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魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~

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StrikerS編
  76話:模擬戦決着! 勝者は…どっち!?

 
前書き
 
お久しぶりです。約二週間ぶりですね。テスト直前で何やってんだって話ですよね(笑)
今回はほとんど戦闘描写のみです。いや~、想像した殺陣を文字にするのってやっぱり難しいです。

ん?投稿は呟きでテスト明けになるって?

すまん、あれは嘘だ。
  

 
 




「い、つつ…」
「スバルさん、大丈夫ですか!?」

ビルに開いた穴の向こう、そこに頭を押さえながら体を持ち上げたスバル。そこへ駆け寄ってきたキャロが、怪我か何かないかスバルの体を確認する。

目立った外傷はなく、小さい擦り傷や軽い打ち身程度のものだった。これなら自分でも治せる。そう判断したキャロは早速ヒーリングを開始する。
しかしスバルはそんな事気にせず、目の前の穴から外の様子を眺めていた。

「そらそら、どうしたエリオ!お前の本気はこんなもんか!?」
「くっ、ぐぅ…!」

そこでは槍型のデバイスを振るうエリオと、棍を操る士の姿。明らかに攻めているのはエリオなのに、士は余裕の態度だ。
そしてその攻防を遠目で見ているティアナ。いや、実際は見ている訳ではないのだが、

「ははは、甘いぞティアナ!」
「うそ…今のもダメ!?」

隙を見て放たれた数発の魔力弾は、二人の攻防の間に士が振り回した棍で弾かれてしまう。なんという視野の広さだろうか。
横、斜め、そして突き。時たまに振り回し魔力弾を弾く。滑らかかつ正確なその動きに、ヒーリングをしていたキャロも思わず見入っていた。

あれが昔自分が憧れた人の実力。ハンデとして棍を使っているとはいえ、それでもエリオとティアナの二人相手に圧倒している。
あの人と、もう一人の憧れた人に教われば、自分はどれだけ強くなれるだろうか。どれだけの物を身に付け、どれだけの物を守れるだろうか。

この心の高鳴りを、どうすればいいだろう。
スバルはゆっくりと立ち上がり、前を見据える。未だヒーリングは終わっていないので、キャロは驚きながらそのことを伝える。
しかしスバルはそれを拒否し、外へ出る為一歩前に進んだ。

「大丈夫。それより、ティア達をフォローしなきゃ。二人にばっか負担掛けさせていられないよ」

そういうとスバルはローラーを走らせてビルを抜けた。その背中を見ていたキャロも、フリードの鳴き声でようやく動き出す。

「…私達も頑張らないとだね、フリード」
「キュクル~」

側で翼を打つフリードと共に、キャロはビルの穴を走り抜ける。
























「そら甘ぇぞエリオ!力こもってねぇ一撃だったぞ、もっと気合入れろ!」
「は、はい!」

真正面から打ち合っているエリオと士。そんな中でエリオの槍の使い方を訂正して、指導していく。その指導はどこかの熱血コーチさながらの、アッツアツのものだった。
勿論ティアナも隙を見て魔力弾を放つが、こちらは変わりがない。放てば放っただけ士がそれらを弾き、「まだまだ甘い」と注意する。

しかしそんな流れにも、変化は訪れる。

「はぁあっ!」
「おっ…」

士がティアナの魔力弾を弾き終えた瞬間、エリオが小さく飛び上りストラーダを振り下ろしてきた。咄嗟に士は棍で防ぐが、それが結果的に棍と槍の鍔迫り合いのような押し合いとなった。
だがそこは大人と子供の押し合い。どちらが勝つかなど火を見るよりも明らかだ。しかし士はあえてそれをすぐにはしなかった。

現状、ただエリオを突き飛ばしただけでは、若干の間合いができるだけ。それで武器が剣などならよかったが、今回の棍では距離が不十分でうまく攻撃には回せないのだ。
だったら、と士はすぐさま行動に移る。エリオがストラーダを持つ両手に少しの合間を見つけ、そこに足を付ける。急なことに驚くエリオだが、反応される前に士はエリオを足で押し出した。

