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戦国異伝

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第百七十八話 宴会その四

「民百姓は守り力の強い国人や領主達からな」
「普請なり何なりとしてですな」
「銭を出させるのですな」
「それが織田家ですな」
「右大臣殿ですな」
「それはよいことじゃ。まことに危ういのは民ではない」
 むしろというのだ。
「国人なり領主なりじゃ」
「そして寺社ですな」
「あの者達もですな」
「延暦寺や金剛峯寺、本願寺の力はかなり弱めた」
 このことは実際のことだ、本願寺にしてもそのである石山御坊だけしか残っていない。身体はあらかた潰したのだ。
 それでだ、本願寺もなのだ。
「寺社にその持っている銭を殆ど出させましたな」
「その銭で城を建て」
「そして宴にも使う」
「そうしていますな」
「国である民百姓は傷つかずじゃ」
 そして、というのだ。
「脅かす寺社や国人、領主達の力を削ぐ」
「織田殿はそうされているのですな」
「まずあの者達をですな」
「力を削いでいるのですか」
「流石は吉法師殿じゃ」
 信長らしくだ、真に弱めるべき相手を見定めてそのうえで城を建て宴を開いているというのだ。家康はこのことを見ていた。
 そしてだ、家康は笑ってこうも言ったのだった。
「しかし三河も遠江の西もな」
「そうした寺社ありませぬし」
「皆貧しいですな」
 国人達は皆家康に心から従っている、徳川家は家康の下に一つにはなっているのだ。このことは家康の誇りである。
 しかしだ、徳川家の領内はというと。
「所詮は五十万石」
「さしてありませぬな」
「そうじゃ、何もない」
 まさにというのだ、家康もまた。
「五十万石でも三河も遠江の西もな」
「まさに何もありませぬな」
「織田家とは全く違います」
「小さなものです」
「ほんの小さなものですな」
「そうじゃ、だからな」
 それでだというのだ。
「我等はそうした心配はせずともよい」
「では殿、これからは」
 本多がここでまた家康に言ってきた。
「我等はです」
「政に専念してな」
「これから豊かになりましょうぞ」
「豊かか。見てみたいわ」
 家康のこの言葉は半分本気だ、とかく徳川家は他の大名達に比べて貧しい。そのことを誰よりも自覚しているからだ。
「まことに」
「当家にとってはですな」
「まだまだ貧しい」
 これが徳川家の現実だ、何かと苦労しているのだ。
「贅沢なぞしてはな」
「すぐに傾きますな」
「うむ、まあそれが当家じゃ」
 徳川家だというのだ。
「銭はないわ」
「ですな」
「しかし御主達がおり」
 家康はここで己の家臣達を見た、どの様な状況でも一人たりとも彼の下から離れない無類の忠義者達をだ。
「そして民達がおる。いつも真面目に働いてくれるな」
「その我等がですか」
「殿の宝ですか」
「銭は田畑を耕し町を整えられれば手に入ろう」
 確かに貧しいが、というのだ。 
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