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小鳥だったのに

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第一章


第一章

                       小鳥だったのに
 菅生愛生は菅生和彦の妻だ。
 背が高くすらりとした身体をしている。脚は長い。切れ長であるが縦にも広めの流線型の目をしていて高めのやや大きい鼻である。肌は白く髪は短めでしかも細く縮れ気味である。
 その彼女がだ。遂になのだった。
「あのね、今日ね」
「病院に行ってきたとか?」
 甘い声が特徴の妻にこう返す。愛生も大きいが和彦はその妻よりまだ数センチ高い。黒い剛毛を短く刈り若々しい明るい顔をしている。眉は短めで濃い。耳がやや大きく鼻だちが整っている。
 その彼がだ。こう妻に返したのだった。
「それ?」
「えっ、何でわかったの?」
「いや、何となくだけれど」
 所謂感性でわかったというのだ。
「それでだけれど」
「そうだったの」
「それで妊娠した」
「うん、そうなの」
 妻の言葉を先読みしての言葉が続く。
「三ヶ月なの」
「そうか、遂になんだな」 
 その言葉を聞いてだ。和彦は明るい笑顔になる。そうしてだった。
 妻にだ。あらためてこう言うのであった。
「父親になるんだな」
「そうね、私もそれで」
「母親になるんだな」
「よかったね」
 愛生はにこりと笑って和彦に告げた。
「私達これで親になるんだよ」
「そうだよな。親か」
「私お母さんになるんだ」
 愛生の言葉がここで変わった。
「凄いよね、何か」
「ついこの前結婚したと思ったのにな」
 三年前である。時間は少し経っているがそれでも二人は今はこう感じたのだった。
 それでだ。それから一年。愛生は無事男の子を出産した。和彦と同じ顔をしたその子の名前はだ。
「豊彦かあ」
「いい名前よね。これでいいよね」
 愛生が決めた名前だった。ほぼ彼女一人でだ。
 出産の為入院している病室でだ。その子供を横に見ながら笑顔で話すのだった。
「だからこれにしようって」
「決めたんだ」
「男の子ってわかった時から決めてたの」
 こう夫に話すのだった。
「だって私」
「だって?」
「お母さんだから」
 それでだというのだ。にこりと笑って話すのだった。
「だからなの」
「それでなんだ」
「そう。この子の名前それでいいよね」
 一応夫に聞きはする。既に決めていてもだ。
「豊彦で」
「ああ、いいよ」
 和彦はその自分と同じ顔の我が子を見ながら答えた。
「それで。ただ」
「ただ?」
「もう決めてたんだ」
 彼はそのことにだ。今一つ釈然としないものを感じていた。実は生まれてから二人でじっくりと話して決めようと思っていた。それがなのだった。
 妻は何時の間にか一人で決めていた。そのことについてなのだ。
「そうなんだ」
「だって私お母さんだから」
「わかったよ。だからだよね」
「そうなの。じゃあ豊彦ちゃん」
 もう我が子をそう呼ぶのだった。生まれて間もない我が子をだ。
「これから宜しくね」
 ここから愛生は完全に我が子にべったりになった。何につけても我が子第一で可愛がり傍にいるのだった。ある日のことである。
 
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