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東京百物語

作者:50まい
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ゆり
  三本目

「そこで待っていなさい」



 そう言われて連れてこられたのは、怪しい路地裏にある、狭い狭い老婆の店だった。



 普段は占いでもしているのか、入り口には大きな水晶玉が飾ってある。オレンジの裸電球に照らされた薄暗い部屋には小さな机が一つ、椅子が対面に二つ、そこに四人が入ればもう体がぶつかるほどになる。その机の後ろには黒い遮光カーテンが天井から床まで垂れ下がっていて、奥が見えないようになっていた。老婆は三人を残して、その中に入っていく。



 ゆりも、山下も、所在なさげに立っていた。青山が一人、変わらない優しい笑みを浮かべて落ち着いた様子だ。山下がふとゆりの顔を見て、何かを考えるような間を空けた後、手をそっと握ってきた。山下がそうやって心配してくれるぐらい、ゆりは不安そうな顔をしていたらしい。その温もりに、ゆりは改めて心優しい友に感謝した。



「待たせたね」



 軽口をたたき合う気分でもなく、ただ待つだけの時間はかなり長く感じられた。どれくらい経っただろうか、カーテンの向こうから老婆の声がして、数珠を握りしめたしわくちゃな腕がのぞいた。と、思ったら颯爽と老婆が出てきた。ゆりはその姿を見て驚いた。老婆の姿は、白い巫女姿に変わっていたのだった。



「わぁ、おばあさん凄い!」



「ふん。驚いたかね」



 日常で見かける姿ではないので、山下などはあからさまに手を叩いて喜んでいる。それに気分を損ねるでもなく老婆はにやりと笑う。



「さて、始めるとするか」



 老婆はゆりを椅子に座らせると、机の上に白い蝋燭を二本立てた。そのそれぞれに火を点すと、嫌が応にも雰囲気が盛り上がる。ゆらりと炎が揺れて四人の顔を照らし出す。老婆は、ゆりに数珠を握らせ、目をつぶるように言った。



「あ、あの、おばあさん、あたしたち出ていった方がいいですか?」



「いいよ、そこにいな」



 山下の言を断ると、老婆も椅子に座り、自分も数珠を握ってふー・・・と大きく息を吸う。



「たかあまはらにかむづまります。かむろぎかむろみのみこともちて…」



 場が静粛な空気で満ちる。



 青山は老婆が言葉を発するとすぐに、横にいる山下の手を探り当てて、そっと握った。椅子に座る二人と一緒になって目を閉じ、老婆の祝詞を聞いていた山下は驚き弾かれたように青山を見上げた。青山はいつもの微笑みを浮かべたまま、繋いでいない手で安心させようとするように人差し指を自分のくちびるにあてる。しかし、そんなことをされても、山下の戸惑いは深まるばかりだ。



 老婆の詞は朗々と続く。



「…やおよろずのかみたちともにきこしめせとかしこみかしこみまもをす」



 そうして言葉を切ると、蝋燭の火を老婆はふっと一息に消した。



「…終わったよ」



 そう言われて、ゆりはゆっくりと目を開ける。



「もう大丈夫だ。肩が軽くなったはずだ」



 そう老婆の声がする。言われてみると、ゆりの気分は、肩の荷を全て下ろせたようにすっきりしているのに気づく。



「おばあさん、祓えたんですか?もう、私、霊に苦しまなくて良いの?」



「そうだよ。今までよく頑張ったね」



 ゆりは自然に涙が溢れてくるのを止められなかった。滂沱と涙を流しながら、両手で顔を覆う。良かった。本当に、良かった…。



「お金は…」



「いらんよ。友達に感謝するんだね。そのかわりサッサとどっかにいっとくれ。この歳になるとその若さと素直さは毒なのさ。あーヤダヤダ、まさかこのアタシがタダ働きする日が来るなんて・・・歳はとるもんじゃないね」



「ありがとうございます!」



 ゆりは心から頭を下げた。怪しい老婆だなんて思って申し訳なかった。無償で除霊してくれるこんなにいい人なのに。



 老婆はさっさといけとでも言うようにしっしと手を扇いだ。



「本当に、ありがとうございます!」



 怪しい店から出て、ゆりはうーんと伸びをした。世界が変わって見える。もう、苦しまなくて良い。そのことは、ゆりの心を明るく前向きにさせる。



「ね、どっかでご飯食べていかない?…山下?」



 ゆりはくるりと振り返り、山下がしきりに左手を気にしているのを目に留める。



「手、どうかしたの?」



「えっ!?あ、ううん、別に!?」



 山下は大袈裟なほど違うと手を振る。見たところ、山下の左手にこれと言った異常は無いようだが…。ゆりは首を傾げたが、すぐに気にならなくなった。浮かれていることを自覚しながら、ゆりはそんな自分を許した。今日ぐらいは、はめを外しても誰に怒られることもないだろう。



