【短編】竜門珠希は『普通』になれない【完結】
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家族からのFAを検討中
前書き
高校生の頃のお話、もうちょい続きます。
この現代、昔ながらの――複数世代の家父長制を敷く――家族形態をしているほうが少ないのだと思う。核家族にシンママ、シンパパも珍しくないし、別姓もそれはそれでありだと珠希は思っている。それ以前にまだ現役女子高生の珠希は選挙権がない。
しかし――いや、いくら家族のあり方が変わったからといっておかしな父親や母親が増えていい理由にはならないだろう。義務を果たして許可をもらえばあとは自己責任で自由と権利を主張できるのが大人だと思っているだけに、珠希は自身を産み落とした父と母の姿を本気で尊敬できなくなっていた。
「あぁ……。やっぱたまんないねー。○疋屋のフルーツゼリー」
「さすが暁斗くんだよ~」
リビングのソファーにゆったり腰を下ろし、嫌いなピーマンを食べきったご褒美の意味合いも兼ねたデザートを頬張る妹・結月と母・彩姫。母親が現役中学生より会話レベルが下とは本当にこの世も末だと思いたくなる光景を前に、現状この竜門家で一番常識的に物事を考えて行動できる珠希は渋い表情を浮かべていた。
ちなみに兄の暁斗はただ今入浴中。女性声優マニアが高じてレコーディングエンジニアなんぞになってしまった漢の入浴シーンが見たい奴は遠慮なく作者にリクエストしてほしい。作者が吐き気と戦いながら書く……と思う。
「どうしても厳しいか?」
「厳しいに決まってるでしょ」
母と妹がリビングでスイーツを噛みしめている――ゼリーだから噛み締められるのかは指摘しないでほしい――その一方で、実年齢より10歳は若く見えるナイスミドルが顔の前で両手を合わせて拝み倒そうとするのを、珠希は綺麗さっぱり却下した。
「だがな、これは――」
「お父さんはあたしの進路と仕事とどっちが大事なの?」
明日の分のご飯を研ぎながら、なお食い下がってくる父・大樹を前に珠希は女性お得意の論法を持ち出した。
――とはいうものの、「カノジョと仕事、どっちが大事なの?」と聞かれたところで、ベクトルが違うものを天秤にかけても答えが出るわけがない。大切なカノジョと一緒にいるためにも今目の前の仕事をこなさないといけないのが現実なのだが、カノジョの不安や苛立ちをごまかすのに一回のハグやキスより百回の愛の言葉で済むのなら脳がトロけるくらい耳元で囁ける男性も中にはいるだろう。
だが珠希の場合、愛の証明より先に自分が背負った義務を果たしてこいと尻を蹴り飛ばしている。愛は愛か憎悪にしかならないが、金は形のあるなしにかかわらずいろんなものになりえる。これが幼少期から実践的に金銭感覚を鍛えられてきた珠希の考えだった。
なんとシビアで寂しいことか。これでは異性を見る目も厳しくなるというものだ。
「そりゃあもちろん、しご……進路だろう?」
ねえマイファザー。今さりげなく「仕事」を選びかけなかった?
今、「し」の次に「ん」じゃなくて「ご」の発音が聞こえたのは気のせいかな?
「そうだね。お父さんの言うとおりだよ。学生の本分は勉強だよね」
「あ、ああ。そうだな」
「だからね、あたしもそんなに手伝えるほど暇じゃないの」
そう。珠希は現在高校3年。そして今は6月。本来であればこうして家事をしているバヤイではない。
珠希の通う高校は進学校という校風ではないが、大都市圏の難関大学目指して春のうちから予備校や進学塾に足を運んでいる同級生がいるくらいだ。珠希の友人の中にも既に夏期講習などを含めて夏の計画を立てている面々がいる。
しかしながら、暇じゃないと言いながらLPが溜まるまで中断しているスク○ェスの代わりにスマホでモン○トを始めるような奴が何を言っても説得力は皆無である。
「外注扱いでもダメか?」
「賃金の問題じゃない。てか、あたしは元々部外者だっつーの」
若気の至りか何の過ちか、珠希は以前に軽いアルバイト感覚で父の仕事の手伝いをしたことがある。実際に父親のポケットマネーからという扱いで報酬ももらっている。だが珠希が手伝った品物が予想外の高評価を得たため、連休や夏休み・冬休みなどにも何度かこうしてお願いをされることがあった。
とはいえ、今年は断固として断る理由がある。
「てかさ、あたし今高3だよ? これから大学受験があんの。それ理解してる?」
「え? 大学行くっての本気だったのか?」
……なん、だと……?
