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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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2ndA‘s編
  第十二話~歩み寄る結末~

 
前書き
お待ち頂いた読者の皆様お久しぶりです。

色々と忙しく、執筆の時間が取れませんでした。
しかし、失踪する気はサラサラないので、気の向いたときに更新の確認などをしてもらい、評価や感想を頂ければ幸いですm(_ _)m

それと今回も独自解釈とオリ設定が含まれます


では本編どうぞ 

 


海鳴市


 日が落ち始め、曇天により鬱屈とした暗さと雰囲気が街を満たしている。
 そんな街は今、結界で覆われ人が特定の人間以外が存在しない空間となっている。といっても、真っ当な意味での人間はその空間には存在していなかった。
 ビルとビルの隙間から強い光が断続的に瞬く。その光が止むと、ある時は煙、ある時は瓦礫が宙を舞う。
 そして今度は――――

「――――――――ッア!?」

――――人が舞った。
 砲弾のようにほぼ水平に弾け飛ぶライは、二、三度地面にその身体を打ち付けながらも何とか体勢を立て直そうとする。

「――まれ!!」

 既に口からまともに声が発せているのかどうかも、本人には確認のしようがない。
 そんな中、両手両足を地面に擦り付け嫌な音と熱を文字通り肌で感じながら、四足獣のような格好でライは飛ばされた勢いを減衰させて行き、なんとか止まる事に成功する。

「ハァ!ハァ!」

 身体が酸素を求め、呼吸が自然と荒くなる。しかし、既に渇ききっていた喉に冬の外気は痛みしか伝えてこないため、一息つける安堵感よりも不快感の方が大きかった。
 そんな自己の感性を押し込めながら、空を仰ぐように首を上げる。
 そして首を上げた先――――ライの視線の先には、未だに蛇に包まれた夜天の書の姿があった。
 空中に浮かび、どこかこちらを見下ろしてくるように感じるその存在は、管制人格に飲まれた時よりも一回り大きな形になっていた。そして変わったのは大きさだけでなく、その形が卵を連想させる楕円球に変化していた。
 一方で、ライの方はバリアジャケットがボロボロになり、むき出しの顔や髪に煤や埃が付着し、その特徴的な銀髪がどこかくすんでいる。

(甘く見ていた!)

 内心で少し前の自分を罵倒し歯噛みしながらも、夜天の書から視線を外す事だけはせずに立ち上がる。
 管制人格が取り込まれてから、ライはまず夜天の書へのハッキングを行おうとした。元々、夜天の書は外部からの干渉を行われた場合、主を取り込み転生する機能が存在する。しかし、書の完成が既に決定した今だからこそ付け入る隙が、システム上存在すると考えたのだ。
 だが、その考えは文字通り粉砕されてしまう。
 夜天の書へのアクセスは物理的にライが書に接触する必要がある。流石に外部から電波を飛ばしてアクセするには、それ専用のコードが必要となるからだ。その為、魔力で足場を形成し、跳びながら近付こうとするライであったのだが――――

(これまで蒐集した射撃魔法及び広域系の魔法の全てを全方向に斉射、そこからの連続行使なんて――――)

 その壁とも津波とも言える弾幕を思い出し、少しだけ身震いしながらこれからどうするのかを考えていく。だがしかし、現状魔導師としての自分が一流や二流と言った格付けをする以前の素人であることから、自分の内には切れる札が一枚も無いことを再確認するだけであった。
 相手が管制人格である彼女であれば、まだ対人戦である為渡り合うための案も出てくるのだが、途方もない量の魔法を行使し迎撃を行うシステムに対する知識は流石のライも持っていない。例え迎撃パターンをある程度把握したところで、そもそも使ってくる魔法の対処の仕方すら知らない場合があるのだから。
 追い詰められた時に感じるピリピリとした感覚に浸らされながら、玉砕覚悟もしなければならないかなと無謀な案しか出なくなったのと、それが聞こえたのは同時であった。

『――じを、――く―――きこ―――』

 ノイズ混じりの音声がその結界の中でやけに大きく響いたように聞こえた。
 その通信に返事をしようとしたが、自らの視覚が先ほどと同じ光を捉えたことによりそれも最低限しかできなかった。

「今は忙しい!アクセル!」

 思考ではなく、本能に従いライは叫ぶ。
 口から出た始動キーにより、魔法が起動する。いつもよりも半テンポ遅れながらも足元に魔法陣が展開されると、それを置き去りにしながら彼の身体は数十メートル後方に移動した。
 周りの風景がコマ送りのように前に流れていく。すると、移動を開始した瞬間にはもう迫っていたのか、ライがほぼ跳ぶような移動を終え着地する前に展開されていた魔法陣のあった場所が“左右からの”光に呑まれるのを流れる視覚の中で確認した。

(砲撃位置?!)

