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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos48父の夢/娘たちの願い~Florian family's Dream~

†††Sideなのは†††

高町ヴィヴィオちゃん。未来の私の子供だっていうことらしいけど。うーん、私のお相手って誰なんだろう。それに、フォルセティ君、っていうはやてちゃんとルシル君の子供が居るみたい。もっと詳しくお話ししてみたいな。だけど今は、闇の残滓を倒さないと。そういうわけで私は、アリシアちゃんの指示に従って次々と残滓を撃ち倒していった。

「――本物のマテリアルやみんなとは違って、残滓はみんな弱体設定があるから助かるよ」

ユーノ君やアルフさんの残滓と出遭って、そして倒した。ちょっと戦い辛かったけど、ちゃんと倒したよ。次の残滓の発生地点へと向かう中、「あ、この感じ・・・シュテルみたいな・・・」妙な魔力を感じた。

≪マスター。マテリアルの反応を探知しました≫

「うん、行こう!」

“レイジングハート”の指示に従って進路を変更。そして少し進んだ先に、あの子が居た。シャルちゃんと同じ水色の髪をした、フェイトちゃんと瓜二つのマテリアル「レヴィちゃん・・・!」が。

「ん? あ、ボクのオリジナルの仲間・・・えっと、なにょは!」

「なのは! な・の・は!! どうしてこう、私の名前ばかり間違えられるの!?」

ヴィータちゃんもレヴィちゃんも、なにょは、って。そんなに呼びにくい名前なのかなぁ。ちょっとショックだよ。気に入ってるのに、なのは、って名前。うぅー。

「その・・お前が、ボクになんの用だよ!」

「あ、そうそう。私、というか私たちね、レヴィちゃんとちょっとお話をしたいなぁって思って」

身構えを解いて、右手をレヴィちゃんへと差し出す。するとレヴィちゃんは「話すことなんてないぞ、ボクには。ボクは忙しいんだ」レヴィちゃんはプイッと顔を逸らして、またどこかへと飛び去ろうとする。

「待って、待って! えっと、えっと・・・、あ、コレ!!」

もし万が一、復活したマテリアルなのがレヴィちゃんだった場合、そのレヴィちゃんと出会った時のための贈り物を、フェイトちゃんから私たちみんなに渡されたんだ。慌ててソレを取り出すと、「おお! ソレ、甘い水色のやつ!」レヴィちゃんがものすごい反応を示した。

「(本当に好きなんだなぁ、ソーダ味のキャンディ。可愛い♪)フェイトちゃんが、もしレヴィちゃんと出会ったら渡してって」

「ホントか!? じゃあ貰ってやる♪」

フェイトちゃんから私たちに渡されたのは棒付きキャンディ。誰もが親しみを覚えちゃうようなニコニコ笑顔を浮かべたレヴィちゃんがすぃーっと向かって来て、右手に持つキャンディに手を伸ばしてきた。とここで、「ちょっと待って」ってひょいっと手を上げて、レヴィちゃんの手からキャンディを遠ざける。

「あ! な、なんだよ、ボクにくれるんじゃなかったのかよー! 期待させておいてお預けとか、お前なかなかに悪いやつだな!」

「ごめんね。ちゃんとあげるから、その前にお話を聞きたいなぁって思って。お話をしてくれたら、このキャンディはレヴィちゃんの物。どうかな?」

腕を組んでうんうん唸り出すレヴィちゃん。ちょっとの間唸った後、「これが、しほー取引ってやつだな!」ってビシッと指を差してきた。ちょっと違うんだけど。でも、微妙に合ってるのかも。とにかく、「どうかな?」って確認してみる。