去年の夏に当時の担任交えて三者面談したのはいったい何だったのか。父の何気ない発言に軽い衝撃を受け、思わず意識どころか霊圧までも消えかけた珠希は、米ぬかで白くなった水ごと研いだ米を捨ててしまいかけた。
が、実際去年の夏に三者面談に姿を見せた保護者は父ではなくいつもの「仕事したくない病」を発病させた母・彩姫であり――もしかしてとは思っていたものの――今さらながら父と母の間で珠希の大学進学の件について完全な意思疎通が図られていなかったことが発覚した。
「えっ? おねーちゃん大学行くつもりだったの?」
「ウソっ!? 珠希ちゃん。お母さん、そんな話聞いてないんだけど」
父との話が聞こえたのか、結月と彩姫も驚いた顔で――ゼリーを口に運びながらではあるが――珠希のもとに駆け寄ってきた。
「ちょい待て! お母さんの発言はおかしい!」
「おかしいって、何が?」
「アナタあたしの三者面談に出たでしょうが! そんときあたし先生の前ではっきり言ったよね? 進学希望だって、4大行くって」
「え? 言ったの珠希ちゃん」
「言ったの、じゃねえぇぇぇッ!!」
ヤバい。何なのこの母親。思い切りストライ○ショットぶちかましたいんだけど。
珠希は認知症になるには精神年齢が若すぎる母親の都合のいい記憶力にそれ以上返す言葉も失っていた。
「どうしても厳しいか?」
「厳しい」
「でも珠希、俺はお前が勉強しているところを一度も見てないんだが」
「アナタたちが少しでも家事をしてくれればいくらでも見せてあげますけど? ん?」
勉強はやらなくても最低限この世は生きていける。だが家事は――特に食事はしなければ生きていけない。意図も何も隠さないで珠希が笑顔で尋ねると、大樹も彩姫も結月も即座に視線を逸らした。
だがこの長女、今ではまったく手元を見ずに器用に水を捨てては替えて米を研げるほどに家事スキルのゲージを振り切ってしまおうとしている。
「とにかく、あたしはもう無理です。外注するだけの予算もないとか?」
「いや、それは余裕だ」
「だったらいいじゃん。フリーの大御所は無理でも、和紗愛理とか青軸ユズリハとか最近の有名どころ引っ張ってくれば?」
「珠希、お前なあ。和紗愛理も青軸ユズリハも超多忙すぎるだろうが」
大樹は腰に手を当てて呆れた溜息を吐くが、そんなの珠希は百も承知だ。承知の上で言ってやっただけだ。二人のブログやツイッ○ー、ピ○シブやインス○グラムまで珠希はお気に入り登録しているのだから。
「だからって『天河みすず』には頼まないでよね」
「シナリオが紅梓でもか?」
「え? マジで!?」
「紅梓」――珠希が生まれてこの方一番熱中したゲームのシナリオライターのPNだ。
珠希が初めてその名前を知ったときはまだ名前が認知され始めていた頃だったが、珠希がプレイしたゲームの爆発的ヒットによって一気に有名ライターに名を連ねるようになった人物でもある。
「紅さんがシナリオやるの?」
「ああ。しかも6割がた完成しているらしい。それにな――」
ああ、もう。どうしてあたしはこうなんだろう。
大樹から話を聞いた珠希は思わず頭をかきむしりたくなった。
「だから、やってもらえないか?」
「うぅ……。でも――無理」
「本気か? こんなチャンスそうそうないぞ?」
頭がオーバーヒートしそうなほど葛藤したものの、断ることにした珠希に大樹は目を見開き、心底驚いた様子で尋ねてきた。さすがに娘がファンになったシナリオライターと同じ作品制作に関われるとなれば乗ってきてくれるだろうという目論見が見事に外れたのだから無理もない話である。
「わかってる。それはわかってる……けど、今のあたしには別にやるべきことがあるの」
「でもさ、おねーちゃんは大学行くって言ってるけど、どこ大にいくの?」
「それを確認するための三者面談でもあったはずなんですけどねえ、去年の夏に顔見せた方は何も覚えてないようだから……」
結月の問いに、珠希は嫌味ったらしくゼリーを頬張る母親を恨めしくにらみながら答える。
「まさかおねーちゃん、この家出るとか?」
「さあね。それを含めて全部検討中」
「それは私としては困るなあ」
「お母さんもよ」
大学進学に伴う珠希の一人暮らしの可能性が浮上したことで、まったく家事に参加してくれない女二人が口を尖らせる。
なぜならこの竜門家のシステムキッチンも冷蔵庫も掃除機も洗濯機も、ほぼすべて珠希の希望・要望で揃えられている。細かく言えば庭に散布する除草剤や衣類用洗剤の買い置き、食器棚内部の食器の配置まで珠希が決めていて、土倉内部の整理に至るまで珠希がやっていたことすべてが一気にのしかかってくるからだ。
