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戦国異伝

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第百八十一話 諸法度その七

 だが、だ。それでもだというのだ。
「最早幕府には兵も銭もない」
「持っている国も、ですな」
「家臣も」
「そうじゃ、今の幕府はただ都の一隅におるだけじゃ」
「そうした相手に過ぎませぬな」
「所詮は」
「最早な」
 それに過ぎないというのだ。
「幕府は抜け殻に過ぎぬ」
「その幕府が何を思っていてもですな」
「何も出来ないと」
「織田家と我等を争わそうとしても」
「何も出来ませぬか」
「そうじゃ、二つの家を争わせるにしても力が必要じゃ」
 それなりの、というのだ。幕府にもだ。
 しかし幕府にはその力がない、だからだというのである。
「ただの無力な家になった幕府でもない」
「ではどの家か」
「それが問題ですな」
「うむ、そうじゃ」
 こう言うのだった。
「双方を争わせて得をするのはな」
「ううむ、しかしです」
「これまで挙げたところでもどうにも」
「どの家でもありませんな」
「どうにも」
「それがわからん」
 全く、と言う顕如だった。
「まことにな」
「しかしそれではです」
「織田家との戦は無意味かと」
「ただ我等を争わせるのなら」
 ここで側近達が顕如にこう言ってきた。
「ただ民が迷惑をするだけです」
「幸い織田信長は民を害しませんが」
「それでもです」
「うむ、民の血が流れることも厭わぬ者か」
 その者は、とだ。顕如はこのことについては厳しい顔で述べた。
「よくない者じゃな」
「ですな、何者かわかりませぬが」
「全く以て」
「嵌められたか」
 顕如は今度は歯噛みし苦々しい顔で呟いた。
「我等は」
「ううむ、腹立たしいことですな」
「だとしますと」
「しかし戦はまた行われる」
 このことは避けられなかった、和議が終わればだ。
「その時は徹底的に戦いじゃ」
「織田家を退けますか」
「来ても」
「そうする。降ることはせぬ」
 それもないというのだ。
「せめて陥ちると思わねばな」
「意地を出しますか、我等も」
「最後の最後まで」
「民百姓の意地とまでは言わぬが」
 それでもだというのだ。
「我等も意地がある、しかし戦を望まぬ者は寺から出させよ」
「あくまで戦う者だけがですか」
「そして命が惜しくない者だけがですな」
「この石山御坊に残り」
「そのうえで」
「そうじゃ、死ぬ気で戦うのじゃ」
 無論その中には顕如もいる、彼にしても既に命は捨てている。覚悟して今この場にいるのである。それでなのだ。
 側近達にもだ、こう言うのだった。
「ではよいな」
「はい、我等もですな」
「命が惜しいと思えば」
「戦を厭うのならば」
「寺から降りよ。咎めることはせぬ」
 それも一切、というのだ。
「何もな」
「では破門もですか」
「それも」
「生きて本願寺の教えを伝えよ」
 そうしろというのだった。 
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