【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
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闖入劇場
第百二幕 「三人寄ればって言うけどダメなときはやっぱりダメ」
前書き
ふと気づけばこの作品、なんとこのサイト内のIS小説では3番目の話数に届いているようです。
あー何とか200話目くらいには作品をまとめ上げたい……
静かだ。
音一つしない。
光のひとすじも射さない。
自分の姿すら見ることが出来ない。
周囲を窺い知ることもまた、出来ない。
ただ暗く、ただ深く、天と地の向きすらも曖昧なままに漂流するような浮遊感。
五感は意味を為さず、ここが熱いのか寒いのかすらも感じ取ることが難しくなってきた。
心臓の鼓動だけが唯一知覚できる振動であり、その音が心地よい。
とく、とく、とく。途切れることなく続く鼓動を聞きながら、感じる事は何もない。敢えて言葉にするならば、それは春先の木漏れ日に暖められた寝床にて無心に眠っているかのよう。何も感じないがゆえに、何もしなくても良い。生存の必要も、対話の必要も、死の必要さえも感じない静寂だけが包む。それが心地よかった。
心細くもない。
苛立ちもない。
退屈も感じない。
不安も感じない。
誰にも何も求められず存在していられる居場所。
そんな場所を僕はいつからか、ずっと求めていた。
ここがそうだというのなら、ここが世界から解放される場所なのならば――
――僕は、ここにいたい。
このしじまのゆりかごで、永遠に。
= =
「ユウ、お前ボロボロじゃねえか!」
「・・・うん、大分やられちゃったよ」
一夏は戻って来るなり仰天した。
ユウが襲われたとは通信で聞いたが、想像以上に手ひどくやられていたのだ。顔には無数の湿布や絆創膏が貼られ、半袖のシャツからのびる手にも無数の擦り傷がある。これだけ手ひどくやられているのを見るのは、ユウの反抗期終了間際に行なわれた兄弟喧嘩以来である。あの時も丁度こんな感じでひょっこり現れたものだ。
自嘲気味に苦笑するユウだが、そこにはどこか無理をして笑顔を張り付けているような違和感がある。
負けたことが随分堪えたようだった。しかし、それだけ強い相手ならISを展開してでも取り押さえれば良かったのでは?と疑問を抱く。
その答えは、横で呆れ顔の鈴が教えてくれたが。
「聞いてよ一夏!このバカ部屋にIS置いたまま出回ってたのよ!?専用機持ちとしての義務を怠った報いよコレ!」
「・・・・・・ユウ、流石にそれはどうなんだ?ドジって言われる俺でもそれはやらないぞ・・・」
「返す言葉もないよ・・・・・・」
割と本気で項垂れるユウ。こういう反応が返ってくるという事は、まだ辛うじて心の平静は保っているようだ。しかし、その目も言葉も、どこか別のことを考えながら返している気がする。
本当にダメなときは最初から沈みきっているものだ。友達だからこそ、それぐらいは分かっていた。そして――
「強くなるって難しいな。俺も落とされちまったよ」
「・・・・・・本当、何でこんなに難しいんだろうね」
今の俺達は負け犬同士だ。ここから這い上がらなければいけない。
ユウはユウでかなり思い悩んでいるのは間違いない。今は一応の平静を保っているという印象を受ける。恐らく折れてはいないが、折れる寸前までは心にダメージを受けただろう。それ程に落ち込み、どうすれば分からない状況になっている。
「でも・・・だからこそ」
「ああ!」
「「負けっぱなしでは終われない」」
声を合わせる。
このちっぽけな意地が、いつかは求める結果へと案内してくれる。
昔からいつだって、負けっぱなしではどうしても終わりたくない。子供っぽい感情だが、それこそが強さを求める源だ。
・・・が。
「「でも勝ち方が分からない」」
そこへと到る道は険しい。声が沈んだ。
「・・・・・・一夏、ユウ。お前ら・・・・・・まぁそのうち良い事があると思うぞ」
「その優しさが痛いよ、箒・・・」
「ドンマイよ、2人とも!」
「この状況じゃ社交辞令にもなってないよ、鈴・・・」
2人の苦難は続く。彼等が前へ進むその限り。
