FAIRY TAIL 友と恋の奇跡
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第196話 『極悪十祭』
前書き
紺碧の海で~す♪
今回は大魔闘演舞がやっと終わったーっ!・・・と思ったのも束の間。ナツ達に新たな悲劇が襲い掛かる!その悲劇の名は―――――!
ナレーション風に書いていきます。
それでは、第196話・・・スタート♪
妖精の尻尾の優勝が決まったのと同時に、ドムス・フラウの上空に打ち上げられた一筋の白い光。
白い光が雲を貫いたかと思ったのと同時に、キュゥン!と音を立てて白い光が10個の光に弾け、隕石のように夜のクロッカスの街に落ちた。
ナ「な・・何だァ・・・?」
ル「ナツー!」
ウェ「ナツさぁ~ん!」
ナツは街中に落ちた光を目で追った後、こてっと首を傾げ頭に?を浮かばせる。
すると、自分の名を呼ぶ聞き慣れた声がして後ろを振り返ると、ルーシィとウェンディが自分の方に向かって走って来ていた。
ナ「ルーシィ、ウェンディ。何でお前等がここにいるんだ?」
会場にいるはずのルーシィとウェンディの姿を見てナツは再びこてっと首を傾げ頭に?を浮かばせた。
ル「それが大変なの!マヤがいなくなっちゃったのよォ!」
ルーシィの声に、ナツは少し目を見開いた。
ナ「・・・誰が、いなくなった・・って?」
ナツは滅竜魔道士であり、並の人間より聴覚が優れている。だから、さっきのルーシィの声は最初から最後までバッチリ聞こえていたはずだ。
なのに、その言葉が信じられなかったかのように、ナツはもう一度聞き返した。
リョ「現実を受け入れろ、ナツ。」
背後から聞こえた声に、ナツ、ルーシィ、ウェンディは振り返る。
そこには負傷したリョウ、グレイ、ユモ、エルザと、リョウの肩を支えているトーヤ、人間の姿のフレイがいた。
エ「話はトーヤとフレイから聞いた。それで、マヤは見つかったのか?」
エルザの問いにルーシィとウェンディは首を左右に振る。
するとナツが、リョウの左肩を支えてたフレイの首根っこを掴んだ。
ナ「おいフレイ!マヤがいなくなったってどういう事だよ!ア?」
グ「落ち着けナツ。」
ト「フ、フレイさんはな、何も・・悪く、ないんですよ!」
掴みかかったナツをグレイが羽交い絞めにしてフレイから引き剥がし、トーヤが慌てふためきながらもナツの誤解を解く。
フレイは勘違いしたナツに怒りもせず、ただ拳を固く握り締めるだけだった。
ウェ「街中走り回って、必死に探したんですけど、見つからなくて・・・」
ウェンディが申し訳無さそうに顔を伏せながら呟いた。
ユ「あれ?そういえば、ショールとハッピーとシャルルは?」
ユモが辺りを見回しながら言う。
ル「ハッピーとシャルルには、「マヤが会場に戻って来た時に知らせて」って頼んで会場にいると思うんだけど・・・ショールはドコ行ったのかしら?そっちは会わなかったの?」
フ「俺とトーヤはずっと2人でマヤを探してたけど、会ったのは負傷したリョウ達だけだ。ショールには一度も会ってねェよ。」
ト「てっきり、ルーシィさん達と行動してるかと・・・」
ルーシィ、フレイ、トーヤの順に言う。
ショールまでいなくなっちゃったぁー!?と誰もが思ったその時、
ショ「俺ならここにいる。」
噂をすれば影が差す。
冷静を保った聞き慣れた声がして後ろを振り返ると―――、
エ「ショール!」
ナ「マヤ!」
リョ「・・・と、何で王国軍~!?」
所々に擦り傷や切り傷を負った、泥だらけの顔をしたショールと、同じく泥だらけの顔をした、今まで行方を晦ましていたマヤ。そして2人の後ろには、ズラァ~と立ち並ぶ王国軍の兵隊達がいた。