そこまでやってのける女子高生のほうが凄いとは思うが、もはやこの家事万能娘にそんなツッコミは野暮というものだ。
「そんなに嫌ならお兄ちゃん呼び戻したら? この家からだって車使えば都内のスタジオには通えるでしょ。それでもって言うんなら大海伯父さんとか呼べばいいじゃん」
「アニキをか?」
「お義兄さんは勘弁してほしいなあ、お母さんは」
「私あの人厳しくて嫌いなんだけど」
珠希が伯父――父の兄――にあたる竜門大海の名前を出した途端、彩姫と結月の顔がそろって渋くなった。しかも実弟の大樹の顔までも。
しかしながら、珠希は三人が顔をしかめる理由もわからないでもない。何がどうしてあんな伯父の弟があんな父親なのか、外見は父同様に若く見える珠希の伯父は現在、県の教育長なんて因果な仕事に就いている。
本当、何がどうして教育長殿の弟が娘に仕事の一端を依頼するようなことをしているのか――。
「珠希。本当にお前には負担かけっぱなしで申し訳ない」
「え? いや、今さら?」
謝罪などもはや珠希には不要であった。少なからず家庭が裕福なこともあったおかげで家事スキルを万遍なく鍛えられただけあって、もう一人暮らしするのに不安などないくらいだ。その点ではむしろ感謝こそしている。
ただし、謝罪される点においては心当たりが多すぎて迷うのも事実だった。
「お母さんからも、ごめんなさい。確かに幼い頃から珠希ちゃんには負担かけっぱなしだったわ。執筆の資料だからって理由つけて、亀甲縛りの練習台になってもらったりとか結月ちゃんとカラミさせたりとか――」
「うわぁぁぁ! それは黒歴史だからやめてぇぇぇッ!!」
「お母さん。それは私にとっても黒歴史なんだけど」
さらっと衝撃発言を吐き出す彩姫に、結月はあきれ顔だったが、珠希は思わず叫ぶ。
確かに小学生の頃、ちょっとした手伝いだと言われて荒縄を巻き付けられても首を傾げるだけで、結月と姉妹レズ一歩手前までやらされた後などしばらく結月とお互い顔を合わせづらかった。本当、当時の自分の無知を呪いたいし、思い出せば泣きたくなる。
「ほんとごめんなさい。もう少し早く珠希ちゃんを調教してあげられたら」
「そんな……ってオイ、あたしは調教されたかねーんですけど?」
しかも同性から、ましてや相手は実の母親。そして確実にM調教される。
何も知らない人からすれば姉妹に見えるとはいえ、実際、SM母娘レズなんて誰得だ?
そもそもこんな内容はX指定かかるんじゃないのか?
「じゃあ男性からならいいの?」
「それも御免こうむる。てかアンタもっとまともな恋愛図は描けんのか?」
「やだ珠希ちゃん。お母さんの書く小説のジャンルくらい知ってるじゃない」
「えーそーですね。確かに得意なのは調教・NTR・レズでしたね」
年甲斐もなく恥ずかしがって顔を赤らめる彩姫から視線をそらし、珠希は溜め息まじりに嫌味を吐く。もっとも、この母親にそんな嫌味など通用しないのはわかっていることだったが。
「あの……さ、おねーちゃん」
「いい。結月から謝られることなんてないし」
「でも――」
「いいの、別に」
こんな謝罪と同時に黒歴史が掘り返されるならそんな話もこれにて終了だ。
とりあえず米研ぎも終わり、タイマーもセットした。明日のお弁当の下準備もしてあることを確認した珠希はスマホやらタブレットやらの荷物を抱え、それ以上家族とは何も話さずに自室に戻った。
☆ ☆ ☆
自室に戻った珠希はタブレットをベッドに放り投げると即座に部屋の角に合わせてL字型になっている机の上にあるPCを2台とも立ち上げる。
先に立ち上がったのは20インチのワイドスクリーンを持つファンシーなピンク色のデスクトップ。家族にすら死んでも教えられないパスワードを打ち込み、中断していたプログラムを開くその一方で、すかさずタップ式コンセントにつないでいた充電器をスマホに差し込む。
遅れて立ち上がったもう1台の白いデスクトップも同様にパスを打ち込み、こちらは一分一秒でも早くとメール画面を開く。新着メールが届いていた。
同時に別の新着メールが届き、内容を確認すると珠希はすぐにスマホを手に取った。
* * *
???:ばんわー、です。夏穂サン
夏穂:こんばんは。美緒ちゃん
* * *
とあるグループトークの場にお互いを【美緒】と【夏穂】と呼び合う二人が姿を見せる。【美緒】は丸っこい文字で「み」と書かれたアイコン、【夏穂】のほうはガラス製のチェスの駒を接写したアイコンを使っていた。
* * *
美緒:あと一人、まだ来てない感じですか?
