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戦国異伝

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第百八十一話 諸法度その六

「織田家との戦に勝つぞ」
「門徒、信仰を守る為にもですな」
「何があろうとも」
「うむ、しかしな」
 ここでだ、顕如は門徒と信仰を守ることについてだ。どうにもといった感じでいぶかしむ顔でこう言ったのだった。
「織田信長は門徒を害してはおらぬ」
「戦はしてもですな」
「無闇に命を奪ってはおりませぬな」 
 このことは側近達もそうだと答えた。
「特に」
「信仰もそのまま許しておりますし」
「そうしたことは確かにですな」
「特に言いませぬな」
「うむ、それにあの者はな」
 信長自身についてもだ、顕如は和議の時に会った彼のことを思い出しつつ述べた。
「我等と戦になったこともな」
「我等に攻められたからだと」
「そう言っていましたな」
「我等は織田家に攻められたからはじめた」
 こうも言う顕如だった。
「お互いにそう言っておるな」
「はい、確かに」
「その様に」
「しかもあの者を嘘を言っておらぬ」
 信長は、というのだ。
「決してな」
「では一体」
「織田家でないとすれば誰が我等に仕掛けたのか」
「それが謎ですな」
「どうにも」
「ふむ、考えてみれば妙なことじゃ」
 顕如は腕を組み考える顔でこうも述べた。
「本願寺と織田家が争って何になるのか」
「双方が潰し合って、ですな」
「どうなるかですな」
「そうじゃ、それは何故じゃ」
 どうしてかというのだった、顕如はここで。
「おかしなことが多いのう」
「はい、実に」
「我等を争わせて得をするのは誰か」
「双方を潰し合わせて誰が得をするのか」
「そうも考えてしまいますな」
「武田や上杉、違うのう」
 顕如はまず彼等の名前を出したがそれはすぐに否定した。
「武田家はそうでなくとも攻めてきたら」
「上洛を目指して、ですな」
「あの家ではありませぬな」
「信玄公も謀略は使うが」
 武田信玄はそちらにも長けている、しかしだというのだ。
「民を脅かす御仁ではないからのう」
「ですな、そうしたことはですな」
「あの御仁は決してしませぬな」
「それは謙信公も同じじゃ、しかもあの御仁はじゃ」
「謀自体をですな」
「使われませぬな」
「うむ、だからあの御仁でもない」
 謙信でもないというのだ、そしてだった。
 民を巻き込むことになる織田家と門徒達のことからだ、顕如は彼等でもないとした。
「北条家でも毛利家でもないな」
「どちらのご当主も民を大事にします故」
「それもですな」
「拙僧とて攻められなければ動いておらんかった」
 顕如してもというのだ。
「戦にならずに済めばそれに越したことはない」
「それで、ですな」
「民さえ救われれば」
「それでよいのじゃが」
 だが、だ。その本願寺をだというのだ。
「織田家と戦わせて得をするのは誰じゃ」
「どの家でもないとすると」
「一体全体」
「幕府、また違うのう」
 幕府もだ、顕如は自分で名前を出してそうではないとした。
「あの公方様は確かに何かと大人しくない方じゃ」
「当寺にも文を送ってこられましたし」
「他の家にもですな」
 武田にも上杉にも他の家にも送っている、本願寺と毛利の盟約はこの義昭の命であるというのが表向きの理由だ。 
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