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気の強い転校生

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第三章


第三章

「いいかしら」
「付き合えってことだよな」
「そうじゃないわ」
 それは違うと言うのだった。
「御礼をしたいだけよ」
「御礼ねえ」
「それでいいのよね」
「うん、まあ」
 断ることはとても許されない雰囲気だったので頷くしかなった。
「じゃあそれで」
「わかったわ。じゃあ場所はね」
 美有は場所まで指定してきた。
「ここじゃ何ね」
「他の場所?」
「そう。ええと」
 何か必死に考えている感じであった。それが終わってからやっと述べてきた。
「駅前あったじゃない」
「うん」
「そこの。噴水でどうかしら」
 こう提案してきた。
「噴水のところ?」
「そう、あそこ」
 また言う。
「あそこでいいわよね」
「僕は別に何処でもいいけれど」
 場所は何処でもよかった。することは変わらないのがわかっていたからだ。ただし一体何をするかまでは全くわかってはいなかった。予想もできなかった。
「じゃあそれでね」
「ええ。用意するものは何もなくていいから」
「あっ、そうなんだ」
「そうよ。それもわかったわね」
「わかったよ。じゃあそれで」
 その話も決まった。ここでも結局は美有の言うがまま、進めるがままであった。恭輔は始終彼女の言いなりだった。反論も何も出来ないまま話は終わってしまった。 
 それから後で。彼は一人で帰りながらあれこれ考えていた。考えているといっても結論の出ない考えであった。そうしたことは結局のところよくあるが。
「何があるのかな」
 それが不安で仕方ない。けれど幾ら考えても結論は出ない。出なくても考えてしまうがそれでもやはり何があるのかわからず仕舞いであった。そうこうしているうちに自分の家に着いた。それで家で夕食と風呂を終えてそれでも考えるが答えは出ないあげくに寝てしまい朝も答えが出ないまま遂に約束の場所にまで辿り着いたのであった。
「少し遅いんじゃなくて?」
 噴水のところにはもういた。当然制服ではなく赤いロングのワンピースの上にえんじ色の上着を羽織っている。秋らしいがその色でかなり目立っていた。
「待ったわよ」
「御免」
「言い訳は聞かないから」
 やはり今日も有無を言わせぬ口調であった。見ればメイクもしていた。ナチュラルメイクとでも言うのか。薄いメイクなのでぱっと見ただけではわからない。しかしそのせいで学校よりもずっと目立っていた。学校でのメイクとは変えていたせいである。
「行くわよ」
「わかったよ。それで何処に?」
「私が案内するわ」
 それも彼女が決めているようであった。
「それでいいわよね」
「うん、いいけれど」
「わかったわ。それじゃあ」
 踵を返すように前を振り向いて恭輔に言ってきた。
「ついて来て」
「うん」
 言われるままついて行く。といっても並んで歩いているが。そうして案内されたのはチョコレート店であった。彼が入ったこともないかなり品のいい、しかも高級そうな店だった。
 高級そうなのは店の中だけではない。品物もそうであった。彼が普段絶対に食べないようなチョコレートが並んでいた。それを見て唖然とするばかりであった。
「何、ここ」
「何って見たらわからないの?」
 美有は何でもないといった様子で彼に声をかけてきた。
「チョコレートよ」
「いや、それは見たらわかるけれど」
 流石にそれは恭輔もわかる。
「ただ。凄いね」
「そうかしら」
 恭輔の驚いた顔とは全く正反対に涼しい顔を見せていた。
「別にそうは思わないけれど」
「はあ」
「好きなの選んで」
 その涼しい顔で言ってきた。
「どれでもね」
「どれでもって」
「御礼だからいいの」
 美有はその厳しいような、撃つような声で恭輔に告げた。
「いいって」
「断ることは許さないわ」
 直に言ってきた。
「だから。どれでも好きなものを選んでいいから」
「はあ」
「さあ、選んで」
 急かしてきた。
 
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