| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

FAIRY TAIL 星と影と……(凍結)

作者:天根
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

幽鬼の支配者編
  EP.26 ミラジェーン

 
前書き
書き上げては書き直し、書き上げては書き直し……そんな26話です。 

 
 悪魔の暴走から解放され、眠るミラジェーンは夢を見る。
 ギルドに馴染み始め、故郷を追い出された心の傷が癒え始めた頃の夢、生来の活発さを取り戻し始めた頃の夢だ。




 6年前のあの日、闇の中で一人塞ぎこんでいた私はある『光』を見た。

 光――それは私と同じ魔法を習得し、私より弱くて魔法も上手く使えなかったくせに、『私を守る』と言ってくれた弟と妹であり……怪我も厭わずに、更に深い孤独へ身を落とそうとしていた私を止めてくれたある男の子だ。
 弟と妹は、仕事にしてもギルドで過ごす日常にしても私といつも一緒だったが、男の子の方は……その姿を目で追っていた気がする。

 いつからかは分からないが、私、ミラジェーン・ストラウスは、私を温かな光溢れる世界に繋ぎとめてくれた男の子、ワタル・ヤツボシに惹かれ始めていた。

 それが分かったのは、ある女の子――エルザもそうだったからだ。
 私と同じくらいの力量を持つ、同い年の女魔導士。それだけでも、当時の私には彼女をライバル視するのに十分だったが、私と同じ男の子に惹かれているという事は、その心をさらに後押しした。

『魔導士としても、恋愛にしても、コイツにだけは負けたくない』

 そう思っていたのだが……恋愛事に関しては、私は負けを認めざるを得なかった。



「急に呼び出して悪かったな、ミラ」

 今から5年と少し前のある日、私は『話がある』と彼に呼び出されて、二人きりで話す事になった。

 うるさいエルザもいない。距離を縮める絶好のチャンスだ――――そう思っていた。

「い、いや……あ、あのさ……話って何だ?」
「ん? あー……何と言うか……」

 歯切れ悪い言葉を口にして、恥ずかしげに頬を掻き、忙しなく周囲を気にするワタル。
 普段は見せない彼の珍しい姿に心臓が大きく脈打ち、顔が熱を持って心が舞い上がってしまったのを、私は今でも覚えている。

 もしかしたら――そう思ったのだが……それは思い違いだった。

「……エルザの事なんだけどさ」
「エルザの……?」
「ああ。アイツとよく一緒にいるそうだな」
「……それがどうかしたか?」

 何となく嫌な予感がして、胸が痛い位に締め付けられるような感覚を覚えた。

「アイツを……あー、そうだな……見捨てないでやってくれ」
「何だそれ? 喧嘩するなって事ならアイツに言えよ」
「いや、違う。もちろんしない方が良いに決まってるんだが……それはいい。俺が言いたいのは、どんな形であれ、アイツとの繋がりを断ち切らないでくれって事なんだ」
「……繋がりって……大袈裟だな、ワタルは」
「大袈裟なものか。孤独は辛いからな……」

 エルザの事を心配そうに言うワタルの顔は真剣そのもので。
 当時の私には、真面目に反論した彼を鼻で笑うようにして、悲しみと悔しさで震える声を誤魔化す事しかできなかった。

「まあ……分かったよ」
「本当か! ありがとう!」
「ッ……じゃあな」

 快活に笑って喜ぶ彼。彼が心からエルザを想っている――そう思い知るには十分だった。
 そんな彼の笑顔に、その心が私に向く事は無いと、嫌でもそう感じてしまった私はその場から立ち去った。

 溢れ出しそうになる涙は、意地でも見られたくなかったから……。

「ミラ姉……」
「大丈夫かい、姉ちゃん?」
「……ああ、もう大丈夫だ。心配かけたな……さ、ギルドに行こうか」

 何日か経っても、ギルドに顔を出す気にならなかったのだが……それでも、私の周りにはエルフマンやリサーナがいてくれた。
 声を殺して泣いていた私に事情を聞く事無く、ただ傍に居てくれた家族の存在は、落ち込んでいた私には一番の特効薬だったように思う。

 心配そうな弟と妹を伴い、何日かぶりにギルドに足を運んだ時……私の目はワタルを探していた。
 あんな事があったのに、私は一体何をやっているのか、と思ったが……無意識にそうしてしまうほどに習慣化していたのだ。

「――仕事行くぞ、エルザ」
「分かった。内容は?」
「……誘った俺が言うのもなんだが、内容聞いてから承諾しろよ……『畑を荒らす害獣の保護或いは駆除』だ」
「相変わらず細かいな、お前は……ああ、ミラか」
「お、身体はもういいのか?」
「まぁな……これから仕事か?」

