| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

羨望 -エンヴィ-part1/ウエストウッド村にて

「とにかく…その…みんなが無事でよかった…」
「そういう相棒は無事じゃないみたいだがね」
サイトが眠っていた小屋の居間に集まると、すでにルイズ・キュルケ・ギーシュ・タバサ…そして剣ではあるがデルフ。この旅に同行していた仲間たちが全員集まっていた。サイトが起きるよりほんの少し前に、目を覚ましたという。
すでにサイトが寝ている間に自己紹介は済ませていたそうだ。
先ほどのリミットブレイク状態のルイズから下手をしたら一発で三途の川を渡るかもしれなかった一撃を受けたサイトの顔は、それはもうどんな言葉で飾ればいいのかもわからないくらい腫れ上がっていた。
「さあ犬!!さっきまで何をしていたかきっちり説明してもらおうじゃないの!!」
自分の前にサイトを正座させ、ルイズは彼の前で仁王立ちしながら鬼の形相で彼を見下ろしていた。
「お、俺は何もしてないって!!ただ、お前が気が付いたときにちょうどティファニアが俺のところに来ただけで…!!」
もうお分かりかもしれないが、サイトたちはどういうわけか、ニューカッスルからとても徒歩でたどり着くには時間を要するウエストウッド村にいたのである。理由もわからず自分たちの意思とは関係なしに、瞬間的にここに連れてこられたので一時は混乱したのだが、目を覚ました時にこの村の年長者、ティファニアとこの村で暮らす子供たちに発見されていたのである。
…それはいいのだが、タイミング悪く一番最後に目を覚ましたサイトの様子をテファが身に来たときにルイズがそれを見てしまった。煩悩まみれの自分の使い魔と、圧倒的な美貌と胸の持ち主であるテファのセット。それを見て勝手な想像をした彼女はサイトに暴力を振るって現在に至ったのであった。彼女のあまりの剣幕に子供たちの中で弱気なエマやジャックはテファの陰に隠れている。子供たちの中で年長者のサムは特にルイズへ警戒をしていた。
「嘘おっしゃい!!あんなにしっかり抱き合って何もしてないというの!?この子からき…きき…きき凶悪な代物を、押し付けられてたじゃないの!!」
凶悪なもの…それはこの家の主であるテファの、その巨大な胸にあった。サイズはキュルケをも超えており、当のキュルケでさえ唖然とした。もしここにシエスタがいても同様の反応を示していたに違いない。逆立ちしても勝てない相手にルイズはもちろん、あのタバサでさえ内心で絶望せざるを得なかった。
「まあ、僕も彼女のあまりの美貌に気絶しそうになってしまったからね。手を出したくなるサイトの気持ちは理解できなくもない」
「火に油を注ぐなギーシュ!!…ってか、見てくれ酷いなお前も」
無論、このトリステイン一のキザ男といえるギーシュ・ド・グラモンはサイトが目を覚ます前、彼女の手の甲に口づけし早速口説き落とそうとしたのだが、もちろん子供たちから断固阻止され、サイトほどではないがボロボロにされていた。証拠に彼が常に整えていた髪が見た目からしてひどいぼさぼさヘアーに変貌していた。
「やっぱりそうだったのね!!やっぱり私の目に狂いはなかったのね!!」
ルイズがギロリ!と目を光らせながらテファを睨むと、テファは「ひぅ!」と怖気ついて悲鳴を上げた。しかし、何かルイズが誤解をしていることは理解できたので、何とか勇気を出して弁明を試みた。
「ご、誤解です!私はただ彼が目を覚ましたのを確認しただけで…」
しかし、完全に頭に血を登らせていたルイズはテファの言葉にちっとも耳を傾けようとしない。
「誤解ですって!!じゃあ何!?私の見たのは嘘だったって言うの!!そんなに嘘だって言うのなら私が確かめてあげるわよ!」
「「何ぃぃ!!」」
ルイズの口から衝撃的な言葉を発せられた途端、サイトとギーシュは鼻っ柱が一気に充血したのを感じた。まるでくノ一のようにテファの背後に回り込んだルイズは、乱暴に彼女の豊満な胸をもみ始めた。
「ひゃああああ!!止めてくださいいいいい!!」
「常識ってもんがあるでしょ!デカけりゃいいってもんじゃないでしょ!この!このこの!!こんなの胸じゃないわ!胸に化けた怪獣か何かに決まってるわ!」
抵抗するテファと、彼女の胸をもみまくって暴走を続けるルイズ。サイトは鼻を押さえながら鼻血をとめるのに必死だった。ギーシュの場合だと、幸せそうな顔のまま気絶していて使い物にならない。