ウェ「マヤさん!」
フ「無事だったか!」
ル「良かった~。」
ト「ショールさん、ドコ行ってたんですか~。」
ユ「心配させないでよ。」
グ「つーか何だよこの王国軍!?俺達なんか悪い事したか!?」
ショ「一編に言うなーっ!」
珍しく怒鳴るショールの声で辺りはしーんと静まり返る。
辺りが静まり返ったのを確認すると、ショールは「ふぅ」と息を吐き口を開いた。
ショ「一度しか言わない。順番に話すからよく聞いてて。」
ショールは自分を取り囲むように立っているナツ達の顔を順番に見回す。ナツ達が首を縦に振ったのを見ると口を開いた。
ショ「まずが空を見て。」
ショールが人差し指だけを立てた右手で宙を差した。
ル「空を?」
グ「空がどうかし―――――はァ!?」
頭に?を浮かべながらも、ナツ達は言われたとおりに首を上に傾けて空を見上げた。
目の前に広がるのは確かに空だった―――――が、満天の星が輝く星空ではなかった。
クロッカスの街の空は、オレンジ、ピンク、紫という禍々しい色合いをしたグラデーションになっていたのだ。
ナ「何じゃこりゃーーーっ!?」
ウェ「そ・・空が・・・」
ユ「えぇっ!?」
ト「ど・・どうなってるんですか~!?」
ナツ達は驚嘆の声を上げる。
それに対してショールは冷静を保ち再び口を開いた。
ショ「まだナツ達が、大魔闘演舞で敵と戦っている頃・・・俺はドムス・フラウの中でマヤの事を探していたんだ。」
***********************************************************************************************************
時は遡り1時間前。
ショ「マヤー!マヤー!聞こえたら返事をしろーっ!マヤー!」
ショールは壁も床も天井も石造りで出来た通路を、時々ひんやりと冷たい壁に手を着いて、乱れた呼吸を整えながらマヤの名を叫びながら走っていた。ショールの声と、ショールの足音だけが通路に響き渡る。
ショ「ハァ・・ハァ、くそっ・・ドコ、行ったんだ・・・マヤ・・ハァ、ハァ・・・ハァ・・ハァ、ハァ・・・ハァ・・ハァ・・・」
街中、ドムス・フラウと立て続けに走り回っているショールの体力はすでに限界を超えていた。だが、それでもショールの足は止まらない。
ショ「(俺の考えすぎだといいけど・・・あの予知が意味する事は、何なんだ・・・・?)」
鼻筋を伝って流れ落ちてくる汗を服の袖で拭い、再び走り出そうとした時、前方から2人の王国兵が話しながら歩いて来た。
兵1「何だったんだー?さっきのあの女の子?」
兵2「たぶん、妖精の尻尾の魔道士だったと思うけど・・・」
ショ「!」
走り出そうとした足を止め、ショールは2人の王国兵の前に立つ。
ショ「すみません!その女の子、ドコで見かけましたか!?」
兵1「え?あーいや、さっき向こうで。関係者以外立ち入り禁止の方へ歩いてたから止めたんだけど・・・」
兵2「驚いたよなー。見ろよこの槍。その女の子が、触っただけで捻じ曲げたんだぜ。」
ショ「!?」
そう言いながら王国兵の1人が捻じ曲がった槍をショールに見せた。
ショールは声にならない驚嘆の声を上げた。
兵1「槍を捻じ曲げてでも立ち入り禁止の方に行くから、俺がその子の肩を掴んで止めようとしたら・・・この有様さ。」
ショ「!!?」
もう1人の兵士の右掌を見て、ショールは再び声にならない驚嘆の声を上げた。
兵士の右掌は真っ赤に腫れ上がっていたのだ。
兵2「その子の肩を掴んだ瞬間、ビリリ!って電気が帯びて、コイツの右掌は火傷しちまってよ。」
