魔法薬を好きなように
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第16話 復調と平和な日々
虚無の曜日はトリスタニアの化粧品店で、俺が香水をもっていく。まだ、モンモランシーが完調していないので、1人でだ。普通の店ならよいが、男性って、今俺しかいないぞ。
「それで、売れているので、数を増やしてほしいのですが」
「それは、ミス・モンモランシに聞いてみますので」
多分、売る数量を増やす予定はないだろう。作れない数ではないというか、固定化である程度のストックはある。手に入りにくいからこそ、人気があるというのが、モンモランシーの持論らしい。なので、無難に断りをいれるのが、毎回、ここの女店主に頼まれているそうだ。
たまに、別の種類の香水をつくって試し売りをすることはあるらしいが、今もってきているのが、一番の売れ筋らしいので、新しい方の評判が良かったら、主力をそっちにきりかえて、ストックは全部だすんじゃないかな。
普通ならここから昼食でもとるのだろうが、今日は街の噴水のところにきた。少し待っているとティファンヌがきて
「ごめんなさい。遅れちゃった」
「いや、俺こそ、昨晩になってからいきなり伝書ふくろうで手紙だして、会えなくても仕方がないかなって思ってたから」
「そうね。どっかの平日にしか会えないかと思っていたからなおさらね」
「まあ、モンモランシーが復調したら、あえる日も安定すると思うから」
「仕方がないわね。今日も3時までしか、こちらにいられないんでしょ?」
「ああ。それで、昼食はとってきていないよね?」
「うん。だけど、今までみたいなお友達同士で行くところじゃなくて、恋人同士が入るようなお店がいいわ」
だよな。いままでは、恋人同士ってまわりにみせられなかったから、まあまあ、親しい友達というぐらいの店だったからな。
「いいけれど、正直に言って、アルゲニア魔法学院の生徒たちぐらいが、恋人同士として行く店をしらないんだ」
「あら? そうなの」
「うん、俺が恋人同士で行くって聞いているのだと……」
魔法衛士隊での騎士見習いの時代にきいた店とか、トリステイン魔法学院の恋人同士の店あたりを何店かあげてみたが
「そこって、高級店ばかりじゃない!」
「そうだろう。なので、お店はまかせるよ」
なんせ、おれのまわりって封建貴族が中心で見栄を張る連中が多いからなぁ。
「デートのお誘いをするなら、場所ぐらいきめておいてよ」
「悪い。そうしたら、さっき言ってた店のどこかにでもしようか?」
「……いえ、今日の恰好だと、ちょっと入るのに勇気がいるわよ。仕方がないから私の知っているお店にいきましょう」
「そうだね」
食事にいくと、カップルが多い。ちらっと、こっちを見るのもいるが、その時ちょっとばかり驚いているのか、少し見ている時間が長いような気がする。
食事の注文をしたあとに
「もしかして、ここって、アルゲニア魔法学院のカップルが多い店?」
「どうしてそう思うのかしら?」
「いや、俺の見知らない人間がこちらを少しばかり長くみているから、ティファンヌの知り合いが多いのかな、ってことからね」
「そうね。アルゲニア魔法学院の公認カップルが多いわね。けど、見られているのを気がついたのね?」
「仕事がら、今は護衛をやっているから、自分への視線には、ちょっと敏感になっているんだろうね」
「護衛相手への視線でなくて?」
「ああ。護衛をしている相手への視線は見てしかわからないけど、自分へくることも割合多いんだ。だから、その視線に悪意とか善意とか感じ取る訓練なんかも受けている」
まあ、サイトが俺に対して視線をむけなかったから、モンモランシーへの足をひっかけるのは、気がつけなかったってのもあるんだが。
昼食後は、単純に街の中を歩き回っていただけだが、それはいままででも何回かは行ったことはある。ただ違うのは、今回は手をつないでだ。こうすると、ティファンヌもそれを嬉しがっているし、俺もそんな彼女を見るのが好ましい。
楽しい時間が過ぎるのは早いもので、時間が近づいてきたので、街の出口までついてきてくれたところで、
「今日は短い時間だったけれど、楽しかったよ」
「私もよ」
「それでね」
俺は持っていて袋から、小瓶を一つ取り出した。
「プレゼント」
「あら、貴女からプレゼントって、久しぶりね」
「友達からプレゼントなんて、誕生日とか新年の降臨祭ぐらいだろう?」
「そうよね。けどうれしいわ。ところで中は何の魔法薬なの?」