「うわぁ!?」

エリオはそのまま勢いよく離れていき、棍や槍を扱うには十分な距離が生まれた。エリオもうまく着地し、思考を巡らせる。
その間にティアナが再び攻撃を放つ。勿論さっきまでと同じように棍で弾いた。

その攻防の一瞬の隙。そこに目を付けたエリオは、そこを狙って一歩踏み出した。

「ストラーダ!」
〈 Sonic move 〉

その一歩で一気に間合いを詰める。その行動に気づいた士はすぐさま対応に移る。
棍を持ち、腕を引く。形としては、突きを放つ体勢だ。

それに対しエリオは横薙ぎの構えを取る。速度で上を取るエリオは、その分相手の動きもよく見えていた。
引き絞られた筋肉を解放し、士は突きを放つ。しかしそれがそれなりの速度で放たれていたとしても、エリオにはギリギリ避けられる程の物だった。

頬を掠めるような突きを避け、右足を踏み込んだ。そして一気に槍を左から振りぬこうとする。
当たる、と思ったその瞬間―――

士の姿が、エリオの目の前から消えた。

「―――…え…?」

その光景に思わず声を漏らす。今の今までそこにいた筈の人が消え去った。あの間合いならジャンプしたならすぐわかるし、幻術とかの類の筈も……
その時、ふと地面に移った影が目に入る。そこには勿論自分の影があり……それとは別の影が一つ。

(上!)

エリオの推理は正しく、士は上にいた。だがただジャンプしてそこにいる訳ではなかった。
先程突き出した棍をエリオの攻撃が放たれる前に地面に突き刺し、エリオの攻撃が当たる直前で棒高跳びの要領で空へ上がったのだ。

ただその時腕や手首を捻っている所為で痛みを伴っていて、顔を少し歪めていたのだが、そのことに気付いたのは、一部始終を見ているなのはだけだった。

士はさらに棒高跳びの要領で体を捻り、棍を振り下ろせる体勢になる。対してエリオはストラーダを振り切った勢いで振り返り、次の攻撃に備える。
そして振り下ろせる棍。見事にストラーダに当たり、金属と木の混ざった音が響き渡る。

「―――ふっ」
「な…!」

しかしその衝突は長く保たれることはなく、すぐに士がサッカーのルーレットのように動く。強烈な一撃や連撃が来ると思っていたエリオは、いきなり自分の横へ移動されて反応に遅れてしまった。
その一瞬が命取りとなる。士はエリオの首の後ろに向けて棍を振るう。






―――ガシィ!


「おっ…?」

しかし棍が当たる十数センチ前で止められた。それに驚いて目線をエリオの首元から止められた棍の先へ移す。
そこには少し息を荒げながら、リボルバーナックルで棍を掴むスバルの姿があった。ビルから抜け出したスバルが、ギリギリで到達したのだ。

スバルは棍を掴んだ手を引こうとする。だがその前に士は左足を踏み込み、何も持ってない左手で叩き落とすように棍を叩いた。そしてそれと同時に直前で逆手に持ち替えた右手で軽く弾き上げる。
すると棍はスバルの手を離れ一回転する。あっ、と驚くスバルだが、そんな暇もなく宙で一回転した棍は、再び士の右手に収まった。

「まずっ…!」
「はっ!」

自動的に引き絞られた位置にある右手を、棍と共に突き出した。スバルはすばやく動き士の突きを避け、尚且つエリオを抱えて一気に戦線を離れる。
全力で走るスバルはティアナの元へと向かった。抱えていたエリオを立たせ、ゆっくりと息を吐く。キャロもそこへやってきて、ようやくフォワード四人が集まれた。

「結構…きっつい……」
「まともな打ち合いもできませんでした……」
「いや、それができるとは思ってなかったけど…あれ程とは……」
「正直、見てるだけで凄いのがわかる程でしたね…」

ティアナは懸命に考える。ここまでの士の戦いぶり、スバルとエリオの二人との戦闘で目に見える力の差。どうすればその差を埋めて、あの人に一撃与えられるか。
しかしどうやっても、一撃与えるビジョンが浮かばない。どうすればいいのか、その方法がどうしても浮かばない。