兵1「ったく、酷い目に合ったぜ。あの子を探してるって事は、お前も妖精の尻尾の魔道士だな?その子に言っておいてくれよ。「王国兵の1人が、君のせいで火傷を負い」」
ショ「この先に、立ち入り禁止の場所があるんですね!」
兵士の言葉に聞く耳も立てずに駆け出そうとしたショールの肩を、火傷を負っていないもう1人の王国兵が掴んだ。
兵2「だから、関係者以外立ち入り禁止って言ってるだろ。あの女の子の事は俺達王国兵に任せて、君は会場に」
ショ「トリックルーム!」
兵2「なっ・・!」
兵1「うぉぉあぁ?」
ショールは手品魔法のトリックルームを2人の兵士に掛けた。術者の周りにいる者の視界を、トリックルームのように歪ませる。
視界がトリックルームのように歪んで見える2人の王国兵はその場でぐるぐる回りながら歩いたり、前に進んでいるつもりが右へ、左へ進んでいるつもりが後ろへ、という混乱状態に陥っている。
ショ「スミマセン。」
ショールは混乱状態に陥っている2人の王国兵に向かって頭を下げると、立ち入り禁止の場所へ向かって走り出した。
ショ「(マヤは大魔闘演舞に出場したのも、ドムス・フラウに来たのも今年が人生初。なのに何でドムス・フラウの立ち入り禁止の場所を知っているんだ?それにマヤが、ドムス・フラウの立ち入り禁止の場所に何の用があるんだ?)」
走りながらショールの頭は高速回転し始めた。高速回転し始めたショールの頭は止まらない。
勘が鋭いグレイではないが、高速回転し始めたショールの頭が考えた事は、経験上99,9%の確立で当たる。「お前の頭は未来探知機か何かか?」と以前エルザに言われたくらいだ。
残りの0,1%は、ショールが寝不足だったりしている時だ。だが、今のショールはバッチリ目が覚めている。今のショールの頭は、100%冴えているという事だ。
ショ「(嫌な予感がする・・・!)」
100%冴えている頭で考えたショールの予感・・・
当たる確立も、100%だ。
しばらく走り続けていると、通路の先は行き止まりになっており、壁に鉄製の扉があった。
ショ「あそこだ!」
もう体力も限界を超えているというのに、ショールはスピードを上げた。
扉まで後僅かという所まで来たとき、扉の前にどこからともなく1人の少女が現れた。
ショ「うわぁっ!」
ショールはその少女と正面衝突しそうになったので、慌てて急ブレーキを掛けた。
慌てふためいているショールとは裏腹に、突如現れたその少女はにこやかに微笑んでいる。
ショ「スミマセン、そこを退いてもらえないですか?」
すぐに冷静を取り戻したショールは未だにこやかに微笑んでいる少女に向かって言葉を放つ。急いでいるせいか、ショールが放った言葉には小さな棘が刺さっているようにも感じる。
だが、ショールの棘のある言葉に少女は一切怯まない。それどころか、扉の前から退けようともしない。
少々苛立ったショールは、少女の後ろにある扉のドアノブに手を掛けた。
ショ「失礼します。」
一言少女に言い残しドアノブを捻ったその時―――、
?「『極悪十祭』・・・」
ショ「!」
ショールの耳元で、少女が鈴の音色のような小さな声で囁いた。
驚いたショールはドアノブから手を離し少女から遠ざかった。それでも少女はショールにゆっくりと近づく。ショールも少女が近づいてくるのと同時に1歩1歩後ずさる。
近づいては離れ、近づいては離れ―――――。そんな事を繰り返しているうちに、ショールの背中が壁にぶつかった。
ショ「!」
これ以上ショールは後ろに下がれない。だが、少女はまだショールに近づける。逃げ場を無くしたショールは少女から顔を逸らし目をギュッ!と瞑った。
?「ふぅ・・・」
