魔法薬を好きなように
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第18話 水の秘法薬
アルビオンとの交戦に勝利したと聞いた翌日の朝食では、学院長のオスマンからはタルブでの王軍が勝利したことと、それに対する祝う辞が出たぐらいで、特別な話はでなかった。
朝食後はモンモランシーの部屋に行って、
「じゃあ、化粧品店に行ってくるけど、品数は今のままと伝えておけばいいんだね?」
「ええ。けど、本当にトリスタニアにまだ行ったらダメかしら」
体調はたしかによさそうだし、魔法学院にこもっている必要もそれほどないか。それに理由として一番大きいのは、ティファンヌが母親の誕生日の買い物に付き合わされるというので、前世でもそうだが、この世界でも女性が買い物にかける時間は長い。っということで、ティファンヌと会うのはモンモランシーの機嫌が良い時に改めて話すってところだ。
「希望ならとりあえず、魔法薬は飲まないで行ってみるのもありだけどね。今までの様子をみてると、たぶん、再発しないと思うし、万が一再発しても魔法薬は最初の4割ぐらいから開始できると思うから」
「それなら、うれしいわ」
「ところで、トリスタニアへ行きたいってことは、どこかに用事があるんだね? どこだろうか?」
「魔法屋よ」
「ふーん」
まあ、材料を自分の眼で確認したいのだろう。原材料っていっても微妙に異なるからな。
「俺もちょっと用事があるから、後でも先でもいいから、家によってみたいんだ」
「……なら、先にそっちの家でいいわよ。私は荷物をあまり長く持ちたくないから」
そんなわけで、首都のトリスタニアに来たが、なにやら気が早いのがいるのか、戦勝パレードの準備をすすめているようだ。昨日のうちに勝ったとしても、帰りの移動は捕虜とかもいるから、ゆっくりだろう。パレードは早くて明日か明後日あたりになるのだろう。
化粧品店によって、モンモランシーが店主に品数は今まで通りと伝えてから、香水と代金をひきかえて、まずは昼食をとったあとに、トリスタニアの家にたちよってみた。いないかもと思っていた親父がいたので、モンモランシーは軽く挨拶をして、応接室に行ってもらった。
「ところで、親父! 今回のアルビオンの戦争で変わったことはあったのかい?」
「ああ。どうも戦場では、フェニックスが飛んできて、太陽のような光の玉を吐き出して、アルビオンの空船を落としたとかいう話が流れておる。しかも空船の落下による死人はでていないそうだ」
「どこまでが、本当かわからない話だね……そんな魔法装置の開発とかの噂は、流れていなかったの?」
「いや、初耳だ。そんなものがあったら、そもそも、ゲルマニアとの軍事同盟も必要なかろう」
「だね。そうすると、あとは成功するかどうか不明な、実験段階の兵器だった、ってところかな」
「かもしれないが、運んだ方法が不明だ。もし、その手の研究をおこなっているとしたら、アカデミーであろうが、あそこから運びだせば、噂ぐらいは飛び込んでこよう」
親父は表向きはともかく、本当の仕事は諜報委員だから、そういうのは話がとどいていて不思議でなかったんだけどなぁ。わからないのは仕方がない。俺が裏の社交界で遊んでいたのも、ベッドの中での寝物語の一部を親父に売っていたというのもある。あとは親父も独身でそういうのは好きなので、精力のつく魔法薬を親父に合わせてつくっているのも小遣いのもとなんだが。
「ふーん。あとは何か変わったことでもあったのかな?」
「お前にとってはいささか驚くことが一つだな」
「へー、何?」
「アンリエッタ姫殿下が結婚の前だったので、公にされていなかったが、ワルド子爵が裏切ってアルビオンにいるそうだ」
たしかに、驚かされる話だが、なんとなくそういう雰囲気もあったような気はする。まあ、いまさらだが。
「……それっていつの話?」
「3週間ほど前だったかの」
「って、アンリエッタ姫殿下が、ゲルマニアからもどってきたころかな?」
ワルド子爵も爵位が高いとはいいきれないのに、元帥に匹敵する魔法衛士隊隊長に若い年齢でなったから、まわりから結構うとまれていたみたいだからな。あのあたりになると政治にも敏感にならざるをえないから、トリステインの現状を見限ったってところなんだろうけど、今回のトリステインの勝利をどうみているのかな。
「たしか、それぐらいだったはずじゃ。それと今回の戦勝で、アンリエッタ姫殿下は女王となられることになりそうだ」
「なんだよ、それ」
「率先して、戦場に出向いて、それで勝利したからだろう」
「そのあたりの情報が、トリステイン魔法学院にいると、さっぱり入ってこないんだよなぁ」
「仕方がなかろう。それで、今日はどうするつもりだ?」
「彼女の家に寄ってみようかなと思っていたけど、母親の誕生日の買い物だっていうし、モンモランシーが魔法屋へ行くっていっているから、そっちのつきそいだね」
「彼女? 聞いていないぞ」
「そういえば、言ってなかったっけ。ティファンヌ・ベレッタっていう、アルゲニア魔法学院に通っている子だよ」
「その子には、もう手をつけているのか?」
「なんつーことを聞く親父だよ……まだだよ」
俺は、さらっと、嘘をついたが、医師に診せようがわからんだろうから、それほど気にすることもない。
「お前が、まさかのー」
「どんな目でみてるんだよ。親父は」
「いやいや。今度、都合がよい時につれてきなさい」
「まあ、夏休みあたりにでも、顔ぐらいは拝ませてやるよ」
