【SAO】シンガーソング・オンライン
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SS:歩き疲れた思い出
その男の子は周囲の攻略組に取り押さえられながら、俺に向かってしきりに喚きたてていた。
「お前が!お前みたいな塵なんかを”あの人”が認める訳がないんだッ!戦いもせずに四六時中歌ってるだけの腑抜けた糞野郎が・・・!お前をあの人が認める訳が無いんだッ!!」
男の子は「ラフィン・コフィン」というギルドのメンバーだったらしい。
そのギルドは自分の楽しみのために他のプレイヤーを殺害するレッドギルドだそうで、その話をアルゴから聞かされて漸く「そんなに危ない奴だったのか」と改めて思った。
「まさか無理やり完全決着モードで決闘を申し込ませるとはな・・・」
「ん、ああ。突然申込みが出たと思ったら後ろから手ぇ掴まれてポチっと指を押し込まれた」
「確かにブルハさんはレベル低いから力づくで押させることは出来るだろうが、イカレてやがる・・・」
「流石に肝が冷えたゾ・・・大丈夫カ?」
「咄嗟に構えたギターがぶっさされて死んだ。アスナちゃんから初めて貰った奴だから多分色んな奴に怒られる」
「ある意味重傷だナ・・・」
転移結晶で黒鉄宮に送り込まれるその男を眺めながらアルゴが呟く。
元々アルゴはラフコフメンバーをマークしていたらしい。とは言っても幹部クラスは尻尾が掴めないから末端の方から探っていたそうだが、そのうちの一人が突如この町に現れたので知り合いの腕利き2人に声をかけて追跡していたそうだ。
しかし、と男を取り押さえたプレイヤーの一人である青年が首を傾げる。
「あいつ”あの人”がどうとか”認める訳が無い”とかよく分からんことを口走ってたけど、どういう意味だろうな?」
「ン~・・・ラフコフのボスがブルハのファンだったのが気に入らなかっタ、とカ?」
「考えにくいと思います。もしそうだったらブルハさんみたいな雑魚プレイヤーなんて瞬殺ですよ」
「そうだな。ブルハさんみたいなド素人丸出しプレイヤーなんかあっという間だな」
アルゴの意見に隣の眼鏡の少女がすぐさま反論し、青年もうんうんと頷く。
分かってはいたことだが何だか情けない気分になった。反論する余地が無いのが実に悲しい。
それでも、俺はこの世界でギターを抱えて歌い続けるんだろう。
例え殺されかけても、不安には思うが結局楽器を握って歌う以外にやることが無い。
それに・・・一応、それなりに固定客が待っているのだ。待たせるのは忍びない。
だから、明日も俺は歌うだろう。
今までもそうだったし、きっとこれからも。
= =
「――それ以降アルゴに『移動するときは必ず一報伝えロ!』って口を酸っぱくして言われてな・・・だがまさかその移動情報で商売しつつ、儲けた金で俺の護衛プレイヤーを雇っていたとは知らなんだよ。なぁアルゴ?ぶっちゃけどれくらい利益出したんだ」
「さぁ、もうデータが吹っ飛んでるから確認できないナ~・・・ニャハハハ!」
「いいかユウキ。お前はあんな汚い人間にはなるなよ。綺麗な心のお前でいろ」
「え、う、うん・・・」
「・・・オイラ、傷つくゾ?泣いちゃうゾ?」
俺のSAO過去語りは別に場所を選ばない。
そもそもユウキと出会ったのも余所だから、開いた時間で突発的路上ライブの最中に会えば話をすることもある。
――最近は「ヴァーチュアル・ライブ」と呼ばれることがあるんだが、それは別のミュージシャンの専売特許だからオンラインライブとかにして欲しいものだ。
とにかくそういう訳でライブをしていたら何処から聞きつけたのかユウキがやってきて、そこに懐かしい知り合いが一人追加された。
アルゴ――確か二つ名は「鼠」だったか。顔に鼠の髭みたいな赤いペイントラインが入っている変な女の子だ。
情報屋を営んでおり、ゲーム開始当初から何かと助言を貰ったプレイヤーだ。最初は情報量だけ代金を請求されたが、本気で金が無い事を知ってからも色々情報を漏らしてくれたので根はいい奴の筈である。
ちゃっかり俺をダシに商売して元はとったようだし、俺も俺で助けられた。
ギブアンドテイクの関係だったと言えるだろう。現実世界で言えば・・・プロデューサーということになる。
「そういえばアルゴ。お前ALOでは姿見せなかったけど、今まで何やってたんだ?」
「SAOじゃない世界ではオイラみたいな情報屋は需要があんまり無いのサ。ほら、ここは閉じられた世界じゃないからネットの攻略サイトや掲示板、プレイヤー同士で幾らでも情報が広がるだロ?だから余所のゲームやってたんダ」
今日やってきたのは顔馴染が元気か様子を見に来ただけらしい。
元々SAO攻略には積極的に補助をしていたが、それはあれが命がけの世界だったからだ。
今のALOみたいなゲームではそこまでやる必要はない。
初対面であるユウキはそんなアルゴの話を元攻略組から既に聞いていたらしい。が、妙にむくれているのは何故だろうか。
「・・・アスナ達に会いに行かなくていいの?」
人見知りするような子には見えなかったが、今の彼女の声には普段は感じられない棘があった。
「それは後でいイ。時間的に一番会いにくいブルハと先に会っておこうと思ったのサ」
「むう・・・じゃあもう話せたんだから用事ないじゃん」
「オイオイ、別に話し相手を盗もうって訳じゃないんだからこれぐらい勘弁してくれヨ。カワイイ顔が台無しだゾ?」
アルゴを睨むユウキと、それに苦笑しながら潔白を示すように両手を上げるアルゴ。
ユウキの方はともかく、アルゴは彼女の事をそれなりに気に入ったようである。からかい甲斐があるとでも思っているのだろう。さしずめ今のユウキは玩具を横取りされた子供のようだ。
しかし、年下の女の子2人をはべらす大学生ミュージシャンもどきか。
実に胡散臭くて軽そうな肩書きである。今は客がこの2人しかいないからくっちゃべっても構わないが、本来は歌を歌うためにここに来たってのをこの2人は分かっているんだろうか?
