チームは5人? いえ6人です!
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第3話 真夜中の私闘
深夜2時。いるのはアストラル・ゼロ<元素精霊界>。この精霊が住んでいるもうひとつの世界だが、このあたりは低位の精霊しかいないので、決闘の立ち合いではよくきていたが、自身の私闘のために使うのは初めてだ。今は決闘を行なう古代の遺跡に向かっている。
歩いている最中に巻き込まれた俺は、愚痴をこぼす。
「今日は、勝つつもりなら、キャロルを守るのは無理だぞ!」
「貴女とわたくしが組んでいるときの、いつもの方法でかまわないでしょう」
「それを許してくれる相手ならいいんだけどね。相手はたしかチーム戦4位で、まだ上がる可能性のあるチーム。それに対して、こちらはチームワークとして慣れているのは、貴女とあたしのコンビぐらいで、クレアとは2人とも合わないでしょ?」
俺がチーム戦をなれているのは、各チームで人手が足りない時に臨時で入るので、あちこちのチーム特性はある程度把握しているが、クレアは一人で行動する傾向にあるので、やはり、フォローにまわることになる。クレアは今年に入ってから、リンスレットか俺とぐらいしかまともにチーム戦をおこなったことは無いようだし、リンスレットは自分が目立つ位置に立ちたがるので、それをフォローできるものも少ないのと、他人の忠告に従わないリンスロットのプライドの高さもあって、チームとして安定的にいることも少なくて、最近はチーム戦はほとんどしていないはずだ。
もっとも不安なのはカミトだが、剣精霊をつかいこなせるかだ。
たしか闇精霊が現れることになっているはずだが、きているのか、わからないしな。
「まあ4人のチームなら、2人だけできめられるものでもないし、きてから決めないかしら」
「私がリーダーよ」
「それできまれば、それでもよいけど、クレアとカミトと私にきちんと指示できるかしら?」
「……」
クレアとリンスレットがうまく組んでくれるには、まだ時間が必要か。
「あたしのポジションを、どこにおくかがポイントになるかもね」
あのチームでロッカとレイシアは、単純に倒せるだろう。問題はサリーとエリスだ。エリスの精霊魔装は槍だが、あの風の刃はそれなりの距離が飛ぶ。サリーも遠距離と中距離の精霊増そうを使うタイプだ。サリーの位置に合わせて、俺が動くのかな。
決闘の舞台となる遺跡に近づくと
「いったいなにをしていますの? クレア・ルージュ」
「遅いわよ。リンスレットにエルダ」
「あら、レディの身支度には時間がかかるものですわ」
「……? なんでキャロルまでいるんだ?」
「もちろん、お嬢様の応援ですわ」
カミトが呆れているようだが、俺もそう思う。
「ところで、どうしてカゼハヤ・カミトをセッカンしているんですの?」
「お嬢様、それを聞くのは野暮というものですよ」
「ああいうのが2人の趣味なんじゃないのか?」
半分からかって、言ってみたのだが、
「ええっ、あなたたち、そ、そうでしたの!?」
「ち、ちち、ちがうわよっ、な、な……」
「冗談よ」
っとぇ、聞こえていないのか、クレアは鞭をカミトにふりまくって、私闘の前からボロボロだな。
「――そちらは揃ったようだな、レイヴン教室」
「愛情行為の最中に声をかけてくるとは無粋ですわよ。シルフィードの皆様」
「だから、違うって」
「いや、悪かったわ。話を進めてちょうだい」
カミトが「登場するタイミングをまっていたのか」という問いに、エリスは動揺したが、いきなり大鷹の契約精霊である魔風精霊<シムルグ>を、こちらに急降下させてきた。
先を取られた上に、こちらはフォーメーションの相談もできていない。だからといってとまっているわけにもいかないから、俺はリンスレットもクレアも支援できる後方である劇場の壁沿いに向かいながら「ワルキューレ」と6体のピクシーを召喚した。
続いて「ヘルヴォル」と純粋な風系のピクシーを鎧に、「ランドグリーズ」と火系のピクシーをクロスボウとして左手に、「ミスト」と氷系のピクシーを槍として右手に精霊魔装とする。あとの3体は風のシールドをそれぞれはっているので3重のシールドだ。
普通ならば、鎧はいらないのだろうが、俺の精霊魔装は、この鎧のヘルヴォルに指令して、他のピクシーが初めて精霊魔装できるという代物だ。ゆえに精霊を制御するためのカムイの消費が通常の精霊魔装より早いのがデメリットだ。さらにつけくわえるのなら、攻撃用の精霊魔装は1種類にしたいのだが、今回は、リンスレットをまもりつつ、他の相手もするというおまけつきなので、2種類の攻撃性のある精霊魔装をおこなっている。泣けるなぁ。
壁に向かって走っている最中に狙われた。風のシールドが1枚破られたようだが、再外部の風のシールドを外して1番内部で再展開しつつ、それぞれの風のシールドを膨らませて2番目にあった風のシールドが1番外にあった位置にまでふくれる。これが、俺が意識しているわけでなく、ピクシーが連携しておこなってくれる能力だが、俺のカムイが少しばかり消費される。
ピクシーたちに聞いてみると火の矢で、狙われたとのことでサリーの遠距離型の精霊魔装だろう。走っているおかげか、リンスレットへの狙いも僅かに外れているが、けん制効果としては、印象をつけられた。リンスレットもこれで通常の行動に移ってくれるといいんだが……より目立つところへと移動するんだよ。これも相手の計算なのだろう。