「―――大丈夫だよ、ティア」


「え…?」

その時、ティアナの表情を見ていたスバルが前を見据えて言った。ティアナはそれに驚いてスバルを見る。

「大丈夫、なんとかなるよ」
「…一応聞くけど、その根拠は?」
「ない!」
「自身持って言うな!」

でも大丈夫、とはっきり返すスバル。

「だって、一人だったり、ティアとのコンビだったらわからないけど―――」



「今は『四人』でいるから」



「っ…!」

それは大丈夫と言える理由でも何でもない。それでも、その言葉はティアナの心に―――否、エリオのキャロの二人の心にも余裕をもたらした。

「……まったく、あんたに言われるとしっくり来ないわね…」
「酷い!?」
「でも……その通りだわ。一人や二人なら無理だけど、今は四人なんだったわ」

そもそも、これから先の訓練だと四人のコンビネーションをやっていくと、なのはが最初に言っていた。となれば今ビルの屋上にいるなのはが見たいのは、おそらくそれも含んでいるのだろう。
とはいえ四人でのコンビネーションなんてあまりやっていないし、一朝一夕でできるもんじゃないのはわかってる。が……

「やるっきゃないわね」
「…うん!」
「そうですね」
「はい!」

ティアナの言葉に、三人が頷く。それを見ていた士もなのはも、それなりにチームの形になってきたじゃないかと小さく笑みを浮かべる。

「てぃ、ティアさん。最初の攻撃、私がやってもいいですか?」
「っ…キャロ?」
「今のところ私が一番魔力が残ってる筈ですし、まだ士さんに見せてない攻撃もあります。当たるかどうかは後にしたとして…」
「…そうね、やってみる価値はあるかも」

それじゃあお願いできる?ティアナがそう言うと、キャロは小さく頷いた。
その頷きを合図に、四人は一斉に目線を士へと向けた。

「エリオ、私達も行くよ!」
「はい!」

最初に動いたのはスバルとエリオ。しかしこれは攻撃の為の行動ではない。

「初撃、いきます!フリード!」
「キュクル~!」
「ブラストフレア!」

来る、と士が思った瞬間、キャロからブーストを受けたフリードの火炎砲が放たれる。
まっすぐに向かった火炎砲は士の足元に着弾し、炎をまき散らす。壁のように燃え上がった炎は士の姿を覆い隠す。

「キャロ、お願い!」
「はい!ケリュケイオン!」
〈 Boost Up Barret Power 〉

ティアナの指示で桃色の魔法陣がキャロの足元に展開され、強く光り輝く。
それと同時に同じようにティアナの足元に展開され、それと同時にティアナの周囲に魔力弾が五、六発現れる。

その間に士は炎から、転がるように這い出てきた。本来キャロのブーストによってバインド効果が付加された炎の直撃を受け、こんな短時間で抜け出すことは難しい筈なのだが、それでも士は通常の三分の一以下の時間で抜け出していた。

しかしそれも予想通りなのか、ティアナは用意した魔力弾を、放つ!

「クロスファイア―――シューートッ!」

抜け出したばかりの士は片膝を地面に付けており、魔力弾が迫ってくるのを確認すると、走り出し転がるように避けた。
だが士が転がったその場所の周囲に、いくつかの魔法陣が展開される。色は桃色、という事は……

「我が求めるは、戒める物、捕える物。言の葉に答えよ、錬鉄の縛鎖」
(これは…召喚魔法か!)
「錬鉄召喚、アルケミックチェーン!」

展開された魔法陣から複数の鎖が飛び出す。その鎖は上に伸びきると、そこから落下するように士の元へ向かっていく。

「いい感じになってきたじゃないか…!」

だけど、まだまだ!笑みを浮かべながらそう叫ぶ士は、向かってくる鎖を踊るようなステップで躱していく。
まるで音楽に合わせているような軽快さと、何かを感じさせる魅力を伴ったその動きに、フォワード四人はまたも驚く。

