美しき異形達
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第二十二話 菊の日常その三
「太ってもな」
「そうなのよね、忍者はね」
「しかしだ、食わないとな」
「何にもならないのよね」
「人間は食わないと死ぬぞ」
このことは何があっても変わらない、人間も生きているのであり何かを食べなければそれは到底無理なことである。
「だからな」
「しっかり食べないとね」
「必要なだけのカロリーを摂らないとな」
「駄目よね」
「要するにしっかりと食えということだ」
これが父が娘に言いたいことだった。
「今の御前達は育ち盛りだからな」
「たっぷり食べないと動けないから」
「ああ、食え」
朝からというのだ。
「わかったな」
「うん、今朝もたっぷり食べるね」
「その意気だ」
父は娘に笑顔で応えた、そしてだった。
風呂から上がった兄達と共に居間に行く、居間は洋風でありテーブルと椅子がある。そこに四十代と思われるがまだ瑞々しさが残っている楚々とした顔立ちの女性もいる。
その彼女がだ、制服に着替えて朝食を食べている菊に笑顔でこう言って来た。
「何か菊ちゃんってね」
「どうしたの?」
「ええ、また胸が大きくなってきたわね」
「そうかしら」
「少しね」
こう言うのだった。
「育ち盛りだからかしら」
「別にそうは思わないけれど」
菊は母に応え自分の胸を制服の上から見て言った。
「そんなに大きくないわよ」
「ううん、大きくなった気がするけれど」
「私なんかよりね」
自分の胸よりもというのだ。
「クラスに大きい娘いるし。それに」
「それに?」
「最近お友達になった桜ちゃんね」
「あの絹問屋の娘さんね」
「あの娘相当に大きいのよ」
その胸が、というのだ。
「だからね、私なんかね」
「小さいっていうのね」
「そう思うけれど」
「その桜ちゃんがどういった娘は知らないけれど」
母は菊を見つつ言う、白い御飯を卵焼きで食べながら。おかずは他には漬けものと豆腐の味噌汁である。
「菊ちゃんもね」
「大きくなってるのね」
「次第にね」
そうなってきているというのだ。
「中々のものなってきてると思うけれど」
「ううん、そういえば最近」
「最近?」
「肩に重しが来たみたいに感じる時があるわ」
「おいおい、それはガチだろ」
「ガチで大きくなってきてるんだよ」
「実際にな」
兄達がここで言って来た、皆丼で大飯をかっくらっている。
「そうか、菊もなあ」
「巨乳ちゃんになるんだな」
「ついこの前まではハナタレだったのにな」
「ハナタレって何よ」
菊は今度は兄達に言った、抗議する顔で。
「幾ら何でもそれはないでしょ」
「いや、実際にな」
「鼻水垂らしてたからな」
「それでいつも棒とか石持って遊んでてな」
それが幼い時の菊だった。
「もうやんちゃでなあ」
「手がつけられなかったな」
「本当にな」
「何よ、それじゃあ男の子みたいじゃない」
食べながら抗議する菊だった、その手の茶碗はやはり丼だ。
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