と、ここでさらに問題が発生した。あまりにもルイズが暴れ、テファが抵抗を繰り返し、激化の一途を辿った果てに、テファの帽子が取れてしまった。彼女が室内にも拘らず帽子を被っていた理由は、自分がエルフの血を引く証である、先の尖った耳を隠すため。ルイズが暴れるあまり帽子が取れてしまったため、ついに彼女の耳が露わになってしまった。
「あ、あなたエルフ!!?」
そう言ったのはキュルケだった。これについては暴れるルイズはもちろんだが、ちょうど目を覚ましたギーシュも、タバサも声に出さなかったが驚いていた。これを見て、性格的にも凝り固まりすぎたルイズは杖を抜いた。それを見て、テファは先ほどとは明らかに違う恐怖を覚え、そしてエルフの血を引くゆえに自分を恐れるルイズを見て悲しそうに目を伏せた。
「ま、待てよルイズ!いきなり杖を出してどうしたんだ!?」
明らかにテファに向けて杖を向けていたことに気づいたサイトはテファの前に立ち、杖を掲げるルイズの右手を捕まえた。
エルフとは、サイトにとってゲームや小説の世界に存在した種族がリアルになった程度にしかとどめていなかった。悪の宇宙人をたくさん見てきたことはあるが、一部例外を除いてウルトラマンは人間の味方をしてくれていたおかげもあって、人間じゃない存在が必ずしも敵だとは考えなかった。しかしルイズの場合は違う。
「離して!エルフは偉大なる始祖ブリミルの仇敵なのよ!始祖に代わって引導を渡さなくてはならないわ!」
すでに知っての通りエルフとハルケギニアの人間は、ハルケギニア人が神を崇める始祖ブリミルとエルフが、かつて対立関係にあった関係で、敵同士だと断定されていたのである。ルイズがこの反応を示すのも当然と言えば当然だが…だからといって、何の罪も犯していないテファが攻撃されていい理由などありはしない。そもそも、ルイズのようなブリミル教信者が考えているほどエルフが恐ろしいだけの存在なのか、その確証さえ得てもいないのだ。
「痛!?」
それを体現するかのごとく、ついにウエストウッド村の子供たちが立ち上がった。ルイズに向けて適当に小石を投げつけてきたのだ。杖を下ろし、石を当てられた後頭部を押さえながら前を見ると、テファの前にずらりと村の子供たちが並び、適当にフライパンやらお玉やらを持ってルイズに敵意を向けていた。
「おい洗濯板!テファ姉ちゃんをいじめるな!」
「そうよ!この骨と皮女!テファお姉ちゃんをいじめるなら、私たちが相手になってやる!」
「あ…!!」
『洗濯板』。『骨と皮女』。サムやサマンサの口から、ルイズにとってのタブーワードが放たれたことで、サイトは一気に青ざめた。ただでさえ自分の小さくて細い体系にコンプレックスを抱くルイズ。対するテファは女性として魅力的すぎる要素を持ち合わせていたものだからより一層ボルテージが昂ってしまう。
「だだだ…誰が洗濯板に骨と皮ですって…へえ、サイトのこともあるし、最近の平民はずいぶんとまあ礼儀知らずなことね…!?」
先ほど以上に暴走しそうになっているルイズ。顔には青筋が立ち、ひきつった恐ろしい笑みを浮かべている。これ以上はさすがにまずい。
「ルイズ、いいから頭冷やそうぜ!彼女は俺たちを助けてくれたんだぞ!な!?」
「何よ!サイト、あんた、あのエルフを…い、いいいいいやらしい目で見ているんじゃなくって!?」
「ち、違うって!なんでそうなるんだよ!」
違うとは言うが、サイトやギーシュの性格+年頃の思春期少年の本能のせいで、ルイズの言ういやらしい目でテファを見てしまったことは絶対に誤魔化せない。まさに無駄無駄無駄ァ!である。しかし、ここに来て助け舟が入る。ルイズの頭上から氷の小さな塊がこつんと落ちてきた。
「あう!?」
「ここは人の家」
氷の塊は、タバサの魔法によるものだった。静かな環境を好むタバサとしてはいい加減にしてほしいと言わんばかりに、その表情はいつものポーカーフェイスと比べて大きな変化はないが、不機嫌そうに目を吊り上げている。
「平民の子供相手に大人げないわよ、ヴァリエール。まったく、狭量が過ぎるわね」
キュルケもやれやれと呆れ顔になっている。ニューカッスルであの悲劇的な出来事が起こったというのに、その直後にこんなバカな展開が起こるとは、ティファニアの胸が相当衝撃的だったということだろうか。
「君の言うことも理解できなくもない。確かに彼女はエルフだが、だからといって僕らを助けた恩人に手を出していいと言われると、褒められたことじゃないかな」
