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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第九七幕 「戦闘宙域、突入せよ」

 
ただ臨海学校に来ただけの筈が、いつのまにやら事態は最悪に近い状況へと陥っていた。
ベルーナの拉致にアンノウンに襲撃されたISの救助、及び本土防衛。どちらも学生の手に任せるには大きすぎる案件だが、今回大人の対応してくれるのは片方だけだ。もう一方は自分たちがやらねばならない。

(ベルーナの事は・・・ジョウさんに任せるしか、無いな)

拉致、というワードがとても嫌な出来事――第二回モンドグロッソを否応なく思い出させて苦い思いがこみ上げる一夏。あの時は何が起きたのか分からないまま意識を奪われ、目が覚めた時は千冬に看護されていた。普段は優しくも厳しい千冬の表情が、あの時だけ驚くほど優しかったのが印象に残っている。――そして、訳も分からないまま千冬はドイツへと行ってしまったのだ。あの時の疎外感と、詳しい事情を何一つ知ることの出来なかった無力感は忘れない。

だがその時に一夏が抱いた想いと、今一夏が抱いている思いは別種のものだろう。きっと自分が拉致されたと聞いた時の姉も似たような思いを抱いたのではないかと一夏は思う。
ベルーナは無事なのか、怪我はないのか。
今、どれほど心細く感じているのか。
一体どこへ連れて行かれたのか。
もしも救出に向かったのがジョウでなければ一応の平静を保つのも難しかったかもしれない。ともかく、今は目の前に集中するしかない。既に先行の3人は高速移動モードで太平洋を突っ切る途中だった。ISのバリアのおかげで平気な顔をしていられるが、もし補助が無ければ風圧で悲惨な顔になっていた所だろう。

「まさかアサルトパックを本当に使う事態となるとは思いませんでしたわ・・・」
「その装備がアサルトパックっていう奴なのか?」
「ふむ・・・まさに強襲(アサルト)装備だな」

先行組の一人、セシリアが展開したオートクチュールに一夏は目をやった。そもそもオートクチュールなど授業でしか見たことのない一夏は生で見るのが初めてだ。男の子はみんな追加装甲、増設ブースター、フルアーマーなどゴテっとした追加装備に妙に興味をそそられる傾向にある。一夏もご多分に漏れず、だ。事態が深刻という事は分かっていても、やっぱり気になるものは気になる。

セシリアが母国で有志と共に作成したパッケージであるアサルトパックは、手数はあれど本体の火力で劣るブルー・ティアーズの火力底上げと高機動戦闘を想定して『当時の英国IS開発部の趣味と悪ふざけ』で作成されたものである。早い話が、連合王国のIS開発予定を外れて作った完全戦闘仕様であり、競技用オートクチュールの「ストライク・ガンナー」の技術も流用されている。

脚部のパーツが追加の推進系にすり替わり、BT5,6号機は大型レーザーBTに変更。背部の非固定浮遊部位は無骨なプロペラントタンクにモノを言わせてこれでもかと推力を増強させ、追加武装でドラム型の55mmバルカンポット2門、肩部にマルチプチランチャー、更に武装のスターライトmkⅢは銃身を詰めて射程を削った代わりに連射性能と火力を向上させたmkⅣに変えられている。そして止めが追加装備の「ヴァリスタ」だ。
攻城兵器(ヴァリスタ)という名前から察しが付くであろうこれは、簡単に言えば弩級光学兵器。現在は量子化されているためその姿を拝めないがその威力は・・・驚くことなかれ、あの最上重工が誇る九十九式収束荷電粒子砲「曼珠沙華」を上回る超火力を誇る。エネルギーをカートリッジとIS本体のエネルギーとの複合式に組み替えたことによって飛躍的に火力が向上したそれは、一度の戦闘に2発という厳しい制約はあれどその威力は「現代の攻城兵器」と呼んで差支えない。