 しばらく顔を出さなかった私を心配していたのか、私を見て安堵した様子の二人。

 何故、彼の隣に居るのが私ではなかったのか――と、恨めしく思う気持ちが無い訳ではない。
 だが、エルザと話す彼の目は温かくて、優しくて……その顔は安らぎを感じていたようだった。

 他の女とくっ付かれるよりは、エルザなら仕方ないか……そう思ってしまうほどに、隣同士の彼らの姿は自然そのものだったのだ。

「ああ。行ってくるよ……ミラ、身体がきつければ、あんま無理するなよ」
「心配性だな、ワタルは。ミラの事だから大丈夫だと言っているだろう」
「それは私が頑丈さしか取り柄が無い、と言ってるのか?」

 エルザの物言いにカチンといた私は喧嘩腰になってしまう。まあ、いつもの事だ。

「そんな事言ってないだろう。それに、お前がそう感じたなら、自分でそう思っているのではないか?」
「言ってくれるじゃないか……!」
「こらこら、復帰早々喧嘩すんな! エルザも、置いてくぞ!」
「あ、待てって!」
「チッ……おいエルザ、この続きは帰ってからだからな! ……エルフマン、リサーナ、私たちも仕事探すぞ! 絶対あいつらより早く終わらせてやる!」

 いつものように些細な事で一触即発になり、いつものようにワタルがそれを仲介する。
 普段と変わらない光景に、ある種の清々しさすら覚えた私は遅れた分を取り返すかのように、弟と妹を率いてリクエストボードに向かうのだった。


 そんな日常を壊したくなくて、私は彼に想いを伝えようとはせず……甘くて少しの苦さを残した私の初恋はこうして幕を閉じた。

 ……少なくとも、当時の私にとってはそのはずだった。


    =  =  =


 魔導巨人ファントムMk2(マークツー)の中腹部。
 エレメント4の一人、大地のソルとエルフマンの戦いの場でもあったこの通路は、精巧な石造と美しい花壇で彩られ、大理石で造られていた。
 ギルドというより美術館の方がしっくりくるくらいだったのだが……“全身接収(テイクオーバー)悪魔の魂(サタンソウル)”に変身したミラジェーンの暴走によって、水浸しになったり粉々になったりと、見る影も無く破壊されていた。

「ん……」
「姉ちゃん! 大丈夫か?」
「エルフマン……良かった、無事だったのね。……私は……痛っ!」

 エルフマンの巨体に身体を預け、眠るように気絶していたミラジェーンが意識を覚醒させて最初に見たのは、大きな身体に似合わず繊細な弟の心配そうな顔だった。
 彼の無事に安堵した後、すぐに身体中の痛みに呻いた彼女を心配して、ワタルも近寄り、片膝をつく。

「大丈夫か、ミラ?」
「ワタル……ええ、大丈夫よ。でも……私、なんてことを……」

 周りの惨状と、覚えのある自分の魔力の残滓を感じ取ったミラジェーンは、自分のした事を思い出して顔面蒼白になる。

 中でも、暴走していたとはいえ、弟・エルフマンに襲い掛かってしまった事は、彼女の心を深く傷つけていた。
 それが分かった……いや、ある程度予想していたのか、エルフマンは自責の念に駆られる姉を慰める。

「姉ちゃんが悪いんじゃない……俺のあんな姿なんて、もう見たくなかっただろ? 俺がアレを制御できなかったばっかりに、リサーナは――――」
「エルフマン……」
「今回だって、俺は見ているだけで、何もできなかった……。妖精の尻尾(フェアリーテイル)を、姉ちゃんを守れるだけの強い(おとこ)になりたい……そう思ってたのに……笑っちまうよな」

 肩に置かれた、悔しさに震えるエルフマンの手に、自分の手を重ねたミラジェーンは首を振りながら口を開いた。

「……あの時、あなたは必死で私たちを守ろうとしてくれたじゃない。今だってそうよ。だから、自分を責めないで、エルフマン……あなたや私がそんな様子だと、リサーナに笑われちゃうわよ」

 エルフマンに、そして自分にも言い聞かせるような言葉と共に、なんとか笑顔を見せるミラジェーン。

「うぅ……姉ちゃん……無事で、良かった……ホントに、良かった……」
「もう……貴方が泣いてどうするのよ」
「ったく、ミラのそういうとこには一生叶いそうにも無いな」

 姉の笑顔で安堵したエルフマンは感極まったのか、息を詰まらせながらも涙を流す。ワタルは、自分も辛いだろうに、それでも優しい笑みを浮かべて弟を心配する彼女に、強さと眩しさを感じて苦笑した。