ギーシュもルイズの行動が褒められたことではないと、胸を張りながら言った。…が、その魂胆は明らかに、テファにかっこいいところを見せ付け気を引こうとしているのが見え見えだった。変なところばかりブレない男である。
「相棒たちの煩悩はともかくとして娘っ子、ここは落ち着けよ。相棒の言ってた通り俺っちたちはあの子たち助けられた身なんだ。俺は貴族じゃないけどさ 、エルフだからって、その恩人に杖を向けるのが貴族のやることじゃないって。きっとあの皇太子だって同じこと言ってたぜ」
机の上に置かれたデルフも、鞘から顔を出してルイズに一言注意を促した。何よ…とルイズは不満を漏らす。貴族…それもヴァリエール公爵家の私が平民の子供なんかに洗濯板呼ばわりされておいて黙っていろなど…!と言ったところでまた大人げないだのとさんざん言われるのは間違いない。
「…いいわよ!どうせ私が悪者なんでしょ!好きなだけいちゃついてればいいじゃない!」
自分の行動によって仲間たちから一方的な非難を買ってしまい、自分に味方がいないことを悟り、いじけたルイズは踵を返して、貴族の令嬢らしくなくどしどしと足音を立てながら外に出ようと扉に手をかける。
「お、おいルイズ!!」
サイトが引き留めようとするがルイズは足を止めない。が、ルイズがドアノブに手を触れようとしたところで、扉が開かれた。扉から姿を見せたのは…。
「ふう…ごめんよ。シュウの奴、どうも遠くに出かけてるみたいで見つからなかったよ」
「マチルダ姉ちゃんだ!!」
子供たちが玄関の扉から現れたその人物を見る中、その姿を見た途端、サイトたちは声をそろえた。
「「「「フーケ!!!?」」」」
なぜあの悪名高い土くれのフーケがここに!?とっさにサイトはデルフを手に取り、ルイズたちメイジ陣も杖を構えてしまう。
「あ、あんたら…なんでここに!?」
フーケは、いつの間にか村から姿を消していたシュウを探しにちょうど外に出払っていたところだった。彼の正体を知るフーケ…もといマチルダは彼が姿を消した理由はわかっていたが、テファは彼がウルトラマンの力を手にしていることをまだ知らない。とりあえず彼女にひと時の安心を与えるために、一応近くにいないかを確かめに言ったのだが、運が悪いのか、以前自分が破壊の杖を狙ったために対立したサイトたち四人と、拠点としていたこの村で遭遇することになってしまった。ちなみにギーシュは頭数に揃われていない。
「ま、待って!!止めて皆!!」
空気が張りつめていく中、テファがルイズとマチルダの間に飛び込んできた。
「皆どうして戦おうとするの!?サイトさん、武器をしまって!姉さんも杖を下ろして!」
「マチルダ…姉さん?」
サイトは、子供たちやテファがマチルダと呼んだ、あの土くれのフーケを見る。あの日、フーケは学院の教師、そしてオスマンの秘書ロングビルとして働いてた。破壊の杖が土くれのフーケに盗まれた時、フーケ討伐任務に同行。しかしそのロングビルこそが、目の前にいる彼女…土くれのフーケだった。しかし…マチルダ?まさか、フーケと言う名前も偽名だったというのか。
あの事件の際、フーケどころか、なぜかあの場所の地中で眠りについていたところを、目を覚まして地面から現れた怪獣ツインテールとグドンの二体を相手にすることになったことを思い出した。その時さっそうと現れて、サイトがゼロに変身してツインテールを撃退している間、シュウ…ウルトラマンネクサスがグドンを倒し、フーケを掌に乗せて連れて帰って行ったことも思い出し、テファとフーケ、この二人とシュウは何か関係があると悟り、デルフを鞘にしまいこんだ。
「姉さんも、ルイズさんも、杖をしまって…」
この時のテファは、泣いていた。どうしたものかとサイトたちを見たマチルダだったが、大切な家族のこんな顔を見たくはない。言われた通り杖をしまった。ルイズもフーケに苦い汁を飲まされた怒りを蘇らせていたのだが、自分に戦うのをやめるよう懇願してきたテファが、エルフも人間も関係ない、争いを好まないただの少女だと言うことを感じた。さすがに罪悪感を覚えたルイズも杖をしまった。
「しかし、どうしてあんたがここに…」
しばらく重苦しい空気によって、沈黙が続いていた。子供たちでさえあまり口を開くことができなかった。長い沈黙が続いていたが、キュルケがそれを破ってマチルダに尋ね出す。
「…あたしは、この村の子供たちとテファの生活費を稼いでるのさ」
「なんですって!?」
(そうか、それであの時、シュウはウルトラマンの姿のままになっても、フーケを守ろうとしていたのか!)
