちゃいけないものね・・・・」

「テメエの三文芝居なんざどうでもいいが、いい加減、人を玩具にするのは止めやがれ」

と、こんな感じではあるがレオとエリカはクリア出来ずにいた。この二人は授業時間中に仲良く一秒をクリアできなかった。それで俺と蒼太にコーチを頼むと白羽の矢がたったのだった。俺はともかく蒼太は現代魔法を使えて、ライセンスも持っているからな。

「レオは、照準設定に時間がかかりすぎなのですよ。こういうときは、ピンポイントで座標を絞る必要性はないんですよ」

「分かっちゃいるんだけどよ・・・・」

弱音を隠す余裕もなくなってきているレオにそれを教え込む蒼太だった。CADをあまり使わない俺よりCADをよく使う蒼太に教師役をしてもらうことにした。俺は見学。実際に戦闘や他で魔法を使うときでも蒼太は、使っているのでこういうときは蒼太が教えた方が良いと思ったからだ。ちなみにレオたちのことを呼び捨てで構わないと言ったからだ。


「まあ、そうではありますが。仕方ありませんね。裏ワザになりますが、先に照準を設定してから、起動式を読み込んではどうですか?」

「えっ?そんな事はできるのか?」

「裏ワザですよ、裏ワザ。応用の利かない、所詮その場しのぎですからね。本来なら教えたくはない事ですけど・・・・」

「そんなっ?頼みます、蒼太さん!この際、裏技でもカンニングでもいいから教えてくれ!」

頭上で両手を合わせて拝み込むレオに、一真は外見では普通にしていたが内心では大爆笑してた。あのレオがあんなに拝み込むところなんて、今日の実習だけだと。真剣に頼むところを見ているから、吹き出しそうになりそうだ。ん?一真はいいのかって?一真は現代魔法の事は理解しているが、実際に使うところはあまりない。実際CADを使っての実践経験がない一真より実戦経験豊富の蒼太が指導した方がいいと思ったそうだ。それに蒼太も分かってることだから。

「人聞きの悪いセリフですね、これから使うのは不正ではありませんから。一真様はともかくこの私が指導するんですから、安心してください」

「一真だってコンパイルの仕組みまで分かっているのに、何処が悪いかなんて理解できないぜ『パシイィィィィィィィィィイン』ってぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「聞こえているぞ、レオ」

と何か小さな声で呟いたレオに対して、一真は空間に手を突っ込んでからレオの後ろに空間を歪ませてからのハリセン攻撃。レオが後ろを振り向いてもそこには何もない代わりに壁で腕を組んでいた一真の手にはハリセンが握られていた。いったいどうやったら、あの距離からのハリセン攻撃をしたのか不思議であった。ハリセンは至近距離からのはたくまたは叩く道具で、百年前からあるバラエティー界ではお約束のアイテム。

「レオ、小さな声でも聞こえますよ。一真様には。それとエリカですが・・・・」

「あらあら。悪口言うと飛んでくるというのはこの事かぁ。で、私にも教えてよー。裏技でもカンニングでも不正でもいいからお願いします!いい加減、お腹が空いたよぉ」

「二人とも、似たような事を言うのですね。あと人聞きが悪いですが、正直エリカの場合はどこが悪いのか不明です」

「ええぇっ!」

「正確に言いますと、なぜ出来ないのかが不明です。一真様より余程、スムーズにコンパイルできますのに」

「そんなぁ!蒼太さ~ん、見捨てないでよぉ!」

涙目になって、というより芝居がかっていますが、祈るように指を組み合わせて上目遣いの眼差しですがりついてくるエリカに、思わずため息を一つ。この二人の行動パターンがそっくりすぎると思ったが口にしないと思った蒼太だったが、一真ではそんな事に気付いたのか内心爆笑していたのが目に見えた蒼太だった。

「では、エリカに進言しますが。起動式を読み込むときに、パネルの上で右手と左手を重ねてみてください」

「えっ?」

その言葉を聞いて、エリカだけじゃなくて美月もポカンとした表情を浮かべた。

「・・・・それだけでいいの?」

「私も確信がある訳ではありませんが、理由については上手くできたら教えるのでやってみてください」

「う、うん・・・・やってみる」

疑問はまだ頭にあったが、とりあえずやってみることにしてみたエリカ。据置型のCADに手を重ねる。それを見てから、蒼太はレオに裏ワザのレクチャーを始めた。余剰想子光が閃き、丸い小さな的の上方で時間との別の数字が表示される。加重系基礎単一魔法により的に加った最大圧力を、的が取り付けられている重量計が表示しているんだ。肝心の発動に要した時間は、重量計が基礎値以上の圧力を計測したところで記録される仕組みになっている。