「そ、そんなおっかない装備を・・・!?」
「・・・まぁ、燃費がひどいし今回使う機会があるとは思えませんが・・・ともかく、敵はISである可能性が高いです。これだけの火力と、お二方のISがいればそうそう不測の事態は起きないでしょうが・・・不測の事態も無いとは言い切れません。ゆめゆめ油断なさらぬよう・・・」
「敵の数も分からないというのが厄介だな・・・データリンクでは既にシルバリオ・ゴスペルのバリアエネルギーは三分の一を切っている。流石は軍用ISなだけあってまだエネルギーが残っているが、パイロットの集中力が保つかどうか・・・」

――戦闘予定宙域到着まで、あと数分。



 = =



そのISの操縦者はまるで観光でもするように周囲を見渡した。その顔はヘルメットのような頭部パーツによって半ば隠されており、口元より上は見えない。

「ふむ、思った以上に展開が早かったな。上出来だと言っておこう」

真っ黒な棺桶のようなコンテナ――報告ではその中にベルーナが囚われている――を背負ったようなそのISは、まるで蝶のようなウィングを有した藍色の装甲を纏っている。線が細く、まるで折れてしまいそうな繊細さ。実在の生物をモデルとしたISは世界的に見ても殆ど無く、その特徴的な意匠から手掛かりを探ればいくらかの人間はそれの正体に行きついたかもしれない。だが、生憎この場所にそんな調べ事をする余裕のある人間はいなかった。

そして、そのISの進路を塞ぐ4機の完全武装IS。その中で一機だけ頭部のセンサの形状が違う隊長機が前に出た。

「所属不明機に次ぐ。こちらは陸上自衛隊第一空挺団特務中隊である」
「あさがお部隊か。たかが第2世代のポンコツ4機で出陣とは勇ましいな。蝶らしく蜜でも吸ってやろうか?」
「・・・毒蝶になど近寄って欲しくはない。貴様にはIS学園の重要人物を拉致した容疑を始めとした様々な嫌疑がかかっている。大人しく武装を解除して投降せよ」
「ふっ・・・くくく、私がお前らにか?面白い冗談だ」
「貴様・・・ッ!」
「落ち着いて、加藤。安い挑発よ」

笑い声を漏らす正体不明のIS操縦者に、あさがお部隊隊員の纏う気配が攻撃的なものに変わる。――完全に舐められている。世界的にも最高クラスの練度を誇ると自覚している彼女たちにとって、それは侮辱に他ならない。相手のISが専用機である可能性が高いとはいえ、彼女たちの乗る打鉄は自衛隊ようにチューンが施されている上にパッケージ装備もしてある。

隊長の祇園寺と部下の清浦がA型(高機動)、加藤がC型(電子戦)、副隊長の黒田がD型(重装甲)。それぞれの役割がはっきりしている分隙の無い布陣だと言えるだろう。いくら相手のISの性能が良くても、正規訓練を受けているこの4機をあしらうのは難しいだろう。

――そう、4対1ならば。誘拐犯はニヤリと口角を吊りあげる

「ならこういうのはどうだろう。例えば――未確認ISが住宅地を目指して進行中、とかな!」
「ッ!?隊長、六時方向よりIS反応!数、3機!!」
「なんだと!?加藤三尉、該当データは!!」
「不明!ただ、学園を襲撃したものと類似点があります!!」

完全に不意を突かれたあさがお部隊だったが、その3機のISは既に相当な速度を出しており、既に彼女たちの戦闘宙域に侵入していた。方角は誘拐犯の示唆した通り、一番近い住宅街へと向かっている。一瞬迷った祇園寺は――だが即断した。

「第一目標は私が抑える!黒田二尉、指揮を執って3機の未確認ISを迎撃しろ!!」
「ちいっ・・・了解!!加藤、清浦!全武装の使用を許可する!!私に続け!!」
「「了解!!」」

3人は躊躇いなく未確認IS3機の迎撃の為その場を去った。放置すればどのような被害が出るか分からず、そして自衛隊としては国民の安全を守ることを優先しなければいけない。かといって目の前の事案を放置するわけにもいかない。部隊を分けるのは必然だった。
ほう、と誘拐犯が感心したような声を漏らす。