「というかアルゴ・・・普段ALOやってない癖してよく俺がここでライブしてるって分かったな?」
「そりゃあ連絡取り合ってる奴もココにはいるからナ」
情報屋は伊達じゃない、とでもいうように自慢げな顔をするアルゴ。
実際彼女の腕を疑ったりはしないが、考えてみればそれでも少し妙だと思う。
「いや、今日俺がここに来たのは大学の講義が中止になったから暇が出来て突発的に来たんだ。だから俺のリアルとゲームの両方の事情を知ってない限り俺がこの時間帯にいるってことも分からなかった筈、なんだ、けど・・・・・・」
言いかけて、俺は気付いた。
ニコニコ笑っていたアルゴの頬が引き攣っている。
あからさまに怪しい。仮想世界では感情エンジンがオーバーであるため、考えていることが顔に反映されやすいのだが・・・こいつ、なにかやましい事をしているのでは。
パッと思いつく限りでは3つの可能性が思い浮かぶ。
1、現実世界の路上ライブをしている俺を発見して探偵紛いの追跡で個人情報を手に入れている。
2、俺の現実世界の周囲にアルゴの知り合いがいて、俺の行動を監視させている。
3、――
「お前まさか俺と同じ大学にいるんじゃ・・・・・・学部が違えば顔を合わせないくらい良くあることだし」
「・・・・・・何のことかナ?」
「それ以外だとお前が俺をストーキングしていることになるんだが、そういう認識でいいか?」
「スマン、さっきので合ってル。だからその話をそれ以上広げないでくレ」
自分の発言が迂闊だったことを誤魔化しきれなくなったようだ。
情報屋にあるまじき失態を恥じるように顔を赤くしながら、アルゴは誤魔化すようにニャハハと笑った。
SAOに閉じ込められた人間は政府によって手厚い保護を受けた。
それは大学生も例外ではなく、人間関係なども考慮していくつかの国立大学に集められて大学生活の続きを送っている。だから出会っていても何もおかしくはないのだ。勿論一言に大学と言っても専門分野によって様々だし、元の大学で勉学に励みたいと要望すれば融通を利かせてくれるらしいが。
案外、実年齢がばれるのが嫌で気付かないフリをしていたのかもしれない。
髪の色はゲーム内でも現実でも染められるから、特徴的な金髪も目につかないように出来る。俺の勝手な推理でしかないのだが。
(というか大学生だったのか・・・てっきり結構年下だと思ってたが)
しかし言われてみればアルゴはキリト達の前ではオネーサンぶるけど俺に対してはタメ口だった。同世代だと何となく分かっていたのだろう。
てっきり年下だと思っていただけに、ちょっと気まずい思いをしてしまうのだった。
= =
結局アルゴはその後に2,3のSAO過去語りに口を挟んで、どこかへと行ってしまった。
別れ際に「ロリコン扱いされないように気を付けろヨ!」と言われたが、小中学生にせがまれてお喋りするだけでロリコン扱いされても困る。別に手を出してる訳でもないし、この世界に出会いの場も求めてはいない。
「ズルいなぁ。その気になればいつでもリアルで会えるってズルい!」
「まぁ顔知ってる者同士ならそうなるが・・・ネット上の知り合いとリアルに会おうとするとトラブルの元だからな。だから俺の耳を掴むのを止めなさい」
「やだ!もうちょっと触る!!」
「子供かよ・・・」
「お兄さんよりは子供だからいいの!!」
ロボットのリモコンのようにグリグリと回される俺のロバ耳。
後ろから鷲掴みされてると、なまじ感覚があるだけに変に落ち着かなくなる。
痛くはないが、感触や体温まで伝わってきてこそばゆい。しかし――
「お前、ALOの友達とはリアルで会ったことあるんじゃないのか?リアルでも知り合いみたいな口ぶりだったけど・・・」
元攻略組の女子勢とは軒並み知り合いだったようだったし、てっきり既に会っているものだと思っていた。俺に会いたいなら知り合い経由でダイシー・カフェに呼び出す事くらい難しくはない筈だ。
それとも実はかなり遠くに住んでいるのだろうか?