やがて、専用機持ち達が、ベルーナとジョウを除いて集合した旅館の一室。今や作戦本部と化したの部屋の畳の上をゆっくり歩いていた千冬はおもむろに生徒の方を振り返り、口を開いた。
「――もう聞いている者もいるかと思うが、連絡事項が3つある。一つ、アンノウンから保護する筈だったシルバリオ・ゴスペルが暴走した。これによって我々は、アンノウンと暴走ISの両方を相手取る必要が出てきたと言えるだろう。二つ、ベルーナ誘拐事件だが、少々厄介な事態が起きた。ジョウだけでは如何ともしがたいかもしれん。三つ、先ほど報告があったが、旅館内で残間が襲撃を受けた。相手が何者かまでは知らんが、どうやら手練れらしい。これに警戒する必要がある」
集合メンバーの多くが険しい表情、あるいは悔しさをにじませた表情を浮かべる。鈴などは初耳の情報が多いが、雰囲気から異常があるのは察していたのだろう。取り乱すことはない。むしろ、佐藤さんの表情に全く余裕が見られない事に少々驚いている位だった。
「我々はこれら全ての事態を打ち破らなければならん。よってこれよりお前たちをグループ分けしてそれぞれの事態に対処してもらう!」
まず太平洋方面。
こちらはメンバーに変更はなく、小隊長としてラウラを採用。指揮は千冬が直接執ることになった。
次に、ベルーナ対策。
こちらは佐藤さんが採用され、サポートに真耶、そしてアドバイザーに束がつくことになった。既に現地にいる自衛隊とジョウもこちらに加わる。
そして作戦本部防衛のメンバー。
襲撃された張本人のユウ、簪、鈴の3人。万一他の生徒に危害を加える相手だった時と、太平洋方面の作戦で非常事態が起きた時の為の居残りだ。
「太平洋方面のメンバーはこちらに来い!ベルーナ対策は隣の部屋を使う!本部防衛メンバーは別名あるまで別室待機!以上、急いで動け!」
「はい!!」
こうして再び事態は動きだし――そして、佐藤さんはどこか心許ない足取りで隣の部屋へ歩いていく。
「・・・・・・佐藤さん!」
「――え、あ・・・何?織斑くん」
誤魔化すような笑みでその場を濁そうとする佐藤さん。その背中に声をかけたのは、彼女の様子がどうしても気になった一夏だった。
今の佐藤さんは普段の普通な佐藤さんとは明らかに違う。先ほど声をかけた時も、一瞬自分に向けられたものだと気付いていなかった。ベルーナ誘拐の件がショックだったのだろうか、と一夏は推測する。
かくいう一夏も、ベルーナの事が気になる。誘拐というワードが否応なしにかこの忌まわしい経験を思い出させるからだ。忘れもしない、第2回モンドグロッソの屈辱を。しかし、それの対応にジョウと佐藤さんが当たるならばと何とか心を落ち着かせたのだ。
その佐藤さんがあの調子では、一夏は佐藤さん自身まで心配になってしまう。だからこそ、彼女にはしっかりしていて欲しい。
「千冬姉は出来ない人にやれなんて言わない。それに、そっちにはジョウさんもいるし束さんもいるんだ。何とかなるさ!」
「・・・そだね。はぁ・・・・・・ごめんね?心配かけちゃったみたいで」
「いや、気にしなくていいよ。友達だろ?」
無言で会釈した佐藤さんは、山田先生と一緒に部屋の外へと出て行った。
しおらしい佐藤さんというのは・・・新鮮だが違和感がある。次に顔を合わせた時はいつもの普通な佐藤さんであって欲しい。そう思っての激励だったが、果たして励ませたのだろうか――確認のしようがない事を考えても仕方がないと思った一夏は、自分の心配をすることにした。もう既に、一度しくじっている。2度目は起こしたくない。
「・・・・・・アンタまた佐藤さんを口説こうと」
「してないっ!!気になったから声かけただけだって!」
鈴の嫉妬と怨念が籠った視線に必死で首を横に振る一夏だった。
= =
第十二使徒レリエル。
未だにどういう存在なのかはよく覚えていない。ただ、確か地面に映っている影が底なし沼のようになっており、一度沈むと出て来れない――といった具合の存在だったと思う。その存在に関して、目の前で束博士が現場の人間と通信しつつ、つらつら解説していた。
「空中に浮かぶあの球は影を逆転させたただの像、ということらしいね~」
「影を逆転?」