「ワタル……あっ……!」

 その言葉が聞こえていたのか、彼女は身じろぎして、立とうとするが……

「おっと……まだ動いちゃ駄目だ、ミラ」

 暴走を止めるために撃ち込んだ“魂威”のダメージと、強制的に“悪魔の魂”を解除させたショックがまだ抜け切れていなかったため、ふらついてワタルに受け止められ、彼に寄りかかる形で支えられる。

 予想以上の強さを見せた“悪魔の魂”に手加減などできなかった事もあり、ワタルにはこうなることが予想できた。
 そのため、彼に動揺は無かったのだが……ミラジェーンの方は、そうはいかなかった。

「あ、う……」

 ワタルにそんなつもりはないのだが、半分抱きしめられた形になってしまい、ミラジェーンは身体が熱くなり、顔が赤くなるのを自覚した。
 何かを言おうとしても、口から出るのは意味をなさない音ばかり。諦めたつもりでも、自分が彼に未練を持っていると認識するには十分すぎた。

 皮肉にも、その事に気付いたのは暴走している時だった。
 “悪魔の魂”の肝である悪魔因子が彼女の制御を外れて暴れていた時も、彼女の意識はぼんやりと残っていた。その時、名前を呼ぶだけで意思を伝え合うエルザとワタルを見て、彼女の中に黒い感情が浮かんだのだ。

 それは羨望や嫉妬と呼ばれる感情だった。

 否定しようにもできない。
 制御を外れた悪魔因子は持ち主の負の感情を強めるが、生み出す事は無い……つまり、彼女の奥底に元々眠っていた感情だという事が分かっていたからだ。

 その感情が、ワタルの予測を超えた力を発揮させたのは余談である。

「……ミラ、あまり自分を責めるな。俺たちは仲間なんだ。仲間なら、もちつもたれつが当たり前なんだから」
「うん……ありがとう」

 力が入らないのか、礼を言ったもののワタルに身体を預けたまま動かないミラジェーン。

『暴走の記憶が彼女を自責と後悔で苛んでいる』

 そう思った彼は、慣れない手つきで泣く子をあやす様に彼女の後頭部をぎこちなく撫でる。

「(仲間、か……分かってた事だけど。……でも、エルフマンも前に進もうとしてる。……私も、前に進まないと……)」

 ワタルに礼を言った後、ミラジェーンは意を決した様に顔を上げると口を開いた。

「……エルフマン、ちょっと外してくれる?」
「ミラ?」
「姉ちゃん?」
「いいから……お願い」
「……分かった。ワタル、姉ちゃんを頼む」
「あ、ああ……」

 珍しく、有無を言わせない口調の姉に何か感じるものがあったのか、素直に離れるエルフマン。そんな彼とは対照的に、ワタルは当惑していた。

「ねえ、ワタル……いつだって、私は貴方に助けられてばかりだったわね」
「どうした、いきなり……そんなこと気にしなくても――――」

 至近距離、ミラジェーンの蒼い瞳に決意の色が見え、彼女が言う事に思い当たることが無かったワタルはさらに困惑した。
 瞳を僅かに潤ませ、頬を紅潮させた彼女はそんな彼に構わず……



「こんな事、いきなり言われても困るだろうけど……私、ね……ずっと、貴方の事が好きだったの」



 胸に秘めた想いを打ち明けた。

「……え?」
「ううん、だったじゃないわね。今だってそうよ……でも、貴方は――――」
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待て! ……一体、いつから……?」

 ミラジェーンからの告白。ワタルには、これ以上は無いと断言できるほど、完全な不意打ちだった。
 鈍器で頭を殴られたような衝撃に目を見開くと、彼は今までに無い程に狼狽しながらも尋ねる。

「そうね……5年以上前から、かな」
「5ね……!?」

 話を遮られた事に嫌な顔一つせず、赤い顔で頷いたミラジェーンの顔に冗談の類の色は見られず、ワタルはさらに驚愕したのだが……ある事に気付き、頭を抱えた。

「じゃあ……俺は、何てことを……最低じゃねぇか」

 ミラジェーンの言葉が真実だとすると……自分は、自分を好いていた少女に別の少女の事を相談していた、という事になる。

 ワタルには、それが想像すらしたくないような残酷な事に思えた。
 知らなかったなど、理由にならない。良かれと思ってやった事が、別の誰かを傷つけていた……無意識の悪意を自分が放っていた事に、彼は吐き気すら感じた。

