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ソードアート・オンライン ≪黒死病の叙事詩≫

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≪アインクラッド篇≫
第一層 偏屈な強さ
  ソードアートの登竜門 その弐

 
前書き
まーた説明(❓)回です。
ちょっと過剰すぎたかもしれませんね。情報を纏める努力が必要です。

あとキリトくんの喋り方が掴めません。この回は多く修正が必要そうです…… 

 
 薄暗い洞窟を出口へ向かって歩くのは二人のプレイヤー。一人は茶髪で長身のジャマダハル使い。もう一人は黒髪で比較的背の低いアニールブレード使い。



「いやぁ助かったぜキリトォ、君がいなきゃ俺はあのまま他のプレイヤーが自主的にやってくるまでずっと動けないでいたよほんとキリトには感謝してるぜ俺みたいな辺境ビルトじゃコボルド三匹には手も足も剣先も出ないからな」

 一度も噛むことなくペラペラと喋る俺にキリトは不審そうな顔をする。

「スバル……そんなキャラだったのか?」
「いやいやぁ、やりたかったRPが茅場にぶっ潰されたから、キャラがブレブレなんだよ。ゲス盗賊、したかったんだけどなぁ」
「たしかにあのアバターは盗賊ぽかったけどさ……もうそんなことも言ってられないだろ」
「いやな、俺も色んなMMOやってきたんだけどさ。そのどれでも大抵はRPやってたからピエロが抜けないんだよね」
「ああ……俺は別にRPしないからいまいちわかんないんだけど、そういう人もいるのかもな、確かに。……というかスバル、やっぱりあんたMMOプレイヤーだったんだな」
「そ。お察しのとおり、スバルくんはこのゲーム道六年の中毒者だぜ。時間に差はあっても君もだろ?」

 そうやってキリトに話を振るとキリトはなんだか悩んだような、というよりも気に食わないなぁと言いそうな顔をした。

「……うーん、一緒にされるも癪だが……まぁそうだな。というかこのSAOのプレイヤーはほぼ全員そういう奴らばっかりだと思うぜ」
「うーむ。俺の調べだとそうでもないんだがな……よし、救ってくれた礼だ。ヨンキュッパの情報をプレゼントしてやるよ」

 俺はキリトに富裕層について教えた。といってもこの情報の買値は確かに四千九百八十コルだが、売値で換算すれば百コル程度の報酬だろう。

「しかし……知ったところでどうにかなる情報じゃないんじゃないか?それ……」

 確かにキリトの言うとおり、この情報の価値は低い。しかし価値は低くとも意味を見出すことは出来る。

「でもなキリト。俺はこのことについては案外重要視しているんだぜ。富裕層っていうのは言い換えれば≪戦力外≫だ。正しくは≪即戦力外≫だが……この人数が多すぎると最初期に攻略に狩り出るプレイヤーが少なくなることを意味するんだ。経験も知識もない富裕層は第一層の攻略では動かない。というよりも動けないな。富裕層にとっては百層攻略よりも外からの救出のほうがずっと現実味があるからだ。だから俺の予想では今日の≪攻略会議≫ではMMOジャンキー達がこぞって動いてくれる筈だ。つまり戦力としては充分。けれども、もしボス攻略で敗北するような事態になったら……」

 とても長い言葉の羅列を一旦区切り、キリトを見る。俺はキリトにその先を言わせたかった。知っていて欲しかった。確認したかった。
 暗い洞窟の中に足音だけがしばらく響いた。沈黙を破ったのはやはりキリトだった。

「……攻略は遠のく。もっと言えば、攻略される日は来なくなるかも」
イグザクトリー(そのとおり)。絶望は病のように感染しやがる。それに引き篭もりの中には≪大衆が動かなければ動かない≫という消極的なやつも多い」
「そこまで言うんだから…スバル。あんたも当然今日の攻略会議には顔出すんだよな?」
「……いやぁ俺も戦力外だろう。こんな装備じゃあなぁ」

 そう言って俺は苦笑しながら愛武器ジャマダハルを見せる。とても美しいフォルムだと思うが、キリトはどうやら機能美のほうがお好きらしい。

「うーん……なんでスバルは、……言っちゃあ悪いがそんなネタ武器を使ってるんだ? 今回みたいなことがまた起きたら致命的じゃないか」
「言ったろ? ピエロが抜けないんだ。俺は根っからのズブズブの中毒者。命を賭けるぐらいどうってことないのさ」