ルイズが驚く中、サイトはフーケ事件の際のシュウの行動の意味を理解した。だとしたら、この二人のどちらかがシュウを召還したメイジという可能性が高い。
「ふざけ…!」
だが、フーケの稼ぎ手段を知っているルイズとしては余計に許し難い。エルフはともあれ、子供たちの生活のために盗賊稼業だなんて、どんな理由でも褒められた話じゃないし、被害にあった貴族も自分たちも屈辱を与えられたのだ。何か言おうとしたのだが、マチルダが遮ってきた。
「あんた…もし喋ったら命はないよ?」
マチルダは殺意を込めた目でルイズを睨み付けた。しかし、ルイズはたじろがない。マチルダの殺意に当てられてなお、虚勢を張ってフーケを睨んだまま突っ立っていた。
「ねえ、サイトさん。姉さんが仕事で何をしていたか知っているの?私や子供たちにも絶対に話してくれなくって…」
テファはサイトに、身を乗り出して尋ねてきた。
フーケ、実は根は家族思いの優しい人なのか…。サイトはテファと子供たちを見てそれを悟った。恐らくフーケは彼女たちを悲しませたり心配させないために、自分が盗賊であることをずっと隠し続けてきたのだ。もしかしたら、シュウの正体が自分と同様にウルトラマンであることも隠しているかもしれない。ここはフーケの気持ちも汲んで。誤魔化してみることにした。
「えっと……宝探し。その時で宝の取り合いになっちゃって…それでね」
宝の取り合いについては間違っていないが…我ながら苦しい嘘だった。
「トレジャーハンターね、かっこいい!」
なんと、当のテファはあっさりと信じ込んだ。キュルケはおかしくなってぷっと吹き出してしまう。
「だからさっき…だめよ、仲直りしなきゃ」
ホッとして、テファはそう言った。一方でルイズは納得していなかった。未だに何かを言いたげに唸り声をあげている。目の前に貴族に屈辱を味あわせた悪名高い盗賊がいるのだ。
話を切り替えよう、何かの拍子でフーケは盗賊だってことがバレてしまったら、ティファニアたちを悲しませてしまう。
「そういえば、俺たちはどうして村に倒れてたんだ?」
そうだ。この話はルイズたちだって気になっているはず。サイトの予想では、もしかしたらシュウがあの状況で助けに来てくれたのでは…って、待てよ。そのシュウは一体どこに行ってしまったのだ。さっきフーケは、シュウを探しに行っていたようなことを言っていたが、もしや外出中だったのか?
「そうね…思ってみれば、あたしたちワルドに追い詰められていたわね。下手をしたらあと一歩のところで殺されそうになっていたわ」
「でも、あの状況では逃げられるとは思えない」
仲間たちも、ニューカッスルの教会で裏切者としての本性を露わにしたワルドに殺されかけたあの時のことを思い出した。
ワルドのスクウェアクラスの魔法『ライトニングクラウド』で止めを刺されかけた。反撃に出ようにもすぐに走って逃げようにも、奴には王党派から強奪したあの謎の飛行機械『ジャンバード』が味方に付いていた。ワルドはその気になれば一人ずつ自分たちを殺せたし、魔法詠唱なしであの破壊力を秘めたビームを撃ってくるような兵器を相手に逃げられる可能性は限りなく0だった。正直、重苦しい状況だった時の事だったため、キュルケとタバサも優れた表情を浮かべられなかった。
「何を言うんだい?そこにいるティファニアが何かしらの魔法で僕らをここへ連れてきたのではないのかい?」
「え?私!?」
急にギーシュから名前を挙げられ、テファは目を丸くした。
「そうとしか思えない!!ああ、ティファニア!君は僕らの命の恩人…いや!まさに僕らを見捨てることのできなかった始祖ブリミルが遣わされた美の女神に違いな…いぃいいい!!!!?」
ギーシュは懲りもせずに、彼女の手を取ってその甲に口づけしようとしたら、土の塊がドスン!と突如ギーシュの頭に大きな石が現れ落下した。見ると、明らかにお怒りの状態のマチルダが杖を手に取ってギーシュを睨んでいた。こんな口だけのキザなガキにテファを渡すわけにはいかないと強く思わざるを得なかったに違いない。
「おしめもとれない貴族のキザ坊やが、あたしの前で人の妹分を口説き落とそうとしてんじゃないよ!」