夏穂:みたいね。
美緒:てか今夏穂サンも暇なんですか?
夏穂:まあね。娘もすぐ寝ちゃったし。
美緒:【朗報】マッマ完封勝利【対娘戦】
夏穂:サンキューミッオ
* * *
最近おん○への移籍が水面下に噂される根っからのな○J民、【美緒】が歓喜に両手を上げるモヒカンクマのキャラスタンプを張ると、【美緒】に感化されて○んJ語を使い始めた【夏穂】がそれに応えるように、某名古屋育ちのコアラのスタンプを返した。
* * *
美緒:でも相変わらずその○アラの顔ブン殴りたい件www
夏穂:っ【悲報】B☆○、ドア○の人気ぶりに嫉妬【格差社会】
美緒:CS出れないのに?ねえ今どんな気持ち?どんな気持ち?www
夏穂:(来季のイッチ帰還に期待する方向に)チェンジしていく
美緒:イッチ帰還には私も期待
美緒:けどそれじゃもう(一軍に若手選手の枠が)ないじゃん…
夏穂:なんでや。オッチGMにイッチPMええやん
美緒:そして老人ホームの完成かな(すっとぼけ)
夏穂:否定できないのが草不可避
美緒:放出したTDNとってええんやで(ニッコリ)
夏穂:尻拭い(意味深)にはもってこいやね(真顔)
* * *
――この二人、何を話しているんだろう。しかも会話スピード速いし。
珠希はB○Bや○アラを知らないわけではない。ただし両方とも球団マスコットであるという知識程度で、しかも残念なことにプロ野球に関しては――今時ありえないと思うが、ボールを打った後に三塁方向に走り出すと思っていたくらい――知識皆無といって差支えない珠希はトークに混ざることも忘れ、次々と更新されていく身も心も道産子の【美緒】と生粋の名古屋嬢である【夏穂】の会話をぼーっと見ていた。
なお珠希はあの声優萌え・暁斗の影響で海外サッカーにしか興味がなかったりする。
* * *
珠希:こんばんは。遅れてすみません
美緒:おや? ここで判定の結果が出たようです(解説風)
珠希:……え?
夏穂:そうね。判定は珠希ちゃんにしてもらいましょうか
珠希:ナニソレイミワカンナイ
* * *
トークに混ざった途端、いきなりハムと地方新聞の対決に絡まれるとは想像していなかった珠希は、思わず――といいながらしっかり半角文字で――心境をそのまま送信してしまった。
決してディスプレイの前で髪の毛をクルクルしてない。断じてしていない。
* * *
美緒:大丈夫。○☆Bとドア○のどっちがイケてるかでいい
夏穂:すぐ答えられるでしょ?
珠希:あたしはどっちもパッと浮かばないんですが
* * *
改めて言うが、イケメンアスリートはカッコいいとは思えども、珠希がスポーツとして興味があるのは海外サッカーだけといって過言ではない。そして海外のサッカークラブに公式マスコットというのはほぼ存在していないに等しい。
* * *
美緒:なんなら画像送る?