「1010ms。エリカちゃん、一気に40も縮めたわよ!本当にもう一息!」

「よ、よーし!なんだか、やれる気になってきた!」

「1016。迷うな、レオ。的の位置は分かっているので、いちいち目で確認する必要性はありません」

「わ、分かったぜ。よし、次こそは!」

「二人とも。頑張れよ~」

蒼太と美月が計測器をリセットしている傍らで、目を閉じる、腕を振り回す、それぞれの方法で精神を集中し、気合を高めるレオとエリカだった。俺は壁際に立っていたが、主に応援のみだ。その時ドアが開いたので、俺はドアの方に向けると遠慮がちにした深雪たちが立っていた。

「お兄様、お邪魔してもよろしいでしょうか・・・・?」

声の主が妹だと分かり、手を挙げた俺。二人分ではない足音がしたので振り返るのはエリカだった。

「深雪、・・・・と、光井さんと北山さんだっけ?」

「エリカ、今は集中する事だけを考えろ。悪いが、深雪。次で終わるらしいから、少し待て」

「いっ?」

「分かりました。申し訳ございません、お兄様」

深雪の方に行って謝罪のような感じで言った俺に、深雪は微笑んで軽い一礼を返した。さり気なく掛けられたプレッシャーに、レオの顔が引き攣った。深雪が後続の二人に合図してドアの陰に身を隠す。それを見た蒼太は小さく頷いた。

「二人とも、これで決めますよ」

声を張り上げる必要はないが、有無を言わせぬ口調。

「応!」

「うん!これで、決める!」

二人は気合を漲らしてから、CADのパネルへ向かった。

「ようやく終わった~」

エリカの歓声が、課題終了を告げる鐘の音となった。

「ふぅ・・・・ダンケ、蒼太さん」

レオの謝辞に蒼太は気にしない感じで礼を受け取った。俺は深雪のところに行き声を掛ける。笑顔を浮かべて歩み寄る深雪に、遠慮がちながらも二人のクラスメイトである光井ほのかと北山雫もその笑顔で続いた。沙紀は深雪の後ろでビニール袋を持っていたけど。

「二人とも、お疲れ様」

「一真様。ご注文通り揃えた参りましたが、足りないのでないでしょうか?」

レオとエリカにそう言った深雪と俺にそう告げる沙紀。そう問いかけたので、俺は頷いた。

「もうあまり時間ないからな、このくらいが適量だ。ご苦労だった、沙紀。光井さんも北山さんも手伝わせて悪かった」

もう顔合せしているから言葉を交わす程度の間柄にはあるが、俺は深雪の友人としか見ていない。深雪の仲介がなければ、知り合わなかったからか俺にとってはまだまだ友人未満の二人だ。俺の口調がそうなったのもしょうがない事だと思うし。

「いえ、この程度のこと、何でもないです!」

「大丈夫。私はこれでも力持ち」

予想外に力が入っている答えを出した光井さんと、本気か冗談か分からず仕舞いの北山さん。俺は二人にもう一度礼をしてから深雪と沙紀を含めた四人からビニール袋を受け取った。

「ほい」

レオとエリカに向かって、そのまま差し出す。

「なぁに?」

「サンドイッチ・・・・か?」

袋の中身は購買で売ってあるサンドイッチと飲み物だった。

「食堂で食べると午後の授業が間に合わないからな。急遽、深雪たちに買ってくるように頼んだのさ」

そう言いながら、俺と蒼太はそれぞれの弁当箱を深雪と沙紀から受け取る。

「ありがと~。もうお腹がペコペコだったのよ!」

「一真、お前って最高だぜ!」

現金な友人たちに苦笑を浮かべながらも、俺と蒼太は近くの椅子に腰を下ろしていたが美月は遠慮がちな事を言った。

「・・・・でも、いいんでしょうか?実習室での飲食は禁止なのでは?」

「飲食禁止なところは情報端末を置いてあるエリアだ。校則にちゃんと書いてあるぞ、教室内の飲食も特に禁止ではないし」

「えっ、そうなんですか?」

「実はそうなんだよなー。校則集をよーく見るとそう書いてあったのさ、俺もてっきり禁止されているものばかりと思ったから意外だった」

箸を取りながら悠然と答える俺に対して「それなら」と言って美月も手を伸ばす。

「へぇ・・・・そうと分かれば遠慮なく」

レオがサンドイッチの包装を解いてガブリと噛みついていると。

「アンタは最初から遠慮してないでしょ」

エリカがツッコミを入れながら、意外に上品な仕草でサンドイッチをついばんだ。和気藹々と、テーブルというのはないから適当に椅子を寄せて、遅い昼食を食い始める俺達居残り組一同。特に蒼太はガッツリと食いながら、飲み物を飲んでいた。居残り実習でレオとエリカとの指導をしていたから、結構喉が渇いていたらしい。深雪たち差入組も、飲み物だけ持って、その輪に加わってた。

