魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epos44降臨/砕け得ぬ闇~System:Unbreakable Dark~
†††Sideはやて†††
魔法とは違うなんらからの技術で戦うトーマ君と、その融合騎?のリリィさんと一緒に、マテリアルの王さまであるディアーチェと戦ったんやけど、2人掛かりで戦っても決定打を与えることは最後まで出来ひんかった。
それほどまでに進化した王さまやったけど、自分の魔法を相殺やなくて消滅させたトーマ君の不思議な力に苛立って、何をしたって詰め寄っていこうとしたんをわたしが止めた。目の前にある王さまの顔が一段と険しくなって、ギリッと歯を噛みしめた後、「まぁよい!」そう怒鳴って離れて行った。そんで溜息ひとつ吐いた後で大笑いを始めた。
「貴様らとの戯れもここまでだ・・・!」
チラッと振り返る王さま。小首を傾げてると、「っ?」海面から空に向かって光の柱が何本と円形状に現れた。その光の柱に閉じ込められてるような形で丸い魔力の塊が空に浮いてる。その球体は見覚えのある色をしてた。そう、“闇の書”としての闇やったナハトヴァールと同じ。
「王さま・・・!」
「子鴉、貴様は言うたな。何を考え、何を企み、何を成そうとしているのか、話し合いをし、協力できるようであれば手伝う、と」
「・・・・うん。確かに、言うたよ。そやからまずは教えてほしいって話や」
「残念ながら、すでに時遅し。単なる部品に過ぎなんだ我らに課せられた苦渋の日々を断つ。その我らマテリアルの宿願が今、ここに叶う!」
両腕をバッと大きく広げて高笑いする王さまの奥、そこにはいつの間にか「キリエさん!?」が居った。空間モニターを幾つも展開して、キーボードを叩いてた。
「アレがもしかして・・・砕け得ぬ闇、なんか・・・? ホンマに実在してたんか・・・? リインフォースでも知らへんかったのに・・・」
「当然であろう。・・・ま、貴様は兎も角、ポンコツ融合騎が知らぬも無理はなかろう。奴は夜天の魔導書の始まりより書と共にあるシステムだ。我らマテリアルと砕け得ぬ闇は、魔導書に組み込まれる時にこう設定されたのだ。管制システムの管制下に入ってしまわぬように、とな。ゆえに奴が知らぬは道理」
「(リインフォースの管制下に入らんようにした・・・?)っ! とゆうことは・・・!」
「察しの通りよ、子鴉。何故そのような風にして組み込んだか。それは、夜天の書を乗っ取る為よ。そしていつか、新たに組み込まれるかもしれぬ別のシステムをも乗っ取って支配下に置き、さらに強大化する為! が、何の手違いか、砕け得ぬ闇は我らの後に加えられたナハトヴァールなんぞにシステムの奥に押し込められてしまったがな」
「乗っ取りって――ううん、そもそも王さま達マテリアルは、ナハトヴァールと無関係なんか?」
リインフォースは言うてた。残滓は、“闇の書”の闇――ナハトヴァールを構築していた欠片やって。わたしの疑問に「そうだ。奴は勘違いしたのだろうな。何せ、砕け得ぬ闇を知らなかったのだからな」って口端を上げて王さまは答えた。
「砕け得ぬ闇を既知できずにいた以上、それまで自らを脅かしていたナハトヴァールを闇と認め、そう決めつけることしか出来なかった。ゆえに我らをナハトヴァールの復活を企む者だとした。
