機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア
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第一部 刻の鼓動
第四章 エマ・シーン
第二節 期待 第二話 (通算第67話)
「失礼します」
ヘンケンに伴われて、二人の士官が入室する。カミーユ・ビダンとランバン・スクワームである。二人はパイロット用のノーマルスーツを着たままだった。ヘルメットをバックパックの上部フックに咬ませて固定している。対宙監視に駆り出されていたのをヘンケンが呼び戻したのだ。
短く刈り上げた茶髪に長身だが横広な体型のため余り高く見えない巨躯のランバンと柔らかだが癖のあるまとまりのない髪を洗い晒しにした鹿毛の一見女と見紛うような線の細いカミーユ。対称的な二人を見て、メズーンは見たことがある気がしたが、ここに居るはずがない知人であり、はっきりと見ていなかったことも手伝って、結びつけられなかった。心の余裕がないとも言えた。
先に気づいたのはランバンだった。
ランバンにとってメズーンは兄同様の存在であり、一年しか付き合いのないカミーユより気づくのが早かったのは当然といえる。
「メ、メズーン先輩!」
「ええっ?!」
カミーユがランバンの言葉に驚いた。
確かにそこには高校時代の先輩がティターンズの制服を着て座っていた。そんな、バカな。胸中に疑念が渦巻く。ティターンズに与するような人ではなかった。それが何故《ガンダム》に乗って、ここに居るんだ?解らない。何か言おうにも言葉が出てこなかった。
三人の様子にヘンケンが笑うと、たちまち大人たちの笑いが続いた。
「何が可笑しいんですか?」
不貞腐れたようにカミーユが突っかかる。止せよとばかりにランバンが袖を引くが後の祭りだ。カミーユの態度にヘンケンが口をへの字に曲げた。
「カミーユ少尉、可笑しかったのではない。安心したのだよ」
周りを制してブレックスが諭した。その言葉にメズーンの顔が明るさを取り戻す。それは信用してもらえたに等しかったからだ。
「フォーラ准将、感謝します。
カミーユがいるなら、彼に伝えたいことがあるのですが…」
おずおずとメズーンがブレックスに許可を求めた。ブレックスは無言で頷く。メズーンはランバンを見、カミーユに向き直ると一瞬言葉を躊躇ってから、だがハッキリと伝えるべきことを伝えた。
「……実はファ・ユイリィに反政府運動への関与の嫌疑が掛かったんだ」
「そんな……」
あの勝ち気だが優しいファと反政府運動が結びつく筈がない。カミーユの顔がそう言っていた。だが、周りの大人は事情が飲み込めない。困惑するブレックスたちにランバンがユイリィとカミーユの関係を説明した。
「カミーユ、落ち着け。ファがそんなことするはずもない」
激昂しそうなカミーユを抑えようという気も手伝って、声のトーンを一つ下げた。
カミーユは居ても立ってもいられない。軍人でなければ助けに行けるのに。いや、軍人だからこそ助けられる力が持てるのではないか――渦巻く感情を言葉にすればそんなところか。
「メズーン中尉はそれを伝えるために、こんなことを?」
メズーンはレコアが口を挟んで水を向けてくれたことに目で感謝した。さらに、ファーストネームで呼んでくれたことで、気安さも生まれる。レコアはウインクで応じた。
「いえ、彼女を含めた反地球連邦政府運動の被疑者を全て脱出させるための陽動に、エゥーゴの襲撃を利用させてもらったのです」
今度はブレックスらが驚く番だった。
メズーンは反地球連邦政府運動のメンバーと接触し、エゥーゴの襲撃を事前に知っていたのだから。つまりは、自分たちが誰かの掌で踊らされていたということだ。
「それは、エゥーゴの協力者が立案したことか?」
ヘンケンが不機嫌に会話へ割り込む。彼としては当然の反応だった。アナハイムを通じてコロニー公社のツテを利用したにはしたが、今回は地下運動員を使わないプランだったからだ。
「ティターンズ内部も一枚岩ではない……ということです」
メズーンの説明は曖昧だが、理解はできる。エゥーゴも一枚岩ではない。サイド2政府などは親連邦派が多く、今回の作戦に消極的であったり、サイド6政府はあからさまに反対している。
メズーンは歯切れが悪くならざるを得ない事情を抱えている。レドのことは味方にも隠しておかなければ、立場が悪くなる可能性もあるからだ。エゥーゴにもスパイが潜り込んでいることを警戒しなければ、今後レドが動きにくくなる。
「それと、脱出は四日後ですが、追手が掛かる可能性があります。救助をお願いしたいのです」
さっと立ち上がり、ブレックスに頭を下げた。無言だったランバンがメズーンに倣う。カミーユもランバンの隣に立ち、二人よりも深く頭を下げた。
若者らしい率直さを嫌う軍人はあまりいない。ヘンケンなどは既に救助に行くのが当然だと思っている。しかし、今は目の前のことに対処しなければならなかった。
「脱出の手筈は誰がとっているのだ?」
「脱出する際に使う艇はブライト・ノア中佐の《テンプテーション》だと聞いています」
ヘンケンが口笛を吹いた。
ブレックスの目が輝く。欲しい――ブレックスはエゥーゴが反地球連合として動くための旗印になる人物を探していた。ホワイトベースのクルーはリストに挙げられていたが、監視が厳しく、接触することが出来なかったのだ。旧ホワイトベースの艦長ならば、旗手足り得る。後継者――いや、実質的な指導者としては不足だとしても、正義がいずれにあるかを民衆に問うには最適な人物である。
「決まったな」
「先ずは目の前の追撃を振り切ってからだ」
沸く一同を訝しげに見つつ、クワトロが入ってきた。
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