「あ、あの…私、てっきりサイトさんたちがここまで歩いてきたんじゃないかって思っていたんだけど…」
テファも、サイトたちが偶然にせよ自分たちで歩いてやってきたのではないのかと考えていたため、彼の疑問対してよくわからないとでも言いたげに首を傾げてた。それについてはマチルダも同様だった。
「…ふう、とりあえず尋ねてみるけど、一体あんたらこの村に来るまでどこに行ってたんだい?」
「…ニューカッスルよ」
ルイズから聞いたとたん、マチルダは驚きの声を上げた。
「ニューカッスルだって!?アルビオンの最南東の場所じゃないか。まさか、ほんのわずかな時間でここまで来たってのか?」
「え?この村はニューカッスルからそんなに遠いのかい?」
頭から落ちてきた塊を退かし、ギーシュがマチルダに尋ねる。
「遠いも何も、もしここまで来れたにしても一体何時間かかると思うんだい?ここはサウスゴータ地方のウエストウッド村だよ」
「サウスゴータ!?ここから徒歩だとかなりの時間がかかるじゃない!」
アルビオンには訪れたことはほとんどないのだが、ちりを全く知らないわけではないキュルケも同じように驚いていた。
「じゃあ、俺たちは一体どうやって…?」
この流れだと、自分たちも知らない何かしらの力でも働いたのだろうか?サイトが疑問に思っていると、鞘から顔を出したデルフがその理由を明かした。
「ああ。ありゃ多分、俺っちの能力だ」
「デルフ!?」
あの錆だらけの剣であるデルフが、俺たちをこの村に!?いったいどういうことだ?その理由は、デルフが続けて説明をしてくれた。
「俺の刀身には魔力がどうもため込まれていたみたいでな。ワルドの魔法が当たりそうになったところでその魔力を使って、安全だと念じた場所へおめえさんたちを運んだのさ」
それを聞いて、サイトはテレポートみたいな能力なのだろうと思った。
「それで、僕らは子爵の魔法から命からがら逃げ延びることができたと言うわけか…」
ギーシュはすんなり納得したのだが、ルイズはデルフを睨んで抗議を入れてきた。
「ちょっと待ちなさいよ。なんでそんなすごい能力があったのに隠してたのよ」
「隠してたわけじゃねえ。ただ、俺っちも長いこと使われてなかったから忘れてたんだよ」
ルイズは使えない剣ね…と愚痴をこぼした。
「そういや、近くの街で噂は聞いたよ。レコンキスタが、あんたらが来たっていうニューカッスル王党派を滅ぼしたんだってね」
マチルダは今さっきまでの話でニューカッスルの地名が出てきたので、王党派の末路の話を切り出してきた。
「やっぱり、王党派は敗れたのね?」
キュルケが尋ねると、マチルダはメガネを掛けなおしながら頷いた。
「国王も捕まってロンディニウムに護送されたそうだよ。たぶん、時期に処刑されるだろうね」
「!」
それを聞いた途端、ルイズは玄関先へ歩き出した。
「どこへ行くんだい、ヴァリエールの御嬢さん?」
マチルダがそう言ったところで、ルイズは足を止めた。
「決まってるわ。国王陛下とウェールズ殿下をお救いするのよ!」
思えば、王党派の敗北は自分たちにも責任がある。あまつさえ、アンリエッタから返却頼まれた手紙を、ウェールズが持っていたものとアンリエッタが今回の任務でウェールズにあてた手紙の両方をワルドに奪い取られている。それらと、何よりウェールズ殿下たちを責任もって取り戻さなくてはと考えていた。が…当然これはルイズの意固地なプライド故の焦り、ただの無謀だった。
「やめときな。あんたらが言ったところで、敵は5万以上の軍を率いているんだよ。突っ込んだところで、返り討ちにされて死ぬのがオチだ。それは、頭がいいあんたならわかるはずだろ?」
「…!!」
学院時代のルイズの座学の成績の良さは、そこで一時だけ学院長オスマンの秘書として働いていたフーケも知っていたようだ。盗賊風情に忠告されるなんて…だが、何も間違ってはいないので大人しく戻るしかなかった。
「それにしても…あのワルド子爵が……裏切者とはね…」
「…」
ギーシュのその一言で、サイトたちにさっきとは違う重い空気が流れ込んだ。
ルイズは、悲しかった。幼いころ、魔法がうまく使えず親に叱られ、小舟の上で泣いていた自分を優しい言葉で慰めてくれたワルドが、憧れだった婚約者が…アルビオン王家が守ってきた秘宝を使って大量虐殺を平気でやらかす悪漢に変貌してしまったことがとてつもなく…。思い出すだけで、悔しくて悲しくて…涙が出そうになっていた。