 思考が驚きに飲まれるが、本からではなくいきなり横合いから砲撃を打ち込まれればそれも無理がなかった。

(いきなり現れた?転移?転送?そうか、あの腕の――)

 記憶の中にある自分の胸から腕の生えた映像が掘り起こされる。
 疑問は氷解するが、それは新しく生まれた夜天の書の攻撃範囲と言う問題によりすぐさま思考を塗りつぶされる。

「厄介な!」

 そう吐き捨てながら、自分から最も近い路地に飛び込むようにしてライは駆け込む。
 今のような“発射点を操作できる”攻撃をしてくる相手に、お互いの位置がわかるような場所で向かい合うのが自殺行為であるのは明白なのだから。
 夜天の書の姿が見えなくなると、ライは魔力サーチから逃げるためにバリアジャケットを解除し迷路のような裏路地を進んでいく。
 適当に曲がり角を進み、いつの間にか少しだけ開けた道に出る。その場所は飲食店が並ぶ裏なのか、ポリバケツが多く見受けられどこからか香ばしい匂いが立ち込めていた。

(……結界内でもこんな匂いがあるのか)

 人を閉ざす結界内で、どこか場違いな事を考えてそれが自分なりの逃避であることに気付いたのは随分と時間が経ってからである。

「……ハァ」

 この世界に来てからもう数え切れなくなるほど吐いたため息をもう一度吐く。それは頭の切り替えの為に行ったものであったのだが、丁度タイミングよくライにとって求めていた外部からの要因が届いた。

『聞こえますか?!』

 音源は自分のすぐ頭上であるが、どうせそちらに目を向けても肉眼では何も見えないと思っている為、あえてそちらに目を向けることなくライは口を開いた。

「……聞こえています。こちらの状況をそっちはどこまで?」

『大体は把握しています。その上で聞きますが、貴方に対応策はありますか?』

 聞こえてくる女性――――リンディの言葉にどうせ通じないと知っていながらも、今のライに答えられる言葉はそれしか存在しなかった。

「方法はあるが何にしても、夜天の書に接触しないことにはどうにもならない。そちらは?」

 具体案を全く言えない状況の為、追求される前に逆に質問を被せる。
 下手に管理局側に弱みを見せてしまえば、自分が事態を終息させるだけの能力がないことをアピールすることになってしまう。そうなれば、最悪強制的に退場させられてしまう可能性もある。
 ある意味で板挟み状態なことに歯噛みしながらも、ライは彼女からの報告に耳を傾けた。

『回収した彼女たちは医務室に送りました。さっき目を覚ましたという報告も貰ったので安心して』

「ん?」

 この報告には流石のライも疑問に感じた。蒐集されてからそれほど時間も経っていない今の段階でそう早く回復できるのかと言う思考の引っかかりがライの口から疑問の声を漏らした。

『彼女たちのリンカーコアはそれほど干渉を受けなかったみたいで、消失した魔力も全体の三割から四割ほど。すぐにとは言えませんが、もう少しすればそちらに送ることもできます』