「お礼に私におごらせてよ」



「いいよいいよ!ゆりちゃんが元気になっただけで」



「いいからいいから」



 ゆりは山下の腕をぐいと自分の腕に絡めると、青山の背を叩いて二人を新宿の街に促した。



 結局、その後しっかり大学の授業も受け、ゆりはスキップをしそうな勢いで山下や青山と別れた。急に元気になったゆりに、友人達は皆、驚きからかいながらも一様に安心しているのが見て取れた。ゆりの世界は今や薔薇色だった。



 大学からゆりの家は少し距離がある。電車を乗り継いで一時間、最寄りの駅から更に徒歩で二十分。そこにゆりのアパートがある。



 時刻はもう日も落ちきった夜八時。ゆりは駅から自分の家を目指して歩いていた。



 そして、ふと気づく。



(…嘘)



 ドク、と心臓が音を立てた。



(え、嘘。嘘嘘嘘…だって、おばあさんは除霊したって…)



 後ろから、視線を感じる・・・。



 浮かれていた頭に、一気に冷や水をかけられた気分だった。鞄をぎゅうと握る手の平が汗ばむのがわかる。ゆりを追うようについてくる足音もする、気がする。



 街灯もまばらな薄暗い住宅街の道。人通りはほぼ無いに等しい。ゆりは、自分がたった独りで夜の中にいることを酷く意識した。



 ゆりは少しだけ歩くスピードを速くする。ついてくる足音らしきものも、それにあわせてはやくなる。それに気づいた時、ゆりは恥も外聞もかなぐり捨てて駆けだした。



(ねぇ、待って。なんで、なんで、なんで…!)



 家まではまだ結構な距離があった。どうしよう。コンビニでもどこでも良い、もう、どこでもいいから人がいる明るいところにいきたい!ゆりの目には涙が浮かぶ。



 今や足音ははっきり大きく耳を打ち、こんなにゆりががむしゃらに走っているのに、その距離を一足飛びに縮めてくる。もう、だめ、追いつかれる…殺される!そう、ゆりが覚悟したその時だった。



「待って、日紅!」



「でやあぁ!」



「ぐえっ!」



 立て続けに人の声がして、背後でずしゃりとなにかが転ぶ音がした。それでも止まるのが怖くて、ゆりは暫く走り続けてから、先ほどの声の中に聞き慣れたものがあった気がして、ゆっくり足を止める。



「こっのー!変態!なにゆりちゃんのあとつけてんのよ!バカ!バカ!変態!」



「変わるよ。どいて、日紅。今から警察が来ます。自分がしたこと、わかってますね?」



 恐る恐る振り返ればよくわからない光景が繰り広げられていた。



 アスファルトに頬をつける小太りの男。その背に馬乗りになる山下。その山下と交代し、流れるような無駄のない動きで男を押さえつける青山。大学で別れたはずの二人が、そこにいた。



「…つまり、どういうことなの?」



 駆けつけてきた警察が男を連行する間、ゆりはただぽかんと立っているだけだった。一人だけ、状況について行けていない。隣の青山に尋ねると、青山は首を少し傾けて言った。



「つまり、女性の夜の一人歩きは危ないからやめましょう、ってことかな」



「つまり、本当に怖いのは死んでいる人間よりも生きている人間ってことだよ、ゆりちゃん!」



 青山の横から山下がぴょこりと顔を出して言ってもくれる。



「…ごめん、一から説明してもらえる?」



「あーうんとね、(せい)が、ゆりちゃんを怖がらせてるものは霊じゃなくて、生きてる人間の仕業じゃないかって言い出して・・・」



「ほら、今日除霊されにいくときに、今までノックがあったり、振り返っても誰もいないのに見られている、とか話してくれたよね?それを聞いてて、もしかしたら、って思ったんだ」



「でもはっきりしてないのにそんなこと言うと折角元気になったのにゆりちゃんまた怖がらせちゃうでしょ?とりあえず今日は夜なべしてゆりちゃんチ見守って、証拠掴んでから知らせようかなって・・・」



