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面影

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第七章


第七章

「ダブルチーズバーガーも豚骨ラーメンも」
「ええ」
「どっちも純ちゃん大好きだし」
「それはもう知ってるわよね」
「とっくに。お袋も大好きだし、特にラーメンは」
「ラーメンは特に譲れないわ」
 やはりこう来た。
「豚骨よ。これが一番よ」
「本当に同じなんだな。そっくり」
「だからそういうの聞いてると」
 オムライスもハンバーグも殆ど食べ終えたところでまた智哉に言ってきた。
「行ってみたくなったわ」
「行ってみたくなった?」
「そう、智哉君のお家にね」
 こう切り出してきたのであった。
「美味しいものばかりだから。だからよ」
「それでなんだ」
「駄目かしら」
「あっ、いや」
 言われると少し返答に困るのであった。
「別にそれは。僕としては」
「いいのね」
「うん、まあ」
 少し戸惑いを見せながら純に答えた。
「僕はいいけれど」
「じゃあいいじゃない」
 純は無邪気な様子だったが智哉は違っていた。戸惑いをまだ顔に見せている。それでも純の言葉はほぼ一方的に続く。彼が言えないのは気にしていないようだ。
「今度の土曜日ね」
「土曜日に」
「ええ。空いてたわよね」
「まあね」
 戸惑いを消せないまま純に答えるしかなかった。完全に彼女のターンが続く。
「それはそうだけれど」
「じゃあ何の問題もなしってことで」
 これまた一方的に純に決められてしまった。後でわかったことだがこの強引さまでもが彼がよく知るある人と一緒なのであった。
「これでね。いいわよね」
「まあいいけれど」
「さっ、今から楽しみね」
 もう彼女の中では完全に決まっていた。強引に決めていた。
「智哉君のお家のお料理がね」
「うちのお袋の料理なんだけれど」
「一緒じゃない」
 何故彼が困っているのかにも気付いていなかった。天真爛漫なまま。
「家のお料理ってお母さんが作るものだから」
「何かもう」
 言っても仕方ないように思えた。もうここまで思えるようになったら観念するしかなかった。そして彼は観念するのであった。
「いいや。じゃあ土曜日ね」
「御願いね」
「お袋には言っておくから。じゃあね」
「ええ」
 これで話が終わった。とりあえず母親に話をしたらこれがまた。随分と明るく返答を返してきたのだ。智哉がうんざりする程の明るさで。
「あら、いいじゃない」
「いいんだ」
「だって。智ちゃんの彼女よ」
 明るい笑顔でまずはこのことを告げた。
「悪くないのに決まってるじゃない。むしろ大歓迎よ」
「大歓迎なんだ」
「しかも私の御飯を食べたいっていうのね」
「そうだよ」
 憮然として母親に答える。答えながらアメリカンを飲み続けている。
「だから来たいっていうんだ。お母さんの料理が美味しそうだってことで」
「見所があるわね」
 今の智哉の報告で火が点いたようであった。さらに。
「その娘。どうやら」
「見所があるんだ」
「私の料理は神様の料理よ」
 勝手に自分でそういうことにしているのであった。かなり強引に。
「鉄人とも言うわね」
「今時料理の鉄人なんて言われてもね」
「けれどその通りだから何も言わないの」
 やはり強引に話を纏めるお母さんであった。
「わかったらいいわね。さて、と」
「土曜日作るんだ」
「スパゲティにしようかしら」
 もうメニューのことまで考えだしていた。
 
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