「平和ボケした国の兵士にしては大胆かつ素早い対応じゃないか。それとも人望が無いのかな?」
「ほざけ誘拐犯が。私は護国の剣にして弱きものの力そのもの。お前のような輩に後れを取るほど生半可な戦士ではない」
「まぁいいさ、ではこうしよう」
「なっ・・・!?」

おもむろに、誘拐犯がベルーナの閉じ込められた棺桶のようなコンテナを下に落とした。あれがどういう代物かは不明だが、それなりの高度があるここから落ちればその衝撃で中の人間が死ぬ可能性は十分にある。誘拐した以上は生け捕りにしたいはずだと思っていた祇園寺は焦ってそのコンテナを受け止めようとし――

熱量警報。寸でのところで機体をロールさせてその射撃を躱した。敵が撃ってきたのだ。これで連射の利く兵器ならば更に攻撃を貰っていただろう。
撃った当人はいたって平静で、それどころかまるで反応を楽しんでいるようにニヤニヤと笑っている。

「避けるか、一人で残っただけのことはある・・・」
「貴様・・・どこまでコケにする気だ!貴様の目的はあの少年では――」
「ふふ、心配するな。あのコンテナはちょっとやそっとじゃ壊れないし衝撃吸収機能も高い。対艦ミサイルか大出力レーザーでもぶち込まん限りは壊れはしないさ」
(こいつ・・・遊んでいるのか)

遅れて、コンテナが地表に落下する。衝突寸前にバーニアのようなものが推進剤を噴出して着陸した。敵のいう衝撃吸収機能は確認のしようもないが、中に閉じ込められているであろう保護対象が無事であることを祈るしかない。

にやにやと笑う口元を隠そうともしない誘拐犯に、危うくトラップに引っかかりかけた祇園寺は内心で歯噛みする。まさか人質を囮に狙って来るとは。しかも、狙いはかなり正確なものだった。レーザーライフルの展開速度も大したものだった。――こいつ、並の腕じゃない。

「レーザー兵器か。英国の十八番だな」
「そんなことはどうでもいいじゃあないか。私は『エム』、と呼ばれている。退屈していてな・・・・・・少し遊びたい気分なんだ」

ライフルを肩にかけたエムは、妖艶な笑みを浮かべて手招きする。

人質がかかっている以上は引くわけにもいかないが、それが厳しい戦いになることを祇園寺は直感していた。額を一筋の汗が流れ、ライフルを握る手に力が籠る。この操縦者が身に纏う独特の存在感を、彼女はどこかで感じたことがあった。巨人に相対しているかのような威圧感。皮膚を切り裂くほどに鋭い殺気。学園時代に感じたことがある――

(そう、この感覚は――織斑と似ている?)
「こんなにも退屈な任務なんだ。少しは楽しませてくれよ?モーニンググローリー」

幸いにも人質はこの場に置かれたままだ。負ける気は毛頭ないが――最悪の場合は言葉(ことのは)を当てにしなければいけない。他の部隊員3機であのアンノウンを止められる保証もない。不確定要素だらけの戦闘が、幕を開ける。



 = =



そして、それと同時期に――ある場所で、他の2つと規模は違えど激しい戦闘が起こっていることを、まだ当事者以外の人間は知らなかった。

「せぇいッ!!」

速度重視でコンパクトに振り抜いた拳を身を翻して躱される。相手はそのまま素早い動きでバク転し、床に足を付いた瞬間爆発的な速度で床を蹴って再接近してきた。直線上から体を逸らそうとした瞬間、相手は再び床を撥ねて宙を浮きながら回し蹴りを敢行してくる。

「ハァァッ!!」
「むっ・・・!!」

辛うじて腕で受け流して逸らす。追撃しようと思ったが、想像以上の衝撃に反応が鈍った。相手は空中で体勢を変えて指で床を跳ね、距離を取って低い体勢で着地する。さながら忍者のような体裁きだ。
首を刈り取ろうとしているかのような速度の蹴りだった。跳び蹴りの勢いをここまで殺さずに放ってくるなど只者ではない。襲撃されているユウはその体術に戦慄した。