ここからは我らの恥部だが、先の起動時、我らは永き眠りから目覚めたばかりで混乱しておったからな。砕け得ぬ闇とナハトヴァールのこと、成すべき目的を少々誤解しておった。笑い話にもならぬ。まったく、我らを永年封じ込めていたナハトヴァールには怒りしか覚えぬわ」
そう吐き捨てた王さまがフッと砕け得ぬ闇に視線を向けて、今までに見せたことのないような表情・・・ホンマに待ち望んでて、やっと願いが叶う、って風な横顔をわたしに見せた。
「永く、それは永く、我らは不遇の時を過ごした。シュテル、レヴィ、アイル、フラム、そして我ディアーチェ。我らは待ち望んでいたのだ。この瞬間を、何者にも縛られず、自由になれるこの日を! ゆえに邪魔をしてくれるなよ、子鴉。我はあの者たちを統べる王として、なんとしてもこの宿願を叶えねばならぬ」
「待って、王さま! 管理局には、システム解析のエキスパートの人たちがたくさん居る! 王さまやみんなを自由にするやり方も、きっと見つかるから!」
砕け得ぬ闇。アレはどう見ても目覚めさせたらアカンやつや。王さまは管理下に置ける自信が有るようやけど、こうゆう場合のソレはフィクションでよく読んだり観たりした、フラグ、ってやつや。
「戯け。貴様の言うそれはいわば虚構の夢物語。闇の書の暴走をこれまで壊すことでしか解決できなんだ公僕風情に、いったい何が出来ると、期待しろというのだ? そもそも、情けに縋って恵んでもらった、他人から与えられた自由など、所詮は仮初のモノ――鳥を閉じ込める籠に過ぎん。真の自由とは、願う者たちが戦い、そして勝ち取ったモノだけよ!」
「王さま!」
「くどい!! それ以上喚いてみろ、子鴉。貴様の生まれ育った街を焼き払ってやるぞ」
あまりに強烈な殺意に「っ!」ビクッと体が震えた。そんで今まで黙っていてくれてたトーマ君がバッとわたしを庇うように前に躍り出た。わたしはそんなトーマ君に「今すぐ避難を」って声を掛ける。
「トーマ・アヴェニールさん、リリィ・シュトロゼックさん。管理局員、八神はやてとして指示します。今すぐこの空域から離脱してください。出来れば、あとで出頭してもらえると嬉しいです」
「『え・・・?』」
振り返ったトーマ君の目をジッと見詰める。先に視線を逸らしてまた王さまに向き直ったトーマ君は「すいません。聴けません」って断ってきた。
『ごめんなさい。八神司令と王様さんの話のほとんどが理解できないですけど、でも放っておくのはダメだって判ります!』
「ですけど、ここからはホンマに危険なんです。一緒に戦って助けてくれたことはホンマに感謝してます。ですが、これ以上は巻き込めませんので」
そう話をしてる間にも王さまは期待全開って風に「おい、ピンク頭。準備は整ったであろうな!」ってキリエさんに確認を取って、「はーい♪ 強制起動システムは完全・完璧状態で正常起動、リンクユニットもフル稼働でーす❤」キリエさんも陽気な声で返してる。
「括目せよ! 無限の力・砕け得ぬ闇――システム:アンブレイカブル・ダークの目覚めの時をッ!」
王さまが高らかにそう言い放つと、砕け得ぬ闇を囲ってた光の柱が砕けた。そんでドクンと砕け得ぬ闇が1回、脈を打つように動いた。王さま以上の、ううん、ナハトヴァールよりもずっとすごい魔力が発せられた。
「ふっふっふ。我が記憶が確かであれば、砕け得ぬ闇のその偉容は、大いなる翼! 名前からしておそらく戦船。かの有名な聖王のゆりかごを超える物であればなお良し! いや、もしくは体外強化装備か?