「むぅ、こうなったら力づくで・・・!」

「わわ! 待って、待って、レヴィちゃん! それだと余計にあげられないよ!」

「むむ!・・・むぅ・・・、何が訊きたいのさ?」

「(やった♪)えっとね、レヴィちゃん、体の方は大丈夫なの・・・?」

砕け得ぬ闇――ヤミちゃん(はやてちゃんの命名だけど可愛いからみんな使ってる)の霧のような魔力――魄翼に貫かれて消滅させられちゃったから、それが心配で訊いてみたら「へ? あー、見たら判るだろ!」レヴィちゃんは“バルフィニカス”をブンブン振り回して元気を示してくれた。

「じゃあ、他の子たちは大丈夫なのかな? シュテルも・・・」

「ボクと一緒にアイルが起動してるだけ。王様たちがリソースを回してくれたんだ。ボクは力のマテリアルだからね。システム全体の復旧をするなら、一番力持ちなボクが外からやった方が、効率が良いんだ。アイルは、ボクやシュテるん、フラムの力が暴走しないようにするための律するプログラムだから、ボクが暴走しないよう念のために一緒に再起動したんだよ」

レヴィちゃんの目の前でキャンディを左右に振ると、レヴィちゃんはまるで猫のようにキャンディの動きに合わせて目を動かす。どうしよう、真面目な場面なのにレヴィちゃんを思いっきり抱きしめたい衝動に駆られちゃった。だって猫じゃらしに反応する猫みたいなんだもん。

「そうなんだ。じゃあシュテル達の復旧はどう? あとどれくらいで元に戻れそう?」

「判んない。ただ撃破されただけならそんなに掛かんないと思うけど、普通の壊され方と違うから。ボクとアイルで全力修復はしてるけど、あとどれくらいで、ってことになると全然・・・」

爛々と目を輝かせたレヴィちゃんは急に暗い表情になって、俯いて自分のお腹、ヤミちゃんの魄翼に貫かれた個所を優しく擦った。私は「ありがとう、はい、どうぞ」ってキャンディをレヴィちゃんに差し出す。今は少しでも元気になってもらいたいから。

「あ、ありがと、ナノハ」

「うん!!」

名前を呼んでくれた(カタコトだったけど)レヴィちゃんに微笑み返す。はむはむ♪、とキャンディを頬張るレヴィちゃんの表情に明るさが少しだけど戻った。少しレヴィちゃんを眺めていると、「話はもう終わりか?」って訊いてきたから、「ううん。これからが本題」って答える。

「・・・お前、良いやつ! ボクにもなんとなく解った。あんまり喋っちゃアイルにメチャクチャ文句言われると思うけどさ。ボクは寛大だからな、話してやる。別にキャンディに釣られたわけじゃないからな!」

「ありがとう、レヴィちゃん! 私たちね、レヴィちゃん達に助けてもらいたいの」

「助ける?」

「うん。私たちはヤミちゃんを止めてあげたいんだ」

「ヤミちゃん? 誰そいつ」

「あ、砕け得ぬ闇、レヴィちゃん達が言うシステムU-Dのあの子を」

「あー、だからヤミちゃん。・・・U-Dを止めた後はどうする気だ・・・? はっ。そうか! ボクらの復活や自由を邪魔する気なんだな! やっぱり悪いやつか!」

さっきまでの上機嫌が急降下して一気に不機嫌に。しかも“バルフィニカス”まで構えちゃうし。私は慌てて「違う、違うから!」首を横にブンブン振る。レヴィちゃんは「じゃあ、何をする気?」って構えは解いたけど警戒は続行。

「ただ止めたいだけなんだよ。だってあの子、苦しんでるでしょ、悲しんでるでしょ、傷つけたくないって。管理局員としても、ひとりの人間としても、ヤミちゃんを止めてあげたい、その苦痛から解放してあげたいんだ」

「っ・・・。本当に?」

「うん、本当だよ。だからこうしてレヴィちゃんに会いに来たんだ。ヤミちゃんを止めるためにはどうすればいいか、それを教えてもらうために」

“レイジングハート”を待機モードの首飾りに戻して戦闘意思がないことを改めて示した上で、両手をレヴィちゃんに向かって差し出す。私はさらに、「みんなの分も預かってるんだ。レヴィちゃんはそのソーダ味だったでしょ。他の子にはね――」ってマテリアル人数分のキャンディを見せる。