「けど、来て良かった。これで、本当の本当にもう安心だよ」



 そう青山に言われても、ゆりはまだ頭がついていけない。



「え、待って。つまり、何、私が今まで怖がっていたのは幽霊じゃなくて・・・ただのストーカーだったって事?」



「有り体に言えば」



「おばあさんにしてもらった除霊は?」



「あれは・・・」



 青山は言い淀む。



「インチキ、ってこと!?」



「いや、百パーセントインチキってことではないんだけど・・・」



「何それ!霊が憑いていないのに除霊するってインチキでしょ!?そもそも、何でインチキかインチキじゃないか、青山くんにそんなことがわかるのよ!」



「あー・・・こんなこと言うと、胡散臭いんだけど・・・うち、家系的に霊感がかなり強くて・・・」



「はぁ!?」



 ゆりは反射的に吠えた。霊だの除霊だのストーカーだの、理解の範疇を超えた出来事が立て続けに起こって、もうゆりの頭はパンクしそうだった。



「あのおばあさんが唱えたのは『天津祝詞(あまつのりと)』の禊祓詞(みそぎはらえのことば)。適当に言ってるんじゃなくて、ちゃんとひとつひとつに意味を持つ、古来から伝わる歴とした祝詞だよ。ただ、わかってやってるのかそれともわかってないのかわからないんだけれど、あれは祓うんじゃなくて、ただ霊を集めてた。蝋燭もそう。蝋燭の火は本来霊を集める為だけのもので、線香で上に昇らせる。けど、今回は蝋燭しかなくてしかも霊を集めるだけ集めて火を消してた。つまり」



「・・・じゃあ・・・あの部屋の中は・・・」



 震える声で山下が問う。青山は困ったように頷く。



「うじゃうじゃ」



「キャーッ!何か今更・・・やだああああ!」



 山下は自分の体を掻き毟った。



「あ、日紅は大丈夫だよ」



「なんで、なんで大丈夫だってわかるのよー!きいぃ~!」



 青山は顔の位置まで右手を挙げて、山下に見せつけるようにひらひらと振った。それを見た山下は、カッと頬に血を上らせる。



「なん・・・そう・・・そういうこと!?」



「え、どういうこと?」



「ま、それは僕と日紅の秘密にしておこうかな」



「もう、ヤダ!清のばかぁ~」



 山下は赤くなったまま、頭を抱えている。



「何したかは知らないけど、山下は大丈夫、青山くんもその様子じゃ大丈夫、てことは、私とおばあさんは?」



「二人とも問題ない。ハンカチ持ってる?」



「え、ハンカチ?昼間青山くんに借りたものしか・・・まさか、これ?」



「うん、それ。あげるからお守り代わりに持っててね」



 にこりと青山は笑う。なんてことだろう。とんでもない人に憧れていたようだ・・・ゆりは激しく脱力する。



「じゃあおばあさんは・・・」



「あの人はすごいよ。守護霊がすごい」



「へぇ~そんな強いんだぁ、あのおばあさんの守護霊!」



「うん、ある意味」



 山下がノンキに口を挟み、それに青山が神妙な顔で頷く。



「・・・ある意味?」



 ゆりは流せずげんなりしながら聞き返す。



「彼女の守護霊は、ものすごいごうつくばりで自己中心的で強欲。近づいた霊の酸いも甘いも骨の髄までしゃぶり尽くす気満々。だから、霊が極力関わりあいにならないよう避けて通っているぐらい」



「それは・・・」



 ゆりは絶句した。霊の世界もシビアなようだ。



「だからあの霊が押しくらまんじゅうしている部屋に残していっても大丈夫。今頃ひょろひょろの出がらしみたいになってる霊が沢山、部屋の外に山と積み重なってるんじゃないかな」



「アーメン」



 山下が合掌した。何か違う。



「・・・なんだ。もう・・・なんか、気が抜けちゃった・・・」



 ゆりはくたくたと座り込んだ。



「青山くん。確認だけれど、私はもう大丈夫なのね?」



「うん。真犯人がこうして捕まったことだしね。ただひとつ、忠告しておきたいことがある」



 青山の声がふいに真剣さを帯びた。



「霊のせいだ、と思っている間、とても怖かっただろう?自分のわからないものに恐怖を感じることは、人間の深層心理に刻み込まれていることだから仕方が無いと思う。でも、わけがわからないことを全部霊のせいにしないで欲しい。生きている人間でも、自分がしていないことでも悪いことは全部全部おまえのせいだおまえがいるせいだ、って言われたら誰だって嫌だろう?霊も同じだよ。見えなくても霊はいる。本当の霊障もある。怖がるなとは言わない。でも、何でもかんでも霊のせいにはして欲しくないんだ。彼らとは互いに、恐がり憎しみあう関係じゃなくて、助け合う関係であれたらいいな、と僕は思う」



「・・・ごめんなさい」



 ゆりは心から反省した。確かに、ゆりは全て霊のせいと決めつけ、必要以上に怖がっていたふしがある。



「別に怒っているわけじゃ無いよ。無事で、本当に良かった」



 青山が優しく微笑み、ゆりはまた頬を濡らした。



「ありがとう・・・」



 ゆりは泣きながらふと思った。



 あれ、でも、強い視線は部外者が侵入出来ない大学の教室の中でもしたような?



