何はともあれ、こうして絶大にして偉大なる力を手にするのだ。もう我らの行く手を邪魔する者など現れはしまい。残念だったな、子鴉。我らの勝ちだッ! さぁ、永き眠りより目覚めよ、牢を破りて蘇れ、砕け得ぬ闇! そして我、闇統べる王ロード・ディアーチェの手に収まるがいい!!」
一際強く発せられた魔力の光がわたしらの目を焼いた。堪らず両腕で目を、顔を庇う。光が治まったんを確認して両腕を退け始めたその時、「おおお!・・おおお?・・・おお!?」王さまと、「はいぃぃっ!?」キリエさんの素っ頓狂――困惑の声が聞こえてきた。そんでわたしも「アレが、砕け得ぬ闇なんか・・・?」困惑する。
「ユニット起動・・・、無限連関機構・・・動作開始。システム:アンブレイカブル・ダーク、正常作動を確認」
薄くなった魔力の球体の中に佇んでたのは小さな女の子やった。キリエさんが「もしもーし。システムU-Dが人型だなんて聞いてないんですけど・・・!」って王さまに言うと、「むぅ? 我の記憶でも、人型であったとはないはずなんだが」と唸るだけ。
「いや、それを言うなら、我らマテリアルとて元々は人型ではなかったわけだが。我らに倣って人型を取ったか? では、その理由はなんだ? 解らぬ・・・」
『八神司令、トーマ。あの子から害意は感じられないよ』
リリィさんの言う通り、魔力がすごいだけでその小さな体からは嫌な感じはせえへん。砕け得ぬ闇。その名前から誤解してるんかも。“闇の書”かて“夜天の魔導書”って綺麗な名前やったし。とりあえず「砕け得ぬ闇やから・・・ヤミちゃん?」呼ぶためにあの子の名前を考えてみた。リリィさんには『可愛いですね♪』好評や。と、「あ、ヤミちゃんと目が合うた」ことに気付いた。
「視界内に夜天の書を確認。防衛プログラム及びナハトヴァールの破損を確認。再起動及び修復・・・不可能。魔導書の現保有者を認証・・・困難・・・」
機械的にそう言うてくるヤミちゃんに、「こんにちは! 時間的にこんばんわ、やろか? あ現在の夜天の主、八神はやて言います!」自己紹介。現保有者を認証できひん言うてるしな。すると、「・・・・はっ。待たんか、子鴉!」王さまが怒鳴ってきた。
「なんたる横入りか!あまりの自然さに我ですらも呆けたわ! システムU-Dを起動させたのは我ぞ!」
「はいはい、はーい! 起動方法を伝授したのはこのわたし――キリエ、キリエ・フローリアンです! ヤミちゃん、よろしく!」
「だからなんだ、ピンク頭! 起動方法の伝授と実際に起動したのでは天と地の差があるわ! コレは我のものだ、誰にも渡さんぞ!」
「ひっどーい! 話が違いますよ、王様ぁ~~~!!」
王さまとキリエさんがぎゃあぎゃあと言い争いをしてると、「状況不安定・・・。駆体の安全確保を最優先。危険因子を選定・・・完了。これより排除します。空中打撃戦システムロード。出力上限、6%」ヤミちゃんからそんな言葉が発せられた。
「魄翼を展開」
ヤミちゃんの背中から赤いような、赤黒いような、深紫のような、様々な色が交わった魔力の霧みたいなもので出来た翼――魄翼が一対展開された。それと同時に発せられる、今まで以上の強大な魔力。わたしとトーマ君はそのとんでもない魔力とプレッシャーに当てられてビクッと硬直。王さまもキリエさんも「っ!」言い争いを止めて、ヤミちゃんを見た。
「「「『っ!!?』」」」
魄翼の中から物質化した怪物のような腕が伸びて来て、「ぐわぁ!?」「きゃあ!?」王さまとキリエさんをその鋭い爪で薙ぎ払った。そんで爪が消えたと思うたら、「ジャベリンバッシュ」今度は巨大な槍がわたしとトーマさんに向かって飛んで来た。
「司令!」
トーマ君にドンッと肩を突き飛ばされて難を逃れた。トーマ君もまた反対側に横移動して回避。体勢を整える前にヤミちゃんが「バレットダムネーション」大きく広げた魄翼の表面から何十発ってゆう魔力弾を放ってきた。
「銀十字!」