「シュテルはストロベリー、アイルちゃんはメロン、フラムちゃんはパイナップル、ディアーチェちゃんはグレープ。みんなで仲良く分けて食べられるように、って」

「赤色、翠色、黄色、紫色・・・。そしてボクの水色。やっと取り戻せることが出来た、ボクらの魔導色だ・・・」

レヴィちゃんがそろそろと手を差し出して来たから「どうぞ♪」私は残りのキャンディもレヴィちゃんに手渡す。受け取ってくれたレヴィちゃんは愛おしそうにキャンディを見詰めた。とここで、「なのは!」フェイトちゃんとはやてちゃんとアルフさんが合流。

「あ、オリジナル! それに子鴉! あとアホ犬」

「ああん!? また泣かすぞ、コラ。この前みたいにまたピーピー泣かしてやんよ!」

「なんだよー!? やるかぁ、ああん!? 今度はボクが、お前を泣かしてやるぞ、おおう!?」

フェイトちゃんをオリジナル、はやてちゃんを子鴉、アルフさんをアホ犬呼ばわりするレヴィちゃん。そんなレヴィちゃんとアルフさんが、「ああん!?」おでこをごっつんこさせて睨み合い。それを止めるのがフェイトちゃんで「もう、ケンカしないで!」って2人の間に割って入った。

「ふんだ! もう話せることは話したぞ!」

「あ、レヴィちゃん! 返答は!?」

「ボクひとりに決められるわけないだろ。王様が最終決定権を持ってるんだ。勝手に決めたらボクが怒られちゃうだろ。あくまでボクがするのは話して聴くことだけ」

ディアーチェちゃんの魔力光――紫色をしたグレープ味のキャンディだけを振ってそう答えてくれた。するとはやてちゃんが「それじゃあ王さま達が目覚めるまで、一緒に居ってくれるか?」って手を差し伸べた。私やフェイトちゃんも「お願い」ってレヴィちゃんに頼み込む。

「むぅ・・・。もう1個コレをくれたら考えないこともない」

舐めきって無くなっちゃったソーダ味キャンディのお代わりを御所望なレヴィちゃん。フェイトちゃんとはやてちゃんが「はい、どうぞ♪」それぞれキャンディを取り出すと、「いいだろう、居てやろう!」って胸を張ったレヴィちゃんの目は爛々と輝いてキャンディに釘づけ。早速キャンディを頬張るレヴィちゃんを温かく見守っていたら・・・

「レヴィぃぃぃぃぃーーーーーーーッ!!」

怒りの沸点越えを示すかのような怒声が遠くから聞こえてきた。声のした方へとみんなで顔を向けると、そこには全身真っ白なすずかちゃん――じゃなくて、アイル・ザ・フィアブリンガーちゃんが居た。そのアイルちゃんの後方にはすずかちゃんとシャルちゃん、そしてすずかちゃんに抱っこされたアリサちゃんの姿が。

「あ、アイルだ! おーい!」

「おーい、じゃありませんわよ! 一体何を喋りましたの!? いえ、そもそもどうして喋ってしまいましたの!?」

アイルちゃんが私たちを突き飛ばすようにしてレヴィちゃんの真ん前で急停止、レヴィちゃんに詰め寄った。

「別に知られて困るようなことは話してないぞ。ボクとアイルだけが再起動して、外からシステム全体の復旧をしてるってこと、王様たちの目覚めがいつになるか判らない、ってことくらい」