少女が息を吐く音が聞こえ、ショールは恐る恐る目を開けた。すると、右隣に壁に寄り掛かった体勢で立っている少女がいた。ショールは思わず目をパチクリさせる。
?「大魔闘演舞2日目の夜、私はあなたに、同じ事を言ったはずよ。」
ショ「えっ?」
少女の言葉に首を傾げながらも、ショールは頭を高速回転させ、記憶を大魔闘演舞2日目の夜に手繰り寄せる。
ナツ達が泊まっていた宿、『蜂の骨』の前に立っていた青い髪の女性―――――。
ショ「!あ・・あの時の・・・」
?「よーやく思い出してくれましたか。」
少女の姿を思い出したショールを見て、少女は呆れたようにわざとらしくため息をついた。
ショ「(あの時言った事は、俺だけに言った事だったのか・・・?)」
『蜂の骨』の前には、ショールだけでなく最強チーム全員が傍にいた。そんなのにお構いなく、この少女はショールにだけ伝えたかったという事になる。
そして、この少女の言葉を聞いたあの夜―――――ショールは予知を見た。
ショ「(俺が予知を見れる事を知っていたのか・・・?でも、だったら同じ予知を見れるシャルルには、何で予知が・・・?)」
謎が謎を呼ぶ。
ショールは隣にいる青い髪の少女を不思議そうに見つめた。
?「『極悪十祭』、それは10頭の悪魔と人間との奈落の宴――――――。」
ショ「・・え・・・?」
?「後15分もすれば、ここ、ドムス・フラウから白い光が打ち上げられて、その光が10個に分裂すると同時に、空が禍々しい色に変色し、クロッカスの街に10頭の悪魔が姿を現すわ。それと同時に、この会場で大魔闘演舞を観戦している人間は、石像のように固まって動かなくなるわ。」
ショ「!?」
?「10頭の悪魔を倒せるのは、クロッカスの街中で大魔闘演舞に参加していたギルドの魔道士と、大魔闘演舞には参加していなかったあなたの仲間数人。会場にいる大勢の王国兵と軍隊。王国兵と軍隊は、槍や盾しか持っていない者が多いし、魔法部隊もあまり役に立たない。となると、一番頼りになるのは魔道士達だけ。負傷している魔道士達は、王国軍の救護隊や、天空の巫女に手当てしてもらうといいわ。それと、これ以上被害が及ばないようにクロッカスの街全域に屈折壁を張った方が良いわ。」
ショ「・・・・・」
ショールは少女の的確すぎる対応を聞いて驚きすぎて言葉を失った。
?「ごめんなさい。すっかり話し込んじゃったわね。でも最後に―――――」
少女が壁から離れ、ショールの正面に立つと―――ショールの鮮血のような赤い瞳を、深海のように澄んだ青い瞳で真っ直ぐ見つめた。
?「『極悪十祭』の引き金は―――あなたと、あなたの仲間が探しているマヤ・ララルドよ。」
ショ「なっ・・!?」
?「彼女は、何らかの理由で何者かに操られているの。彼女は大魔闘演舞の優勝ギルドの名を叫ぶと同時に『極悪十祭』の烽火である大砲の導火線に火を点けるわ。彼女も、その大砲もこの扉の先にある。一刻も早く止めて!」
少女の鈴の音色のような声が辺りに響き渡った。
ショ「・・・今まで言った事、全部・・真実の事なんだな・・・・?」
ショールの問いに、少女は大きく頷いた。
それを見たショールは拳一度固く握り締めてから扉に駆け寄りドアノブに手を掛けた。
ショ「いろいろ教えてくれてありがとう。そういえば君、名前は?」
肩越しに少女を振り返りながらショールが問うと、少女は顔に掛かった長い青色の髪の毛を手で掃いながら呟いた。
?「“地獄の案内人”・・・とでも、名乗っておくわ。」
ショ「えっ・・・」
?「ふふっ。それじゃあね、ショール・ミリオンさん。またいつか―――――。」