「深雪さんたちは、もう済まされたのですか?」

「ええ。お兄様に、先に食べているように言われたから」

気を遣ったのであろう美月の問いかけに深雪がそう答えを返すと。

「へぇ、チョッと意外。深雪なら『お兄様より先に箸をつけることなど出来ません』とか言うと思ったのに」

ニコニコと言う割にはニヤニヤと笑いながらエリカが茶々を入れた。本気でないのは、顔を見れば分かった。聞いていた方も、本気にはしなかったが結一人を除いて。

「あら、よく分かったわねエリカ。いつもならもちろん、その通りでお兄様と蒼太さんと沙紀さんとセットで食べるんだけど今日はお兄様のご命令だったから。私の勝手な遠慮で、お兄様お言葉に背くことはできないわ。だから先に私と沙紀さんとあとほのかと雫と一緒に食べたわ」

「・・・・・いつもなら、そうなんだ・・・・・」

「ええ」

「・・・・・もちろん、なのね・・・・・?」

「ええ、そうよ?」

笑顔が引き攣り気味になっているエリカに、深雪は真顔で小首を傾げる。蒼太は俺と一緒に食べていたから聞いていなかったが、沙紀はクスクスと苦笑していた。重量感を増した空気を振り払うように、美月は次の質問をしていた。

「深雪さんたちのクラスでも実習が始まっているんですよね?どんな事をやっているんですか?」

俺と蒼太は食べていたが、美月の質問には聞こえたので深雪の方を向いた。光井さんと北山さんは顔を見合わせていた。遠慮と気まずさが入り混じった感じではあったが、深雪は二人の態度とは裏腹にもったいを付けずに、ストローから唇を離して即答した。

「多分、美月たちと変わらないと思うわ。ノロマな旧型機械をあてがわれて、テスト以外では役に立ちそうもないつまらない練習をさせられているところ」

俺と蒼太と沙紀を除いた五人が、ギョッとした表情を浮かべた。淑女を絵に描いたような外見にそぐわない、遠慮のない毒舌だったけど。

「通りで、さっきからご機嫌斜めなのだな」

「不機嫌にもなります。あれなら一人で練習している方が為になりますもの」

「深雪様の言う通りで、あれは一人でやった方が身のためだと思いました。しかも旧式の旧式なので、お家にある最新と比べれば機嫌が悪くもなります」

と俺、深雪、沙紀の順番で言ったが、やはりか。旧式の旧式だからなのか、機嫌も悪くなるのは予想済みだったけど。家に一応学校にある実技棟にある機器の最新版なので、不満が出ないとは思っていなかったけど。

「ふ~ん・・・・手取り足取りも良し悪しみたいね」

「恵まれているのは認めるわ。気を悪くしたのなら、ごめんなさい」

「少しも気を悪くしていないわ。見込みのありそうな生徒に手を割くのは当然だもの。ウチの道場でも、見込みのないヤツは放っとくから」

「エリカちゃんのお家って、道場をしているの?」

「副業だけど、古流剣術を少しね」

「あっ、それで・・・・」

エリカが言った意味を知ったからか、納得顔をしていた美月。あの時森崎のCADを弾き飛ばした伸縮警棒の事を思い出したのだろうな。

「千葉さんは・・・・・当然だと思っているの?」

そこへ、おずおずと口を挟んだのは光井さんだった。

「エリカでいいよ。いや、むしろそう呼びなさい『スパァァァン』隙がなく叩かれるのも、ある意味であたしも修業不足かぁ」

「なんでオメェは、そういつも偉そうなんだよ・・・・。あと一真のハリセンの威力が俺のと違うのだが」

そりゃそうだろうな、エリカとレオで音も威力も違う事は知っているし。叩かれた側としても、後ろから叩かれても振り向いたら遠くにいて、いったいどうやって叩いているのか不思議だった。まあぶっちゃけると空間を歪ませて叩いているし、相手によって威力と音が違うからな。一番威力があったのは、かつて拠点にてまだドライグやアルビオンが神器に魂を封印される前の事だった。あの時はまだ六大龍王がいたときだな、黒鐵専用ハリセンで一日気絶していたときや北欧の主神オーディンが日本に来てからの悪神ロキとフェンリルの対策としてミドガルズオルムを黒鐵専用ハリセンで思いっきりブッ叩いたことがあった。ミドガルズオルムを全長何百mだから、黒鐵でやったからな。あとは戦国†恋姫のときに、大型ハリセンで思いっきり叩き殴ったときがあったな。相手は一葉だったけど。ああ、一葉というのは足利一葉義輝のことだ。