「十分喋ってますわよ、このアホ、バカ!」

「アホとかバカとはなんだ! アイルだって、自分のオリジナルのお嬢様やフラムのオリジナルの熱血、それに赫羽と一緒じゃんか! どうせ負けたんだろー、やーい!」

すずかちゃんをお嬢様、アリサちゃんを熱血、シャルちゃんを赫羽と呼ぶレヴィちゃんは、怒りのボルテージ限界突破なアイルちゃんに向かって舌をベーッと出した。

「カッチーン、ですわ! 力だけのマテリアルに、頭の良さを期待する方がそもそもの間違いでしたわね! ああ、申し訳ありませんでしたわ、頭空っぽの力持ちさん!?」

「プッチーン! なんだと、この似非お嬢様! ボクの電撃でバッチバチのコッゲコゲにした後、バルフィニカスでバッラバラに斬り裂いてやるぞ!?」

「上等ですわよ! ヒエッヒエのコッチコチに凍らせた後、コッナゴナに砕いて差し上げますわ!」

一触即発。レヴィちゃんはアイルちゃんの頬を両手で左右に引っ張って、アイルちゃんはレヴィちゃんのツインテールを引っ掴んだ。まさかマテリアル同士の本気バトルに発展しちゃうなんて誰が思うんだろう。私たちは慌てて2人を引き剥がしにかかる。

「「はぁはぁはぁはぁ・・・!」」

頬を強く引っ張られたことで真っ赤に腫らしたアイルちゃんと、髪を引き千切られるちゃうかもっていう程に引っ張られて涙目なレヴィちゃん。マテリアルの子たちって仲がいいって思ってたんだけど、何か鬱憤でも溜まってたのかなぁ。

「とりあえず、アースラへ行こう?」

「そうだね。落ち着ける場所でゆっくりと話をしようよ」

フェイトちゃんと私でレヴィちゃんとアイルちゃんにそう提案するんだけど、「冗談ではありませんわよ」アイルちゃんが自分の腫れた頬を自慢の氷結で冷やしながら却下を下してきた。

「でもさ、あんた達もどうせ自力でヤミちゃんを止められないんでしょ?」

「だったらみんなで協力した方が良いと思うんだ」

アリサちゃんとすずかちゃんがそう諭しても、「何度も言いませんわよ。冗談ではない、と、私は」って聞いてくれない。

「じゃあ、そっちには何かあるの? ヤミちゃん――砕け得ぬ闇の停止方法が」

「もしあるんやったら、わたしらがそれの手伝いをするってゆうのはどうやろ?」

シャルちゃんとはやてちゃんも続くけど、「くどいですわよ」アイルちゃんはやっぱり聞いてくれなかった。そして「レヴィ。行きますわよ」ってレヴィちゃんの手を取ってどこかへ去ろうとしたら、「アイル。待って」レヴィちゃんが留まった。

「もしかして絆されましたの、レヴィ? 管理局は私たちの敵ですわよ。きっと上手いことを言って、私たちをまた封印する気ですわ。私には、あなたも含め、他のマテリアルを護る義務もありますの」

「シュテるんは言ってた。ナノハが良い魔導師だって。ボクはナノハと話したんだ。U-Dを助けたいんだって。たぶん、嘘じゃない」

まさかシュテルがそんな風に思われてたなんて考えもしなかったから驚いた。アイルちゃんの眉がピクッと引きつく。レヴィちゃんは「ボクらは自由になりたい。だけど、U-Dも一緒の方が良い」って続けた。

「いい加減にしてくれませんか、レヴィ。それが真実、本音であると思うんですの?」

「なんとなくだけど」

レヴィちゃんとアイルちゃんの間にまた不穏な空気が。いつでも止められるようにスタンバイしようとした時、「え・・・!?」2人が急に黙りこんじゃった。私たちはどうかしたのかなって、2人を見守っていると。