少女―――“地獄の案内人”が長い青い髪の毛をなびかせ、黒いフレアスカートの裾をひるがえしながらそう言い残した瞬間、どこからともなく風が吹き荒れショールは思わず目を瞑った。
風が止み、ショールがゆっくりと目を開けると・・・
ショ「!?」
さっきまで目の前にいた“地獄の案内人”の姿が影も形も消え失せていたのだ。
ショ「・・どうなってるんだ・・・?」
ショールの鮮血のような赤い瞳は、しばらく“地獄の案内人”がいたところに釘付けになっていた。
ショ「(それに何だ、この感覚・・・?俺はあの子に、会った事があるような気がするし、誰かに似ているような気が・・・?あの子も、俺が一度も名乗っていないのに俺の名前を知っていたし・・・)」
ドアノブに手を掛けたままショールは必死に思い出そうとするが、肝心なところで記憶が途絶えてしまう。
ショ「(それに、またいつかって・・・?)」
“地獄の案内人”の事も気になるが、今はマヤを探す・・・いや、止める方が優先だとショールは判断し、重い鉄製の扉を開けドムス・フラウの地下へと足を踏み入れた。
ショ「うっ・・!」
足を1歩踏み入れた瞬間、ショールはすぐ後退りをした。
ドムス・フラウの地下は光が射さない為非常に薄暗く、そこら中にゴキブリやクモなどがうじゃうじゃいる。中でもショールが身を引いたのは、鼻にツゥ~ンとくる異臭だった。
ショ「ナツやウェンディ、ガジルだったら一発で気絶だろうな・・・3人共、滅竜魔道士で鼻がいいから・・・・」
そんな事を思いながら、ショールは左手で鼻と口元を覆いもう一度ドムス・フラウの地下に足を踏み入れた。
ドムス・フラウの地下は大小さまざまな岩や石、凸凹道や坂道など足場が悪く、ここでは思うように歩けない。走る事はもちろん不可能だ。
ショ「マヤー!マヤー!ドコだーっ!?」
通路よりも声が辺りに響き渡る。
鼻を摘んでいる為、聞こえる自分の声は妙に高い。
ショ「(確かあの子は、大魔闘演舞優勝ギルドの名を叫ぶと同時に、『極悪十祭』の烽火が打ち上げられるって言ってたよな・・・まだ打ち上げられた様子が無いって事は、大魔闘演舞はまだ終わっていないという事か。あの5人なら、余裕で100ポイントとかGETしてるんだろうな。)」
そんな事を考えながら、ショールは奥へ奥へと進んで行く。
ショ「!」
すると、岩や石などが全く無い広い場所に出た。真上から大勢の人の声が聞こえる。どうやら今ショールが立っている場所の真上が、ドムス・フラウの会場らしい。
その広い場所の中央に巨大な黒い大砲と、暗がりの中でも一際目立つ夕日色が目に留まった。
ショールは滅竜魔道士のように特別視力が優れている訳でも特別視力が悪い訳でもないが、ここからでも間違えるはずがなかった。
ショ「マヤ!」
自信の名を呼ぶ声が聞こえたのか、覚束ない足取りで大砲に向かって歩いていたマヤは足を止めゆっくりとショールを振り返った。マヤのオレンジ色の瞳はやはりハイライトが消え失せていて、どこを見つめているのかはっきりしていなかった。
マヤはすぐに顔を正面に向けると再び覚束ない足取りで大砲に向かって歩き出した。マヤと大砲との距離はもう僅かだった。
ショ「(あの子が言ったとおり、マヤはやっぱり操られてる・・・!)」
だが、ショールが今いる場所からマヤのいる場所まで、ショールが全力疾走しても間に合わない。
ショ「ギアチェンジ!モード風!」
止むを得ず、ショールは両足に風を纏うと小さく地を蹴り駆け出した。すでにマヤは大砲の正面に来ていた。
ショ「マヤァーーーーーーーーッ!」
風のような速さで走りながら、ショールはマヤに向かって右腕を伸ばす。