サイトは悔しかった。ウェールズたち王党派の人々や彼らと行動を共にしていた炎の空賊たちを救うことができなかった。借り物とはいえ、自分にはウルトラマンの力が宿っていた。そしてワルドが王党派から奪ったジャンバードを使ってきた時が、それを使って皆を守ることが最善の手だった。でも…自分とゼロの間にある亀裂がそれを阻み、自分にその手段を使うことを許さなかった。 結果…自分の勝手なこだわりのせいで王党派はたった一人の裏切者のせいで壊滅してしまった。握った右拳から血がにじみ出た。
「ルイズさん」
「ひゃ!!?」
すると、急にテファがルイズの前にやってきて優しき出し決めた。必然的に彼女の豊満な胸に顔をうずめることになったから、ルイズはかなり動揺してしまった。
「な、何するのy…!!」
「何か辛いことがあったんだよね?悲しいことがあったんだよね。私には何が起こったかはわからないけど、子供たちにしてあげてるみたいに、こうしてあげることしかできないけど…」
テファは、彼女なりに辛い目にあったルイズを慰めようとしていたのだ。彼女の言葉を聞いて、ルイズはハッとなって目を見開いた。
彼女のなにもかもを包み込みそうな優しい抱擁に、ルイズはいつしか気恥ずかしさが消えていた。この暖かさは、とても懐かしかった。思えばワルドだけじゃなかった。親に叱られた時はこうして幼いころの自分を抱きしめ、慰めてくれたのは。
(この暖かさ、ちい姉様と似てる……確かに、この子から話を聞こうともしなかった。森で倒れていた私たちを助けてくれたのに怒鳴ったりして……)
「その…悪かったわ。さっきは酷いこと言って…でも…」
自然と、自分でも不思議なくらいルイズは素直に自分の非を認め、テファから一度離れてから彼女に謝った。しかし、ブリミル教徒でもある自分がこんな謝罪を向けていいか躊躇いがあった。
「あら、やけに素直じゃない」
「う、うるさいわね!」
茶化してきたキュルケに、ルイズは頬を染めて怒鳴った。
ブリミル教徒であるルイズの心中をを察したテファは首を横に振って気にしな
いでほしいと言った。
「私、ハーフだけどエルフの血を引いてるから、ルイズさんが敵意を向けてきたのも仕方ないわ」
「ハーフ?」
「そう言えば、ティファニア…だったわね。あなたはどうしてこの森で暮らしてるの?エルフって、東の砂漠で暮らしてるって聞いたことはったけど…」
フーケの時と同様、好奇心を沸かせたキュルケはテファがエルフでありながらこの村で暮らしている理由を聞こうとしたが、マチルダは口を挟んできた。
「それは…」
「おやおや、ツェルプストーの御嬢さん、ヴァリエールさんから聞いたんじゃなかったのかい?人の過去を詮索するなんてはしたないって」
以前、魔法学院で自分が仕掛けたあの事件の際、過去を詮索されたマチルダとしては、テファの過去にまで軽い興味本位で尋ねてくるキュルケの発言はあまり許せるものではなかった。
「あらら、土くれのおばさんは変なところばかり記憶力がいいです事」
「小娘…あたしはまだ23だよ!」
フーケ事件での意趣返しのつもりか、キュルケはマチルダに嫌味を吹っ掛け、逆にテファへのいらない詮索をしてくるキュルケへの不満と自分が年増扱いされて怒るマチルダ。
実際テファの過去は、マチルダの記憶する限りではあまり他者に口外しまくっていいものとは言い難い。必然的に彼女の『トラウマ』に触れることにもなるからだ。しかし、テファはマチルダにこういってきた。
「構わないわ。別に話しても、大丈夫だから」
「…」
テファは、どうしてこの森にエルフである自分が済んでいるのか、そして子供たちを育てているのか、その理由を語った。自分の父はアルビオン国王の弟であるモード大公、母はそんな父に妾として国王に内密で保護されたエルフの女性だったこと、母エルフであるため母と共に屋敷で隠遁生活を送っていた。しかし、そのことがついに国王にバレたことで父は殺され、母もテファをかばって亡くなってしまったこと、その騒ぎからマチルダの手を借りて生き延び、こうして戦争や人売りによって孤児となった子供たちを引き取ってウエストウッド村に隠れ住んでいること…マチルダも当時のサウスゴータの太守の娘だった関係で彼女を幼い頃から見守ってきた関係で、彼女や子供たちに資金援助を賄っている…と言ったところまで説明された。しかし、なぜエルフである母がアルビオンへやってきていたのかはテファもマチルダも知らないままだった。
