告白させて
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第一章
第一章
告白させて
雨宮真彦は学園中の人間に知られている公然の秘密を一つ抱えている。それは本人が否定してもどうにも否定できないものであった。
「来た来た来た」
「今日もうちのクラスに来ました」
「皆勤賞継続中」
女の子達が背は一七〇程で耳が隠れるまで伸ばした縮れた髪を持っている。奥二重の目は少し垂れていて横に長めである。眉は薄いが形は海苔を斜めにカットしたような形だ。唇は少し厚い。短い丈の詰襟の制服の下には赤いシャツが見えている。そんな外見だ。
その彼を見てだ。女の子はくすくすと笑っていた。
「あれ、雨宮君どうしたの?」
「何か用?」
女の子達はその彼に対して問うてみせた。
「何かありそうだけれど」
「どうして来たのかしら」
「ああ、ちょっとさ」
ここで彼は言葉を一旦濁した。
「何も用事はないんだけれどさ」
「それで来るなよ」
「全く」
男連中も笑いながら言ってみせた。
「何しに来てるんだよ」
「言ってみろよ。何でなんだよ」
「たまたまだよ」
こう言うだけだった。
「たまたまさ。そうそう」
「そうそう?」
「三国志の?」
「全然違うよ」
男連中に突っ込み返す。三国志の曹操ではないというのだ。
「だからな。ちょっと皆元気かなあ、って思ってさ」
「元気かなあって」
「私達が?」
「そうだよ。俺一応保健委員だしさ」
このことは本当である。尚彼は顔に本当の言葉が出てしまっている。
「それでなんだけれどさ」
「ふうん、そうなの」
「そうだったの」
そう言われても女の子達は半笑いの顔である。当然男連中もだ。
「隣のクラスなのに?」
「それでもなの」
「そうだよ。まあ一応な」
苦しいどころか完全に破綻している言い訳にもなっていない言葉が続く。
「けれど皆大丈夫みたいだな。よかったよ」
「あれ、一人忘れてるんじゃないの?」
「誰かね」
女の子達はくすくすと笑いながら話した。
「今いないけれど」
「それでもいいの?」
「誰かって誰だよ」
口ではこう言ってもだ。顔には明らかに狼狽が浮き出ていた。
「一体。誰なんだよ」
「さあな、誰だろうな」
「誰なんだろうな」
男連中もわざとこんなことを言ってみせる。
「本当にな」
「一体」
「何だよ、何が言いたいんだよ」
真彦はまだ言う。
「本当によ」
「まあ俺達は全員元気だよ」
「今日も欠席も遅刻早退もなし」
何気に真彦に朗報を告げている。
「そういうことだからな」
「よかったな」
「ああ、そうか」
真彦もそれを聞いて笑顔になった。
「ならいいんだけれどな」
「まあ今は帰れよ」
「そういうことだからね」
クラス全員での言葉だった。
「また来いよ」
「待ってるからね」
「何だよ、その待ってるってのはよ」
「お昼呼び止めておくから」
「来たら?」
女の子達はくすくすと笑いながらこんなことも言ってみせた。
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