「じゃあエリカ、私の事も、ほのかで」

「オーケーおーけー。それで、当然と思うかって、一科生には指導教官がついて、二科生にはつかないことかな?」

「・・・・そう、そのこと」

躊躇いがちに頷く光井さんと。

「だったら、当然よね」

躊躇なく頷くエリカ。

「当たり前の事なんだから、深雪やほのかが引け目を覚える必要は無いんだよ?」

「・・・・やけにあっさりしてるな」

あっけらかんと言い切ったエリカに、レオがそう訊ねた。

「あれ?もしかしてレオ君は、不満に思っているのかな?」

「いや、俺だって仕方がない事だと思っているけどよ・・・・・」

らしくないことを言うレオに対して清々しく答えるエリカではあった。エリカ曰く『仕方がない』ではなく、『当然』と思っているそうで、光井さんの質問で難しい顔をしながらも質問に答える。エリカにとっては当たり前の事をしてきたからである。まあ俺ら似たような感じではあるが、エリカの道場は入門して半年は技を教えないという事に関してこちらも同意をする。エリカの道場ではまず足運びと素振りを教えるだけ。一回見本を見したら、あとは見様見真似やり続けるだけらしい。

「・・・・それじゃあ、いつまで経っても上達しないお弟子さんも出てくるんじゃない・・・・?」

「いるね~、そういうの。そういう奴に限って、自分の努力不足を棚に上げたがるんだな。まず、刀を振るって動作に身体に馴染めないとどんな技を教わっても、身に付くはずがないんだからね~」

「あっ・・・・・」

美月が小さな声を上げた。チラッと見ただけで、再びエリカは声を出した。

「そしてその為には、自分が刀を振るしかないんだよ。やり方は見て覚える、周りにいっぱいお手本がいるんだから。教えてくれるのを待つというのは論外で、最初から教えてもらおうって考え方も甘過ぎ。師範も師範代も、現役の修行者なんだよ?あの人達にも、自分自身の修行があるの。教えられたことを吸収できないヤツが、教えてくれなんて寝言こくなっての」

思いがけずエキサイトし罵詈雑言を繰り出しているエリカを、俺は興味深そうに聞くけど。俺は九重八雲の師範だからな、体術はともかく剣術はエリカのとこの道場とあまり変わらない。

「・・・・お説はごもっともだと思うけどよ、俺もオメエも、ついさっきまで蒼太さんに教わってたんだぜ・・・・?」

「あ痛っ!それを言われると辛いなぁ」

レオの指摘に顔を顰めつつも、あっけらかんとした調子は変わらない。

「それはそれ、背に腹は代えられない、ってことも確かにあるけどさ・・・・教わるには、教わる相手に相応しいレベルがないと、お互いに不幸だって思うのよ。まっ、一番の不幸は、教える側が教えられる側のレベルについていけないことなんだけどね」

ここでパチリと、意味ありげなウインクであり、俺はニヤリとして人の悪い笑みを返したけど。

「残念ながら、今日は不幸な結果ではあった。最終的な記録は、俺よりエリカの方が100ms以上、速かったし。蒼太もテロ相手には戦闘技術はあるのに、教えてと言われてもあんまり教えられないんじゃなかったけ?」

と蒼太に聞いたけど、エリカのこめかみから、一筋の冷や汗が流れた。

「あ、いや、あたしは、そういうことを言っているのでは・・・・・。あ、そうだ。蒼太さんに聞くことがあったんだ。さっきの種明かしを聞いていない!何で手を重ねて置いただけで、あんなにタイムが上がったの?」

強引な話題転換した。話を逸らそうとしているのは、誰もが分かることだったけど。ツッコミ過ぎると後々しこりを残しそうな話題だったから、俺は自然と逸らしたけど。で、答える側の蒼太は俺を見ていたので、俺が話すことになった。

