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『八神はやて』は舞い降りた

作者:羽田京
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第4章 戦争と平和
  第32話 滅びのバーストストリーム

 
前書き
・フリードはでてきません。 

 
「ん?ゼノヴィアは、どうして駒王学園に残っているのだい?」


 数日前、紫藤イリナは、5本のエクスカリバー――の破片を手に、教会本部へと帰って行った。
 その笑顔は、引きつっており、虚勢を張っているのが丸わかりだった。


 ――エクスカリバーを折られ、神の不在を知らされた。


 熱心な信徒としては、激しく動揺しても仕方ないのかもしれない。
 とはいえ、より強い信仰心を得ることで、無理やり平静を取り戻していた。
 衝撃の余り転生悪魔となったゼノヴィアと比べて、どちらが正しいのだろうか。


「ああ、少し思うところがあって、な。学園生活に興味があったから、教会本部に頼んで転校させてもらったのだ。いまは、転生悪魔としてグレモリー眷属になっている」

「グレモリー先輩から、話だけは聞いていたが。実際、目の当たりにすると、驚くよ。紫藤イリナは、そのまま帰ったのだろう?」

「……そうだな。それについては、彼女に申し訳なく思う」


 歯切れ悪くごまかそうとするゼノヴィア。
 ボクたち八神家の面々は、コカビエル戦では不在だった。
 ゆえに、現場におらず神の不在を知らない――ことになっている。
 したがって、『神の不在がショックで悪魔になった』と本当のことを明かせないのだろう。
 実際は、原作知識とサーチャーからの情報で筒抜けだったが、彼女たちが知る由もない。


「そうか。同じ学び舎で生活する仲間だ、仲良くしよう。これからもよろしく、ゼノヴィア」

「こちらこそ、よろしく頼む、八神はやて」

(それにしても、貴重なデュランダルの使い手をみすみす手放すとはね。天使陣営は、神の不在をよほど知られたくなかったのか?)


 白々しい台詞とともに、ゼノヴィアと会話にいそしむ。
 悪魔となった彼女と親しくするつもりは全くないが、おくびにも出さない。
 不慣れな転校生に優しく接する優等生として、振る舞うことにする。


「いろいろと為になる話をありがとう――八神さん」

「裏の関係で世話になるだろうからね。もちつもたれつ、さ」

(いや、事件を解決した報酬かもしれないな。同盟を組む対価の可能性もある)


 笑顔で別れの挨拶をすませ、次の授業の準備をする。
 まだ出会って数日の仲だ。
 原作の登場人物ではあるが、とくに親しみは湧かない。


 ――短い間つきあいになるだろうけどね


 最後の小さな呟きは、誰にも聞こえることはなかった。





 そこは、冥界のとある無人地帯の平原「だった」


 だが、いまや見る影もない荒野のごとき有様になっている。
 あちこちにクレーターができ、辺り一面が、むき出しの地面に覆われている。
 近くに寄れば、激しい戦闘の跡が、なまなましく刻まれていることが分かる。


「白龍皇の俺とここまでやりあえるとはな。人は見かけによらない典型例だ。口だけの女ではなかったか――八神はやて」

「お褒めにあずかり、光栄だよ。『歴代最強の白龍皇』という看板は伊達ではなかったようだね――ヴァーリ・ルシファー」


 主の傍らで、会話を聞きながらも、シグナムは先ほどまでの光景を思い出していた。


(凄まじい試合だった……)





 リインフォースとユニゾンすることも考えた。
 が、軽々しく見せるわけにはいけない、と却下している。
 八神はやてと、白龍皇ヴァーリ・ルシファーの試合。
 両者の戦いは、熾烈を極めた。


 試合の開始と同時に、はやては、騎士丈シュベルトクロイツを手に突撃した。
 魔道師タイプだと思っていたヴァーリは、一瞬だけ反応が遅れる。
 その一瞬を突いて、全力の突きを放った。
 鎧で、跳ね返し反撃しようとしたヴァーリだったが、あまりの衝撃に吹き飛ばされてしまう。
 魔法による身体強化を使った予想外の重い一撃に、驚愕の表情を浮かべていた。


 ヴァーリを吹き飛ばしたはやては、反動を利用し飛行魔法『スレイプニール』を行使。
 射撃魔法をばらまきながら、全速力で、距離を取る。
 しかし、ほぼ無傷の状態で、復帰したヴァーリが、素早く間合いを詰めようとするも――


「クラウソラス・ファランクスシフト」
『Claiomh Solais Phalanx Shift』


 直射型砲撃魔法を瞬時に大量展開し、数千発にも及ぶ砲撃で面制圧を試みる。
 逃げ場がないヴァーリは、被弾覚悟で、威力を白龍皇の力で半減しつつ進もうとするが、衝撃までは殺せない。


 ――『Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide!』

「くっ、威力もあるが、それ以上に衝撃が厄介だ!」
『ここまで苦戦するとは。見かけによらずエグイ戦い方だな』

「だが、俺はあと変身を二回残しているッ!」

(ヴァーリ、お前変身なんてできたのか?)