「ハーフエルフ…そんなのが本当にいたなんて…」
驚きながら、ルイズはそう呟いた。可能性での範囲では、小耳にはさんだことはあったようだ。
「…ごめんなさいね。ティファニア。なんか、嫌なこと思い出させてしまったわ」
「いえ、いいんです。お心遣い、ありがとうございます」
自分たちの方が聞いてはならないことを聞いてきたのに、それを明かすどころか礼を言ってくるなんて…キュルケはここまで心穏やかなというか、さっきのフーケがトレジャーハントを仕事としている嘘を信じたときと言い、ありえないほど純粋な人がいるだなんて思いもしなかった。
「なんだか、こうして外の世界の人たちと話せるって、うれしいです。それに、私がエルフと知っても、怖がらないでいてくれて…私、この村から出たことないから同じ年代の人とほとんど話したことがないの。だから、外の世界と友達に憧れてたんです」
嬉しそうにティファニアは、はにかんだ笑みを浮かべた。サイトは、テファの周囲を見る。姉代わりの盗賊と、まだ幼い子供たち。あくまで彼らは家族で決して親しくはない存在ではないのだが、確かに友人関係とは思えない。さっきのルイズの態度のように、ハルケギニアの人間がエルフを嫌っている以上、彼女には友人が出来辛いのだろうと思った。
…いや、ここには一人いたはずだ。彼女とほぼ同年代の男が。
「あのさ、ティファニア」
「あ、よければテファでいいわ。何?サイトさん」
サイトから名前を呼ばれ、テファはなんだろうと質問を受け付ける。
「俺の事もサイトで構わないよ。えっと…俺が寝かされていたあの部屋って……」
そう、自分がテファから傷を治療してもらうために眠っていたあの部屋のことと、その持ち主のことを。サイトはシュウのことを知りたがっていた。
「そう言えば、ダーリンが寝かされた部屋には変な服とか道具とかがあったわね。あれ、あなたかフー
…ミス・マチルダのものなの?」
仲間たちも、それについては内心では気になっていた。あのタバサも、本を読む一方でチラと横目で見ながら話を聞こうとしている。キュルケがそう聞いてみると、テファは首を横に振った。
「ううん。あれは、ここにはいないもう一人の人の持ち物なの」
「あれはね、シュウ兄のなんだよ」
すると、サマンサが話に加わってきた。
「シュウ?それは誰なんだい?」
「シュウ…どこかで聞いたわね」
シュウの名を聞いて、ギーシュとルイズははて?と首を傾げた。
「お前ら…もうラグドリアン湖で起こったことを忘れたのか?」
二人の記憶力を疑わされるコメントに、サイトは呆れ混じりで二人をジトッと横目で見た。
「わ、忘れてたわけじゃないわよ!ただ…その…」
思い出すのが恥ずかしいことばかりだったあの惚れ薬事件の時。サイトに対してあまりにも自分らしくない…と言う言葉では収まりきれないくらい恥ずかしいことをしたルイズは決して思い出さないでおこうと記憶の底に封印しようとしていたためか、それに伴ってシュウのことも記憶から封じようとしていたようだ。もしかしたらシュウがウルトラマンであることさえも忘れようとしていたのかもしれない。
「あ、ああ…彼か、あの時の。それもウルt…もがもが!?」
ギーシュもシュウのことを思い出したようだが、あと一歩のところで余計なことまで言おうとしたのでとっさにサイトはギーシュの口を閉ざした。
(馬鹿、下手に口を割ろうとするな!)
「ま、まべ(な、何故)!?」
いきなりサイトから口を塞がれ、耳元で喋るなとささやかれたギーシュは理由がわからず混乱した。すると、マチルダがサイトの耳元に口を寄せて小声で話しかけてきた。
(すまないね。ナイスフォローだったよ)
(やっぱり、テファはシュウがウルトラマンであることを知らないんだな。でも、その言い方だと、やっぱりあんたは知ってたんだな?)