「俺が代わりに答えよう。何、指示をしたのは俺だからな。エリカが片手で握るスタイルのCADに慣れているからだ」

ホントは蒼太の「種明かし」のはずが俺が指示したということで、明かしたがエリカは「えっ?」と声を上げて話の腰を折った。エリカの顔には「何でそんな事知っているの?」と書かれていた。エリカは忘れていると思うけど、入学して二日目の帰りに森崎と相対したときのアクションとCADそのもの形状から、CADの使用スタイルは簡単に推測ができる。エリカの些か大袈裟な反応をスルーした俺は説明を続けた。

「両手を置くスタイルの授業用CADには、スムーズにアクセスできないと思っただけだ。それを授業中に見たあとに、蒼太にそう指示させた。まあ蒼太は教えられる技量もあるんだし」

「それで、両手を重ねさせて、接点を片手にしたんですね・・・・。それと一真さんより蒼太さんの方がCADをよく使いますからね」

美月が頷きながら感嘆を漏らしたと同時に、蒼太についての技量も感心していた。あとは同じ表情を浮かべたのは、彼女だけではなかったけど。

「片手を置くスタイルでもよかったけど、手を重ねるスタイルの方が気合が入るんじゃないかと思っただけだ。要するに気分の問題だ」

「・・・・なるほど、あたしはまんまと一真君に乗せられたのね」

空ろな笑いを漏らすエリカ。その脱力具合が漫画チックで、皆がつられ笑いをこぼしてたけど。

「なーんか、気が抜けちゃったな・・・・。そうだ。A組の授業でも、これと同じCADを使ってるんでしょ?」

「ええ」

頷きながら嫌悪感を隠そうとしない深雪に、エリカは好奇心で聞いていたがそれは逆に落ち込むと思うのだが。

「ねえ、参考までに、どのくらいのタイムかやってみてくれない?」

「えっ、私が?」

自分を指差し、目を丸くする深雪に、エリカはわざとらしく大きく頷いた。俺に目で問いかける深雪。

「いいと思うぞ。一科と二科の違いを見せてはどうだ?」

「お兄様がそう仰るのでしたら・・・・」

深雪は少々躊躇いがちだったが、承諾をした。まあここで一科と二科の違いが分かると思うし。機械の一番近くに居た美月が、計測器をセットする。その間に一応防音結界とドアをロックにした。今から見るのは、一科の総代だからな。で、深雪は準備ができたのかピアノを弾く時の様に、パネルに指を置いた。計測、開始。余剰想子が閃き、美月の顔が強張っていたけど。いつまで経っても結果を告げない友人に焦れたのか、エリカが結果発表を催促した。

「・・・・・235ms・・・・・」

「えっ・・・・・?」

「すげ・・・・・」

そしてたちまち、表情筋の硬直が伝染するかのように。

「何回聞いても凄い数値よね・・・・」

「深雪の処理能力は、人間の反応速度の限界に迫っている」

ため息を漏らしたのはA組の生徒も同じだった。まあそうだろうな、深雪は総代だし。すると蒼太がいらん事を発言したのだった。

「深雪様も凄いけど、一真様も本気を出せば深雪様より凄いですよー『パシィィィィィイン』ってぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「蒼太、お前何余計な事言ってんの?」

「申し訳ございません。つい口が滑りました」

「えっ?一真さんも深雪さん以上に出来るんですか?」

「一真君の本気、見てみたいかも。ねぇ、私たちの秘密にするからさ、見せてよ~」

あーあー。蒼太のいらん事を言ったのか、蒼太、深雪と沙紀以外の者たち全員がこちらを見る。

「本来ならこんなオンボロな旧式だと正確に測れるかどうか分からんぞ」

「こんな雑音だらけで洗練の欠片もない起動式を受け入れなければならないなんて・・・・本当に、嫌になってしまいます。私もですが、お兄様専用のではないと本来の実力が発揮されませんが。お兄様の本気は私も見てみたいです」

深雪もそう言うならしょうがないので、俺は目を閉じてから封印を少し解いた。現代魔法での速さを計測する機械の前に立って軽く手を置く。計測、開始。余剰想子が閃き、美月の顔がまた強張っていたので、エリカがまた結果発表を催促したけど。そしたら、ここにいる深雪と蒼太と沙紀以外の者たちにとっては絶句したに違いない。というより計測器が現した数字を見た瞬間全員凍ったというのが早い。計測器にはこう書かれていたが、数字はあえて言わないでおこう。そして俺の本気の片鱗を見せたからなのか、俺ら織斑家以外の者はこう思ったそうだ。なぜ、二科にいるんだろうか?と。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