ポケットモンスター ホープロード
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第六話 リングマ
あのバトルが終わった次の日、教室でジトリンは質問責めにあっていた。
ツヴァイを苦戦させて相手ということと転校生ということが余計に注目の的なのだろう。
話していくうちにコンテストでマスターランクに出場していたことがわかってコーディネーターからも質問責めだ。
「で、中止になったマスターランクはどうなったの?」
「ビリで負けたから大したことないよ…。」
「マスターランクってそれでもかなりのレベルだろ!?すっげぇー!」
ああ、ビリだったのか…とツヴァイは心の中でつぶやいた。
自分はノーマルランクですらビリだったのだからマスターランクなんて夢のまた夢だろう。
トレーナーとしての腕はこちらの方が上ではあるが、ジトリンの方がコーディネーターとしては全然だ。
総合的なものでは自分は劣っているのかもしれない。
もし、まだ自分が普通の環境であればコンテストについて色々と話していただろうが。
保護団員として…何よりあの事件の解決に至らなければそういうものに深く入れないだろう。
「はぁ…。」
深いため息をついた。
その様子を…ジトリンは見逃しはしなかった。
学校が終わり、いつものように本部に向かい、任務を受け取った。
「今回の任務は……なるほどね。」
今回の任務はポケモンの更生だ。
虐待されるなどして傷ついたポケモンを人に対して心を開くようにしたり、野生に戻る手伝いをすることも仕事である。
「さてと、任務に向かうか。」
ポケモン達が保護さている場所はクチバに建設されてており、実は学校に近い場所である。
そこは勝手におじいさんがワンリキーで地ならしていたため、立てやすかったというのもある。
そのおじいさんはここに施設を建てると聞いた時は自分のことのように喜んでいたらしい。
「サーナイト、クチバの保護施設にテレポートして。」
「サナ!」
ボールからサーナイトを出してテレポートした。
「わっ!」
いきなり目の前にテレポートしてきたのでジトリンはしりもちをついてしまった。
「あっ、ごめん。大丈夫?」
ツヴァイは手を差し伸べた。
「ああ、ありがとう。」
その手をつかむとツヴァイは引っ張り上げた。
「わわっと…。」
思いのほか力が強く、ジトリンは動揺していた。
「えっと…どうしたの?」
動揺のあまりわけのわからないことを言っていた。
「それはこっちのセリフだよ。保護施設になんかようか?」
「あっ、う…。」
案の定のことを言われて言葉が出なくなってしまった。
とてもじゃないが、引っ越してばかりで辺りをほっつき歩いていたら迷子になったなんて言えない。
「…おやおや、こんなところに彼氏連れてきちゃダメじゃないか。」
厭味ったらしい声で近づいてくる人間にツヴァイは構えた。
「なんだよ、なんで兄貴がいるんだよ…!」
「えっ、ええっ!?」
フィーアがやってきていた。
横にいるジトリンは困惑していた。
フィーアはコーディネーターなら憧れの存在。ジュペッタだけでホウエンのコンテストを制覇している伝説の人間だ。
「ええっ!?フィーア様ってツヴァイさんのお兄さんなんですか?」
「フィーア様って…気持ち悪いなぁ。様なんかつけなくていいよ。」
「わー、本物だぁ、握手してもらってもいいですか?」
「ああ、それくらいなら。」
まさにファンと有名人状態である。
こうやって人の顔色をうかがう兄にため息を吐くツヴァイ。
「でもごめんね。私達は今仕事中だから。彼氏さんはこれ以上は進めないよ。」
「!?」
彼氏という言葉にジトリンは反応し、顔を赤くした。
一方でツヴァイは反射的に声を荒らげた。
「こいつは彼氏じゃない!勝手に何言ってるんだクソ兄貴!」
「あれー、違ったの?」
ケラケラとからかうように笑うフィーアに今にも殴り掛かりそうな形相で睨むツヴァイ。
「本当になんで兄貴がここにいるんだよ。」
「任務以外、何があるっていうんだ?」
他人がいるからか、言葉こそ汚くないがイラつく言い方であるのには変わりはない。
「ったく、兄貴と一緒に任務だなんて…。」
「早くしないと怒られるよ。」
人前ではいい兄貴を演じているのがタチが悪い。
「チッ、…わかったよ!…じゃあね、ジトリン。」
「あ、うん…。」
二人は施設に入って行こうとする。
そこでハッとジトリンは気が付いた。
迷子になったら道を聞こうと思ったのだ。
「ちょっちょっちょっ、待って!」
二人を追いかけて足を滑らせた。
一方、ツヴァイは施設に入るためにカードをタッチしていた。
するとバリケードが開きフィーアに続いて入ろうとするが足を滑らしたジトリンとぶつかってしまった。
「うっ、わああっ!」
ドーン!と二人はおもっいきりこけたが意外にも衝撃はなかった。
「いったた…おい、なんなんだよ。」
「あっ、ご、ごめんなさい。あのっ、その…道…聞きたくて。」
「えっ、あ…道?」
ツヴァイの方もまだ混乱しているようで動揺していた。
