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蜘蛛の村

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第三章

「いますから」
「妖怪そのものにも思われているか」
「そうです、本当に蜘蛛のイメージは悪いですから」
「しかし何度も言うが」
 ここで南城は英文を読み終えた、そしてだった。
 椅子を回転させて座ったまま北川と向かい合ってだ、こう彼に言ったのだった。
「蜘蛛は益虫なのだ」
「私もそれはよく知ってますよ」
「ならそれを知ってもらうだけなのだが」
「ですからあまりにも気持ち悪いイメージが強過ぎて」
「無理だというのだな」
「女の子に好かれるのは絶対にないですよ」
 全く以て、というのだ。
「特撮でも敵になってばかりじゃないですか」
「仮面ライダーでも一人いたじゃないか」
「ああ、いましたけれどね」
 平成でいた、だが。
「一人だけ」
「いたじゃないか」
「一人だけじゃないですか、アメコミでもスパイダーマンは変態に見えますし」
「アメコミヒーローは皆日本人から見たら変態じゃないか」
 スーパーマンにしろバットマンにしてもだろうか。筋肉質の身体に全身タイツで尚且つマントは日本にはないタイプであることは間違いない。
「気にしないことだよ」
「そうですか」
「とにかくだよ」
「はい、蜘蛛のイメージをですか」
「変えよう、そのよさを知ってもらおう」
「上手くいくとは思えないですが」
「何、わしに秘策があるよ」
 南城はにこりと笑って北川に言った。
「ちゃんとね」
「秘策ですか?」
「そう、秘策がね」
「秘策っていうのは大抵失敗しますよね」
 また特撮ものから話す北川だった。
「敵組織のそれは」
「わしはマッドサイエンティストではないぞ」
「それはそうですけれどね」
 少なくとも南条は犯罪行為はしていない、モラルはあるのだ。ただ研究対象が蜘蛛であるだけなのだ。
「じゃあ」
「うむ、この秘策は成功する」
「具体的にどんな秘策ですか?」
「その女の子達を連れて来てくれ」
 南城は微笑んで北川に言った。
「お茶をご馳走しにな」
「お茶を飲みながらですか」
「話せばわかる筈だ」
「だといいですけれどね」
 かなり不安な感じで返した北川だった、そして南城は彼にその『秘策』を依頼した。北川はとりあえず尊敬はしている恩師の為に動くことにした。
 だが、だ。南条の名前を聞いただけでだ、女の子達は言うのだった。
「えっ、いいですよ」
「南城教授って蜘蛛ですよね」
「私蜘蛛大嫌いです」
「私もですよ」
 彼の名前を聞いただけで瞬時に言うのだった。
「確かにいい人ですけれど」
「落ち着いた温厚な紳士ですけれど」
「人間として悪い人ではないですよ」
「公平で真面目な人だし」
「ですが」
 例えだ、南城がどれだけ人格者でもだというのだ。
「蜘蛛だけは」
「あれは駄目です」
「あの姿を想像しただけで寒気がします」
「気持ち悪くて」
「とても」
 こう言ってだ、誰もがだった。
 彼の話を聞こうともしなかった、『秘策』は発動する前の段階で頓挫していた。
 それでだ、北川は南城に女の子達のその言葉を報告するのだった。
「皆こうですよ」
「ふむ、そうか」
「はい、皆蜘蛛どころか教授のお名前を聞いただけで」
「逃げるのか」
「教授イコール蜘蛛ですから」
 この大学ではそうなっているというのだ。 
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