それを見た士は自慢げに口角をさらに上げる。そして遂に鎖の雨から抜け出し、地面を転がる。

(これで全員分の魔法のだいたいが見られたな…)

心の中でそう呟き、よしと決め込むと、士の手はライドブッカーへと伸びる。そこから一枚のカードを取り出し、開いたバックルに挿入する。

〈 ATACK RIDE・BIND 〉
〈バインド・プリーズ〉

その音声が流れると同時に、キャロの周りにいくつかの魔法陣が出現する。その魔法陣はミッド式でもなく、ベルカ式でもない。四人にとって見たことのない魔法陣だった。
それが急に自分の周りに現れたことに驚くキャロ。しかしそんな暇も与えないかのように、魔法陣からキャロの魔法と同じように鎖が出てくる。

「こ、これって…!」
「キャロと同じ、召喚魔法!?」

出てきた鎖はキャロへ向かい、その体へ絡みつく。「キャッ!」と声を上げてキャロは前のめりに倒れてしまう。

「キャロ!」
「キュク~!」

それを見たフリードは何とか鎖を噛み切ろうとするが、逆に別の鎖に縛られ動けなくなってしまう。

『士くん?』
「な、何だよ…?言っとくが、お前の提示したルールには〝魔法使用禁止〟はないから、これはありの筈だぞ!?」

上で一部始終を見ていたなのはは、すぐに士に通信を繋ぐ。だが士は言い訳っぽく言い放ち、自分は正当だと主張する。
それに対し、まぁそうだけど、と言いよどむ。しかしやはり普通の魔導士相手にそれはどうなのだろうか、という疑問は消えない。

それでもまぁ、これ以上のキャロの行動は難しいと考え、

『ごめんね、キャロ。一応戦闘不能ってことで』
「え!?そうなるんですか!?」

キャロが抗議し始める前に、なのはは転移魔法を発動してキャロを回収する。
これにはティアナが焦りの色を露わにする。一番魔力が残っているのは確実にキャロだったし、元より彼女を軸にして攻撃を組み立てていく算段だったのだ。こんな早い段階で彼女が戦線を離れるとは、予想だにしていなかった。

しかし、やることは変わらない。今の自分のできる事を、精一杯やるだけだ。

[スバル、エリオ。そっちは?]
[準備完了だよ!]
[いつでも行けます!]
[それじゃあ、お願い!]

「ウイング、ローーードッ!」

ティアナの指示と共に、士の周りに水色の道が螺旋状に出来上がる。士はその光景に懐かしさを感じつつ、これはスバルの魔法だと結論付ける。
そう思いながら眺める士の背後に、一つの影が現れる。

「でやあああ!」
「…後ろからの強襲、悪くない選択だ」

その影とは、ウイングロードを駆けあがり飛び出してきたエリオの物だ。振り下ろさんとするエリオの叫び声を素早く察知し、士はすぐさま振り返りその攻撃を防ぐ。
しかし二、三撃を与えたところで、エリオはすぐさま士の元から飛び退いた。それに少し驚いた士を他所に、エリオはそのままウイングロードの上に乗り、走り出す。

(でもその位置だと、こっから見えるぞ。どうするつもりだ?)

そう思って見つめていると、エリオの姿が霧のように消えた。
これにはさすがの士も驚きを表情に出してしまう。エリオの能力に、ノーモーションでの高速移動はなかった筈。なら何故…?

今残っているフォワードのメンバーはスバルにティアナとエリオの三人。この中でこんな芸当ができるのは……

「幻術魔法を扱えるティアナだけ、か…」

となると、これは〝オプティックハイド〟。単純なレーダー騙せるステルス状態にする魔法。中々強力な魔法だ。
弱点としては不可視にするためには、その対象に触れなければならない事。つまりは、ティアナも自身を不可視にした上で、ウイングロードの上に乗っている事になる。

その上、このウイングロードの発動者であるスバルも、おそらくティアナの魔法で不可視になっている筈だ。近距離直前では大量の魔力を使って、不可視はなくなる筈だが、それでも見えないのは辛い。
しかし人としての気配までは消えない筈だ。となればそれを基準にして考えるべきか。

「神経を…集中させて……」

そう呟き目を閉じる士。周りの気配を探るように、息をする。
今周りには……三つの気配。全部が螺旋状の道の上にあり、スピードはまちまち。一人後ろにいて、今二人が前に……後ろの気配が止まった。この動きは…魔力弾。

そう判断して目を開きながら振り返り、迫ってきていた魔力弾を魔力を纏わせた棍で弾く。

(うっそ、見えていない筈なのに…!?)

