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【短編】竜門珠希は『普通』になれない【完結】

作者:水音
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実は自分が一番酷いとかよくある話

 
前書き
 高校生の頃のお話、たぶんこれで終わり。
  

 
 
 ――結局、珠希は夏穂の依頼を丁重に断った。その代わりとして、参加することにした美緒と夏穂に東京案内を任され、ご飯を奢ることでその場を流した。

「さて、と」

 グループトークも終わり、珠希は改めて知人にセッティングしてもらったファンシーピンクのPCに向き直ると、新たに(・・・)フ○トショップを開き、夏穂の同人誌サークル『ユズリハの庭』の最新刊の末尾に贈るゲストイラストを描くことにした。

 もとより住所も年齢も離れている珠希と美緒と夏穂は同じ時期にその『名前』が知られ始めたのがきっかけで知り合った。

 【竜門珠希】が【天河みすず】名義で父親の勤めるメーカーの作品で原画家デビューを果たした頃、【百地美緒】こと【和紗愛理】は大手の別ブランドの作品に初参加ながら売上目標を大きく更新する貢献を見せ、【速水夏穂】は所属ブランドの移籍とともに名義を【青軸ユズリハ】に変えて再スタートを切っていた。
 当時はもちろんそれぞれの正体が『普通』じゃない家族を持つ現役女子高生と田んぼも畑も漁船も持っている家のフリーター娘と少女漫画家の夢を諦めた子持ち人妻名古屋嬢だとは思いもよらなかったが。

「んーと、このキャラのここって何色だっけ?」

 夏穂――【青軸ユズリハ】が今年の夏コミで出す新刊同人誌の原作キャラを描こうとして、そのキャラの服に使われている色を忘れてしまった珠希はもう1台の白いデスクトップから画像検索をかける。
 同時に、自らの――原画家・イラストレーターとして名の知られている【天河みすず】の――仕事を今は全うしようと、大学受験に際して減らした仕事の仕上げに入った。



  ☆  ☆  ☆



 竜門珠希は『普通』の少女になりたかった。


 彼女が『普通』ではない理由は明白。

 父親は当時中学生だった珠希をergの原画家としてデビューさせやがったerg制作者で、
 母親は調教・NTR(寝取られ)・レズを得意ジャンルとする著名な官能小説家。
 一人暮らしをしている兄は声優好きが高じて声優と知り合える(可能性がある)職業――レコーディングエンジニアなんぞになってしまい、
 妹は小悪魔的性格と手先の器用さを多大に利用して中学生ながらコスプレイヤーになってしまっていた。

 そんな珠希自身もまた、現役の女子高生をする傍らで原画家・イラストレーターとして【天河みすず】名義で仕事をしていた。X指定やモザイクがあろうとなかろうと問題ない。これでも家庭用ゲームのキャラデザをしたこともあり、その作品が大ヒットしてくれたおかげで珠希には続編のキャラデザの仕事が舞い込んできている。立派な収入としての版権使用料などと含めて、だ。
 そのうえで家事もこなすのだから、真っ先に青春やら恋愛が犠牲になっていたりするのだが、それに珠希本人が気づいているのかどうか疑わしいところではある。


 つまるところ、もはやこの家族で誰が一番『普通』なのかわからない。
 それでも、珠希はそれなりにいいことと悪いことがある、平凡な毎日を望んでいた。
 父に頼まれてergの原画を描くのも、母の手伝いでSMプレイの真似事をするのも、妹に泣きつかれて徹夜で縫製を仕上げるのももう御免だった。


 これからの人生、あたしはあたしのために使ってやろう。


 こうして珠希が企てたのは大学受験を利用した「家族からの脱出」だった。




     おわれ


  
 

 
後書き
もう疲れたよパトr……

私にコメディは無理だからシリアスなのが書きたくなってきた。
それじゃ、この話の続き(本編)はある程度満足するくらいまでストックが溜まったら公開(どこに公開するかは言っていない)

なお私の好きな原画家トップ3は和泉つばす、月杜尋、恋泉天音。
知らない人は18歳以上になってからググってね。 
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