(まあね。あたしが盗賊やってるのと同じように、あいつのこともテファに心配かけたくないからね)
思った通りの理由だった。やはりフーケとシュウが自分たちの秘密をテファに隠しているのは、それを知ったことで彼女や子供たちが心配するのを考慮してのことだったようだ。
「シュウ…ねえ」
一体どんな人物なのだろうか。キュルケは非情にその人物に興味を持った。
「もしかして、その人…あなたの恋人かしら?」
「へ!!?」
突拍子もなくそう言われ、テファは耳まで顔を真っ赤にした。それに同調するかのようにエマがテファのリアクションを無視して肯定のセリフを言う。
「そうだよ。シュウ兄はね、テファお姉ちゃんの旦那さんなんだよ」
「ぼ、僕はまだ認めたわけじゃないからな!」
しかし、サムはまだシュウのことを認めたわけではないらしく、拒否反応を示す。
「ち、違うわ!!もう、変なこと言わないで!!」
顔を赤くして否定するテファ。子供たちがニヤニヤしている辺り、テファの恥ずかしがるリアクションがかわいらしくもあれば面白くもあるから、おそらく彼女はからかわれているのだ。
「あら、あなた大人しそうに見えて意外と隅に置けないわね」
やるじゃない、とキュルケは笑っている。
「な…また…このパターンなのか…僕に可憐な花々に囲まれたバラ色の…未来はないのか…?」
どうでもいいが、一方でギーシュはアンリエッタとウェールズの関係を知った時と同じように、いつも通り口説こうと考えていた相手に、すでにお相手がいたと言う事実に世界が終わったかのようなショックを受けていた。
(こういうのを…デジャヴっていうのかな…)
(…なんだろう、これ…どこかで味わったような展開)
サイトとルイズはは今のテファの状況をどこかで感じたことがあるのか、デジャヴを感じ取る。実際その通りで、この旅の任務を受けたあの日ルイズがアンリエッタと久しぶりに再会をかわした際、アンリエッタがサイトをルイズの恋人と勘違いしたその当時を偶然にも再現したと言えた。
「テファ、あんたあいつといつの間にそんな関係になんたんだい?」
わざとなのか、それとも素で驚いているのか、マチルダは目を丸くして自分の妹分を見た。
「姉さんまで違うってば!か、彼は私が召喚した人なの。魔法はマチルダ姉さんに教えてもらって…」
顔を、熟したリンゴにもレッド族のウルトラマンにも匹敵するくらい真っ赤にしたテファは、なんとか事実をサイトたちに伝えた。
「嘘!?」
これにはルイズは驚かされた。召喚したと言うとは、間違いなく使い魔としてサモン・サーヴァントで召喚したということ。まさか、自分以外に人間を使い魔にした人物が…それもエルフの血を引く彼女がハルケギニアの魔法でそれを成して見せるとは。
(召喚…それであいつは…!)
通りで、自分以外のウルトラマンがここに現れたのかが納得できた。確かにあの魔法なら自分と同じように、確率ではあるが自分と同じように地球人を呼び寄せることが可能だろう。…しかし、一つ気になる。シュウがいつ、どのようにしてウルトラマンの力を手に入れたのか、それともどのような世界から飛来したウルトラマンなのかそのあたりがはっきりしていない。だが、このことはテファの前で直接尋ねられそうにないし、彼女はシュウがウルトラマンであることを知らない。
『なあゼロ、シュウのこと、気にならないか?』
『…まあな。せっかくだし、話を聞いてみるのがいいだろうな』
どんな人間なのか、聞くならまずはそこから聞いてみるのがいいだろう。が、ぎゅるるる…と誰かの腹の虫が鳴きだした。腹の虫の正体は、サイトだった。
「…う」
気恥ずかしさを覚えたサイトは頬を染め、ルイズは「何やってんのよ」と自分も恥ずかしそうにサイトを睨んだ。
『…なにやってんだよ…』
ゼロも、冷静に今のサイトに呆れ気味でツッコミを入れた。
「テファ姉ちゃん、僕お腹すいた~」
「飯飯!!」
「あたしも食べたーい!」
サイトの腹の虫をきっかけに、ジャックが自分も腹を空かせたことを主張すると、子供たちから次々とごはんコールが飛び交ってきた。
「はいはい、急かさないの。ちゃんと皆さんの分も用意しますからね」
子供たちをあやしながら、テファは皆を外の大きなテーブルへと招いた。邪魔になるので、デルフは室内のテーブルに置いてけぼりにされた。

 
 

 
後書き
誤字やおかしい、不満な展開とかあったらご意見をお願いします。…お気に入り件数からしてほとんど来ないきがしますが…(泣) 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