それに対してマヤはショールの声も姿も、耳にも視界にも入っていないのか、火炎石を握り締めた右手の人差し指の指先に炎を纏った。
ショ「マヤァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
ショールの伸ばした右腕がマヤの右肩に触れた瞬間、ショールはマヤを抱き抱えるようにして、マヤと一緒に地面に倒れ込んだ。
―――――が、遅かった。
ジジジ!パチパチ!と火花を散らしながら、大砲の導火線は徐々に短くなっていく。
それと同時に、大砲の中央部に刻まれた赤い術式が、カウントダンを始めた。
5・・4・・3・・2・・1・・・―――――
ドガアアアアアアアン!と凄まじい爆音を響かせながら、大砲の砲口から一筋に白い光が打ち上げられた。
ショ「うああああああぁああっ!」
マヤを抱き抱えたまま、ショールは爆風で遥か彼方まで飛ばされた。
ショ「うぐっ!あぅっ!ガハッ!おぐぁっ!」
飛ばされながら背中や腰、腕や足などを岩などに打ち付ける。
打ち上げられた白い光は地下の天井―――会場の地面―――を貫き、あっという間に雲まで貫いてしまった。
白い光によって崩壊された地下の天井―――会場の地面―――の残骸が雨のように降り注いでくる。ショールはマヤを庇いながら、岩に打ち付けた体の痛みに耐えながら、その場に蹲ってじっとしていた。
―――――どれくらい時間が経っただろう?
いつの間にか残骸の雨が止み、上から聞こえていた大勢の人々の歓声が聞こえなくなっていた。
ショ「・・・うっ・・うぅ~・・・・」
砂と泥まみれになった身体をゆっくりと起こす。視界がぼやけていてハッキリしていないが、記憶は驚くくらいハッキリしている。
ショ「(・・ど、どうなった、んだ・・・?)」
視線を正面に向けると、大砲があった広い場所が見えた―――が、そこから大砲は煙だったかのように消え失せていた。
視線を辺りに向けると、地下の天井―――会場の地面―――の残骸や破片、欠片などがあちらこちらに散らばっていた。
ショ「(こんなデカ物が降って来ている中で、よく生きてたな・・・)」
残骸の大きさを見て、思わず感心してしまった。
そして、その残骸が降って来た頭上へ視線を向けると―――――ぼやけていた視界がハッキリした。
巨大な穴の開いた地下の天井―――会場の地面―――から空が見えた。だが、見えた空は満天の星が輝く星空ではなかった。オレンジ、ピンク、紫という禍々しい色合いをしたグラデーションの空だった。
ショ「・・これが・・・『極悪十祭』・・・・悪魔と、人間の・・奈落の宴・・・・」
渇いた口から零れた言葉は、何とも残酷な言葉だった。
マ「・・ぅ・・・ぅう~・・・・」
足元から小さな呻き声が聞こえ、声がした方に視線を落とすと、砂と泥まみれになったマヤがゆっくりと目を開けた。オレンジ色の瞳にはハイライトがキラキラと輝いていた。
マ「・・あれ?ショー、ルー・・・?あれ?ここ、はぁ~・・・・?」
ショールの泥まみれの顔を不思議そうに見つめながらゆっくりと体を起こし、不思議そうに辺りをキョロキョロと見回す。そして、ハイライトが戻ったオレンジ色の瞳を頭上に向けると、大きな瞳を更に大きくし、驚嘆の声を上げた。
マ「な、何アレェ~!?そ、空!?アレって、クロッカスの空だよねぇ!?」
いつもと変わらない調子のマヤを見て、ショールはホッと胸を撫で下ろした。
マヤのこの様子からして、考えられる事はただ1つ―――――。
ショ「(憶えていない・・・やっぱり、何者かに操られていたのか・・・)」
苦味を潰すように、ショールは唇を噛み締め拳を固く握り締めた―――が、その握り締めた拳をすぐに解き、マヤの右肩に優しく乗せた。