トーマ君とわたしを護るように展開された何十ページもの紙片が列を作って並べられて、ヤミちゃんの放ってきた弾幕を防御・・・しきれへんかった。押し切られる。そう思ってすぐに「パンツァーシルト!」を展開。トーマ君は「ミッド式のバリア・・・!?」で防いでた。ミッド式の魔法も扱えるんやなって、この緊急事態の中でそう思った。
「待って、止まって、ヤミちゃん! 話を――」
「エターナルセイバー」
左右の魄翼が炎の剣になって、まるで鋏のように挟み込む形でわたしとトーマ君に振るわれた。わたしは降下、トーマ君は上昇することで回避。トーマ君が「話を聞けぇぇぇッ!」砲撃シルバーハンマーを剣先から発射。
「サイズディカピテイション」
魄翼が大鎌のようになって、トーマ君の砲撃を十字斬撃で粉砕した。トーマ君は遠距離戦やと分が悪いって判断したみたいでヤミちゃんに向かって突進してもうた。アカン、って制止する前にヤミちゃんは「ドゥームプレッシャー」怪物のような両腕で、「ぅぐ、ぐ、ぐあ、ぐあああああ!」トーマ君を鷲掴んだ。
「トーマさん、リリィさん! やめて、ヤミちゃん!」
――クラウ・ソラス――
言葉だけで止めてもらいたかったけど、トーマ君の締め付けを止めるどころか「うぐぁぁぁあああ!」さらにギリギリと力を加えたから、砲撃で両腕を攻撃したんやけど、ビクともせえへんかった。アカン。魔力量の桁が違いすぎて通じへん。
≪ドライバー保護の為、緊急転移モードを起動≫
「待て、銀十字・・・! ダメだ、銀じゅ――」
トーマ君の姿が消えた。転移したようや。うん、逃げてくれて良かった。あのままやったら間違いなく、トーマ君は握り潰されてた。さぁ問題はこっからや。ヤミちゃんがわたしに振り向いて、魄翼を大きく広げた。あの弾幕攻撃が来ると思うて射程範囲外に出るために飛行開始。
――バレットダムネーション――
そんで発射される弾幕。回避行動に移ったんが早かったおかげで全弾躱しきった。けど、「バイパー」避けた先の足元から槍が連続で生えて来て「きゃあ!?」わたしの右側の翼を貫いた。ガクッと傾く体。わたしに向かって来るヤミちゃん。
「排除します。エターナルセイバー」
2本の炎の剣がわたしを挟み込むように振るわれる。背中の翼は、飛行には直接的に関係あらへんけど、姿勢制御には一役買ってくれてた。それでも急に失ったことで崩れた体勢。それを整えてからの回避は不可能。わたしの防御も、あの強大な魔力で創られた剣の前じゃきっと無意味。リインフォースとのユニゾン状態ならきっと・・・。
(リインフォース・・・ルシル君・・・シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ・・・!)
――護り給え、汝の万盾――
「「え・・・?」」
ヤミちゃんの繰り出した炎の剣があと少しでわたしに到達するとゆうところで、蒼い魔力光で創られた小さくて円い盾が重なって大きな盾となったシールドが、わたしを護ってくれた。この魔力光、この魔法。それはわたしの大事な家族の1人、「ルシル君っ!!」のものや。
「はやてぇぇぇーーーーッ!」
蒼い魔力で形作られた剣の翼12枚を背負ったルシル君が急降下して来て、「ルシル君っ!」わたしをお姫様抱っこ。そのままヤミちゃんから距離を取る。
「新手を確認。脅威戦力と認定。魔力出力上限を10%に上方修正」
ヤミちゃんがそう言うと、さっきより強い魔力を発した。さらに重くなるプレッシャーわたしは思わずルシル君にしがみ付いた。ルシル君はそんなわたしを支えてくれてる両腕に力を入れて、「無事で良かった、はやて」わたしをギュッと強く抱きしめてくれた。ルシル君のトクントクンってゆう鼓動が、わたしを襲ってくる怯えを晴らしてくれる。
――ヴェスパーリング――
燃えるリング状の魔力弾を発射して来たヤミちゃん。ルシル君はスッと紙一重を狙って横移動で回避した後、「マカティエル」蒼く光り輝く魔力の槍が30本とヤミちゃんの周囲に現れて、「ジャッジメント!」容赦なく発射した。
