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戦国異伝

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第百七十七話 安土城その十

「まことに」
「ではな」
「はい、これからも」
「御主にも頼むぞ」
「はい」
 明智も応えた。
「畏まりました」
「うむ、しかし御主は」
 その明智にだ。信長はこう問うたのだった。
「母者を大事にしておるな」
「そう言って頂けますか」
「そう見えるからじゃ。親孝行はよういことじゃ」
「有り難きお言葉」
「やはり御主を育ててくれたからか」
「その恩、忘れたことはありませぬ」
 明智は畏まりながらも誇りを以て信長に答えた。
「一度たりとも」
「それ故に孝行を忘れぬのじゃな」
「そのつもりです」
「そうなのじゃな。そして奥方じゃが」
 今度は明智の妻のことをだ、信長は言った。
「一人と聞くが」
「左様であります」
「側室は持たぬか」
「そのつもりはありませぬ」
 側室を持つのは普通だ、明智程mの身分にもなれば。しかし彼はそれでも妻は一人でいいというのである。
「このままで」
「よいのじゃな」
「このことも変わりませぬ」
「御主が若い頃より共にいたな」
「その頃には随分と苦労をかけました」
 髪まで売ったこともある、このことは織田家の家中でもよく知られている。明智も織田家に入るまでは随分と苦労しているのだ。
「それでなのです」
「今楽をさせてやっているか」
「その為に励んでおります」
「左様か。ではな」
「それではですな」
「うむ、ではな」
 それではとだ、信長は明智に言った。
「加増と共に服をやったのはよかったな」
「あの服ですな」
「そうじゃ、御主の母親と細君の為にな」
 信長は明智に服も褒美としてやったのだ、それがなのだ。
「是非使うがよい」
「しかし殿」
 明智は信長に礼は述べた、だがだった。それと共に怪訝な顔になりそのうえで己の主に問うたのだった。
「それには少し多いと思いましたが」
「服がか」
「それに反物も」
「御主の娘達の為のものもじゃ」
 それもだとだ、信長は明智に笑みを浮かべて言った。
「それもあるのじゃ」
「娘達のですか」
「そうじゃ、御主には娘達もおろう」
「はい、それは」
「そうじゃな。だからじゃ」
「娘達の服も下さったのですか」
「遠慮なく着させよ、よいな」
 信長は今も笑みを浮かべて明智に言う、そしてだった。
 その言葉と共にだ、明智にこのことを命じた。
「それで今度竹千代が来るが」
「その宴の接待役にですな」
「御主を任じておる。期待しておるぞ」
「畏まりました」
「利休も呼んでおる」
 千利休、彼もだというのだ。
 そしてだ、信長は荒木と古田にも顔を向けて二人にも声をかけた。 
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