閃の軌跡 ー辺境の復讐者ー
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第4話~力の差~
前書き
最近空気になりつつあったアレス君が頑張ります。オリキャラ二人にしたの、間違いだったのかなぁ?まぁ、彼もわりかしキーパーソンなので、出番を増やしてあげたいとは思っています。今回は短めです(・・・ん?このぐらいが普通でしたっけ?)
七耀暦1204年 4月21日(水) ―トールズ士官学院内・グラウンド―
「それじゃあ予告通り、実技テストを始めましょう。前もっていっておくけどこのテストは『状況に応じた適切な行動』を取れるかを見るためのものよ。その意味で、何の工夫もしなかったら短時間で相手を倒せたとしても評点は辛くなるでしょうね」
サラ教官が実技テストについての説明を行い、開始の合図を出す。まずはリィン、エリオット、ガイウスが呼ばれてⅦ組一同の前に出た。いったい何を相手とするかは全員の疑問であったが、教官が指をパチンと鳴らすと突然、摩訶不思議な戦闘傀儡が出現する。驚くメンバー達に対してサラ教官は動くカカシのようなものと告げた。強めに設定しているが、アークスの戦術リンクを活用すれば勝てない相手ではないらしい。教官は戦術リンクのデモンストレーションを旧校舎地下での実戦を経験したリィン達にやらせるつもりだろう。オリエンテーションではリンクを発揮こそしたが使うまでには至っていないはずだ。ケインはそう推測すると同時に、
(ん?俺とラウラも旧校舎に行ったような・・・忘れられてるのか?あっ、3組に分けるためか)
などと益体の無いことを考えていた。
「・・・よし」
「な、何とか勝てたぁ・・・」
彼らはうまく呼吸を合わせられたようで、傀儡との戦闘に苦労は見受けられなかった。
サラ教官からも悪くないという評価を得たようだ。続いてラウラ、エマ、ユーシスの3人、アリサ、マキアス、フィーの3人が実技テストを行った。互いの戦闘スタイルの把握や戦術リンクへの適応がまだ浅いためか、最初の3人に比べると連携がまだあまり噛み合っていない。こればかりは地道に慣らしていくしかないことだろう。
「ケイン、アレス。次は君たちの番よ・・・って何やってるの?」
残る二人に呼びかけた教官は、グラウンドの後ろの方で互いに競うかのように腕立て伏せをしているケインとアレスを見て呆れている。
「・・・よしっ!俺の勝ちだ!アレス、今度ジュース奢ってくれよ」
「よかろう。約束は約束だ」
「サンキューな・・・さて、いい運動になったことだしそろそろ教室に戻るか」
「それがいい。しかし貴公の鍛え方は尋常ではないようだ」
「そうかな?帝国男子ならこんなものじゃないのか?」
二人の腕立て伏せ対決はケインの勝利に終わり、会話を弾ませながらグラウンドを去ろうと・・・
「あんたたち・・・」
「はい。すみません冗談ですからお許し頂けると非常にありがたいのですが」
・・・したが当然サラ教官に止められ、ケインは素直に謝ってアレスと共に戻ってきた。
「まったく・・・君たちの評価、下げちゃうわよ?」
「え、え~っと、お詫びとして後日教官様のおつまみを作らせて頂きますので
どうかお許し下さいませんか?」
「えっ、本当!?・・・仕方ないわね。反省しているようだし今回は見逃してあげるわ。
そのかわり約束よ?」
「ええ。存分に腕を揮いますよ(助かったか。ちょろ・・・優しい教官を持ったな、俺は)」
ケインが頭を利かせてサラ教官との交渉を成功させる。他のメンバーは上手く丸め込まれていると思っていたが、敢えてそれを言うものは誰もいなかった。
「コホン。それじゃあケイン、アレス、準備はいい?」
「いつでもいいですよ」
「こちらもだ。全力を尽くさせて頂こう」
排他的な赤黒い闘気と純色の燃え盛るような紅の闘気をそれぞれ身に纏い、自身らの得物を構えるケインとアレス。そこには先ほどの茶番など微塵も感じられない。まさに真剣そのものだった。他の9人はこの二人の実力が自分達より抜きんでていることを直感的に悟る。サラ教官の始めの合図とほぼ同時に傀儡に駈け出したケインは光線による攻撃をジグザグに避けながら移動し、前方から黒剣による一閃を加え、すかさず篭手で追撃する。傀儡のアームから負けじと繰り出されたレーザーソードの一撃を剣の腹で押し返し、続いてアレスが背後から大剣を叩きつけて標的から一定の距離を取る。
「隙だらけだな・・・勝機ッ!メイフライミラージュ!」
ケインのスピードに翻弄され、背後からの予期せぬ攻撃を受けた傀儡は突如無数の蜻蛉による幻覚に視界を埋め尽くされた。そこにすれ違い様の迅速な逆袈裟斬りからノールックで背後に怒涛の銃撃が浴びせられる。蜻蛉が散った時には傀儡が完全に停止していた。
「ほう・・・」
「なああ!?」
ケインとアレスの息の合ったリンクとトドメの洗練された戦技(クラフト)にラウラが感嘆の声を洩らし、自分たちがそこそこ苦戦を強いられていた傀儡が瞬殺されたことに驚いたマキアスが声を上げる。サラ教官もこの調子で頑張りなさいと言っていたため、評価は低くないだろう。そう考えながらケインは教官に返事を返し、傀儡の隙を生み出した功労者であるアレスとハイタッチを交わす。