「インペリアルガード」
蜃気楼のように揺れてた魄翼が分厚くなってヤミちゃんを覆った。そんでルシル君のマカティエルを全弾防ぎきった。お返しとばかりに「バレットダムネーション」何十発ってゆう魔力弾幕を魄翼表面から放ってきた。そやけどルシル君の飛行速度には追いつけへん。
「はやて。あの子は? あの子もまたマテリアルなのか?」
「ううん。あの子が、マテリアル達が探してた砕け得ぬ闇、システムU-D――アンブレイカブル・ダークなんや」
「アンブレイカブル・ダーク・・・砕け得ぬ闇、か」
そうポツリと呟いたルシル君は「上限10%であの魔力量・・・これは逃げての一手かな」って苦笑した。それでも「カマエル」色んな変換資質で創り出された100本以上の槍。それらが「ジャッジメント!」ルシル君の号令で一斉発射。ヤミちゃんは「防御・・危険」呟いて回避行動に移った。
「バイパー」
ついさっき受けた魔法の名前を聞いたから「ルシル君、足元!」声を上げる。ルシル君はノータイムで急上昇する。と、遅れて槍が幾つも突き出してきた。ヤミちゃんはさらに「ジェベリンバッシュ」回避先に大きな槍を魄翼から発射。
ルシル君は「ゼルエル」って一言。右脚に魔力を付加して、目前にまで迫って来てた槍を蹴り飛ばして軌道修正した。すぐさま「ドゥームプレッシャー」接近してきたヤミちゃんは、トーマさんを倒そうとした魔法、怪物の両腕を伸ばしてきた。
――屈服させよ、汝の恐怖――
ヤミちゃんを真横から殴り飛ばしたのは、腕周りが50m以上もある超巨大な銀の左腕。ものすごい轟音。目の前を通り過ぎてく巨腕が放つ風圧に思わず目を閉じる。耳に届くのは「効かないか」ってルシル君の困惑交じりの残念そうな声。効果が切れて魔力へと霧散してくイロウエルの奥、そこには無傷そうなヤミちゃんが佇んでた。
「バレットダムネーション」
「殲滅せよ、汝の軍勢。ジャッジメント!」
ヤミちゃんの魔力弾幕とルシル君の魔力槍群が、2人の間で真っ向から激突。連続で爆発が起きてく。ルシル君はさらに「サラティエル!」火炎砲撃を、ヤミちゃんの全方位から発射。同時やなくて時間差があるから、ヤミちゃんの回避先を読んで直撃させたり、牽制として放つことで誘導して、「コード・ゲルセミ!」蒼い閃光の砲撃を、ヤミちゃんに直撃させた。
「っ! はやて・・・!」
「ひゃあっ!?」
――コンストレイント――
いきなり空に向かって放り投げられてもうた。わたしを襲う浮遊感。と、自分だけの力だけで飛べるのを思い出した。アカンな、ルシル君に抱っこされてて安心しきってた。修復した翼を使って姿勢制御。ルシル君を見下ろすと、「硬い・・・!」ルシル君はバインドで拘束されてた。
「ルシ――」
「ナパームブレス」
ヤミちゃんの呟きの直後、ルシル君が赤黒い魔力の球体に呑まれた。そんで球体は爆発して、「うぐぅぅ・・・」ルシル君を墜落させた。ヤミちゃんがルシル君を追って降下。わたしは急いで「バルムンク!」ヤミちゃんを止めるために剣状射撃を発射するんやけど、直撃を与えてもよろけさせることさえ出来んかった。
「エターナルセイバー」
振るわれる2本の炎の剣。ルシル君は左中指にはめてる指環――“エヴェストルム”を起動して、二剣一対形態のツヴィリンゲンシュベーアトで防いだ。間髪入れずに「コード・ノート!」魔法を発動。夜の闇を物質化させてヤミちゃんを取り込んだ。それを見たルシル君がフラッと後ろ向きに倒れ始めて、また墜落し始めた。
「ルシル君!」
闇の球体に呑まれたままのヤミちゃんを通り過ぎ、わたしはルシル君の背中に右手を回して抱きしめて、空いてる左手で“エヴェストルム”をキャッチ。制動を掛ける前にバッシャーンと海に落下した。真っ暗な海の中、わたしの背中に回されるルシル君の腕。今度はルシル君がわたしを抱きしめて海上へ脱出。
「ありがとう、はやて」
「大丈夫なん、ルシル君・・・!」