「悪くはない、ね」
「・・・お姉さんは何者なのかな?」
「ニンニン、拙者は忍者にゴザル!」

ワザとらしく口元に指を立てて忍者の真似事をする女性。ライダースーツのような服に、本当に忍者のような被り物と口元を隠すスカーフ。何とも中途半端な忍者だが、その身体能力は漫画の忍者に引けを取らない。ボイスチェンジャーで少年のような声を出すその女性は、体の大きさからして成人だろう。愉快な言動に反してその攻撃は本気そのものだった。

いま、ユウは運悪く風花を所持していないためISに頼ることもできない。ユウの風花の待機形態はベルトであり、そして旅館の浴衣を身に着けていたユウは迂闊にも持ち歩いていなかったのだ。中にズボンは穿いているが、ジャージであるためベルトを着ける部分はない。帰ったら待機形態を別のものに変えてもらおうと密かに決める。


先生の指示で生徒を一カ所に誘導した後、ユウは姿が見えないつららを探して旅館内を歩き回っていた。佐藤さん、鈴、簪は既に事の成り行きを千冬の所へと聞きに行っており、丁度単独行動していたのだ。
ところが旅館の中庭に入った途端にこの女が現れた。最初の奇襲に反応できたのは奇跡に近い。兄が時折見せる本機の片鱗に似た気配を感じて反射的に身をかがめた瞬間、先ほどまで自分の首があったところを手刀が通り抜けて行ったのだ。

「格闘家、残間結章!その首級(みしるし)チョーダイ致す!」
「生憎だけどこの首は誰にもあげられないな」

どうも言動に一々芝居がかったものがあって、危ないのか危なくないのか判断に困る人だ。男性IS操縦者を狙ってやって来たにしてはやり方が雑だし、かといって愉快犯にしては実力がありすぎる。もしも彼女が銃を持っていればさしものユウも勝てなかっただろうが、明らかに彼女は丸腰である。

「ってゆーか、この声どっかで・・・」
「戦いの最中に考え事していてよいのカナ!?」
「!・・・考え事は後だ!!」

真正面から相手の拳が迫る。が、フェイントだと感づいたユウは相手の行動を制限するように腕を伸ばした。そこからは相手の腕を払い、有利な間合いになるよう素早く体制を変える読みあいになる。が、苛烈な攻めと柔軟な腕の軌道の変化に段々と対応しきれなくなり、裏拳が一発顔に入った。まるで鞭のようなしなりを持たせた一撃は、寸でのことろで首を守ったユウの頬に直撃する。痛い、が、何とか喉と顎からは逸らすことが出来た。相手の腕を払いのけて距離を取る。

口の中に鋭い痛み。さっきの攻撃で口の中を切ってしまったらしく、血の味が広がった。
喧嘩で怪我をしたのも数年ぶりだ、と思いながら唾のように血を吐き出す。この相手――どれほどかは分からないが、最低でも勝てるかどうかが分からない程度には強い。負けて何をされるのかも分かった物ではないが、助けを呼ぶ余裕はなさそうだ。一瞬でも気を抜くと本気で意識を持って行かれる。

と、急に相手の動きが止まった。スカーフで口元は見えないが、目に小さな動揺が走るのをユウは見逃さない。

「あ・・・」
「・・・・・・?まさか『あ、あんなことろにUFOが!』とか古典的なこと言い出しませんよね」
「い、いえ・・・何でもないでゴザル!」
「まさか、どこかで会ったことでも――いいや」

ファイティングポーズを崩さないまま息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。そして、既に戦闘で火照っている身体に喝を入れ直すように大きく足を踏み鳴らした。木造の床から伝わる衝撃が、頭への攻撃で若干揺らいだ平衡感覚を万全へと呼び戻す。そして、少々動きにくかった浴衣を脱ぎ捨ててズボンとランニングシャツのラフな格好になったユウは、浴衣を庭に投げ捨てる。

「貴方の正体は、倒してから調べればいい」
「おおー・・・なかなか一丁前な事を言うじゃない、”ユウちゃん”」

その呼び方を気にするための神経は、既に戦闘に回されていた。
  
 

 
後書き
一斉に戦闘勃発。 
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