マ「ん?どうしたのショール?」
ショ「マヤ、とりあえずここから出よう。詳しい話は、歩きながらするから。」
そう言うとショールは踵を返して出口に向かって歩き出した。その後をすぐにマヤも追いショールの横に並んだ。
出口に向かって歩きながら、ショールはマヤに『極悪十祭』の事、マヤが何者かに操られて『極悪十祭』の烽火を上げてしまった事を話した。
************************************************************************************************************
ショ「―――――という訳だ。」
話の最初から最後まで真顔で話し続けていたショールの表情が暗くなった。
話を聞いたナツ達は目を見開いたり、口元を手で覆ったりするだけで、誰も声を上げる者はいなかった。
ル「あの白い光が10個に分裂したのは、悪魔の数だったのね・・・」
最初に口を開いたのはルーシィだった。
ショ「ここに来る前に、マヤと一緒に会場に行ってみたんだけど・・・」
グ「“地獄の案内人”だっけな?ソイツが言ってたとおり、会場にいた奴は1人残らず石像のように固まってた、つー訳だな。」
救護隊に手当てをしてもらっているグレイの言葉にショールは黙って頷いた。
ナ「おい、じゃあハッピーも!?」
ウェ「シャルルも!?」
マ「固まってた。マスター達も、他のギルドの人達も、観客の人達も、ヤジマさん達も・・・皆、固まってた・・・・!」
ナツとウェンディの問いに、ずっと顔を伏せたままだったマヤが初めて口を開いた。
ショ「(シャルルが予知を見なかったのは、固まっちゃうからだったのかな・・・?)」
ショールは視線をドムス・フラウに向けながらそんな事を考えた。
リョ「その“地獄の案内人”って奴、予言者なのか?言った事が全てピタリと当たってやがる。」
エ「ソイツが言ったとおり、クロッカス全域に屈折壁を張ったのか?」
ショ「うん。王国兵の人達に事情を話したらあっさり。」
ウェンディに治癒魔法を掛けてもらっているリョウが言い、包帯が巻かれた右肩を回すエルザの問いにショールは頷きながら説明した。
その時―――、
悪魔1「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
全「!!!」
建物を、大地を、空気を揺るがす雄叫びがクロッカスに轟いた。
ト「ひィィイ!」
トーヤが情けない声を上げ、両耳を塞いでその場にしゃがみ込んだ。
フ「あんなのが10頭もいるのかよ・・・」
ユ「予想以上だね。」
フレイとユモが雄叫びが聞こえた方を睨みながら呟いた。
ショ「動けるのは俺達と、大魔闘演舞に参加した僅かな魔道士、王国軍と軍隊と魔法部隊だけだ。何としてでも10頭の悪魔を撃退しないと・・・」
そこまで言うと、ショールは視線をドムス・フラウに向けた。
ル「ドムス・フラウで固まっている人達が危ない、って訳ね。」
ト「仲間を守る為なら、なんだってやりますよ!」
腰に手を当てながらルーシィと、さっきまで怯えていたトーヤが力強く言った。
エ「王国軍の者とと軍隊の者は西、魔法部隊の者は東に行ってくれ!」
軍1「分かりました。行くぞーっ!」
軍全「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
王国軍、軍隊、魔法部隊はエルザの指示通り東と西に散らばった。
リョ「蛇姫の鱗、四つ首の猟犬、幸福の花、月の涙の連中は北だーっ!」
ショ「銀河の旋律、青い天馬、海中の洞穴、白い柳、気楽な禿鷹の魔道士は南を頼むっ!」