「光を遮るものがあってこそ影が生まれるのが普通だよね。でもあれはその因果が逆転してて、本来影だけの存在であるという矛盾を解消するようにあの球体が見えている。う~ん、意図的にやってるんだとしたらすごく興味深いね。じっくりデータ採取できないのが残念でならないよ」
かたかたとキーボードを叩く束博士の目は真剣そのもので、何一つ事実を見逃すまいと目を光らせていた。山田先生もだ。そして私は――私はこの場合、どうすればいいんだろうか。
突然、「パターン青、使徒です!」とか叫んで前世の記憶を披露するべきなんだろうか。それとも事態を静観するべきなんだろうか。
エヴァンゲリオンとIS。まったく接点がないように思える。というか、IS世界の兵器ではA.T.フィールドを突破できないのではないかという根本的な疑問を口にするのが怖かった。なぜなら、それが事実である場合はベル君は永久に――
「佐藤さん、大丈夫ですよ」
「あ・・・・・・」
山田先生が私の肩に手を置いた。それで初めて気づいたが、私の肩はどうやら震えていたようだ。
「ベルーナ君は助けます。こちらには天才と天災が揃っています。悲観するには早すぎます」
「はい・・・」
悲観するには早すぎる、か。確かにまだあれが私の知っている使徒と同じものであるとは限らない。ひょっとしたら、よく似ているだけで別のものかもしれない。はたまたISならば倒せるかもしれない。まずは一つ深呼吸。吸って、吐いて、平常心。よし、一先ず震えが止まった。
この世界に生まれ変わった時、信じられない気持ちでいっぱいだった。
ISの世界であると知った時も、やはり信じられない気持ちになった。
そして今、再び私は信じられない事態に直面している。
でもたった今それについて深く考えている暇はない。あの大穴の中でベル君がたった独りで取り残されているという事実が、ともかく目の前の状況から整理するという行動を取らせてくれた。
「束博士!その黒くてデカイのは移動とかしてるんですか?」
「ん・・・まぁ非常時だしお前の発言も許してやるか」
(・・・・・・まぁいいけど、いいけどさぁ。もうちょっと言い方ってものが・・・)
「答えはノーだよ。あの場からほぼ動かない」
エヴァの使徒は大三新東京市の地下を目指して動くという特徴がある。正確には地下にある・・・なんだっけ?アダムだかリリスだかを目指しているのだ。それがないという事は、やっぱり使徒の事情がエヴァ原作とは違うようだ。
「ただ、影の直径680mの範囲にある木々や岩、大地どんどん崩れて中に呑み込んでる・・・・・・っと、内部について情報が来たよ~」
「あれの中はどのようになっているのですか?博士!」
「・・・・・・自衛隊のC型でなくてウチの観測道具ならもうちょっと探れるんだけど・・・内部はディラックの海・・・すごーく簡単に言ってしまえば私たちがいる空間の裏側って感じ?とにかくこちらからは干渉の出来ない別の空間を形成してて、それを正体不明のエネルギーで丸めて抱え込んでるみたい。レーダーやソナーを放っても反射が帰ってこない事を考えると下手すりゃ四次元空間だね~」
「つまりあの影みたいなのはワームホールで、その中に作られた四次元空間にベル君がいると解釈すればいいのかな?」
「乱暴に言えばね」
流石は博士、リツコさん並みに頼りになる。確かこの後、初号機のプラグを引っ張って初号機を空間から引っ張り出そうとした・・・・・・んだっけ?やばいどうしよう、シンジ君が大変なことになってたせいでその辺よく覚えてないや。ともかく話を聞こう。
「正体不明のエネルギー・・・・・・それをどうにかすれば?」
「恐らくディラックの海を抑えきれずに自壊するんじゃないかな。中身がどこへ行っちゃうのかまでは分からないけど。ちなみに私が計算した所、単純な物理エネルギーで壊そうとすれば地球上の全部の核兵器を使っても届かないね」
「2重で駄目じゃないですか!ベル君がどうなるか分からない上に実現不可能ってことでしょ!?」
「他の方法を考えましょう!人命救助が最優先です!」
早速行き詰まってしまった。
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