「その様子だと、やっぱり気付いてなかったみたいね」
「ミラ……俺、なんて言ったらいいか……」

 謝る事さえも、彼女への侮辱や冒涜に思えるほどの強烈な自己嫌悪が、彼を苦しめる。
 そんな彼の絞り出すような言葉に、彼女は首を振った。

「いいの。寧ろ気付いていなくてホッとしたわ。……貴方の目にはエルザしか映っていなかった――――それが改めて分かったから」
「ッ……なら、どうして……」
「こんな事を言ったのか?」
「……ああ」

 さらに自分の想いも、ミラジェーンにはしっかりとばれていたことに唇を噛む。

 ワタルの問いに頷くと、彼女は再び彼の胸板に額を押し付けた。

「ミラ……?」
「……本当は、伝えるつもりなんてなかったの。このまま、時間が貴方への想いを忘れさせてくれる……そう思ってたから。……でも駄目だった。忘れようとしても、忘れられなかった……未練がましい、惨めな女よね」
「そんな、事……」

 日常を壊したくなかった?
 違う、私は傷つくのが怖かっただけだ。

 辛そうな言葉を吐くミラジェーンの顔に浮かんでいるそんな自嘲の笑みは、銀髪に隠れて見えない。

 まともに言葉を紡げないワタルをよそに、彼女の言葉は続く。

「諦めたはずだったのに……心のどこかで、いつも貴方の隣にいたエルザを羨んでいたし、自分が嫌だった。……そして、2年前――――」
「それは……」

 2年前……嫌でも思い出されるのはリサーナの事だ。
 辛い記憶に肩を震わせながらも、ミラジェーンは続けた。

「うん……リサーナが居なくなって、心が真っ暗になった気がしたわ」

 身体を引きちぎられたかのような心の痛みと辛さに、彼に縋ろうかと思ったことは一度や二度ではなかった。
 虚しさでも何でもいいから、暗闇……空っぽの心を埋めるものが欲しかったのだ。

 でも、彼女の墓前で泣いていた弟の姿が……そして、僅かに残った女としての意地が彼女を引き留めた。
 そんなもので彼を自分のものにしてしまっていいのか、残った弟はそんな情けない姉を見てどう思うだろうか、と。

「でも、同じくらい……いいえ、私よりも辛いはずのエルフマンが前に歩き出そうとしてるのに、姉の私が立ち止まったままでいいのか……そう思ったの」

 だから伝える事にした。辛い過去にけじめをつけて、前に進むために。

 ワタルを見上げるように、顔を上げてそう言ったミラジェーンの顔には自嘲じみた笑みは無く、いつもの穏やかで優しげでありながら、強さを感じさせる笑みがあった。

「ッ……強いな、ミラは……俺なんかより、ずっと」

 人生の中で、大きい小さいの差はあれど、挫折を味わうものは幾らでもいる。
 だが、一度折れた心を奮い立たせて再び立ち上がり、歩き出せる者はそう多くない。

 辛い過去から逃げずに歩き出そうとする彼女の姿は、ワタルには眩しかった。

「ううん、そんな事ないわ。私の心には、いつも貴方の言葉があった。それに……6年前も、今回も、あなたが私を引き留めてくれた。だから、自分を卑下しないで」
「……ありがとう」

 一度暗く考えると連鎖的にドツボに嵌っていく自分の悪癖は、ここでも顔を出していた。
 首を振ってワタルの自嘲を否定し、それを払ったミラジェーンに、彼は感謝で返す。

「どういたしまして……で、返事は?」

 まっすぐこちらに向いて聞くミラジェーンに、せめて誠実に答える事が彼女への礼儀だと、勝手ながらに思ったワタルは彼女の両肩に手を当てて身体を離すと、まっすぐに彼女の蒼い瞳と向き合う。

 答えは決まっていた。

「……ごめん。お前の気持ちには応えられない」
「……」
「俺は……やっぱり、エルザが好きだから……だから、ごめん」
「……そう」
「ああ……」

 申し訳なさと自己嫌悪で身を切る思いで、ワタルは拒絶した。
 嘘を言ってでも、彼女の望みを叶えてあげるべきではないのかと、辛そうに告白する彼女を見てそう思ったが……自分の心を占める緋色の女性の事を想えば、それは有り得なかった。
 正直に告白した彼女に、何より自分に嘘をつきたくなかったから。
 例えそれで彼女を傷つけてしまおうとも、誠実でありたかったから。

 だが、目を伏せるミラジェーンに自分が掛けていい言葉があるのか、という答えは纏まらなかった。
 唇を噛んでそれ以上何も言えず、彼女の顔を隠す銀色を見つめていたのだが……