 肩を竦ませてそう言う。しかしキリトの廃人度が足りないらしく、呆れた顔をするだけで共感してくれなかった。

「俺も色々MMOしてきたけど、お前以上は一人もいなかったよ」
「サンキュー。この世界では最高の褒め言葉だよ」

 そう返すとキリトの顔が強張った。何か怒らせるようなことをいっただろうかと一瞬不思議に思ったが続いてきた言葉はそのようなものではなかった。

「おっと……モンスターがいる。前方二十五メートル先ぐらいに一体だな……どうする?」

 キリトが睨んでいる方向にはきっとモンスターがいるのだろう。≪索敵スキル≫を取ってないので二十五メートル先に確認できるものは闇だけだ。

 キリトの『どうする?』はきっとキリトが戦うか俺が戦うかを聞いているのだろう。キリトは兎も角、俺はパーティープレイに向かないビルドだ。二人で戦ってもグダグダに戦線が崩壊するだけだろう。ならばどちらか片方が戦ったほうが良い。そうと決まればここはキリトに俺のビルドの強みを見せるべき場面だろう。

「俺がやるよ。まぁ見ときなってジャマダハルの強み、魅せてやるぜ」
「ほほう……じゃあ魅せてみなよ」

 キリトのにやりとした笑みを見てしまった俺は少しムキになってしまい、キリトの目の前で≪隠蔽スキル≫を発動する。するとキリトの感嘆の声が聞こえた。

「おぉ…スバル、あんたの隠蔽の熟練度、相当高いな。索敵持ちの俺でも≪看破≫できないぞ」

 そりゃそうだ。俺のビルドは隠蔽ありきのビルドなので普通に戦闘するだけでも隠蔽の熟練度は恐ろしく高くなる。現在、俺の視界下部に存在するハイド・レートは暗闇の補正もあり八十パーセントある。たとえ数十秒の間俺のいる場所を見続けてもキリトには≪看破≫はできないし、軽く歩いてもハイド・レートが目に見えて下がることはない。

 さて、無言のままキリトから離れて暗い洞窟内部を、ハイド・レートが下がらない程度にテクテク歩いたところ、キリトの言うとおり前方二十五メートル先にはモンスター、さきほど俺を苦しめた≪ルインコボルド・バンディット≫がPOPしていた。まぁさきほどのコボルドとは違うのだが、だからといって恨みがないとは言えない。あの三匹のコボルドはキリトにやられてしまい不完全燃焼だ。一応お仲間なのであのコボルドで憂さ晴らしをするとしよう。

 隠蔽スキルを発動したまま、ジリジリと聞き耳で足音のしない道を探しながら、距離にしておよそ五メートルまで近づく。

 ここが現在の俺の隠蔽スキルの限界だ。これ以上近づくと看破される可能性が急激に大きくなる。しかし手甲剣のソードスキル≪暗殺(アサシネーション)≫にはこの五メートルを埋めるスキルがある。≪暗殺(アサシネーション)≫は発動した場所から半径五メートル以内では≪完全隠蔽(パーフェクトハイド)≫ができる。その状況下ならば攻撃されるかもしくはするかをしない限り決して≪看破≫されない。
 しかしこれもソードスキルに入るため≪手甲剣≫のソードスキルで最大火力を誇る≪(パニッシュメント)≫と組み合わせて使うことができない。
 つまりは暗殺(アサシネーション)でのパーフェクトハイド状態ではソードスキルが使えない。使えるのは最大威力でも、格闘ゲームでいう強パンチ程度のものだ。

――まぁそれでも、ジャマダハルなら四倍クリティカルダメージが出せるんだけどな。

 ジャマダハルを背中に隠すように構えることにより≪暗殺≫の規定ポーズをとる。すると視界下部にあるハイド・レートが金色の百パーセントになる。ハイド・レートの数字が金色になるのが≪完全隠蔽(パーフェクトハイド)≫の特徴であり証拠なのだ。

