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喪服の黒

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第五章

「侑里ちゃんが結婚することが楽しみよ」
「私がなの」
「いい人見付けてね」
 こう娘に言うのっだった。
「お父さんみたいなね」
「お父さんみたいな人を見付けて」
「幸せになるのよ」
「幸せに」
「そう、絶対にそうなってね」
「そうよね、私もね」
 母の言葉を受けてだ、そしてだった。
 そのうえでだ、侑里は美也子の言葉にこう答えたのだった。
「幸せにならないとね」
「駄目よ。約束してね」
「うん、けれどお母さんってね」
「お母さんがどうしたの?」
「綺麗よね」
 こう言うのだった、自分の母に。
「凄くね」
「お世辞?」
「お世辞じゃないわ。ひょっとしたらね」
 母の心を知っての言葉だった、今は。
「お母さんこれからも男の人にプロポーズされるかも知れないわよ」
「それはどうしてなの?」
「綺麗だから」
 顔だけでなく、というのだ。
「だからね」
「ううん、お母さん別に」
「いやいや、綺麗だから」
 ここでも何が綺麗とは言わない侑里だった。
「本当に」
「そうかしら」
「ええ、そこまで綺麗だとね」
 また、というのだ。
「誰かに告白されると思うわ」
「どうしてかしら、こんなおばさんに」
「綺麗っていうのは歳じゃないと思うわ」
 そこははっきりと言った娘だった。
「だからまたね」
「そうなのね」
「そう、そうなるかもね」
 こう母に言うのだった、そのうえで。
 侑里は自分のことも考えるのだった、母の様に綺麗になろうとだ。その顔だけでなく心までも綺麗な母の顔を見ながら。


喪服の黒   完


                            2014・2・28 
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