ロード・オブ・白御前
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オーバーロード編
第3話 “黒鹿毛”
初瀬は外に出て、すぐ巴を見つけた。
巴は店からすぐの海浜公園のベンチに座って、ぼんやりと波の流れを見ていた。
「トモ」
「亮二さ……っ」
嬉しそうに振り返ったかと思いきや、巴ははっとしたようにむっつりして顔を逸らした。
「パフェが食べたいと言ったのはどなたでしたっけ」
「スイマセン」
「ゲーセンより先にドルーパーズと言ったのはどなたでしたっけ」
「マジでスンマセン」
もはや平身低頭に謝るより他に初瀬に選択肢はなかった。
「……はあ。いいですよ。紘汰さんと話せて亮二さんが満足なら、わたしは、いいんです」
巴は初瀬が近寄ると、座ったまま腕を組み、初瀬の腕に頭を預けた。巴はこういうところで素直だ。
「ごめんな」
ぎゅ。より強く、巴は初瀬にしがみついた。
そんなところも可愛い、などと思ってしまう初瀬は、もう末期に至っている。
初瀬の腕にもたれてむくれていると、ぎゃっぎゃっ、と異音を耳が捉えた。巴は顔を上げた。
「亮二さん!」
呼んで、異変を知らせる。空から大量のインベスが飛来していた。
巴はとっさに量産型ドライバーを出した。その巴の手首を初瀬が掴んだ。
「亮二さん」
「いくら何でもあの数は一人じゃ無理だ」
「ですけど、ほっとくわけにもいかないじゃないですか」
だがその問答に決着をつける前に、鎧武とブラーボが現れて、何故か言い争いながらインベスの群れと戦い始めた。
鎧武とブラーボは、現れたインベスの群れに対処しながらも言い争いをやめない。クラックが、森が、という単語が行き交ったことから、鎧武はブラーボにヘルヘイムの一端を話したのだろうと察せられた。
「どうします?」
「葛葉のほうが反則級に強くなってるみてえだからなあ。何だよ、勝ち鬨って。俺らが助太刀しなくても平気じゃん」
「では高みの見物ってことで――あら。亮二さん、あれ」
巴は反対側を指差した。階段の陰に、城乃内が現れたのだ。
「城乃内? 何やってんだあいつ。あーあー、女装したままで」
初瀬は「あちゃー」という感じに、反対側の城乃内を見つめていた。
その時、離れた位置にいたにも関わらず、彼らには聞こえた。城乃内の声が。
「~~っどうしちゃったんだよ! 俺!」
《 ドングリ 》
「変身!!」
走りながらドングリの甲冑をまとったグリドンは、高くジャンプし、インベスの群れが吐き出した火球を一身に浴びた。自身を盾とし、ブラーボを守った。
巴はとっさに初瀬を見上げた。
初瀬はどこか痛そうに、憎らしそうに、グリドンの戦いとも呼べない戦いを見つめていた。とても「高みの見物」を決め込む人間の顔ではなかった。
「トモ」
「亮二さん……」
「ドライバー、貸してくれ」
多勢に無勢で、あわや頭上を取られかけた鎧武を、ブラーボではない3人目のアーマードライダーが救った。鎧武に上から襲いかかろうとしたインベスを、薙刀の投擲で打ち落としたのだ。
『お前、黒、影……? 初瀬!?』
黒いライドウェアに乳白色の鎧。黒影と白鹿毛を混ぜたようなデザインの鎧をまとった初瀬が、そこにいた。
『黒影じゃねえ』
かつて黒影だったライダーは、キャッチした薙刀を振りながら前に出ると、烈しく、轟然と名乗りを挙げた。
『俺は、アーマードライダー黒鹿毛だ!!』
黒鹿毛は薙刀を構えて、地上にいるほうのインベスへと立ち向かっていった。
『と……とりあえず!』
鎧武は火縄DJ大橙銃をスクラッチして連射モードに切り替え、空にいるインベスの群れを掃討した。
地上にいたライオンインベスとカマキリインベスは、
《 アーモンドオーレ 》
『でやぁ!』
黒鹿毛の薙刀から放たれた剣風によって、2体同時に爆散したところだった。
『は~、やるぅ。――おおい、大丈夫か、城乃内、オッサ……』
ふり返ったそこには、黒鹿毛以外の誰もいなかった。
『いない? え? え?』
『城乃内ならシャルモンのハゲオヤジが連れて帰ったぞ』
初瀬が変身を解いた。紘汰も慌ててそれに続いて、ロックシードを閉じて変身解除した。
「そうだ! おま、初瀬、そのロックシード! それって巴ちゃんのじゃねえかよ」
「ああ、借りた。こいつなら誰でも変身できるっていうし。でも俺、ロックシード持ってなかったからさ。ロックシードごと借りた」
「へ、へえ」
紘汰は驚きを隠せなかった。あの初瀬亮二が、アーマードライダーであることに拘っていた初瀬が、こうも淡々と語っている。
そして何より驚いたのが、初瀬が城乃内のピンチに出て来たことだった。
「よかったのか、初瀬。城乃内とちゃんと話さないで」
ビートライダーズ間で行き交う噂では、初瀬と城乃内は盟友だったが城乃内が裏切ったということになっている。腹を割った話し合いをすべきではないのか。
「いいんだよ。あいつはあいつで、今いるとこでちゃんとやれてるって分かったし」
初瀬は伸びをした。
「ん~、久しぶりに変身したから堪えたなあ。明日、筋肉痛かこりゃあ。ヤだな~」
「あ~……」
「んじゃ俺も行くわ。トモの奴、待たせちまってるからな。機会があったらまた会おうぜ」
どこまでも明け透けなまま去って行った初瀬に、紘汰は呆気に取られっぱなしだった。
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