(禁手化で1回目。覇龍で2回目。どうだ、かっこいいだろう)

(……)


 このままでは、距離が離されてしまう。
 不意を突かれたが、相手は、間違いなく遠距離射撃タイプ。
 いまのまま離されては負ける、と直感した。
 砲撃がまき散らした噴煙のなかから、現れたヴァーリは禁手化していた。
 ヴァーリの発言を聞いて、驚いたようにはやては口を開く。


「キミも変身できたのかい!?実は、ボクも2回変身できるんだ。いまは、第二形態だけどね」


 なんだか、とても嬉しそうだった。
 その後、戦いは白熱した。
 距離を離そうと、砲撃を乱れ打ちするはやて。
 彼女と白兵戦に持ち込もうとするヴァーリ。
 どちらも致命的な一撃を与えることができず、千日手の様相を示してきた。
 ヴァーリは、相手を強敵と認め、予定になかった切り札を使うことにする。


『我、目覚めるは──』
(消し飛ぶよっ!)(消し飛ぶねっ!)

 それは覇の呪文。
 ヴァーリの声と重なって歴代所有者の怨念混じりの声が響く。

『覇の理に全てを奪われし二天龍なり──』
(夢が終わる!)(幻が始まる!)

『無限を妬み、夢幻を想う──』
(全部だっ!)(そう、全てを捧げろっ!)

『我、白き龍の覇道を極め──』

『『『『『『『汝を無垢の極限へと誘おう──ッ!』』』』』』

『Juggernaut Drive!!!!!!!!!』


 秘められた力を解放した白龍皇は、雨のように降りそそぐ砲撃をものともせず、急接近する。
 しかし、ある程度、距離をとることに成功したはやては、砲撃魔法の嵐の中で、詠唱を開始していた。
 ヴァーリが覇龍になったことで、彼女もやる気になっている。
 詠唱が完了したときは、ちょうど砲撃が鳴り止んだ頃――だが、ヴァーリは未だ追いつけない。
 

「滅びのバーストストリーム!!」
『Ragnarok』


 原作はやての最大魔法『ラグナロク』――彼女曰く滅びのバーストストリーム――を展開し、放つ。
 この直射型砲撃魔法は、効果の異なる3連撃を放ち、着弾と同時に周囲を巻き込み破壊をもたらす。
 強力な広域せん滅魔法であり、一撃で駒王町を廃墟にできる。
 それを、直前まで連射された砲撃魔法の影響で、ヴァーリが硬直した瞬間に放った。
 キノコ雲を量産し、土煙が晴れたときには辺りは、世紀末の様相を呈していた。





「まさか、ここまで強いとは思ってもいなかった。単純な力比べでさえ、ありえないほどの力だった――ちんちくりんのくせにな」

『しかし、本来の姿は、小学生にしかみえん。おそろしい女だ』

「……ぐっ!人が気にしていることを言わないでくれ」


 戦闘が終わり、いまは和やかに会話している。
 全力の戦闘中は変身魔法が維持できないため、はやては本来の姿だ。
 つまり、9歳女児にしかみえない。
 主が、ヴィータと愚痴り合っている姿を、シグナムはよく目撃していた。


 結局、ラグナロクを発射したところで、試合はお開きになった。
 あの砲撃の中でも、ヴァーリは無事だった。
 しかし、結界が耐えられなかった。
 はやては、この程度の模擬戦なら、変身魔法を解くまでもなかったなあ、と少し後悔していた。


「主はやて、そろそろ場所を移しませんと、堕天使の連中に気取られる可能性があります」

「シグナム?……ああ、そうだった。結界がもたなくてドローとはね」

「いい戦いだった。久々に全力で戦えて満足だよ」

「ボクもいい肩慣らしになった。ただ、本気のヴァーリと戦えないのが、残念だよ。キミも、まだ切り札を隠し持っているだろう?」

(まさか、『覇龍(ジャガノート・オーバードライブ)』まで使用してくるとは、思わなかった。あれは、かなりのリスクを伴うはずだが……。ただの模擬戦で切り札を使うはずがない。つまり、彼には奥の手があるはず)


