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ケーキがあれば

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ケーキがあれば

                     ケーキがあれば
 水尾愛乃は背が低い。一五一位だ。 
 目はやや小さく唇は厚い。何処か家鴨に似ている愛嬌のある顔立ちだ。髪の毛は茶色にしてショートにしている。それが実によく似合っている。高校の制服もだ。ネイビーブルーのブレザーにやや淡い色のミニスカートに赤と青のストライブのネクタイと白いブラウス、その制服もよく似合っている。
 その彼女がだ。ある日だ。
 クラスメイト達にだ。こんなことを言われた。
「乳製品ってね」
「乳製品がどうしたの?」
「身体にいいだけじゃなくて」
 それに留まらないというのだ。
 具体的にはどうなるか。彼女達は愛乃にこう話した。
「背も伸びるしね」
「これは知ってるわよね」
「ええ、それはね」
 知っているとだ。愛乃も答える。これはあまりに有名なことだ。
 だから知っていると答える。ここまではこれといっても問題はなかった。
 だがここでだ。彼女は思ったのだった。
「私小さいしね」
「だから大きくなりたい」
「そうなのね」
「ええ、やっぱりね」 
 照れ臭そうに笑ってだ。その通りだと述べるのだった。
「そうなの。乳製品で大きくなるんだったら」
 実は彼女は無類の甘党だ。女の子の多くがそうだが彼女はその中でもかなりのものだ。その彼女はこう考えたのである。
「どうせだったら甘いケーキを食べてね」
「それで大きくなりたいのね」
「つまりは」
「ええ、そうよ」
 その通りだとだ。愛乃はクラスメイト達に答えた。
「どうせならよ」
「それねえ。はっきり言うけれど」
「止めた方がいいわよ」
「絶対にね」
 こうだ。クラスメイト達は真剣な顔でそれはどうかというのだ。
「乳製品にケーキって」
「正直言ってお勧めできないから」
「それは言っておくから」
「えっ、何でよ」
 言われた愛乃はきょとんとした顔になってだ。彼女達に返した。彼女にしてみれば名案だと思ったから余計にわからないことだった。
 だが、だ。クラスメイト達はまだ言うのだった。
「だから。ちょっと考えたらわかるじゃない」
「乳製品にケーキよ」
「それだけでよ」
「背を大きくするには最高じゃない。何が悪いのよ
 首を傾げさせて言う愛乃だった。とにかく彼女には友人達がどうしてそう言うのか全く理解できなかった。だが何はともあれだ。彼女はその計画を実行に移したのだった。
 それから暫く経ってだ。愛乃は確かに大きくなった。しかしだ。
 その大きくなった自分についてだ。クラスメイト達にこう話すのだった。憮然とした顔と声で。
「参ったわ、正直」
「うん、それ見たらわかるから」
「予想通りだから、今のあんたの状況はね」
「本当にね」
「ううん、参ったわ」
 見ればだ。彼女は確かに大きくなった。しかしそれはだ。
 横にだった。極端にではないが明らかに太っていた。一割か二割程横に大きくなってだ。そのうえで友人達にこう話したのである。
「まさかこっちに大きくなるなんて」
「乳製品をスケーキでって」
「食べやすいから余計に太るのよ」
「そんなの考えたらわかるでしょ」
「そうね。今そのことに気付いたわ」
 今更であった。クラスメイト達にとっては。
「いや、本当に」
「言わなくてもわかることじゃない」
「こんなの常識だと思うけれど?」
「だから忘れてたのよ」
 そうだとだ。愛乃は彼女達に不機嫌な声で返す。
 そしてだ。こう言うのだった。
「背が大きくなるどころか太るなんてね」
「暫くはダイエットね」
「それに専念ね」
「背が高くなったら」
 その時はどうなっていたのか。愛乃は憧れの目で話す。
「今時彼氏だってできてたのに」
「それが本音なのね」
「そうなのね」
「そうよ。否定しないから」
 愛乃は少なくとも嘘は言わなかった。それはしなかった。
 それでだ。溜息混じりにだ。こんなことも言った。
「やれやれ。とにかくダイエットね」
「ダイエットだったらカロリーなしの蒟蒻とかがいいから」
「頑張ってね」
「ええ。蒟蒻に海草に茸に貝」
 そうしたものを食べてだというのだ。
「気合入れて頑張るわ」
 こう決めたのだった。しかしだ。
 その彼女にだ。何とである。
 学校でも評判の彼、斉藤尊、料理部のホープであり外見は何処かの事務所のタレントにもひけを取らない彼が来てだ。愛乃に言うのだった。
「ええと、水尾さんケーキ好きなんだって?乳製品使ったケーキ」
「えっ、まあちょっと食べてたけれど」
 何故食べていてそれで今太ったから止めたとは言わずにだ。愛乃は答えた。
「それがどうかしたの?」
「実は僕。ケーキ好きな女の子探してたんだ」
 こう彼は愛乃に言うのである。
「それで僕のケーキ食べてくれる女の子をね」
「それが私?」
「そう。いいかな」
「ええと。実は」
 太ったのでダイエットする為にだ。ケーキを食べるのを止めようと思っている、このことを話そうと思った。しかしそれより前にであった。
 尊はだ。反則技を出してきた。その反則技は。
「あと。僕ね」
「斉藤君は?」
「水尾さんと一緒にいたいんだ」
 照れ臭い顔になってだ。愛乃に言うのである。
「駄目かな、それって」
「それってつまり」
「ま、まあね。水尾さんが嫌ならいいけれど」
 ここまで言ってだ。尊はさらに照れ臭そうになる。
 その彼にだ。愛乃はというと。
 確かに内心躊躇した。ここでケーキを食べればダイエットは無理だ。しかし尊の告白を受ければ。
 その躊躇も結局は消してしまって。二つの幸せを取ったのだった。
「私でよかったら」 
 にこりと笑ってだ。彼の申し出を受けたのだった。そこから何気に毎日ダイエットに励み体型と体重に気をつけながら。愛乃は尊のケーキを食べることになった。一つのことはそれで必死に消して二つの幸せを手に入れたのである。


ケーキがあれば   完


                     2011・7・28 
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