「王様とシュテるん、フラムが何か話してる・・・?」

「復旧が進んで言語機能が復活したようですわね」

すぅっと目を閉じたレヴィちゃんとアイルちゃん。意識を内側に向けたみたいで、2人から不穏な空気が綺麗サッパリ消えた。

「ぷふ。レヴィ、あなた、シュテルやフラムからシステム構造が単純だと言われてますわよ」

「うるさいなぁ。そのおかげで、システム復旧が早く進んでるって褒めてくれてるじゃんか。ていうか、アイルだって王様に、融通が利かんアイルを表に出して不安、とか言われてるぞー」

「む。融通が利かないのではなく真面目なだけですわ」

ふんって鼻を鳴らしたアイルちゃんはそれっきり黙った。レヴィちゃんもまた黙る。でもすぐに「え? ボクらがU-Dを求めてた理由、大いなる力を手に入れるんじゃなかったの・・・?」レヴィちゃんが気になるセリフを発した。

「え? 間違いでもないって? どういうこと?」

それは私たちのセリフだよ、レヴィちゃん。思いっきり独り言を漏らすレヴィちゃんには感謝するけど、もうちょっとハッキリとした話が聞きたいかも。

「ヤミちゃんを手に入れて大いなる力を得る。そして自由になる。それが、今までの会話から出来てた推測やったけど・・・」

はやてちゃんの話に頷くことで応える。確かに、ヤミちゃんほどの力があれば自由になることや、それ以上のことだって何でも出来そうだもん。

「U-Dと私たちは、元々1つだったのですわね。アイル、シュテル、レヴィ、フラム、ディアーチェ。そしてU-Dの6基が揃うことで、はじめて・・・紫天の書が・・・完成・・・?」

「なんだ、紫天の書って・・・。あ、王様の本のことか!」

「紫天の書が完成すれば、私たちは闇の書から独立することが出来ますのね!」

「ボクらが求めた自由は、U-Dで迎え入れることで手に入れることが出来るんだ!」

「私もですわ、王。U-Dと出会った時、私の胸に生まれたのは望郷の念にも似た想い・・・」

アイルちゃんの閉じられた瞳から1粒の涙が零れ落ちた。そして「本当にそれでいいのですわね?」ってアイルちゃんが誰かに確認するような言葉を発した。レヴィちゃんも「が、頑張る! 交渉とか苦手だけど、アイルと一緒ならなんとか」ってまたも気になる単語を発した。レヴィちゃんとアイルちゃんがすぅっと目を開けて、私たちへと目を向けてきた。

「お前たちに話がある!」

「シュテルからの提案により、私とレヴィは、あなた達と交渉をさせていただきますわ」

「U-Dを止める方法を教えるからって」

ヤミちゃんを止めるための方法を手に入れたみたいなシュテル達。詳しく話を聞くために私たちは一度アースラへ戻ることにした。

†††Sideなのは⇒ルシル†††

本局は第零技術部。ジェイル・スカリエッティを主とした、次元世界屈指の技術が埋もれる部署。そこに今、俺とクロノは居る。目的は、保護した未来からの来訪者であるアミティエ、キリエのフローリアン姉妹の治療。そして事情聴取だ。

「――なかなかに面白い少女たちだったよ。私の娘たちとはまた違った構造で、出力も段違いであり、出力炉もまた画期的な技術が使われていた。私はそれなりの天才だと自負はしていたが、改める必要があるようだ」

「ドクター、私たちは席を外しましょう」

「では、クロノ執務官、ルシリオン。ごゆっくり」

フローリアン姉妹の製作者を予想外にも褒めちぎったスカリエッティは、ウーノとチンクに引っ張られるように半ば強制退室させられた。それを見送った後、俺とクロノの目の前に2台のベッドがあり、そこに横たわっている病院服を着たフローリアン姉妹へと向き直った。
スカリエッティとシスターズ、ティファレト医務官の協力でそのダメージを回復させた彼女たち。スカリエッティから何かしら変なことをされなかったかと警戒したが、治療に携わったウーノとドゥーエ、クアットロとチンクが思った以上にしっかり者だったこともあって、奴は早々変なことが出来なかったようだ。

