| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第百八十話 天下の宴その十八

「天下を治める両腕にしようと考えておられるとは」
「ははは、それはです」
 近衛の話をここまで聞いてだ、信長は笑って言ったのだった。
「それがしもまた」
「右大臣殿もでおじゃるか」
「はい、しかし」
「しかしとは」
「その二人だけでなく」
 信長は笑って言う、その言うこととは。
「北条、毛利もです」
「何と、あの二家もとな」
「はい、軍門に降し」
 そうして、というのだ。
「天下を治める手足になってもらいます」
「ううむ、何と大きな」
 近衛は今度は唖然とさえした、信長のその言葉に。
「織田殿はそこまで考えておられるか」
「はい」
 その通りだと言う信長だった。
「天下を治める為に」
「全ての家を倒し」
「左様です」
「では」
「はい、その時は」
 まさにというのだ。
「そうさせて頂きます」
「毛利殿も北条殿も英傑でおじゃるが」
「そうですな、しかし」
「右大臣殿はその上に立たれ」
「国家千年の礎を築かせてもらいます」
「頼朝公も尊氏公も超えられるか」
「そのつもりです」
 幕府を開いたこの二人よりもというのだ。
「ご期待下さい」
「わかり申した。では我等公卿も右大臣殿を支えさせて頂くでおじゃる」
 近衛は今度は彼だけでなくと言った。
「その様に。ただ」
「ただ、とは」
「高田殿はわからぬでおじゃる」
 彼だけはというのだ。
「麿もあの御仁のことは一切知らぬでおじゃるから」
「不気味な方ですな、近衛殿がご存知ないとは」
「それに近頃都では」
 都の話もだ、近衛は信長にした。
「幕府の二人の僧も」
「天海殿と崇伝殿ですな」
「あの二人もわからんでおじゃる」
 全く、というのだ。彼等も。
「何者か」
「崇伝殿は南禅寺の住職ですが」
「しかしでおじゃる」
 名札南禅寺の住職だ、しかしだというのだ。
「寺に入る前がでおじゃる」
「それがしも調べましたが」
「これがわからんでおじゃる」
 全く、というのだ。崇伝についても。
「天海殿も武蔵にいたそうでおじゃるが」
「かなりのご高齢ですな」
「噂では百歳を超えているとか」
 実際にそうした噂がある、天海には。
「しかしそれでもでおじゃる」
「素性不明ですな」
「崇伝殿と同じく」
 もっと言えば高田ともだ、しかし近衛はこのことには気付いていなかった。信長にしても今ここではそうである。
「そうでおじゃる」
「瞬く間に公方様の側近になられましたな」
「あっという間でおじゃった」
「今ではまるで公方様の影ですな」
「宴には来ておられなかったにしても」
「生臭ものは口にしないからでしょうか」
 僧故にだ、信長はここでこう考えた。
「それは」

「しかし宴では僧も参加しておじゃった」
「精進ものも用意していましたので」
「呼んだでおじゃるな、あの二人も」
「はい、高田殿と同じく」
 ここではこう言ったがだ、やはり信長は彼と二人の間柄には気付かなかった。公卿と僧侶の違い故にである。
「そうしましたが」
「来なかったでおじゃるか」
「公方様はあの通り来られましたが」
「ふむ、それも面妖でおじゃるな」
「とにかくお二人もですな」
「そうでおじゃる、その素性がわからんでおじゃる」
 それも全く、というのだ。
「どうにも」
「お二人ともかなりの法力とのことですが」
「その法力にしても」
「何処で身に着けたのかは」
「わからぬでおじゃる」
「あの御仁達は面妖なことばかりですな」
「全くでおじゃる。どういった者達なのか」
 わからぬとだ、近衛も言うのだった。
 そしてだ、茶を飲んでだった。
 そうしてだ、信長にあらためて言った。
「では天下のことは」
「はい、それでは」
「帝からもお言葉があるでおじゃるが」
 その帝のお言葉もあり、というのだ。
「右大臣殿に委ねるでおじゃる」
「有り難きお言葉」
 信長は近衛のその言葉に深々と頭を下げた、そうしてだった。
 彼もまた茶を飲む、安土での話は政だった。だがそれは次の大きな戦も見据えたものであり信長はそのこともよくわかっていた。


第百八十話   完


                        2014・5・1 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