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第三章


第三章

「普通にしておればその様な場所に行く必要はあるまいに。密会していたな」
「は、はあそれは」
「その通りでございます」
 家の者達は恐縮しながら主の言葉に答えた。伊達に一国、しかも隋という大国の重臣であるだけではなかった。楊素はそのことまで読んでいたのである。この辺りは流石であった。
「男と共に」
「逃げようとしていました」
「それではだ」
 楊素はまた家の者達に対して告げてきた。
「その者をここに連れて来い」
「わかりました」
「楽昌もだ」
 彼女を呼ぶことも忘れてはいない。
「よいな。今ここでわしの前に連れて来い」
「わかりました。それでは」
「二人共」
 こうして楽昌とその男が連れて来られた。見れば男はやつれみすぼらしい身なりをしている。どうやら長い間あちこちをさすらっていたらしい。汚れた顔もまたそれを物語っていた。
 だが楊素はそれに対してはあえて問わなかった。まずは彼の名を問うたのである。
「男よ」
 楽昌の横で彼女と同じく縛り上げられて自分の前に引き出されているその男に対して声をかけた。
「名は何という」
「徐徳言と申します」
「徐徳言か」
「はい」
 頭を垂れて楊素に答えるのだった。
「それが私の名です」
「そなたは確か陳の貴族だったな」
 楊素はその名を聞いてまずはこう述べた。
「そうだったな。重臣だったと記憶しているが」
「その通りでございます」
 徐徳言も項垂れてはいるがそのことを認めるのだった。
「私がその徐徳言です」
「生きておったか」
 楊素は次にこう述べた。
「建康が陥ちた時に死んだと聞いていたが」
「はい、それでずっと探していました」
「そうだったな。この楽昌はそなたの」
「そうです。妻でございました」
 ここで二人は互いを見合うのだった。悲しい顔だったがそれでもお互いを見るのであった。
「今まで。ずっと探しておりました」
「しかしだ。何故ここにいるとわかった」
 楊素は次にこのことを彼に問うた。
「わしの屋敷にいることを。何故わかった」
「鏡でございます」
 徐徳言はこう彼に答えた。
「鏡のおかげで」
「鏡!?」
 楊素は鏡と聞いてその顔を顰めさせた。
「鏡というとだ。何がだ」
「実はです」
 彼はどうして鏡を話に出したのか楊素に説明した。互いに半分ずつ持ち一方が落ち着いた暮らしができるようになればその鏡を市に売る。彼は長安でその鏡の半分を見つけ買ったうえで屋敷に潜り込んでようやく妻と再会できたのである。こういうわけであった。
「ふむ、考えたものだな」
 楊素は彼の話を聞き終えてまずは静かに呟いた。
 
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