「それでは、目覚めたばかりで申し訳ないですが、事情聴取を行わせてもらいます。管理外である未来からの来訪者であってもあなた達には黙秘権が発生します。ですが、出来れば、包み隠さず話してもらえると助かります」

「話します、全部。この世界の人たちに迷惑をお掛けしないように、と決めていたのですが、もうこれ以上、私だけでは抑えきれませんし」

「っ!」

観念したアミティエの言葉に、キリエがギュッと布団を鷲掴んだ。ここまで独りで頑張って来たのが、報われないままとうとう終わりを迎えたんだ。悔しいだろうな。

「それでは改めて確認を。あなた達2人は、未来からの渡航者、である。そうですね」

「はい。何年後から来たという詳しいことは話せませんが・・・」

「それで結構です。キリエ・フローリアンさん。あなたは、何らかの運命を変えるために過去であるこの時代、そしてこの世界へとやって来て、システムU-Dを手に入れようとした・・・」

事実確認するかのようなクロノの問いを聞き、アミティエがキリエへと顔を向けた。キリエは小さく溜息を吐き、「ええ、そうよ」と彼女もまた観念したようで話し始めた。時間移動という現代ではもちろん、現代以上にそういったオカルト的な技術に優れていた俺たちの時代でも、完全には成し得なかった技術を以ってこの時代へ来た動機を。

「わたしやお姉ちゃんの故郷、エルトリア。その世界がゆっくりと、でも確実に死へと向かって行ってるの」

「どれくらいになるでしょうか。もう何百年と前から、エルトリアという星そのものが死んでいっているんです。死に蝕ばれると書いて死蝕という現象によって。その死蝕によって、水や大地の腐敗が起きているんです」

「厄介なのは、飛び石みたいに自然発生すること。発生地点も予測できなくて。生物や自然が生きられないような場所になっていく」

ここでクロノが「君たちのような人が生まれる時代だ。他の世界――星に移住などは出来ないのか?」と訊いた。すると「もちろん、他の惑星に移住を始めている人は居ます」とアミティエが答える。それでもなお、砕け得ぬ闇を求めて過去へやってくる理由とはなんだ。

「80年くらいほど前から、それまで死蝕から逃れながら生きてきた人たちも、安全な星に移住を始めた。みんなエルトリアを離れて行ってる」

「試算的に見れば、あと2世代以内でエルトリアから人が居なくなります。いまエルトリアに残っている人たちは、エルトリアで生まれて、その大地が本当に好きな・・・。私とキリエの父――フローリアン博士は、死蝕に侵されたエルトリアを直して、以前のように綺麗な世界に戻す、そのための研究や対策を続けていました」

「わたし達は、その研究・対策の実験過程で生まれた死蝕地帯の復旧機材で、自動作業機械ギアーズと言うの」

元は復旧用の機体だったのか。その戦闘能力からしてガッツリ戦闘用機体と思っていたんだが。いや、俺とシェフィの子供である“戦天使ヴァルキリー”もまた、戦後は復旧作業機体として働いていたから変でもないか。

「でも博士って、どこか抜けているというか、失敗が多い人だった」

「ええ。普及型ギアーズの試作機として生み出された私とキリエの、人格形成システムを作り込み過ぎてしまったそうで。そのこともあって私たちを単なる機械として扱うべきではない、と」

「だからわたし達は、普通の人と同じように、温かく、優しく、大事に育ててもらったの」

本当にフローリアン博士のことを慕っているんだと、彼女たちの声色や表情で痛いほど伝わってくる。フローリアン博士か。一度でいいからお会いしたいものだな、シェフィと一緒に。そしてフローリアン姉妹や、うちの“ヴァルキリー”を交えて語らい合いたいものだ。だから思わず「素敵な父親なんだな」と漏らしてしまった。

