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ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語

作者:マルバ
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インフィニティ・モーメント編 主人公:ミドリ
壊れた世界◆ミドリという男
  第五十二話 Midori-MHCP003

「ミズキさんは、まちがいなくミドリさんの中で生きています。私たちMHCPにはプレイヤーの癖などを再現する機能はありませんので、それは確かです。思考する機能を失ったミズキさんの脳に、ミドリさんの思考能力(AI)が宿った結果、それが今のミドリさんなのだと思います」
 まさに信じられない話だった。理解できないものに対し感じる本能的な恐怖感に呑まれながらも、だれもがその仮説を理解しようと頭を働かせた。マルバがまず尋ねた。
「ちょっと待ってよ。ミドリの意識だけがAIで、アバターを動かしているのがミズキの生体脳だってこと?」
「そのとおりです。ちょっとまっててくださいね……今、ミドリさんの脳波を分析して、脳のどの部分が働いているのかを示す立体図を出しますので」
 ユイがミドリの端末にアクセスして情報を取り出そうとすると、ミドリが顔をしかめた。
「なんかすごく気分が悪いんだが……」
「ごっ、ごめんなさい! そうでした、ミドリさんの意識が端末上のAIってことは、私の今の行為は頭の中に手を突っ込んで引っ掻き回しているようなものですね。すみません、すぐ終わりますので、ちょっとだけ我慢してください」
「……悪ぃ、もう無理だ」
 ミドリがそう言った瞬間、バチッと鋭い音がして、ユイが何かに押されたように軽くのけぞった。キリトがその背中をあわてて支えた。
「つぅ……弾かれてしまいました。得られたデータはこれだけですね」
 ユイが手をかざすと、その場にホログラム画像が浮き上がった。人間の脳を模したその図は大部分が淡く発光しているものの、ところどころに不自然にぽっかりと黒い穴があいているのが見てとれた。
「光っている部分が生きていて、ミドリさんの意識に応じて反応を示した部分です。黒い部分は反応がない部分で、おそらく組織的に死んでいます。前頭葉の一部が大きく死んでいますが、この部分がないとヒトは意識を保つことができません。一方、脳の大部分が反応を返している以上、ミズキさんの脳は活動を続けています」

 ミドリが自分のあごをなでた。その動作は確かにミズキの癖だった。
「……思い出した。――俺はこの男を助けなければならなかったんだ。でも、彼に接触することはできなかった。禁止されていたからだ。だから、俺は……俺は、俺を見張ってる奴の目を盗んで、俺の持つ力すべてを使って――この世界に現れた。俺はずっと、あいつのすぐ側で、あいつを支え続けてきたんだ」
 マルバが、彼の言わんとすることを悟った。ミズキと共にいて、彼を支え続けた存在、それは――
「君は……フウカ、だったのか」
「違う。俺はフウカの――言うならば、『親』だ。俺はフウカを生み出して、フウカを通してあいつを助けていた。……プレイヤーに接触できず、俺は何もできなかった。だから、俺は俺に与えられた権限を拡大解釈して、俺への監視が緩んだ瞬間を見計らって、あいつの前に非好戦型モンスターを出現させた。それ以来ずっと、俺はあいつの側で、あいつを支え続けてきたんだ」
「だから、フウカはいつもテイムドモンスターの域を超えるような行動をしていたのか……」
「そうだ。俺はあいつに危険が生じた時、あいつに手助けをした。直接何かができるわけじゃないから、フウカを通してあいつに手を貸していたんだ。戦闘の時ばかりじゃなく、あいつの精神が不安定になるたび、俺はあいつの側であいつを支え続けた。あいつはいつも俺に護られていたんだ」

 真相が明らかになったが、それはあまりにも非現実的だったため、その場のだれもが完全には認められないでいた。そんな中、窓ガラスを外側からつつく音がコツコツと響いた。ミドリがハッとして窓ガラスに駆け寄り、音を立てて引き開けると……ガラスの向こうに居たのはフウカだった。ばさりと翼を広げると、大きく羽ばたき、ミドリの肩にその鉤爪を食い込ませた。タイミングを見計らったような登場に、ミドリを含めた全員がポカンとしてフウカを見つめた。
「お前は……お前を散々利用したこの俺を、まだ信頼してくれるのか」
 ミドリの問いに対し、フウカは一声鋭く鳴いた。ミドリは顔を伏せ、しばらく何も言わなかったが、やがてぽつりとつぶやいた。
「……ミズキを護っていたのは、俺じゃなく――こいつだったのかもしれないな。こいつの存在を俺は過小評価していたのかもしれない。こいつは――俺の力が及ばなかったせいで主人を失ったっていうのに、それでもまだ俺についてきてくれる。ああ、一体なんて暖かいんだ――」
 ミドリの頬を涙が伝った。その感情がミドリのAIからくるものなのか、ミズキの生体脳からくるものなのか、そんなこととは何の関わりもなく――その場にはフウカの暖かさに涙する一人の男だけがいた。これが真実だった。ミドリがどんな存在だろうと、彼は等身大の人間にすぎなかった。マルバたちはわけのわからない存在であるミドリに対し感じていた、漠然とした恐怖感が無くなっていくのを感じた。


「ミドリ、もしよかったら私たちと一緒に来ない? マルバたちと一緒に居れば、きっといろいろ思い出せるだろうし」
 それでいいよね、とサチはマルバたちに視線を向けた。マルバとシリカ、アイリアは同時に頷いた。ミドリはしばらく躊躇っていたが、ついに顔を上げた。

「――俺は、ヒースクリフを倒した英雄じゃない。君たちと長い間一緒に過ごした仲間でもない。それでも……この俺と一緒にいてくれるなら、俺は君たちと一緒にいたいと思う。受け入れて、もらえるだろうか」
 それに対し、マルバは――首を横に振った。
「違う。君はフウカを通して、いままでずっとミズキを、僕たちを支えてくれていた。君は前から、僕たちの大事な仲間だったんだよ。ただ僕たちが君に気づいていなかっただけだったんだ。だから、君が帰ってくれば僕たちは大切な仲間を一人、取り戻したことになる。もう、ミズキは帰ってこないけれど……僕たちは残された仲間との絆を大切にして、これからも生きていこうって決めたんだ。おかえり、ミドリ。僕たちは、君を歓迎するよ」
 マルバは右手を差し出した。ミドリは驚いてマルバの顔を見つめ、そして照れくさそうに笑い、マルバと堅く握手を交わした。 
 

 
後書き
ミドリは結局《月夜の黒猫団》の一員に加わり、マルバとシリカの奇襲部隊の一人として戦闘で大活躍をするわけですが、それはまた別の話。

次の山場は100層のラスボス戦なのです。シノンの話なども入れて二つか三つくらい別の章をはさんだあと、SAO編クライマックスに突入する予定です。

以前お知らせしたとおり、この話は一旦ここで更新終了となります。いままで読んでくださったみなさん、本当にありがとうございました。また更新再開する予定はありますので、ご期待いただければ幸いです。アリシゼーション編は絶対書きたいと思っておりますので。またよろしくお願いします! 
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