「ひっ、引っ越してきたばかりだから道に迷っちゃって…はははっ、早く伝えれば良かったね。」
「ああー、わかった。どこに行きたいの?」
「えーっと…そのぉ…。」
「…おい。」
二人の会話に割り込む何者か。しかし周りに姿はない。
「そろそろどいてくれないか?」
声のする下の方を見ると…
「わわわっ、フィーア様ごめんなさい!」
二人はフィーアを下敷きにしていたようだ。
転んだ時に衝撃が少なかったのもこのせいだろう。
ジトリンはすぐさまどいたがツヴァイはむしろ足を乗っけた。
「何すんだ…っ!」
今にも怒鳴りそうになっていたが、人前だからか出来ないようだ。
ツヴァイはさっきのお返しとばかりに体重をかけた。
「くっ、重いっての!どけよッ!!」
我慢できなくなったのか無理矢理体を起こしてツヴァイを突き飛ばした。
「わわっ!」
「テメェ何しやがるんだ!覚えてろよ!」
「なぁにその、悪役の負けた後みたいなセリフ!」
「……。」
急に言葉遣いが悪くなってフィーアを見てジトリンは困惑していた。
それにフィーアはしまったという表情をしていた。
「ざまぁ。」
「チッ…。もういい、おい、そこのお前。」
「あっ、はい!?」
突然強い口調で話しかけられビクッとしてしまうジトリン。
「このことは他に言うなよ。」
「えっ、あ…。」
「なーに脅してんだよ。」
開き直ってジトリンを脅すフィーアをツヴァイは睨み付けた。
これ以上言うならグレイシアで氷漬けにしてやろうと思った。
「つーか、なんで施設に入ってきてるんだよ。警備員に取っつかまるぞ。」
「わわわわっ、ごめんなさい!み、道がわからなくて…。」
「僕が道案内してるから兄貴は先に行ってろ。」
「ったく、それが兄に対する態度かよ。フュンとドライにはそんな接し方してねぇくせに。」
「フン、だったらもっと兄らしくするんだな。行こう、ジトリン。」
「う、うん…。」
怯えながらもツヴァイについていくジトリン。
ある程度施設から離れたあと、ツヴァイは振り向いて口を開いた。
「ごめん、変な兄貴で…。」
「い、いや別にいいよ…勝手に入った俺が悪いんだし。」
「あれが兄貴の本性だから学校でバラしてもいいよ。」
「そ、それはさすがに…。仮に言っても信じてもらえないよ。」
「はぁ…。それもそうだよな。…あっ、この先右に曲がれば学校あるから。」
「ありがとう、ツヴァイさん。」
そういってジトリンとは別れた…が、なんだか施設に戻る気が失せてしまった。
「兄貴とは任務やりたくないなー。ドライ兄さんだったらいいんだけど…。」
しかし行かなかったらそれを付け込んで色々言うだろうから仕方なく行くことにした。
それにサボりでもしたらフュンに迷惑をかけてしまう。
「父さんと母さんがいない分、フュン兄さんは頑張ってるんだ。」
フュンに迷惑をかけないために施設に向かった。
「来たか、ツヴァイ。」
「ポケモン達は元気みたいだね。」
施設に入ると色々な防弾ガラスに分けられた部屋でポケモン達が元気そうにしていた。
草ポケモンは草地、氷ポケモンは冷凍された部屋などポケモンに合った環境になっている。
「さて、あいつは元気になったかな。」
「…。」
フィーアの言う「あいつ」…とは…。
「…リングマ…。」
十万ボルトが使える、リングマである。
たくさんの検査を受けてしまったせいか疲弊して部屋の隅から動かなくなっていた。
「ひどいよ…こんなになるまで検査するなんて…。」
「しょーがねーよ、また暴れでもしたら他のポケモンまで迷惑がかかるんだ。それに原因をつきつめねーと他のポケモンもおんなじことなるかもしれねぇんだからな。」
「くっ…。」
悔しそうにしたかと思うと部屋に入って行った。
「おい、ツヴァイ。」
他のノーマルタイプのポケモンとは隔離されている。
「…リングマ…他のポケモン達と遊んでみようか。」
リングマに触れようとすると鋭い爪を振り上げた。
「ッ!」
すぐに身をかわしてボールに触れた。
「リングマ…。」
サーナイトを出すとゆっくりとリングマに近づいた。
「…大丈夫だから。」
しかしリングマは十万ボルトを放った。
それを見たサーナイトは十万ボルトを放ち相殺した。
「リングマ…。」
「…もうよせよ、怪我するぞ。」
「大丈夫だよッ!」
フィーアが駆けつけるもののツヴァイは振り返らなかった。
「グオオオオ!」
ギガインパクトを放ちサーナイトは吹っ飛んだ。
「サーナイト!」
ダメージが大きいのかなかなか立ち上がれないようだ。
「くっ…グレイシア…。」
しかしリングマがツヴァイの目の前に迫っていた。
ギガインパクトの反動がきていなかった。
「ッ…!?」
「ガブリアス!」
目にもとまらない速さでガブリアスはリングマを一撃で瀕死にさせた。
「あっ…リングマ!」
「危なかったな…。」
「ッ…!なんで…ッ!なんで倒したんだよ!」
「なんでって…お前を助けるにはこうするしか…!」
「最低…!」
フィーアを突き飛ばして走って行ってしまった。
「………チッ…。」
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