だが、俺の問いにユウキの腕はピタリと止まった。
「色々あって、あんまり会えないの」
「ふーん・・・・・・ま、そういう事もあるか。リアルにもリアルの煩わしさってのがあるよな」
「うん。本当に・・・もどかしいくらいに、煩わしいよ」
そんなことを言いながらユウキは耳を離してすたすたと歩きだした。
その先には現実世界では見れない見事な夕焼けが輝いている。
都会の夕暮れも中々絵になるが、このゲームの夕焼けもいいものだ。
噂によるとALO世界の風景を納めた写真集が売れているという話も聞く。
そんな夕焼けを前にすると、一つあれを歌ってみたくなった。
「じゃ、ライブ前に一曲いくか」
「今日はどんな曲?」
「聞いて確かめろ。・・・なんてな」
最早リアルのギターより触り慣れた弦を弾く。
もう彼女に聞かせる曲も何曲目になるだろう。そんなことを考えながら、歌う。
物事はぜんぶはっきりしなきゃいけない訳じゃないんだ――
あやふやでいいしなんとなくでもいい、それでも幸せになれる――
いつだって俺達は独りぼっちじゃないんだってウィンク飛ばしてやるさ――
人生は夢でも幻でもない、俺達は確かに今を生きてる――
実感が湧かないんなら夕暮れの空を見上げてみると良い――
あの炎のような赤よりもっと真赤な赤が、俺達の身体には流れているんだ――
あの赤い色が俺達の身体を駆け回ってるから、俺達は好きな人を抱くことも出来るのさ――
現実世界の町を歩いていると、ふと自分がこの世界で独りぼっちになっているような錯覚を覚える瞬間というのがある。
自分だけ置いていかれている、自分だけ取り残されている・・・でも、1日経ってみればそんなものは気のせいだって思える瞬間が来るかもしれない。
だって、あの真赤な太陽を見ているのは俺だけじゃない。
地球上の数えきれなぐらい沢山の人間が同じものを見ているんだから。
「このゲームの世界の身体でしか会えなくとも繋がりは繋がりさ。この身体に血が流れて無くても、現実の身体に血が流れてるからこうして出会えるんだろ?」
「・・・・・・お兄さんってば歌で人を励ますの好きだよね。ミュージシャンってそういうものなの?」
「まぁ、俺が人を励ますような歌が好きだからな。・・・言っておくが、いつも歌で表現してる訳じゃないからな?そんなことやってたら唯の変人だ」
ラブソングを歌うのは結構だが、恋人の前でしつこく歌っても効果はないどころか引かれる、といつかクラインのおっさんが言っていた。俺もそんな奴がいたらちょっと引く。
前に風の噂で「歌いながら戦うプレイヤー」の話を聞いたが、そいつも実際に会ってみると普通の子だったし。というか、俺がミュージシャンを名乗るのはおこがましい気がする。
「いつか自分でアスナ達に会いに行くよ。その時はお兄さんにも会って、何か歌を聞かせるね?」
「おう、楽しみにしてるよ」
――今日はここまででいいだろう。SAO語りが終わった時、ユウキはどうするんだろうか。
後書き
ブルーハーツより「夕暮れ」です。
以下、裏話。(二回ほど書き直し)
主人公はアルゴP(プロデューサー)が育てた。みたいな話です。録音結晶からスケジュールの売買まで手広くお金を稼いだアルゴですが、実際には儲かったお金でブルハを可能な限り優遇しました。ブルハの収入はおひねりともらい物しかなく、宿泊と食事の代金は他人任せでした。で、その世話を専ら焼くのがエギル。宿を提供したり食事代を出したりしていました。その宿代と食事代を工面していたのが、ブルハで商売していたアルゴです。この3角関係でブルハの生活は成り立っていました。
また、実はアルゴに大量の転移結晶を貰っていたブルハは街の移動をたまに結晶で行っていました。最初は転移門使ってたんですが、30層攻略あたりからブルハの追っかけみたいなことをする人が出始めて、転移門待ち伏せ事件があったという感じです。厄介そうな人がいたら転移結晶、面倒くさかったら転移結晶。本人は決勝が効果であることに実感なしでした。
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