 覇龍は命を削る。軽々しく使っていいものではない。
 それをためらわずに使ってきた。つまり、覇龍を上回る切り札があるはずだ。
 そのように、はやては解釈した。


「へ?そ、そうだとも。えーっと、そう。本当は全力を出したかったんだが、膝に矢を受けてしまってな……。あー、残念だなー」

(覇龍まで使っておいて……ほぼ全力じゃないか)


 テンパるヴァーリ。珍しい姿だった。
 突っ込んでくるアルビオンに、黙っていろ、と小声で注意する。
 ヴァーリは、本気で戦っていた。全力で戦える敵と久々に会って興奮していた。
 しかも、相手は自分よりも強いときた。
 本来のヴァーリなら、目指す目標ができた、と言って喜んだだろう。
 しかし、きらきらと目を輝かせる幼女に、今更「いや、俺実は全力だったんだ」とは言えなかった。
 俺がこんなつまらないプライドを持っているとはな、と驚きと共に内心独り言ちる。


「それに、あと二回変身を残しているんだろ?いやあ、ボクだけ第二形態だったので、ちょっと申し訳ないね」


 はやては、覇龍までしたヴァーリを第一形態と思い込む。


「い、いや。覇龍状態が、第三形態なんだ……」
 

 ヴァーリが言いづらそうに話すと、申し訳なさそうにはやては黙った。
 顔に、えー、つまんなーい、と書いてある。
 いたたまれなくなった。
 雰囲気を変えようと、強引話題を転換する。


「そ、そういうはやても、あれが全力ではないだろう?」

「うん。お互い肩慣らしには十分だったな」

「あー、うん。そうですね」

(やっぱり、あれで本気ではなかったのか)

「ボクらくらい強いと、模擬戦の相手に苦労しているんじゃないか?」

「よ、よくわかったな。いつも手加減が必要だったから、ストレスが貯まってしょうがない」

「ボクもさ。ちょうどいい練習相手ができて感謝している」


 はやては、しみじみという。
 ヴァーリは内心冷や汗をかいていた。


(実際、助かったな。『覇龍』状態のヴァーリ・ルシファーが相手ならば、『本気の3割』くらいで互角か。向こうも本気ではなかっただろうが)

「ははっ、そうだな。あらためて、ヴァーリ・ルシファー、今代の白龍皇だ。これからよろしく頼むよ、八神はやて」

「こちらこそ、世話になる、ヴァーリ・ルシファー。ボクは、八神はやて。夜天の王を名乗っている。いつもは、姿を変えているので間違えないようにね」


 お互い笑みを浮かべながら握手を交わす。
 全力ではないとはいえ、暴れることができて、主は嬉しそうだ。
 笑顔の彼女を見て、シグナムは、こわばっていた肩の力が抜けていく。


(白龍皇の力は凄まじかった。こちらと違って、向こうは非殺傷設定などないからな。万一に備えていたが、杞憂に終わってよかった)

(わたしもホッとしているよ、烈火の将)

(リインフォースか。実際のところ、主はやては、どこまで全力だったのだ?)

(ほとんど全力ではないな。マスターは、力の半分も出していない。おそらく、全力で戦えば二天龍を凌駕できるだろう)

(……っそこまでなのか。悔しいが、現在の私たちヴォルケンリッターでは、主を守ることができないのか)


 口惜しそうに、シグナムは念話で会話する。
 はやての実力はとびぬけている。
 技術では、いまだヴォルケンリッターに劣る。
 しかし、ありあまる魔力と身体強化によってゴリ押しすれば、はやてが勝つ。


(いいえ。マスターは、烈火の将たちの考えをお見通しの様子。貴女たちの強化計画を考えてあるそうだ)

(ふっ。そうか。主はやてには、敵わないな。臣下を――家族を心から大切に思われている。ならば、忠義をもって、主の信頼に答えるのみ)


 ヴァーリと仲良く話しているはやてを見て、彼らを味方にするのか、とリインフォースは尋ねた。
 しかし、彼女の答えは、否だった。


『彼らと慣れ合うつもりはないよ。どうせ短い付き合いだしね』


 彼女は、なおも続ける。


『ボクたちが起こす戦争は、彼らの望む戦争とは異なる。だって――』


 ――――戦争ではなくて虐殺なのだから


 主はやては、淡々と無表情で告げた。
 主なりの覚悟の現れなのだろう。あえて、「虐殺」と表現した。
 しかし、シグナムは見逃さなかった。
 憎悪を燃やす主の瞳に隠れた淡い感情は――苦渋と寂寥。 
 

 
後書き
・はやての戦闘力は53万です。 
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