驚くティアナだが、それでも諦めたりはしなかった。魔力弾を放った事で見えるようになっていた体を、再び魔法で不可視にする。
士はティアナが見えなくなるのを確認すると、再び目を閉じて気配を探る。今は背中の方向に一人、少しズレた場所に一人と、前方向に走っているのが一人。

今度は一人、走るスピードをそのままに回り込むように走ってくる。このスピードは…スバルか。

「このままだと、一直線で衝突…」
「おぉぉりゃああぁぁぁぁ!!」

気配のする方―――左手側から蜃気楼のように姿を現すスバル。しかし士はその方向をしっかりと向いており、しかも拳を既に作り終えている。
それを見た瞬間スバルの脳裏に浮かんだのは、さっき自分が殴り飛ばされ、ビルの壁に激突したあのシーン。あれだけでも、自分と士との戦闘経験の差が露呈されたのは、一目瞭然だ。

それが頭を過ぎた瞬間は確かに一瞬だった。が、それだけで十分だった。スバルの動きを、少しの間〝硬直させる〟には。

「―――思考が一瞬鈍ったな」
「あっ…!」

その一瞬の迷いを、士は見逃さなかった。すぐさま士は一歩踏み込み、スバルとの距離を縮める。
慌てたスバルはもう一度気を引き締め拳を作るが、その間にもローラーは動いており、距離は縮まっていた。

そこへ士の拳が―――またも当たらずに、今度はスバルの顔の右を通る。そして両者の肘が交錯する。

「うわぁ―――うっ…!」

それでもスバルの勢いは止まらない。ローラーは止まらないまま進み、しかしスバルは士の肘で前に行くのを止められている。となれば勢いそのままに、今度は足を前にして宙に浮く。
そしてそのまま重力に逆らう事もなく、地面に背中を打ち付ける。

その時痛みで思わず目を瞑っていたが、戦闘中だと考えすぐに目を開ける。

「たぁあああっ!」
「おっと!」

そこにはストラーダを振り下ろすエリオと、それを防ぐ士が。エリオはそのまま攻撃を続け、士をスバルの近くから退かす。
スバルはゆっくりと立ち上がり、周りを見渡す。探す相手は、自らの長年のパートナー。

[スバル、聞こえる!?]
[ティア!]
[大丈夫そうね、今からそっちに行くから待ってて。それから……予定通り行くわよ]
[―――了解!]





一方その時、エリオは士相手に攻めの姿勢で戦いに臨んでいた。

「―――まぁ、いい攻撃だ。さっきよりは工夫されてる」
「くっ……ぅぉおおおお!」

しかしたった一撃、たった一回のかすりすらも、士の体に与える事はできないでいた。
顔目がけて放てば顔だけで避けられ、腹部や胸部、腕を狙えば棍で弾かれるか、避けられる。足元を狙えば飛んで避けられ、反撃もされる。

今の自分では、どうにも越えられない〝壁〟がそこにはあった。

「お前はやっぱ、いい魔導士になれる。飲み込みもいいし…何よりお前の心は強い」

エリオとの攻防の最中であるにも関わらず、士はエリオにそう言い放つ。それを聞いただけでも、エリオは焦る。
届かない。全力でやっているにも関わらず。自分が目指した人が目の前にいるにも関わらず、この人にはまだ、届かない。

「それでも今のお前自身は、まだ弱い」
「っ…!!」
「でも焦るなよ、エリオ。お前はまだこれからだ。色んな物を知り、色んな事を経験し…時には壁にぶつかる事もあるだろう。だがそれを乗り越えろ。時にはお前一人で、またある時は隣にいる誰かと、チームの皆と一緒に」

