浪漫ゴシック
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第二章
第二章
美女にだ。こう告げた。
「コーヒー貰えますか」
「コーヒーですね」
「はい、御願いします」
こう告げたのである。
「それを」
「わかりました。それでは」
美女は笑顔で頷きだ。そうしてだった。
豆を挽いてから出した。それは。
「今日のコーヒーですが」
「グァテマラですね」
先生は淹れられたそのコーヒーを見て述べた。
「それですね」
「おわかりですか」
「はい、香りで」
それでわかるのだった。この辺りはコーヒー通だからである。
「わかります」
「左様ですか」
「では頂きますね」
「はい、どうぞ」
こうしたやり取りから実際に飲んでみる。するとその味は。
「これは」
「如何でしょうか」
「見事です」
その味についての言葉だった。
「ここまでのコーヒーとは思いませんでした」
「そんな、言い過ぎですよ」
「言い過ぎではないです」
そうではないとだ。美女の言葉を否定するのだった。
「本当に。これは」
「御気に召されたのですね」
「はい」
まさにだ。その通りだというのである。
「いや、これはいい」
「左様ですか」
「ではまた」
「また来て頂けますか?」
「勿論です」
笑顔での言葉だった。
「そうさせてもらいます。そして」
「そして?他に何かありますか?」
「私だけ来ては勿体ないですね」
笑顔のままでだ。先生は美女に話すのだった。
「これは息子も連れて来ないといけません」
「お子さんがおられるのですか」
「妻が一人に息子が一人です」
先生はその家族のことも話した。
「その息子も連れて来ないといけないですね」
「お子さんもコーヒーがお好きなのですか?」
「まだ中学生ですがこれがです」
我が子の話になるとその目が自然に笑みとなる。そうしての言葉だった。
「コーヒーはあれがいいとかこれがいいとか」
「そうした方なのですか」
「はい、そうなんです」
こう我が子について話す。
「そうした方でして」
「成程、ではご子息もですか」
「連れて来て宜しいでしょうか」
「どなたでも歓迎させてもらいます」
これが美女の返答だった。
「是非。お連れになって下さい」
「わかりました。それでは」
「ご子息もお待ちしています」
「ところで、です」
先生は話を変えてきた。話が一段落したところでだ。
「貴女のお名前は」
「私の名前ですか?」
「私は今村秀次郎といいます」
礼儀としてだ。自分の名前をまず話したのであった。
「向かい側の学校で国語を教えています」
「学校の先生なのですね?」
「はい、そうです」
己の身分も話した。
「そして貴女のお名前は」
「喜多村といいます」
「喜多村さんですか」
「主人の苗字はそのままで」
つまりだ。まだ心は亡き夫にあるというのだ。だが先生はそれには構わなかった。先生が興味があるのはコーヒーだけだ。美女には興味がないのだ。
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