美しき異形達
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第二十五話 幻と現実その四
「どれも筋がいいんだから」
「せめて袴なら」
薙刀のそれなら、というのだ。
「楽だけれど」
「袴ね」
袴と聞いてだ、今度は姉が微妙な顔になって言った。
「あれはね」
「駄目っていうのね」
「確かに今では女の子も袴穿くけれど」
「本来は、よね」
「そう、穿かないから」
絶対に、という口調だった。
「それ桜ちゃんも言ってるでしょ」
「向日葵ちゃんもそういえば」
「袴は男の人のものよ」
「じゃあ大正浪漫は」
「本来は浪漫どころかガテンみたいだったのよ」
そうしたイメージだったというのだ。
「今で言うと女の子が工事現場のおじさんの服で外歩いてた感じよ」
「あの服も格好いいけれどね」
「格好いいけれどね」
姉もそれは認めた、働く男の格好よさが確かにあるからだ。
しかしだ、それでもだというのだ。
「けれど私服で着るものじゃないでしょ」
「それはね」
「だからよ、それと同じで」
「本来は、なのね」
「女の子は袴を穿かないの」
こだわりさえ感じられる言葉だった。
「家のお仕事の時はいいわね」
「女の人の着物ね」
「その服に慣れるのよ、お姉ちゃんだってね」
「慣れたからっていうのね」
「そう、いいわね」
姉として妹に強く言いつつ朝食を食べた、そしてそれが終わるとだった。
姉はラフな上着とジーンズに着替えてだ、女の子らしい白がかった紫のロングスカートと紫のブラウスの服になった妹に言った。
「今日は部活はあるの?」
「お休みよ」
「じゃあ何するの?」
「ちょっとお友達とね」
「遊びに行くのね」
「そうするの」
その予定だというのだ。
「今日はね」
「そうなのね」
「お姉ちゃんは?」
「私はこれからね」
くすりと笑ってだ、妹に返す言葉は。
「出掛けるから」
「勝義さんと?」
「そこ言ったら駄目よ」
姉は笑って妹に注意した。
「わかってるでしょ」
「こうしたことはね」
「そうよね、それじゃあ」
「とにかく出掛けるから」
「帰りはどれ位なの?」
「夜の門限までには帰るから」
家のそれまではというのだ。
「だから安心してね」
「そう、それじゃあね」
「あんたも出るし」
「今日はお家誰もいないわね」
「それじゃあね」
ここでだ、姉は。
部屋の隅で自分達の御飯と水を楽しんでいる猫達を見てだ、そのうえで微笑んでこう言ったのだった。
「クロちゃんとシロちゃんがお留守番ね」
「そうなるわね」
「この子達私達がいないと寝てばかりだけれど」
「猫だからね」
猫はとかくよく寝る生きものだ、何しろ『寝る子』という言葉が猫の語源だとさえ言われている程である。それだけ寝るのだ。
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