「ああ、なんとか。・・・しかし強いな、あの子。単独で勝てる気がしない。というより、勝てるのか?」
「ルシル君・・・」
珍しく弱音を吐いたルシル君は頭上、ヤミちゃんへと視線を向けたからわたしも倣って見上げる。ヤミちゃんは魄翼を大きく広げて、魔力弾幕を放った。ルシル君に抱きしめられたまま海面ギリギリを飛んで、降り注いで来る弾幕を右に左にと避け続ける。そんなルシル君の周囲に放電する魔力スフィアが12基と発生。
――天壌よ哭け、汝の剛雷――
それらがヤミちゃんに向かって発射されて、包囲したと同時に大爆発。すごい雷撃が球状に炸裂して、ヤミちゃんを呑み込んだ。弾幕が切れたと同時、「はやて。離すぞ」って言われたから頷いて応えた。“エヴェストルム”をルシル君に手渡した後で離れて、ルシル君はひとりヤミちゃんへと向かってく。
「エヴェストルム、カートリッジロード。戦滅神の・・・!」
――バレットダムネーション――
降り注ぐ弾幕を避けて、
――ジャベリンバッシュ――
大きな槍をバレルロールで避けて、
――サイズディカピテイション――
大鎌となった魄翼の斬撃を“エヴェストルム”で捌き逸らして、
――エターナルセイバー――
鋏のように振るわれた炎の剣を避けて、
――ドゥームプレッシャー――
怪物の両腕となった魄翼による握りつぶし攻撃も避けて、ヤミちゃんの懐に潜り込んだルシル君。
「破槍ッ!!」
「っ・・・!」
“エヴェストルム”の先端をヤミちゃんのお腹に当てて、そこから強烈な雷撃砲を零距離で発射、雷光爆発がルシル君とヤミちゃんを呑み込んだ。閃光が晴れたことで、2人の姿を視認することが出来た。ヤミちゃんは背を少し丸めた状態で佇んでて、少し離れた距離で対峙してるルシル君は、騎士甲冑の袖を失って素肌を晒してる左腕を右手で押さえてた。
「動作不良・・・、システム負荷増大・・・、駆体動作・・困難・・・」
ヤミちゃんがようやく止まった。わたしは肩で大きく息をしてるルシル君の側まで上昇して、「ルシル君!?」倒れ掛かってきたルシル君を抱き止める。
「馬ぁ鹿なぁぁぁぁぁっ!! ゆ、U-Dぃぃーーーー!?」
「うそ・・・。なによ、あの子・・・! あの怪物を本当に倒しちゃったの・・・!」
絶叫する王さまと、信じられへんって風に零すキリエさんの声が聞こえてきた。2人とも無事やったんやな。
「なんということだ! 最強無敵にして究極絶対なる砕け得ぬ闇が、男か女かも判らぬような塵芥に負けたというのか!? しっかりせい、U-D! 傷は浅い! 倒れるな、倒れてはならぬぞ!」
王さまが慌ててヤミちゃんの元へ飛んでそう励ますと、「え?・・これは、マテリアル-Dの駆体の反応・・・? ディアーチェ?」って、ようやく人らしい感情の籠った声がヤミちゃんから発せられた。
「そうとも! 我こそがロード・ディア―チェ! お主と同じように、駆体起動中だ!」
「本当にディアーチェなのですか?」
「無論! 周りを見るがよい、U-D」
ディアーチェが両腕をバッと大きく広げると、ヤミちゃんの周囲にミッド魔法陣が4つ展開されて、遅れて転移反応が現れた。転移して来たのは、残りのマテリアル達やった。
「ようやく出会えましたね」
「シュテル・・・」
「おお、ひっさしぶりー!」
「レヴィ・・・」
「再び出会えて嬉しいですわ」
「アイル・・・」
「感涙でありますよ!」
「フラムまで・・・」
「王と王下四騎士。お主と再び巡り合うがため、ずっと捜しておったのだ」
王さまの声に嬉しさが満ちてるのが判った。他のマテリアル達の子も微笑みや満面の笑顔を浮かべてる。そやけど、ヤミちゃんだけは違った。嬉しさの中に悲しみが混じってるのが判る。リインフォースもよく浮かべてた表情や。
「本当は、また会えて嬉しい・・・って、心から喜べれば良かったのに・・・」
「「「「「???」」」」」
