普通だった少年の憑依&転移転生物語
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ゼロ魔編
037 盗賊(フーケ)ごっこ楽しいです
SIDE 平賀 才人
云うまでも無く、ハルケギニアの貴族──ひいてはトリステイン貴族には汚職や賄賂が横行していて、現代の地球のどこぞの国の政治家に似ている。表立ってそれらを指摘なんかしたら闇に消されるのが関の山だ。……地位を得た人間はその地位を保守すべき為に腐る…そんなところはいつになっても──どこでも一緒なのだろうか?
(そんなところだけ似なくてもいいだろうに)
山の様に積み上げられたエキュー金貨がパンパンになる程詰められた麻袋を見ながら、暗鬱たる想いで嘆息する。
「……はぁ…。相当溜め込んでたようだな。袋1つでおよそ1万エキューくらいだとすると──」
ざっと見ただけで麻袋は100個程はある。それを〝倉庫〟に詰めていく。……フーケ──マチルダさんからの情報で、この邸の持ち主──高等法院長のリッシュモンの邸には信じられない程の金が、それも腐ったカネが有るのは聞いていた。……事実としてカネは有った。
「……100万エキューはカタいな。うん」
(だがなぁ……)
気になる事もある。果たして、平民から搾取しただけでここまでの額が集まるか甚だ疑問である。
「ちょっくら調べる必要性が出てきたな。……むんっ!」
範囲をリッシュモン邸のみに絞り、〝覇王色〟で邸の人員の、〝殆ど〟を気絶させる。……別にわざわざ選んで気絶させた訳では無く、単純に俺の〝覇気〟に堪えられるだけの〝強者〟が居ただけの話。
(……さすがは高等法院長邸と云う事か)
「さてと≪土くれのフーケ≫らしくしないとな。……往くぞドライグ。〝バージョン2〟で頼む」
<応っ!>
「〝禁手化(バランス・ブレイク)〟!」
『Welsh Dragon Balance Breaker!!』
ドライグに“赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”をオープンフィンガーグローブにしてもらい、“赤龍帝の道化の外套(ブーステッド・ギア・クラウンコート)”を纏う。……纏った理由は素性隠しの意味合いが強い。
「[≪土くれのフーケ≫が莫大なエキュー金貨を頂いた]ってな。……“腑罪証明(アリバイブロック)”」
フーケの手口に倣う様にそう書き置きを残し、〝錬金〟の魔法で宝物庫の壁の一部分を土くれに変えて、“腑罪証明(アリバイブロック)”で色々と〝使える〟であろう情報が詰まっていそうな部屋である、リッシュモンの書斎に転移した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……こいつがリッシュモンか」
リッシュモンらしき人物は書斎で仕事をしていたのか、机に突っ伏しペンを持ちながら泡を吹いて気絶していた。
「どれどれ……?」
時間稼ぎにほんの少しだけ改良した“アイス・ウォール”で扉を凍らせ、棚に仕舞われている書類を〝遍在〟を使い、効率化を図りながら書類に書かれている内容を調べていく。
「無いな…。……あっ…」
当たり前の事だが、わざわざ書類──証拠を残しているはずもなく、出てくるのは〝マトモ〟な書類のみ。なんと無しにそれらを読み進めていると、ふとこんな事を思いついた。
(“腑罪証明(アリバイブロック)”を使ったらリッシュモンの記憶を見れるんじゃ……)
「“腑罪証明(アリバイブロック)”」
……結果からいってしまえば見れた。見なければ良かった。……リッシュモンがトリステインにとってどうしようも無いほどの膿だと云う事が判った。
(……あ、王庫からもケッコーな額を掠めとってやがる)
更に目を疑いたくなる記憶が在った。
本来なら、トリステインに愛国心を持たない俺からしたらスルー安定の内容なのだが、親友の想い人──アンリエッタ姫の国でもあるので、多分に干渉する事にした。……それに、トリステインの王庫から横領したそのカネを、あろうことかレコン・キスタに横流ししていた記憶すら在った始末だ。
「……枢機卿に密告してやろう──いや」
そこまで呟いて、いつぞや──マチルダさんの時と同様ティンと来た。
(……いや待てよ、〝マトモ〟な書類を見る限りリッシュモンの仕事能力は高い方だ)
言い換えれば、トリステインにはそれくらいの人材しか居ない事になる。更にそれを言い換えれば、リッシュモンを“アンドバリの指輪”で完全な〝傀儡〟にしてやり、〝記憶〟も俺で黙殺してやればトリステインの為にもなる。
(……俺も中々の下衆になったなぁ)
――バキャァァァァアン
「卿っ! 無事ですか!? ……何者だ貴様はっ! その方をどなたと心得ておるっ!? もしや高等法院長と知っての狼藉では無かろうな!」