魔全「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
リョウ、ショールの指示通り各ギルドの魔道士達は北と南散らばった。
残ったのはハッピーとシャルルを除いた妖精の尻尾の最強チーム11人。
ウェ「私達はどうするんですか?」
ユ「フレイはマヤと一緒に行動するよね。」
フ「あぁ。」
グ「なら話は簡単だ。1人1頭倒せば十分だ。」
グレイの一言で話がまとまった。
エ「いいか、敵は悪魔だ。油断は絶対にするな。」
リョ「大魔闘演舞の余韻に浸るのは後回しだっ!優勝祝いとして、もうひと暴れしてやろうぜっ!」
ショ「大勢の人の命も懸かっている事を忘れるなよ。」
エルザ、リョウ、ショールの言葉に頷いた後、最強チーム一同もそれぞれ散らばった。
フ「マヤ、俺達も行くぞ。」
マ「・・ぅん・・・」
フレイの呼び掛けにマヤはか細い声で返事をするだけ。それを見たフレイは一度肩を竦めた後、腕をぶんぶん振り回しているナツに近づくと、
フ「マヤを頼む。」
それだけ呟くと、鳥の姿になって西の方角へ飛んで行った。
ナ「いや・・「頼む」って言われてもなぁ・・・」
頭を掻きながらフレイが飛んで行った方を見つめながらナツは困ったように呟く。
肩越しで後ろにいるマヤを振り返ると、フレイが言ったとおりいつものマヤみたいにテンションがめちゃくちゃ下がっていた。
ナツは元気が無いマヤに歩み寄る。
ナ「どうしたんだマヤ?お前らしくねェぞ。」
顔を伏せているマヤの顔を下から覗き込む。すると、マヤの頬を一筋の涙が伝った。
ナ「!?」
マ「・・ひっ、うぅ・・ゴ、ゴメン・・・ひィ、ぐすん・・」
しゃくり上げながら、涙を拭いながらマヤはナツに向かって謝る。
マ「うっ・・わ、私の・・せいで・・・ふぇっ・・皆に・・うぅ・・・め、迷惑・・掛けて・・・えぐっ・・ゴメン、ね・・・ふぐぅ・・ひっ、ひィ・・・」
拭っても拭っても、溢れ出す涙はマヤの頬を濡らし続ける。
そんなマヤの身体がひょいっと宙に浮かんだ。
マ「ふぇ?」
泣き腫らした目で前を見るとナツの右肩が見えた。マヤの身体はナツの背中に背負われており、ナツはマヤを背負ったまま東に向かって歩いていた。
マ「ちょっ・・ナ、ナツー!下ろしてよーっ!私これでも18歳なんだよっ!ねーナツ!ナツってばァ!」
握り締めた両手の拳でポカポカとナツの背中を叩くが、ナツは一向に下ろしてくれない。それどころか、マヤを支える両手の力が強くなっていく。
マ「・・ねぇナツ、もしかして・・・怒ってる?」
ナ「あぁ。すっげー怒ってる。」
マ「!」
ナツの背中を叩く手を止め、念の為問い掛けてみたら、躊躇なく答えをズバッ!と言われたので内心傷ついた。
ナ「マヤにじゃねェ。“マヤを操って、怪我を負わせて、辛い目に合わせて、泣かせた奴”に怒ってんだ。」
マ「えっ?」
マヤの角度からナツの顔は見えない。だが、ナツがすごく怒っている時の殺気が背中越しでも伝わってきた。
ナ「誰だが知らねェが、俺はぜってェにソイツを許さねェ!」
竜の雄叫びが木霊して、クロッカスの街に響き渡った。
ナ「・・・だから、もう泣くな。」
マ「・・うん。・・・ありがとう。」
一度止まったはずの涙がマヤの頬を伝い流れ落ちた。
後書き
第196話終了~♪
遂に、クロッカスに悪魔出陣なり!原作とは違う、前代未聞の妖精VS悪魔の対決!ナツ達は10頭の悪魔を倒す事が出来るのか!?そして、マヤを影で操っていた黒幕の正体とは―――――!?
次回は10頭の悪魔と魔道士達の激戦を書いていこうと思います。
それではSee you again♪
ページ上へ戻る