「ダメなんです。私を起動させちゃ、ダメなんです。歴代の主みんなが、私を制御することが出来なかったんです。破滅を齎すだけの自分が嫌で、だから必死に奥へ奥へと沈めました。私に繋がるシステムを全て破断して、さらにデコイプログラムで上書きを繰り返して。魔導書に関わる全ての情報から私のデータを徹底的に消したんです」
ヤミちゃんの独白を聞いてた王さま達マテリアルの顔色が青くなってくのが判った。
「夜天の主たち、管制を司る融合騎でさえも知り得ることなき、闇の書が抱える本当の闇・・・、それがこの私――」
「え・・・!?」「へ・・・!?」
ヤミちゃんの魄翼が触手のようになってマテリアルの子たちを貫いた。呆けるわたしとキリエさん。苦痛に悲鳴を上げるマテリアル達。ヤミちゃんは今にも泣きだしそうな顔になって、「沈むことなき黒い太陽、影落とす月・・・それゆえの、決して砕けることのない闇――アンブレイカブル・ダーク」涙声で語った。
「私が目覚めた時、その後に待ってるのはひたすらに破滅・・・。全てに等しく滅びと絶望を撒き散らして、破壊の爪痕しか残さない。こうなるのが嫌だから、見たくないから、したくないから・・・私は・・・ずっと・・・」
ヤミちゃんが口を噤んだ瞬間、魄翼に貫かれてたマテリアル達が消えてしもうた。自分の無力感に苦しんでるヤミちゃんと目が合う。そんなヤミちゃんが反転して魄翼を広げた。ここから飛び去る気や。そやから「待って、ヤミちゃん!」制止するけど、「ごめんなさい。目覚めてしまって」そんな悲しいことを言うて、そのまま飛び去ってしもうた。
「U-D! あなたに用があるのよ、わたしは! 絶対に逃がさない! 全力追跡、アクセラレイター!」
キリエさんもこの場から去って行った。残されたんはわたしと、わたしにもたれ掛ったままのルシル君だけ。
「王さま達・・・もしかして、ホンマに消滅したんか・・・!?」
「彼女たちはそう簡単に死にはしないだろう。おそらく、駆体維持を一旦放棄して、どこかで再起動を計っているはずだ」
いつの間にか意識を取り戻して薄らと目を開けてたルシル君にわたしは「みんな、無事なんかな・・・?」って確認する。
「ああいう手前、無事だろうな。今回みたく、力を取り戻すまでは休眠状態で居続け、時が来れば再び・・・」
お礼を言うてわたしから離れたルシル君と一緒に、マテリアル達が居った虚空を見詰めてると、『はやてちゃん!』クロノ君たちと一緒に出張してたシャマルから通信が入った。
『挨拶はごめんなさいですけど省かせてもらいます! 各地でとんでもない数の思念体――残滓が出現中だと、アースラの観測で捉えました!』
「了解や! わたしも出――」
『いいえ! はやてちゃん、すずかちゃん、なのはちゃん、フェイトちゃん、アリサちゃん、アルフには一度アースラへ乗艦してもらって、休憩に入ってもらうことになりました! 思念体討伐は、私たちパラディース・ヴェヒターで行います!』
「そういうわけだ。はやて、君はアースラへ」
「ちょっ、ルシル君かてもう・・・!」
「我が手に携えしは確かなる幻想」
――静かなる癒し――
複製したモノを発動する時の呪文を詠唱したルシル君。するとルシル君の体が蒼い魔力に包まれて、傷が見る見るうちに治った。そんで騎士甲冑の損傷も修復された。シャマルの静かなる癒しや。
「これまで頑張って来たはやて達は一旦お休み。これからは俺たちの番だ」
ルシル君が微笑みながらわたしの頭を撫でてそう言うてくれた。これは何を言うてもアカンなって思うたから「バトンタッチや」わたしはルシル君と拳を突き合わせた。
後書き
チョモリアプ・スーア。
魔法少女リリカルなのはシリーズにおいておそらく最強だと思うキャラ(魔導師や騎士ではないフッケバインは別として)、砕け得ぬ闇を登場させました。はやてとトーマを軽くあしらい、ルシルすらも撃墜寸前にまで追い込むその実力。ゲーム通りに最強キャラを演出してみました。うーん、可愛い顔と声をしてあの強さ。実に惚れ惚れします。
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