 俺は小走りでコボルドの背後に回る。プレイヤーなら豪快に鳴り響く足音を不審に思うかもしれないが、完全隠蔽状態だと自分よりも格下のモンスターでは感知されない。中々に便利なのだが格下の基準が曖昧なので逐一モンスターの種類ごとで調べなければならない。以前調べたところ、この≪ルインコボルド・バンディッド≫はシステム側が言うには俺より格下らしい。つまりパーフェクトハイド圏内だ。

 コボルドの後ろに回り、大きく腕を引き下げて、全力で背中から心臓目掛けてバックスタブ。ドゴォッといい音が鳴り響き、狙い通りのクリティカルが入る。

 するとコボルドのHPが一気に九割ほど喪失した。コボルドは一度に大きなダメージを受けたことにより≪転倒(ファンブル)≫に陥る。

 暗殺の長い硬直時間が解けたあとに地面でうつ伏せに寝ているコボルドの背中を瓦割りの要領でもう一突き。これまたクリティカル。

 コボルドは状況が掴めないまま光の粒子となり霧散した。相変わらず底知れない威力だ。使っといてなんだがオバーキルがすぎる。

 攻撃が当たったので≪暗殺≫の効果により隠蔽スキルが強制的に解除される。最初に隠蔽を発動してからここまででおよそ二十秒だろうか。

 戦闘が終わり体を伸ばしてキリトのいる後方に振り返り、呟いた。

「ふぅー、終わった終わった。キリトも直ぐ来るだろ」
「もう来てるぜ」
「うおわっ!」

 驚きながら見ると横にはキリトが立っていた。キリトが言うには隠蔽を使って戦闘を見学していたらしい。見学したといってもキリトにはコボルドが唐突に倒れこみ爆散したようにしか見えなかったのだろうが。

「ちょっと離れたところで見てたけど、≪瞬間火力(バースト)≫だけなら相当だな。ざっと俺の六倍ぐらいか?かなり危ない橋を渡っているようだけど」

 今の戦闘の何処に危なげな要素があっただろうか。キリトに質問してみた。

「そんなやばそうかなぁ? 俺としては安全策を滅茶苦茶にとってるつもりなんだけど……」
「……本人にはわかんないものなんだな。まぁ俺がどうこう言うことじゃない。そんなことはスバルも知ってるだろうからな」

 まぁね、と返すとキリトはそろそろ出口だぜ、と言った。

 キリトの言葉通り、視界の奥には外からのものと思われる強い光が見える。中途半端に話すのも嫌で、俺たちは足音だけ鳴らして出口へと向かった。

 洞窟を抜けるともう既に空が赤色に移り変わっていた。俺は確かお昼前にこの洞窟に入っていったので、随分長々と拘束されていたことがわかる。
 そして「これからどうするんだ」と俺がキリトに聞くと「これから迷宮区でレベル上げさ」とだけ言って別れた。

 まるでキリトから自主的に別れたような表現だが、俺が空腹のあまりその場を立ち去ったというのが正しい。

 奇妙なことにこの架空世界は排泄などはしなくてもいいのに睡眠と食事は必要らしい。それは生存のための自意識から来るものなのか、はたまた茅場晶彦がそういったことにやたら拘っただけの事なのかはわからない。とにかく何も食べないと空腹で餓死しそうな苦しみを味わうし、寝ないと寝不足の時の不健康感が蓄積する。

 そして俺はあの洞窟のトラップのせいで体感六時間ほど缶詰にされて、体感十二時間ほどなにも食べていない。

 洞窟で別れたキリトと俺は背を向け合って、真逆の方角へと歩いていく。
 キリトは第一層の迷宮区。俺はキリトの来た方向にある迷宮区最寄の町≪トールバーナ≫へと向かっている。
 その町は夕暮れに彩られ……ん?方角からすると朝日か?……その町は朝日に彩られて俺の精神状態(くうふく)も相まってとても美味しそうだった。
 
 

 
後書き
本当は『その壱』に含まれるはずの内容だったんですが手違いで別れちゃいました。
しかたないので加筆して文字数をカサマシです。

第一層だけで相当文字数喰いそうですね。むむう、量より質だとは分かってはいるんですが……

ところでユニークユーザーってなんですかね?まったく見当がつきません。
ではまた。 
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