 これはライも知らないことであるが、夜天の書の蒐集でリンカーコアが縮小するのは厳密には魔力を奪われるのが理由の全てではない。
 そもそも、夜天の書が蒐集しているのは徹頭徹尾魔法の術式である。ならば何故、収集された魔導師のリンカーコアが縮小されるのか。それはリンカーコアの性質に因るものであった。
 リンカーコアの主な機能は待機中の魔力素を集め、それを魔導師の使用する魔力に生成し貯蔵することだ。なのはやフェイトといった高位の魔力ランクを持つ魔導師は、基本的にこの能力が高い事とその生成された魔力を貯蔵出来る量が多いことを評価され、高ランクであるとされている。
 この機能がリンカーコアの機能の大半といっても過言ではない。それにこの能力により扱える魔力の量や魔法の種類なども限られてくる為に魔導師のほぼ全員がこの機能しか意識しなくなってしまっている。
 しかし、リンカーコアの機能はそれだけではないのだ。
 リンカーコアで生成された魔力を使用し、魔法を行使することによりリンカーコアでは最適化が行われる。その最適化とは、魔力運用における術式の保存である。
 使用された魔法の術式は魔導師の持つデバイスに元々登録されている。だが、リンカーコア内にも使用された魔法術式の保存――――この場合はバックアップを取られ、魔力の運用を行う上で次回同じ魔法を使用する際に、より円滑にしようとするのである。
 もちろん、これは微々たるものでしかなく魔導師本人も「使い慣れた」程度にしか感じないことではあるのだが、この機能により確かにリンカーコアの内部に魔法術式は保存される。
 そして話は夜天の書の蒐集に戻る。
 書は蒐集の際にリンカーコア内に保存されているバックアップデータを、魔力を媒介に記録しているのである。言うなれば、魔力はインク、夜天の書は写本、リンカーコア内のバックアップは原本といった具合である。
 最後に、なのは達の蒐集による負傷の具合が軽いのは、二人の直前にライが蒐集を受けた為である。今現在、ライはCの世界から魔力の補給を行っている。その為、常時Cの世界との回線を繋いだ状態なのだ。そしてCの世界に存在するのは、何も集合無意識だけではない。
 過去に記録された様々な情報、それこそ古代ベルカ式や近代ミッドチルダ式の術式も当然のように存在する。ライがこの世界に肉体を持ってこの世界に来ることができたのも、そうした情報の恩恵があればこそであったのだから。
 話を戻すと、ライが蒐集される際にそうしたCの世界内に存在した術式を書は根こそぎ持っていこうとした。その量は膨大という言葉では到底足りない――――それこそ量といった括りを使うのが間違っている程のデータである為、一般の魔導師とは比べ物にならない程に書のページを埋めることができたのだ。
 そう言った要因が存在した為に、途中で強制的に中断されたとは言えほぼ完成間近にまで蒐集を完了させた夜天の書は残りの不足分をそこまで必要としていなかった為、なのはやフェイトが受けた蒐集による被害は他の被害者と比べて軽いものになったのだ。

閑話休題

 リンディからの報告はライにとってある意味では吉報ではあるが、同時に凶報でもある。ライにとって今欠けている要素である、熟練の魔導師。それは戦闘を行うにしろ、書に対してハッキングを行うにしても必要な物であるのだから。
 しかし、それはほとんど死地に近いこの空間に未だ幼い少女を連れ出し、剰え最前線で戦えと言わなければならないのだ。
 例え、それで事態が好転したとしても、この行いが『正しい事』として認識されてしまうのはどうしようもない不快感をライにもたらした。

「……彼女たちに戦えというのか?」

 声が出てきた喉の更に奥、腹の底に確かな熱を感じながら、ライは今自分がどんな顔をしているのか分からなかった。

『彼女たちは、共に魔導師としては破格の才能を有しています。戦力として――――』

「そういうことを言っているんじゃない!」

 どこか焦りを含んでいる彼女の言葉を遮り、路地裏に怒号が響いた。

「子供を戦場に送ることが今の最善なのか?!そんな事を続ける世界が正しいと本気で思っているのか?!」

 冷静さをかなぐり捨てた言葉。それは虚しくも、路地裏の静粛さを際立たせるだけだ。
 言葉を吐き出しながら、ライの脳裏には自分が築いた歴史を思い出してしまっていた。
 子供も大人も男も女も関係なく戦場に向かう狂気の光景。それをたった一言の命令で成してしまった自分。
 今のリンディと言う女性は当時の自分をひどく思い起こさせる存在であった。
 感情が道徳的な理由からリンディの言葉に怒りを覚えるのと同じく、別の考えもライの中には存在した。
 このまま『才能があるのであれば子供も利用する』という事例を繰り返すことは、人としての重要な物を失くした社会が出来上がるのではないかと言う懸念である。
 子供には子供の意思が存在し、それを大人が理解できないときは少なからず存在する。だが、子供は大人と比べ出来ることも行動の基盤となる知識も圧倒的に不足しており、更に言えば大人は柵が多い分責任を取る方法を知っているのだ。しかし子供はそれを学ぶ側であり、それを行う側ではないとライは考えていた。

「…………彼女たちに事情があるのなら僕は何も文句は言わない。だけど、ただの戦力として彼女たちのことを考えているのであればこれ以上干渉してくるな。迷惑だ」

 相手からの返事を聞かず、再び足を動かし始めるライ。
 動き始めることで少しでも冷静さを取り戻そうとしているライであったが、身体に溜まった熱は吐き出される事はなかった。

「少し無茶をする。フォローを頼む、蒼月」

「イエス マイ ロード」

 相方からの了承の言葉に背中を押してもらい、ライは動かす足を早くする。

『―――――――――プログラム構築―――――――――セイフティ設定―――――――――――コンプリートまで14分51秒』

 その言葉は確かにライの脳裏に響いた。




 
 

 
後書き
説明会っぽい話でした。
中々に展開が進みませんが、次回は戦闘的にはかなり進むと思います。

最近、外伝も書きたくなってきるというダメな作者ですがこれからもよろしくお願いします。

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