「ほほー、楽しみだな。それから、ミス・モンモランシの体調はどうなんだ」
「さっきのように見てのとおりで、順調に回復しているよ。今は例の魔法薬を飲まなくなって2日目だから、明日いっぱい様子をみて、それで大丈夫だと思うって、感じかな」
「それじゃと、軽い感じだな」
「ああ、そんなものだよ。まだ原材料は教えていないけどね」
「まあ、そのあたりはお前の好きにすればよかろう。飲まされた方は、他人に飲んだとは言わないだろう」
「こっちとしてはそんな程度だけど、太陽のような光の玉の話は、なんとなく気にかかるから、細かいことで教えられる範囲なら教えてほしいのだけど」
「気にかかるのか?」
「うん。釈然としないところもあるし、もし、そんなものが魔法装置として大量にできるのなら、将来の仕事について、考え直さないといけないからね」
「たしかに、噂通りのものなら、戦い方もかわるかもしれないの。わかったぞ。わかる限りは伝えてやろう」
「助かる。親父」
「それで、すまないが、あの魔法薬をまた作ってくれないか」
「魅了の魔法薬ね。それなら、水の秘薬が必要だけど、俺の小遣いじゃ買えないぞ」
騎士見習い同士で『魅惑の妖精』亭に行ったときに、危うく『魅惑の妖精のビスチェ』にかかっている魅了の魔法で、小遣いを全部チップとして巻き上げられるところだったからな。あとで、あまりにおかしすぎると、まわりの連中にきいてみたら、毎月1日になぜかチップを巻き上げられるというところで、もう1度1日に行ってわかった。あれは、水石をつかった一種の魔法装置となっていて、古文書にのっていた魅了の魔法薬の空白の部分がようやっとわかった。それがもとで、現在の魅了の魔法薬ができたものだ。
「それで600エキューでかまわないか?」
「最近、水の秘薬が品不足らしくて値上がりしてるから、念のため700エキューをお願いしたいんだけど」
「ああ。よかろう」
それで、俺はモンモランシーに水の秘薬が必要なことを告げて、家から彼女の行きつけだという魔法屋に一緒に入ってみた。
「へぇ、結構特殊な用途の材料がそろっているねぇ」
「それは、私が選んぶ店なんだから」
俺はピエモンの秘薬屋をよく使っていたが、こっちの方が、専門店て感じだな。
「それで、水の秘薬がほしいんだけど」
「どれくらいの量ですかな」
「ほんの3滴ばかり」
「それでは、600エキューでよろしいです」
うーん。値上がりしているはずだけど、ここの方がピエモンの店より安いのかな。俺はモンモランシーの方をみると、
「もうちょっと安くならないのかしらね。この後、わたしも買うのよ」
「お嬢さんにはかなわないね。それじゃ、500エキューでどうですか」
「いいんじゃない」
「それなら、それで」
かなりラッキーだ。2カ月前のピエモンの店よりも安くかえる。今度、モンモランシーに一緒にいてもらおうと思いつつ、金をはらって持参した小瓶にわけてもらった。モンモランシーは
「一人で交渉したいから、店の外にでていてくれるかしら」
「それじゃ、出口でまってるよ」
モンモランシーは試作品のレシピを見せてくれないから、そういう方面の物か。まあ、あとで、何を買ったかはわかるのだが、この時の俺は気がついていなかった。
魔法学院に戻ってから思い出したのだが、兄貴から手紙がきていない件を聞くってことを忘れていたが、まあ、よくあることだ。それに、もうよくなったことだしな。
翌日は、モンモランシーの不調もなく、授業にでていけたので、今日が最後の触診でほぼきまりだろうというところだが、授業になってサイトはともかく、ルイズがいないことに気がついたが、ルイズに関してあれこれ、考えるのはやめておくことにした。なんせ、情報は学内の噂話だけで、ルイズを馬鹿にしている噂が非常に多い。まあ、いまだに魔法があの爆発が中心で、成功例は、サイトの召喚と契約のみで、他の魔法は全部爆発だからな。
翌日からは、モンモランシーは以前の通り、特に授業と食事以外は特にそばにいなくて良いというのと、平日に恋人と会ってきたらって、言ってくれるので、虚無の曜日から5日後から6日後に街にいくようにするつもりということにした。 ティファンヌとも相談はしないといけないので、若干はずれるかもしれないが、モンモランシーが魔法屋で買った品物で、実験をしたがっていたのを気が付いていなかった。
ルイズはいたが、授業にでていれば1日に1回ぐらいはきこえていた爆発音が聞こえてこない。って、その翌日は休んでいるし。たしか、実技はどうしようもないが、学業は優秀だってきいていたんだけど、それもデマか? あの魔法が爆発するというのは気にかかるので、なんとなく彼女を気にしてしまうのだろう。
翌日はまたルイズが来ているというのに、あの爆発音が聞こえてこない。魔法を使っていないというのもあるのだが、なんとなく教室は静かだな。まあ、サイトもおとなしいし、モンモランシーにちょっかいをかけることもなかろう。良い傾向だ。
そして、今日はティファンヌとは、アルゲニア魔法学院後の夕方デートだ。モンモランシーには、昼食後に
「それじゃ、トリスタニアに行ってくるから、魔法薬を飲まなくてもよくなったからって、無理は禁物だから」
「それくらいわかっているわよ。とっとと、彼女のところにでもいってらっしゃい」
「へーい」
とりあえず、モンモランシーも不機嫌そうではないし、俺としてはこの時点ではよかったのだが、モンモランシーが、まさかあんな魔法薬を作っていたとはねぇ。
ページ上へ戻る