浪漫ゴシック
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第一章
第一章
浪漫ゴシック
学校の前にだ。いきなり店ができた。
その店は喫茶店だった。それまでも喫茶店だったが急に別の店になったのだ。
「あれ?今度の店って」
「ああ。やってる人変わった?」
「何か違うけれど」
外見がだ。それまで白い清潔な感じだったのがだ。
大正を思わせる古風なドラに外観、看板も漢字で書いただ。そうした店になったのだ。生徒達はその外観や看板を見て言うのだった。
「何でこんな感じになったんだ?」
「ちょっとわからないよな」
「またレトロだよな」
「そうだよな」
こう話をする彼等だった。そうしてだ。
興味を持てばだ。次の行動は。
実際に店の中に入る。するとだ。
店の内装もだった。やはり大正を思わせるものだった。アンティークな装飾で飾られテーブルや椅子もそうした感じになっている。
何処か懐かしさを感じさせそれでいて落ち着く。そうした店だった。
その店で働いているのはというと。
黒髪を奇麗に伸ばした楚々とした大人の美女とだ。小柄な左右を小さなテールにした女の子だ。そして二人共その服は。
エプロンに和服だった。その服でいるのだった。しかもだ。
その店はコーヒーが絶品だった。注文の後で豆から淹れるコーヒーはだ。まさに最高のものだった。それを知った学生達はだ。
店に入り浸りになった彼等の間で評判になった。それを聞いてだ。
その学校の今村秀次郎先生、社会を教えているその先生はだ。興味を持ったのだった。そのうえで職員室で同僚の先生達に尋ねた。
「あの学校の前のお店ですけれど」
「ああ、あの喫茶店ですね」
「大正珈琲ですね」
「そういう名前なんですか」
実は店の名前を聞いたのはこれがはじめてだった。
「あのお店って」
「そうですよ。今生徒達に大人気なんですよ」
「前のお店の人が引退されて」
前のお店の人のことは先生も知っていた。気のいいお爺さんが一人でやっていた。その頃からそこそこ人気があった。
「それであのお店の場所を買って」
「あそこに入ったんですよ」
「そうなんですか」
「何でも母娘らしいですよ」
このこともだ。話されたのだった。
「御主人が事故で亡くなられて」
「それで母一人娘一人でやっておられるそうです」
「そうしたお店なんですよ」
「そうなんですか」
先生は話を聞いてしみじみと述べた。
「大変ですね」
「そうですよね。女手一つでお店だけでなく娘さんも育ててですから」
「立派な人ですよ」
「それにコーヒーも美味しいですね」
肝心のコーヒーの話が出た。するとだ。
先生の目がだ。ぴくりと動いた。そのうえでだ。
同僚の先生達にだ。今度は自分から尋ねたのだった。
「コーヒー、美味しいんですか」
「はい、そうですよ」
「とても」
「そうですか」
実は先生はコーヒーが好きだ。それもかなりだ。それでだった。
その店に確かな関心を得た。そのうえでだ。
先生はお店に入った。扉をくぐるとベルの音がチリンチリンと鳴る。錫のベルだ。この辺りにも独特の趣きが出ていると言えた。
そうしてだ。前を見るとだ。
カウンターはだ。木造である。ダークブラウンのそのカウンターの席は丸く背がない。完全な木造でそこにも趣きが見られた。
カウンターのところにはだ。彼女がいた。
大きな二重の目をしていて瞳が大きい。口は小さい。そして黒髪を奇麗に伸ばし背中の半分まである。前髪の下の眉は細く垂れたものだ。
その美女がだ。穏やかな笑みで先生に言ってきた。86
「いらっしゃいませ」
「はい」
先生は美女の言葉に頷いた。そのうえでだ。
カウンターの席に座る。そうして。
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