そう言い切った瞬間、迫る槍を弾いた士の姿がブレた。すぐに後を追おうと顔を向けるが、その先で額の先に棍を突き立てられた。

「だから、この負けも受け入れろ。悔しさを噛みしめろ。そんで、それら全部まとめて乗り越えろ。そうすれば、お前は絶対に強くなる」
「………」
「俺はいつでも相手になる。いつでも教えてやる。だからもっと、強くなってみろ」

士はそう言って、棍を引き背中を向ける。エリオはそれを、憧れたその背中を、じっと見ていた。

悔しい、今までにないぐらい。下唇を噛み、その悔しいという気持ちを露わにする。
でもその気持ちは、自分を強くしてくれる。負けを知って、そこから色んなものを得て、自分は大きく…そして強く成長する。

そんな事を、他にも色んな事を―――これからはこの人から、教えてもらえる。

『…エリオ、戦闘不能。こっちに転移させるね』
「……はい…」

エリオの足元に魔法陣が展開され、光を放つ。その間も士は背中を向けたままで、エリオは変わらずじっと見つめていた。
だがエリオの姿が光に消える直前、エリオはある行動をした。頭を下げ、腰はほぼ九十度に曲げて。

―――ありがとうございました。これから、よろしくお願いします。

口にした言葉は聞こえなかったかもしれないが、エリオはその言葉を口にできただけで十分だった。







「さて、残るはスバルとティアナだが…」

そう呟いて周りを見渡す。しかし先程倒したスバルの姿は近くにはなく、勿論ティアナの姿も見えない。
再び気配を探る為に目を瞑る。だがすぐに目を開けて、棍を背後に向けて突き出し右手だけで振り回す。

すると背後から迫っていた魔力弾が当たり、弾け飛ぶ。それは勿論、ティアナの魔力弾だ。

「もう少し捻っていこうぜ、ティアナ。さっきと同じだし、自分の姿も見えて―――っ!?」

だがそこで言葉が詰まり、士はすぐに振り返る。それと共に持っていた棍を左へ振るう。
そのときガッという、何かが当たった音と共に、確かに物体を叩いた感触があった。

ここにスバルがいる。咄嗟に感じた気配そう確信して、士は再び右に棍を振るう。今度も命中させて、スバルの姿でも確認しようと思ってだ。

だが―――棍に何かが当たった感触は、感じられなかった。

「あ、れ…?」

思わず目を見開き、馬鹿みたいな声を出してしまう。さっきは確かに当たった。そのさっきとほぼ同じルートで振るった。その筈なのに、当たった感触がない。


……まさか、避けられた?


その一瞬の思考の後に、士の腹部に水色の魔力スフィアが突如として現れる。その先には人の手がある。
それに気づいたときには、ティアナの魔法が切れスバルの姿が露になる。

「一撃、必倒―――!」
「しまっ…!」

そう、すでにスバルは攻撃の準備を終えていたのだ。スバルが持つ魔法の中で、一番の破壊力と貫通力を持つ―――憧れの人の名前を借りた、自慢の一撃を放つ、準備を。

「ディバイィィィン―――」

この瞬間、士はヤバイと感じた。この至近距離での砲撃魔法。それを……生身で?
その危機感を頭で理解するよりも早く―――士はカードを取り出していた。

「バスタァァァーーー!!」

スバルはそのまま自らの魔法を放ち、士は水色の光に消え、爆煙に飲み込まれた。










「や…やった……!」

遠くで見ていたティアナは、小さくガッツポーズを作る。
ティアナの作戦としては、キャロの強化魔法を軸にエリオとスバルで何度か攻撃をする。その間にエリオが倒された時に、その隙を狙ってスバルがバスターを叩き込む。というものだった。