「もちろんよ。博士以上に素敵なお父さんなんて居ないわ」

「ありがとう、ルシリオン君。・・・私たちの弟や妹たち――私やキリエの後に博士が生み出したギアーズは、私たちみたいな体も心も持ってはいないけど、それでもエルトリアを侵し続ける死蝕を食い止めるという任務のために、今も一生懸命頑張ってくれているんです」

「わたし達の計算からして、あと数年で成果が出始めるって出たのよ。博士が人生を懸けた夢の成果が、わたし達が生まれた理由が、そして博士と一緒に抱いた希望が、あと数年で実を結ぶかもってことが判った。だから喜んだ。わたしも、お姉ちゃんも、博士も、みんな・・・! なのに!!」

キリエが感情を爆発させた。怒りじゃない。悲しみが大半の苦しみ。アミティエが「博士は、その成果を見る事が出来ないんです」とキリエの話を継ぐように続けた。

「原因不明な不治の病気に罹ってしまって、博士はその数年の時間を生きられなくなってしまいました」

「あとちょっとなのに! けど、博士にとってそのちょっとが、長すぎたのよ」

フローリアン姉妹は続ける。この時代への時間遡航および異世界間渡航のシステムは、フローリアン博士が偶然発見したオーパーツ――この世界で言うロストロギアを、博士が解析し、使用できるようになる直前までこぎつけた代物だったらしい。しかし博士は余程の人格者だったようで、そのシステムを封印したんだと言う。

「フローリアン博士は素晴らしい人というのは良く解った。だが、そのシステムを使えば、数年先の未来へ連れて行けるし、未来で病気の治療法を探すことも出来たんじゃないのか? 前者に関してはおそらく博士は拒んだかもしれないが、後者くらいなら許してくれると思うんだが」

「・・・博士はそれも拒みました。過去に戻って運命を変えることも、今を生きる事を放棄して未来へ逃げることも、それは人がしていいことじゃないと。問題はそれだけではないんです。時間移動できるのは1人か2人が限度。
しかも体に途轍もない負担が掛かってしまうので、人間である博士には、たとえ健康体であったとしても耐えられないんです。人より何十倍も頑丈な私たちですら負担が大きく、こちらに来てすぐはまともに動けませんでした」

クロノの問いに悲痛な声色で答えてくれたアミティエ。俺もクロノも、彼女たちが抱く悲痛な思いに俯きかけてしまう。

「でもわたしは諦めなかった。お姉ちゃんは、時間移動に頼らない別の角度から博士を救う手段を探していたけど、わたしは時間移動しかないって思ってずっとシミュレーションを繰り返した。
だけど、博士の病気のきっかけになりそうな出来事、死蝕の大拡散とか、わたしが求める過去を変えようとすると、必ずと言うようにエラーが出たの。何度も何度も繰り返したけど、クリアになることはなかった。正直、諦めそうになった」

「今思えば、私もどこかで時間移動に懸けていたのかもしれません。だって世界を殺す死蝕なんて言う大規模な現象や、博士を蝕む不治の病も、どうすれば防げるのか、どうすれば治せるのか、何をしたって判らなかったから・・・。
でも、エラーを見る度に諦める思いが強くなりました。何が起こるか判らない状態で、とりあえず過去に戻って何かしてみる。それはあまりにもリスキーですから。生まれ育った世界の未来と、世界で一番大切な博士の夢と命。不確定なリスクだらけの天秤に載せられるわけがない」

「そんな時、わたしは見つけたの」

「それが、砕け得ぬ闇――システム:アンブレイカブル・ダーク・・・、あの基体が持つ、永遠結晶エグザミア・・・?」

俺がそう確認を取ると、キリエが「そうよ」と小さく頷いた。

「無限連環システムの核、エグザミア。死蝕で死に向かってるエルトリアを唯一救える希望。過去のどの時代でもなく、この時代限定で、わたしが持ち帰ることが出来る可能性があるって、シミュレーションの結果が出た。もうこれしかない、って思ったわ。闇統べる王ロード・ディア―チェが完全稼働していて、そのうえでU-Dをその制御下に置くタイミングが、昨夜訪れるはずだった・・・」