「……取り敢えず長い。それに暑苦しい」
自分の下衆さに数秒だけ辟易しながら“アンドバリの指輪”で洗脳を施す為にリッシュモンの頭に手を掛けていると、何だか色々と面倒臭そ──忙しそうな奴がリッシュモンの書斎に入って来た。……ご丁寧に氷の扉をぶち壊してまで。
「貴様ッ!」
「おっと動くなよ? リッシュモン(こいつ)の生殺与奪の権限は俺が握っている」
「卑劣な…っ!」
(……わざわざ“アンドバリの指輪”まで使って〝操り人形〟にしたリッシュモンを壊す気は全く無いんだがな…)
俺の悪役染みた──否、状況を鑑みるにまんま悪役なセリフに〝ぐぬぬ〟な表情をしている闖入者──グレーともパープルとも取れる髪をショートカットにしている20代前半ほどの美女を見ていると、開けてはならない扉を開きそうになる。
リッシュモンの記憶から彼女の事は知っている。彼女の名前はミシェル。リッシュモンの記憶によれば、彼女は最近新設された銃士隊の副隊長らしく、リッシュモンによって王家への復讐心を植え付けられている女性。
リッシュモンの記憶によれば、ミシェルはリッシュモンが成り上がる際に殺された人間の娘らしく、リッシュモンの記憶を見る限り彼女──ミシェルの中では王家が彼女の親を謀殺した事になっている。……先にも軽く触れたが、今はリッシュモンの命令で最近アンリエッタ姫によって発足された銃士隊の副隊長になっている様だ。
(彼女を勘違いから解放するのは簡単だが……)
〝幻影〟の虚無魔法で真実をミシェルの脳裏に焼き付けて、リッシュモンに本当の事を語らせてやれば、然も簡単に勘違いは解けるだろう。……ただ、それは正宜しく無い事も判っている。真の敵に利用されていたと知ったら、ミシェルの精神が壊れる可能性もある。……既にミシェルへと同情しかけてしまっている俺からしたら、それは好ましくない展開である。
かと言って〝忘却〟の虚無魔法を使おうにも、今の状態ではどうにも長ったらしい〝虚無〟の詠唱ではルーンの詠唱中に突貫されて邪魔されるのがオチだろう。……そもそも、〝忘却〟ではふとした衝撃で記憶が戻ってしまう可能性がある事も考慮しなければならない。
「おっと。……そういえば、そうそう。俺は身体に杖を埋め込んでいる。……この意味は判るな?」
「……くっ!」
ミシェルが不穏な動きを見せたので、言外に杖は持ってないが魔法を行使出来る事を伝えて、ミシェルの動きを牽制しておく。
「くっ! ……儂は一体…」
「目が覚めたか。そろそろ潮時のようだ。……“スモーク・カーテン”」
リッシュモンが目を覚ましたので口早にルーンを唱え、その魔法を放つ。……“スモーク・カーテン”。土・火のラインスペルで恐らくは俺のオリジナルスペル。この魔法に殺傷能力は全く無く、自分の周囲を煙で覆うだけの魔法である。
「くっ、煙か!」
扉が開け放たれているとは云え、今のリッシュモンの書斎は殆ど密室とだという事になる。……当然その中で、煙を生み出す魔法なぞ使おうものなら、その煙は扉から排出される量の許容範囲を超え、煙は書斎の中に充満する。……その中で動けるのは、視覚に頼らない探知能力を持つ者のみ。
「ミシェル! 奴は窓から逃げるつもりだ!」
……なぜかバレた。それもリッシュモンに。
(……あ! そういえば)
以前ユーノから聞いた事がある。メイジなら得意とする属性で方法はまちまちだが、ある程度の探知が出来る事を。……リッシュモンが何で俺の動向を探知したかは知らないが。
「では、またいずれ」
「くっ、待て!」
……「待て」と言われて待っ泥棒は居ない。“スモーク・カーテン”を使った時点で退路は確保──窓は開けてある。ミシェルの制止を促す声を耳に、リッシュモンの邸宅を後にした。
(……あ、もう〝外套〟使えなくなった)
そんな事を考えながら…。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あの後王宮の宝物庫に忍び込み、今回リッシュモンから接収した金額の半分を置いておいた。それらのカネを置いたのが〝操り人形〟だとバレると、後々面倒な事になりそうなので架空の人物をでっち上げた。
「手に入れたお宝をもともとの持ち主に返すなんて、わざわざあんたもモノ好きな事をするねぇ」
「まぁ、ね」
俺はマチルダさん部屋にてマチルダさんと駄弁っていた。……あえて言っておくが決してピロートークなんかではなく、単純に紅茶──やピーチティーを飲みながら駄弁っているだけ。
閑話休題。
「ねぇ、サイト」
「……ん?」
「……テファに会ってみないか?」
珍しくマチルダさんはしおらしい態度で、寝耳に水な内容を切り出して来た。
SIDE END
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