勿論ティアナ自身も牽制として魔力弾を放つことはしていたが、勿論それで終わるとは思っていない。だからこそ、本命を一番攻撃力のあるスバルに任せたのだ。

『…ティアナ、今のは作戦?』
「え?あ、そうですけど…」
『ちょっと、やりすぎかな?士君は生身の筈なのに…』

なのはにそう言われた瞬間、ようやくそのことに気づいた。しまった、あの人はデバイスは使っていても生身だった。さすがにあれは生身には……

「―――いい攻撃だ」

そのとき、爆煙の中から声が聞こえてきた。それはよく通る声で、誰のものかなんて簡単にわかった。
少し離れた場所で見ていたスバルも、それに気づいて目を丸くしていた。

ゆっくりと煙が晴れていく。そこに立つ人影は高さは変わらず、しかし煙越しでもその異様さはなんとなく感じられた。

「結構容赦なくやってくれたな~。たく、少し焦ったぞ」

そう言って露になる士の姿。だがそれはフォワードの四人が知る姿とは、似ても似つかないものだった。
黒や白、ピンクに似た色で彩られた体。緑の複眼を持つ、異質な姿。

『…士君、それは禁止した筈だよ?』
「わかってるよ。俺の負けで、お前ら四人の勝ちだよ」

でも、見たことのあるその姿。ある者は救われた時に見た背中、ある者は雑誌で見た姿。陸士なら一度は憧れる、陸のエースの一人。

門寺士―――またの名を、仮面ライダーディケイド。
























「いやはや、負けちまった~!」

ははは、と笑いながら変身を解く。そこへスバルやティアナがやってきて、なのはもエリオとキャロを連れてやってきた。

「どう?うちのフォワード陣は?」
「ん~…まぁ、新人にしてはいい方だろうよ。ま、個々で色々言いたいこともあるけどな」

そう言って士はスバルにビシッと指を刺した。

「まずスバル。最後の一撃やティアナとの連携はいいとして…お前の攻撃は一直線過ぎる!」
「うっ…!」
「もう少し工夫しろ、走りながら考えろ!相手の行動を観察して、次の動きを読んで、何が最適の攻撃なのかを考えろ!?」

スバルに言うことはもうないのか、次にティアナの方を向く。

「ティアナは四人の中じゃいい方だったな。メンバーへの的確な指示や魔法での支援、その他諸々な」
「あ、ありがとうございます…」
「でもやっぱり、スバルとの連携が中心になっちまうのが目立つな。まぁ付き合いがそれなりに長いのはわかるが、エリオやキャロももっと使った連携も、見てみたかったな」

は、はい。というティアナの言葉を聞いてから、今度はエリオとキャロに。

「エリオとキャロは、経験不足は否めないな。ま、こればっかりはしょうがない」
「「はい……」」
「だからって落ち込むなよ?お前らはこれからなんだから。エリオ個人は槍の扱い方、キャロは他のメンバーとの連携を中心に学んでいくことになるんだろうな」
「いや、士君。最初は全員でのチームワークを中心に教導していくつもりだったんだけど……」
「あら、そうなの?」

それは聞いてなかった、という顔をしてなのはを見る。なのははそれに対して、一回だけ頷いた。
そうだったのか、と頭を掻きながら士は呟いた。

「じゃあ俺が訓練に加わるのは、もう少し先か」
「そうなるね」
「え?どうしてですか?」
「俺は連携よりも個々の能力の方が教えられるからな」

まぁ何はともあれ、と言って腰に手を当て、士は四人を正面に見据える。

「これから約一年、お前らは前線に立って戦い、俺はその後ろで指揮を執らせてもらう訳だが……これならまぁ、〝前〟は任せられるな」
「「「「っ!」」」」
「訓練でお前らを相手取る事もあるだろう。これから一年間、よろしくな」

ニヘラと笑ってそう言った士。それを見た四人は一度顔を見合わせた後、四人揃って頭を下げた。

「「「「はい!よろしくお願いします!」」」」
「おう!」

こうしてこの日の訓練はフォワード陣の勝利という形で終わった。
しかし今日フォワード陣が得た自信は、今までで四人が得た物の中で一番大きな物だった。




  
 

 
後書き
 
結構書いたと思ったのに、結局は一万文字。思ったより少なかった。

今度はいつになるかわかりません。内容としてはおそらく本編の初アラートのとこ。
次回もじっくり待っててくださいね。私も頑張ります。
  
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