「香水だよ」
「貴方が香水を作るなんて、一度も聞いたことなかったわよ」
「作って人に渡すのは、今回が初めてだからね。けど、香りは有名なものと似ているはずだよ」
「今、香りを楽しんでもいいかしら」
「うん」
ティファンヌが香水の香りを確認していると、驚いたように
「これって、あの有名化粧品店の香水と同じ香りじゃないの」
「そう言ってもらうとうれしいな。ちょっと違うんだけどね」
「そういわれてみると、少し香りは弱いかしら」
「そう。ベースは同じ香りだけど、少し香りを抑えめにして、長時間香りが持つようにしてあるんだ」
「ベースが同じって、どうやってあの香水の成分がわかるの?」
「あの香水って、モンモランシーが作っていて、そのレシピをもとに作ったから」
「へぇ。あの人がね……けど、私が、最初だなんて嬉しいわ。大事に使わせてもらうわね」
「うん。香りは飛びにくいけれど、長く持つというものでもないからね」
「そうね。固定化系の魔法は、私、不得意だから」
「実際、使ってみて、気にいったらまた作るよ。香りも多少なら変化させることもできるしね」
そう言ってその日のトリスタニアにいるのは終わった。
トリステイン魔法学院に戻ってからは、モンモランシーに化粧品店で預かったお金を渡して、今日は食事以外には部屋からでていないのと、体調は好調であることを聞いた。
部屋に帰って、その日の分量、昨日までより2割減らした量の魔法薬を調合して、なじませておき、夕食前に迎えにいくついでに、魔法薬を飲む分だけ預けて、夕食後は念のため部屋の前まで送っていくが、特にモンモランシーに以上はなかった。
夕食後から風呂に入るまでの間で、3日に1度ぐらいおこなっている軍杖を使った訓練をしようと、いつものヴェストリの広場に行くと、サイトが大釜を設置して、水をその大釜へ入れている最中だった。
「やあ、サイト」
「ジャックか。この前は悪いことしたみたいで」
「そのこと自体は、もうモンモランシーは気にしていないからいいけど、下手なことをしたら、お前の首がヴァリエール領でさらされることになったかもしれないぞ」
「気を付けます……」
「って、今日はそんなことじゃなくて、ここで何をしているのか聞きたかったんだけど」
「ああ、風呂を作っているんですよ」
いわれてみれば、ドラム缶風呂の要領か。
「なるほどね。まあ、がんばれや」
「うん」
俺も軍杖をつかって、訓練をしながら、サイトのおこなっている水汲みやまき運びなどをチラチラみていたが、火をつけたころには、いい時間なので、風呂に入って寝ることにした。
それから数日間は、午前中の授業の時間帯は、一人で薬草をとって、昼食から授業の終わりまでは、モンモランシーと一緒にいて体調を観察とする時間をかねている。そのあとは、モンモランシーの治療用魔法薬を調合してから、モンモランシーがまとめてあるレシピを試してみて、夕食をモンモランシーを迎えに行って、3日に一度診察ということにしただしたが、途中の日から教室にはルイズがいないことに気がついた。いなければ、いないで結構静かだ。なんとなく、あの爆発音が聞こえないって、俺もここの環境に慣れ始めたな。
フラヴィとクララの診察だが、フラヴィは前の週よりよくなって、クララは安定している。二人には魔法薬の量は前の週と同じにするが、クララには
「朝は我慢しないで、したくなったらする」
「はい?」
「まだ、きちんという医師も小数派のはずなんだけど、大便をがまんをしていると、その状態になれてしまって、身体がだしたがっているのを、感じなくなるって言われているんだ」
「へぇ」
「クララだけじゃなくて、フラヴィも便秘気味の状態から通常になって、魔法薬も安定したら、そうできるようにね」
うーん。ワインやジュースを飲みながらする話でもないが、仕方がないだろう。
そのうち、また夕食と風呂に入る間の訓練の日に、なにやらテントらしき物がある。何かと思って覗いてみると、サイトが酒瓶をころがして寝入っているところだ。
俺とモンモランシーの間も微妙だが、ルイズとサイトの間もなにかがあるのだろう。今一つわからないけどな。
そして、そのうちにキュルケとタバサが教室からいなくなり、ギーシュもいないとと聞き及んで、まさかねと思いながらヴェストリの広場へ向かうとテントがなくなっていた。
ルイズは自室にいるという噂だし、何がおこっているのやら。
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