夏穂:夫が撮ってきたド○ラフォルダが火を吹くわね
美緒:負ける予感がしない
珠希:やめてください。自分で調べます
* * *
道産子の【美緒】と名古屋嬢の【夏穂】に限らず、それぞれ生まれ育った地元もしくは今住んでいる近隣地域の球団のファンになるのであれば、珠希はおそらく星形の肉球をもったハムスターに入れ込むのだろう。
なおどうでもいい話だが、珠希はやや理由あって家族で一人だけ東京の病院で生まれている。他親類一同横浜生まれだというのに。
だが残念ながら珠希は野球に関して基本的に、壊滅的に知らない。聞かれて答えられるのはせいぜい3アウトで攻守がチェンジするのと162試合あることくらいだ。しかも後者はプロ野球ではなくメジャーリーグの規定であるという勘違いにも気づかないままに。
――で、なんであたしはプロ野球の球団マスコット画像を検索してるんだろう。
自身の行動に疑問を持ちつつも、なん○育ちの【美緒】と夫に感化されてファンになった【夏穂】のプロ野球球団マスコットの画像ファイルに火を吹かれてはたまらないので、珠希は一通りヒグマとコアラ――ついでに他10球団のも――画像を見て思った。
やっぱDB.スター○ンかわいいじゃん、と。
結果として――珠希がハムスターを猛プッシュしたために三人の間でひと悶着起きてしまったのだが、そのひと悶着を起こした相手二人の名前は【百地美緒】と【速水夏穂】。珠希のネット上での知り合いである。とはいえ珠希は東京生まれ横浜育ち――戸籍は横浜にある――というエセのハマっ子、美緒は北海道在住の道産子、夏穂は娘が一人いる愛知県在住の人妻名古屋嬢。そう易々とオフ会などできないのだが。
あと人のことエセとか言うな、書くな。それに人妻でも名古屋嬢は名古屋嬢だ。
――で、話を元に戻そう。
* * *
美緒:――てかさ、夏穂サンは何の用で私たち呼んだの?
珠希:そうです。すっかり忘れてましたよ
* * *
ハムスターとヒグマとコアラの可愛さ論争――という建前の姦しい騒ぎ――が落ち着き、美緒と珠希はグループトークを始めた理由を言いだしっぺに尋ねた。
* * *
夏穂:あ、すっかり忘れてたわwww
美緒:わたし、気になりますっ
珠希:え○たそはとりあえずお家帰ろうか
夏穂:うわ、珠希ちゃん冷たすぎ
美緒:アイスクリーム=氷○なだけに?
夏穂:だ れ う ま
* * *
ツッコミ間違えたか、と思ったのも一瞬。
珠希の指先は自然とフリックを始めていた。
* * *
珠希:……じゃ、おやすみなさい
夏穂:あー! ストップストップ!!
美緒:最近のJK、マジで冷淡すぎる
珠希:それで夏穂さん。要件というのは?
夏穂:それなんだけど……受かったわ
美緒:娘さんの私立幼稚園受験ですか?
夏穂:我が家にそんなお金ないわよー。てか余計なお世話よ
美緒:珠希ちゃん。私、夏穂さん家の経済事情まで聞いてないよね?
珠希:美緒さんの言うとおりですね。
珠希:でも待ってください。この時期に受かるものといえば……
美緒:まあ、アレしかないわけで?
夏穂:そうです
* * *
夏穂のコメントに、珠希も美緒も脳裏に浮かんだものはひとつしかなかった。
毎年8月半ばにある全国ニュースにも取り上げられるくらいの祭典。通称――夏コミ。
* * *
夏穂:合格通知来ました。しかもお誕生日席です!!
珠希:おめでとうございます
美緒:うらやまけしからん。けどおめ
夏穂:それで、どうせなら二人とも参加してみない?
美緒:マジですか?
夏穂:売り子は頼んでるんだけど、さすがにバイト頼めば人件費がね
* * *
夏穂の同人誌名義もサークル名もコ○ケに来るような面々には十分知られている。
もとは少女漫画家を目指していたというだけあって、可愛らしい絵柄は女性にも人気がある。描くジャンルもどことなく甘酸っぱい風味の純愛モノが多く、原画を手掛けたゲームも純愛モノが多い。
* * *
美緒:行く!行きます!バイト無理矢理にでも空けて行きます!
夏穂:珠希ちゃんは?
* * *
北海道――確か小樽と言っていた――住まいの美緒は即答したが、珠希は夏穂に聞かれてもなお悩んでいた。
行きたい気持ちがあるのは嘘ではない。しかも東京ビッ○サイトはこの三人の中で珠希の家が圧倒的に近い。東京と神奈川だから当たり前。だが今から何ができるのかといえば、ゲストイラストを描くくらいで、現実、珠希はこれから高校生活最後の夏を迎えようとしている。
目の前にある衝動か半年後の願望か、珠希の心は決まっていた。
後書き
ちなみに作者はもうソシャゲに飽きてしまいました。
そしてS・ジョブズがわが子にiPhoneを与えなかった話に感心&納得。
そしてハムファンと竜ファンの方にはマスコットのネタ扱いに不満があれば謝罪。
あと、な○J語の誤用があったらすみません。
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