戦国異伝
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第百八十話 天下の宴その十
「あの方がどういった方か」
「全く知らないのでおじゃる」
「一体どういう方か」
「まことに」
「ううむ、余計にわからぬ」
ここで信長は義昭も見た、見れば味を楽しまず不機嫌そうな顔をしている。
「高田殿のことは」
「申し訳ないでおじゃるが」
近衛がここでまた信長に言う。
「麿達もあの御仁については何も知らぬのでおじゃる」
「高田家のこと自体がでおじゃる」
山科もこう言う。
「そういうことでいおじゃる」
「わかり申した。では」
これで話を終えると言う信長だった、そしてだった。
そうした話をしてだ、それからは。
信長は馳走を食べることに戻った、その最後の膳も終わってだった。
後は大掛かりな茶会も開いた、そうして宴を心ゆくまで楽しんだ。その全てを堪能してからだ、徳川家の者達は自分達の控えの場に戻って唸る様にして話した。
「いや、美味でしたな」
「全く以て」
「それがしあの様な味はこれまで味わったことがありませぬ」
「それがしもです」
「あれが織田殿の宴なのですな」
「天下の宴なのですな」
「それでは」
織田家の宴を堪能してもらった、それならというのだ。
「次は我等ですな」
「うむ、何かあればですな」
「右大臣殿を我等の宴で歓待しましょう」
「是非共」
「そうしましょうぞ」
「そうしなければな」
場には家康もいる、彼もこう言うのだった。
「礼に反するしな」
「はい、ではですな」
「我等も天下の宴を見せましょう」
「この徳川家の宴を」
「それを」
「そうじゃ、そうするぞ」
是非にというのだ、家康はその決意を顔にも見せている。
「よいな」
「わかっております、では」
「その時が来れば」
家臣達も家康のその言葉に応える、そしてだった。
彼等は信長から受けた礼を返そうと決意した、その話のうえでだった。
本多正信がだ、家康にこんなことを言った。
「殿、我等は浜松に帰りますが」
「うむ、そうじゃな」
「少しすればです」
「そろそじゃな」
「また武田が動くかと」
そうしてくるというのだ。
「あの家と再びです」
「戦になるのう」
「しかも今度はです」
本多は家康にさらに話す。
「どうやら武田は北条、そして上杉とも手を結び」
「上杉とか」
あの何度も死闘を繰り広げてきた上杉と、と聞いて家康も思わず声をあげた。家臣達も顔を険しくさせて本多の話を聞いている。
「武田が手を結んだか」
「厳密ではそうではありませんが」
「それでもじゃな」
「北条が仲立ちになって戦はせぬと」
「そのことを決めてか」
「はい、それぞれ織田家に向かう様です」
そうする様だというのだ。
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