壁についたところで、リンスレットが壁の上へいける階段へと入っていくし、カミトとロッカでは、体さばきはカミトの方が上のようだが、カミトの魔装精霊が小剣のままだ。あれは小剣にしているのではなくて、まだつかえこなせていないのだろう。
クレアはレイシアと、クレアが有利に運んでいると思ったところで、火の鞭がクレアに迫っていた。俺は槍の氷の先端を伸ばして、迎撃する。伸縮自在なのが、この槍の精霊魔装の特性だ。それにじょうじて、火の鞭をもったサリーを狙い打つが、弓となった方の火精霊が防御にあたった。俺のクロスボウの威力だと、純化形態の火の精霊さえ打ち抜くことができない。ダメージもさほどではないだろう。
移動しつつ、とりあえずは、弱いのを2人狙うかと思ったら、ロッカはすでに倒れていた。カミトが
「なんで支援役のおまえが、そんな目立つ場所に立っているんだよ!」
「あら、わたくしがクレアより目立つ場所にいるのは当然ですわ!」
リンスレットとクレアが組むと、だいたいはこんなふうになるんだけどな。その間にエリスの魔風精霊シムルグがリンスレットを狙ってきたので、氷の槍をリンスレットの上にもっていき「ダイヤモンド・ダスト」とつぶやくと、氷の結晶がリンスレットを囲んで、シグナムの降下から能力として発生させた風の刃をふせぎきった、わけではないが8割以上は減らしただろう。ちにみに
「あなた、そのダイヤモンド・ダストをこういうふうに行わないでって、言ったでしょう」
「文句は後で聞くから、それよりも、あの火の精霊使いと戦って。あたしじゃ、あいつを倒せないから」
リンスレットが、髪を右手でさらっとかきあげて
「貴女が倒せないなら、わたくしが行うしかありませんわ」
ポーズはつけなくていいから、やってくれよと思い、火の精霊使いであるサリーの上には、すでに魔系のピクシーをくるくる旋回させている。この手は、何回かリンスレットと組んでいるので、彼女も知っている。
そっちはまかせてと思っていると、クレアがいつの間にやら、レイシアとの接近戦になっている。クレアの火の鞭と、レイシアの氷の剣なら、近接型のレイシアに分がある。動き回っているので、クロスボウは俺の腕ではクレアにあててしまう可能性がある。なので、中距離に近寄りつつ火のクロスボウと、氷の槍をひっこめ、「フレック」と雷系のピクシーを両端に小剣が付いているチェーンとして精霊魔装として、両手で持つ。今の俺が一番得意とする攻撃系の精霊魔装だ。
クレアとレイシアの戦いの場は射程距離に入ったので右手で操作するが、チェーンが長くなるのは当然として、こちらの意志で先端の小剣を移動させることができるから、トリッキーな動きをさせることが可能だからだ。クレアとレイシアの間にチェーンを割って入らせたところで、レイシアを巻き付けた。これで、あとは先端の小剣を指すだけだが、先にクレアが、火の鞭で相手を打って、気絶させた。
「あ、ああ、あなたの援護なんか不要だったんだからね」
「わかってますわ」
クレアの負けず嫌いがなければ、いいのだろうが、それがなければ、今年度の学内個人ランキング1位はとれていないだろう。まあ、あの化け物クラスのエリスの姉が現在のところ、外部の仕事ばかりをして学内にいないということもあるのだが。
闇系のピクシーも俺のもとにもどってきたから、リンスレットとサリーの戦いも終わったのだろうと思って、リンスレットがさっきたっていた位置にそのままいて、この広場の方向へと弓を向けているところだ。
その先には、カミトとエリスが向いあっているところへ、エリスが槍を渾身の一撃として刺そうとしたところ、まわりの状況を気にしていないという致命的な隙をつくっている。そこへリンスレットが矢を放ったのを確認したが、クレアもほんの少し遅れて、精霊魔術のヘルブレイズ<炎王の息吹>をはなった。エリスに対してのタイミングは、ばっちりなのだが、空中で互いの氷の矢と炎はぶつかりあって消滅した。
決闘中だというのに、口喧嘩をはじめる2人にカミトはため息をついていた。その気持ち、ものすごくわかるぞ。この2人とくむとこんなものだと、最近では達観しているけれど。
さて、俺はどうしようかなと思ったら、変な気配がする。似ているといえば、学院長だが、あれはもっと化け物だからな。
それに気がついたのか、エリスが
「わ、私をきれいだなんて愚弄したこと、後悔させてやる――」
って、俺のことを放置プレイだが、カミトは
「まて、エリス! なにか様子が変だ……」
「気配がおかしいぞ!」
この気配にエリス、クレア、リンスレットも冷静にもどったのか
「なんだ、この気配は……?」
「なに?」
「なんですの?」
突然、雷鳴のような音が轟いて、空が裂かれて、その裂け目からでてきた。
虚空に浮かぶ、頭部も胴体も存在しないで、ずらりと歯の並んだ不気味なアゴとその中は真っ暗な空間。
「あれは……まさか魔精霊!?」
その通りだな。あれは、俺のピクシーが張る風のシールドとは相性が悪いタイプだ。まともな方法では戦えないな。
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