「彼女は直感力が強いんだね。ものを感じる力。霊感というかシックスセンス、の一種かな」



「え?霊感?」



 警察の事情聴取から開放され、ゆりとも別れ、青山と山下が二人で駅に向かっていた最中(さなか)に、ふいにぽつりと青山が言った。



「・・・青山さん?あれ、ゆりちゃんに起こったあれやこれやそれやはぜーんぶただの人間、ストーカーのせい、ってことで話がついたんでしたよね?」



 嫌な予感に山下が問うと、青山はにこっと笑って首を振った。



「後半はストーカーとごっちゃになってたみたいだけど、最初は違うはずだよ。その証拠に、最初の視線は、大学にいる時にしか感じていなかったと言っていたし」



「えーっ!じゃあやっぱりゆりちゃんにお化けが憑いてるってこと!?大変!除霊して貰わないと!」



「日紅、落ち着いて。憑いているのは彼女にじゃないよ。だから彼女を除霊なんてしても意味が無いんだ。彼女は強い視線を感じていたと言っていた。他の誰かを見ている視線に、偶然彼女が気づいてしまったのは不運だったね。思い悩む性格のようだし、一度気になると全部が気になってしまって、自分が見られているわけでもないのに、自分で自分を追い込んでいく悪循環だった。でも、もう大丈夫。あのハンカチを渡したから、もう視線は気にならないはずだよ」



「そっか・・・良かった。で、その本当に霊に取り憑かれた人は大丈夫なの?」



「う・・・ん。多分・・・」



「なにその曖昧な返事!」



「いや、正確には憑いているのは霊じゃないからさ。なんていうのかな・・・神とか、悪魔・・・妖怪?魔?人間にとって悪い方のものであるのは間違いないんだけど、何か様子がおかしくて・・・その人に危害を加える気は無いようなんだ。だから、大丈夫と言って良いのか、悪いのか・・・」



「悪いオバケだけど、その人に悪い事しないってこと?じゃあ悪いオバケじゃないね」



「そう・・・そうなんだけど、事はそう単純でもないと言うか・・・僕には判断がつかない」



「でも悪いことないんでしょ?そしたらきっと大丈夫!よっし、ゆりちゃんも大丈夫、その人も大丈夫、これで一件落着って感じだね!」



 山下はスッキリした顔で笑った。しかし青山は首を振る。



「一件落着、じゃないよ。日紅にはこれからお説教」



「えーっ、なんで!?」



「なんで、じゃないよ。僕がどれだけ心配したと思ってるの。どうして勝手に行ったの?僕が行くから、大人しくしてて、って言ったよね?ストーカーは男だよ?上手くいったから良かったようなものの、そうじゃなかったら・・・わかってる?」



 青山は、ゆりを追うストーカーに勝手に日紅が飛びかかったことを言っているのだった。



「うう・・・でもゆりちゃんが・・・」



「友達が心配なのはわかってる。でも、日紅、お願いだから、自分が女の子だって、もっと自覚して。何かあってからじゃ遅いんだよ」



「だって・・・」



「だってじゃない」



 くちびるをとがらせる山下に、青山は真剣に説く。それでも山下は不満そうだ。そんな山下に、青山は軽く諦めの息をついて、山下の風に乱された髪を直してやる。



「・・・ところで、日紅」



「うん?」



 山下はこてりと首を倒して青山を見あげる。



 青山は一瞬だけ、その山下の後方をちらと見る。



「いきなりだけど、黒い着物を着た男の人、に心当たりはない?」



「え、なに?黒い着物着た男の人?」



 山下の頭上にはハテナマークが飛び交う。



「もしくは、今までそう言う人を見たことがあったりしない?」



「ええ~?何?お祭りに行った時とか、そういう黒い着物着た人、いたかもしれないけどさ、そんなのいちいち覚えてないよ・・・」



「そう。いや、いいんだ、わからないのなら」



「何で?」



「聞いてみただけだよ」



 青山は彼のファンクラブが見たら卒倒するような優しい笑みを浮かべた。しかし付き合いの長くなってきた山下はそれが青山がお茶を濁そうとする時の表情だと薄々ながら察している。



「清の美貌にも耐性がついてきてるから、そんなので誤魔化されませんよーだ。アヤシイ」



「酷いな、日紅は僕を疑うんだ・・・」



「それも効きません」



「残念」



 青山はちっとも残念そうだとは思っていない顔で、「行こう」と山下を促す。



 駅が近づくにつれ、喧騒が戻ってくる。夜の十時なんて、東京の夜にしては早いほうだ。酔いが回ったサラリーマンが次の店を探して歩く。そんな道行く男を引き留めては、何かを話しかけるスーツ姿の男もいる。街のあちこちに廃れた活気がある。



 だが、暗闇から客の袖を引くのが、人間だけとは限らない。



 ジジ、と音を立てる電灯の光が二人の影に細く割り込む。まるで長い腕を伸ばすように。



 東京の夜は、まだ始まったばかりだ。 
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