「おかしいわね。さらに三段階ぐらい強くしたはずなのに。ケインに至っては力の半分も出してないでしょう?」
「ええ、まぁ・・・けど、帝国男子はみんなこんなものでしょうから今度から実技テストはこの位にしてm」
「「待て待て待て待て!!」」
「・・・どうしたんだよ、二人とも」
サラ教官に実技テストのレベルをもう少し上げてはどうかと提案したところでリィンとマキアスにツッコまれ、却下される。
「ふむ、帝国男子とは皆ケインのような強さを持っているのか」
「ガイウス、違うからね」
教官は11人の様子を見て段階的に上げると告げる。ひとまず一件落着したが、とある異国の槍使いにあらぬ誤解が生じていた。
「だいたいあなたと同じレベルなんてついていけるわけないでしょう!?」
「まったくだ」
「・・・そうか、そうだな」
アリサの言うことがもっともだと思うケインは、それに賛同したがどこか寂しげな目をしていた。それに気づいたラウラが「どうかしたのか?」と訊いてくるが、「何でもないよ」と返した。
(何でもないというのなら、どうしてそなたはそんなに寂しげなのだ)
そんなラウラの疑問は解消されることもなかったが、無理に聞くのも忍びないと自重し、先ほどの傀儡がいったい何であったのかをサラ教官に尋ねる。教官は思案顔になってとある筋から押し付けられた物で使うのは不本意だが、色々設定できて便利だと答えた。何か事情があるようだがどうやら話すつもりはないらしい。実技テストの終わりを告げ、Ⅶ組の特別なカリキュラムについての説明を始めるサラ教官。
(若者の知的好奇心を利用してみんなが気になっている事に話題を転換するとは酒狂いのくせに意外と策士なのかな?・・・いや、単に自分の都合が悪くなったから流したのか)
「・・・ケイン?今何か失礼なこと考えてなかったかしら?」
「いやいや滅相もない。やっぱりサラ教官は(黙っていれば)美人だと思いまして」
「もう、褒めても何も出ないわよ?」
「ハハハ・・・(ポーカーフェイスには自信があったんだけど鋭いなこの人)」
サラ教官の直感通り失礼極まりないことを考えていたケインは、とりあえず彼女の事を褒めておく。ケインを訝しげに見ていた目を閉じてニッコリと微笑んだ後、教官は説明を続けた。彼女が言うには、Ⅶ組特有のカリキュラムとは特別実習の事だそうだ。まずは全員をA班、B班の二班に分けたメンバーで指定された実習先に行く。そしてそこで、滞在期間中に用意された課題をやるというものらしい。
「・・・その口ぶりだと、教官が着いて来るというわけでもなさそうですね?」
「ええ、あたしが付いていったら修行にはならないでしょ?獅子は我が子を千尋の谷にってね」
「へぇ、邂逅一番自分の教え子たちを突き落した教官が言うと説得力ありますね」
「ケ・イ・ン?」
「な、何でもありまセン」
リィンはサラ教官が同伴しないことを確認する。それに定型句まで使って当然だと言うサラ教官についつい嫌味っぽいことを口走ってしまったケインは、先ほどと打って変わった彼女の威圧的なスマイルフェイスを見、即座に前言撤回した。余計なことは言わなければいいのにと誰もが思うが、それがケインクオリティなのだろうと考え言及はしない。皆好き好んで厄介ごとに巻き込まれたくはないのだろう。くわばらくわばらである。少々反省(?)している彼をよそ目にユーシスが「結局、俺たちに何時どこへ行けと言うんだ?」とサラ教官に訊く。彼女は「オーケー、話を進めましょ」と答え、各自に一部ずつプリントを渡す。プリントには以下の事が書かれていた。
【4月特別実習】
A班:リィン、ケイン、アリサ、ラウラ、エリオット(実習地:交易地ケルディック)
B班:アレス、エマ、マキアス、ユーシス、フィー、ガイウス(実習地:紡績町パルム)
ケルディックは、帝国東部にある交易が盛んでいわば商人の街だ。パルムの方は帝国南部にあり、紡績で著名な街である。そんなことよりもリィンとアリサ、マキアスとユーシスと現在問題のある二組を一緒にしているあたりからサラ教官の作為を感じる。マキアスもユーシスも互いに渋面をつくって不満の声を洩らしており、リィンやアリサなどは班分けが発表された時点で「えっ?教官何スかこれ?」とでも言いたげで、「えっ?」の辺りは二人とも声に出ていた。
「リィンらは何が不満なのか?」
「いや、班分けだろ」
妙なところで天然なアレスにツッコんでおいてから、ケインは深いため息を吐く。
「日時は今週末。実習期間は2日間ぐらいになるわ。
A班、B班共に鉄道を使って実習地まで行くことになるわね。
各自、それまでに準備を整えて英気を養っておきなさい!」
作為を施した当人のサラ教官は、彼らの様子などどこ吹く風で淡々と説明を終える。
・・・初の特別実習は早速波乱が起こりそうだと残りの6人は予感していた。
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