「……あー、スッキリした! ……正直に言ってくれてありがとう、ワタル」
「……」

 ワタルの重い感情とは裏腹に、顔を上げたミラジェーンの顔には憂いの色は無く、むしろ晴れ晴れとした表情であった。
 予想外の反応に、ポカンと面食らった彼の顔が面白かったのか、彼女はクスクスと笑いながら問いかける。

「どうしたの? ハトが魔導散弾銃喰らったような顔をして」
「それを言うなら豆鉄砲だろ。ハトが魔導散弾銃なんか喰らったら……って、そうじゃない。あー……なんて言ったものか……」

 思ってた反応と違う、とワタルは自身の乏しい恋愛経験からなる混乱に陥っていたが……

「(まあ……ミラももう触れたくないだろうしな……俺だったら死んでも御免だし)」

 自分に当てはめてみて、もしエルザが別の男について相談してきたら……などと考えると寒気がした。

 だが胸中では、改めてミラジェーンの心の強さに頭が下がる思いだった。

「(失恋してもなお笑う、か……)――俺には無理だろうな」
「え?」
「なんでもない……そろそろ行くよ」
「ええ、そうね……エルザを待たせたら大変だものね」
「ッ……」

 ミラジェーンの言葉には、皮肉は全く見られない。だが、それがかえってワタルに罪悪感を抱かせた。
 顔を歪めたワタルに、ミラジェーンは苦笑する。

「そんな顔しないでよ、私は大丈夫だから。……もう、これじゃあどっちがフラれたんだか分からないじゃない」
「……そうだな……まったく、お前には敵わないな。……ミラ、エルフマンと一緒にグレイと合流したら、すぐに此処から離れろ」

 もはや、これ以上の感傷と自嘲は彼女に失礼だろう。

 そう感じたワタルは苦笑すると……浮ついた思考を、あまりの落差で冷たく感じる現実へと切り替え、表情を真剣なものに引き締めて指示をした。

「え……どういう事?」

 驚いた表情のミラジェーンに、簡単に説明を始める。

 彼女が気絶している間に、グレイとエレメント4の一人・大海のジュビアの戦いがグレイの勝利で終わった事。そこで魔導巨人の動きが遅くなっている事に気付き、生体リンク魔法でエレメント4がこの巨人の動力源になっている事が分かった事……

「残りの一人はマスターをやった大空のアリアだが……エルザが向かっているから問題ない。後は――――」
鉄竜(くろがね)のガジルと、マスター・ジョゼ……」

 ガジルは同じ滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)のナツに任せるにしても、この戦争を終わらせるために倒すべき最も厄介な敵が残っている。

 無理な覚醒で魔力の大半を消費してしまい、立つのがやっとのミラジェーンはもちろん、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の実力者たるエルフマンやグレイでさえも、ジョゼの前では子供同然だろう――ワタルはそう確信していた。
 聖十の称号を持つ魔導士――このイシュガル大陸で十の指に入る魔導士の力はそれほど重いのだ。

「分かってるけど……でも……!」

 言葉に出さなくても自分たちが足手まといだと分かったのか、悔しそうにしているミラジェーンに、ワタルは引き締めていた表情を緩めた。

「そんなに思いつめるな。きっと大丈夫、なんとかなるさ」
「あ、ちょっと……!」
「じゃあな。さっさと離脱しろよ」

 心配そうなミラジェーンを安心させるように彼女の肩を叩いてそう言うと、ワタルは制止も聞かずに駆け出した。

「姉ちゃん……良かったのか、これで?」
「……初恋は実らない、って言うしね……これでいいのよ、私たちは」

 ミラジェーンとワタルの話は聞こえていないが、ずっと一緒にいた家族のエルフマンには、姉がワタルに向けている感情について、なんとなく察しがついていた。
 ワタルの背中が見えなくなってから近付いてきた弟の心配そうな言葉に、彼女はそう言うと、明るく笑う。

「(失恋の涙はとうの昔に流した。だから……)エルフマン」
「何だ、姉ちゃん」
「私も……前に進むわ」

 過去を断ち切る訳でも、ましてや忘れる訳でもない。今も生きている者、思い出の中にしか生きていない者……そんな大切な者たちと過ごした記憶は、確かに自分の中に息づいている。
 それでも、泣いてばかりだった過去の自分に別れを告げて、大切な仲間たちと共に未来へ進もう。

 (リサーナ)も、きっとそれを願っているだろうから。

 
 

 
後書き
これでも始めに書いたものよりかはソフトのつもりです。
っていうか、やっとミラの話に決着が……(汗
進行遅すぎる…… 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