そこで区切ったキリエの言葉を代弁するように「失敗した、か」クロノが言うと、「違う。まだ失敗したわけじゃない。まだ、わたしはまだ活動できるから」と彼女はクロノを睨みつけた。すぐに俺は「負ったダメージを治してもらったから?」と訊く。

「ううん。それとは別よ。わたしやお姉ちゃんは、この過去の世界での活動制限があるの。わたし達の体を動かすエネルギーは無限じゃない。補給する必要がある。でも・・・」

「持てるだけのエネルギーを使い果たせば、私たちは活動停止します。この時代での補給はまず不可能かと」

俺とクロノは顔を見合わせる。スカリエッティなら、フローリアン姉妹のエネルギーを分析し、尚且つ生成できるんじゃないか、と。これ以上、あの変態ドクターに借りなど作りたくはないが、今ここで彼女たちが活動停止すると、ヴィヴィオ達が未来に帰れない可能性が高い。

「問題はエネルギーだけじゃないんです。転移機があとどれだけ保つのかも判らないのが現状で。私とキリエがそれぞれ1回使っていますから。あとは、その、帰るだけの1回分だけなんです。それも近いうちに行わないと・・・」

「「行き当たりばったり過ぎる・・・」」

クロノと一緒に大きく溜息を吐く。こんな二度とエルトリアに帰れないかもしれないような計画を、確かなスケジュールも経てずに・・・って、それが難しいのか。そうまでしてフローリアン博士の夢を繋ぎたいんだな。

「・・・アミティエさん、キリエさん。話が少し変わりますが・・・」

2人の目の前にモニターを3枚と展開。表示するのは、未来から強制転移させられて迷子状態なヴィヴィオとアインハルト、そしてトーマ。トーマの中には融合騎のリリィという少女が居るらしいが、その姿は未だ捉えられていない。

「彼女たちも未来から来たようなんです。おそらくあなた達の時間移動の余波に巻き込まれたものと思われます。少女2人の方は13年後から、少年の方は16年前後の未来から」

「たぶん君の言う通りだと思う。時間移動時に生まれる膨大なエネルギーが、時間や空間を越えて何かを巻き込むことも考えられたから」

「・・・戻す方法は・・・?」

そう訊くと、アミティエとキリエが口を閉ざした。おいおい、待て。こればっかりは本当にまずい。俺の視線が鋭くなったのが判ったのか「この方たちもちゃんと元の時代に戻れるように努力します」アミティエがそう言った。確かな方法が欲しかったんだがな・・・。

「・・・そうだ。肝心の話をまだ聞いていなかった。エグザミアを手に入れて、元の世界に戻った後、そのエグザミアをどうする気なんですか? 未来であり、管理局の影響力もない世界であっても、この時代からの代物で何かしらの悪影響があったとしては、管理局としては大きな失態です」

「答えはたった1つよ。エグザミアの膨大なエネルギーでなら、エルトリアを救うことが出来る。エルトリアが元の綺麗な姿に戻るにはきっと何十年、ううん何百年はかかる。博士の命には全然間に合わないだろうけど・・・。
それでも、博士の夢――エルトリアを救うことは出来る。その最初の一歩を、ほんの小さな一歩でもいい、前に進んだことを、博士に見せてあげたい・・・。博士の人生を懸けて成した研究や対策は、無駄じゃなかったんだって」

ポロポロと涙を零すキリエ。アミティエがキリエのベッドへと移り、そんな彼女を優しく抱き止めた。俺とクロノは顔を見合わせて小さく頷き合う。早い話、キリエは親孝行をしたかった。その手段は少し困ったものだが、その優しさを叩き潰すほど俺たちは鬼じゃない。
こうして俺たちは、本件の最重要人物であるフローリアン姉妹から、その目的を聞き出すことが出来た。

 
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