遊戯王GX~決闘者転生譚~
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初年度
学園編
TURN-02『デュエルアカデミア』
前書き
今回の話ですが、デュエルはありません。
その代わり(?)主人公の精霊が登場します。
【章刀side】
春──
入学や入社などなど‥‥。
世間一般では人生において新たな門出となる、とても大事な時期だ。
本来なら高校1年生──現実では既に高2だったが──となる歳である俺も、一般的には大事な時期だったんだろう。
何故過去形か?
それは今の季節が〝秋〟だからである。
俺はこの秋から、世界有数のデュエリスト育成機関であるデュエルアカデミアに通う事になっている。
〝入学〟っていうからてっきり〝春〟だと思っていたのに、実際飛ばされてみたら〝秋〟だった。
まぁ秋入学なんて海外にはざらにあるが‥‥。
ホント、翔の受験番号の件といい、俺の原作知識の曖昧さには不安を覚える。
ちなみに〝学園〟とかを意味するこの『アカデミア』という言葉の語源は、紀元前387年ごろにギリシャの哲学者プラトンが創設した学園『アカデメイア』にあるらしい。
その『アカデメイア』という名も、学園が創設された土地に祀られている『アカデモス』という英霊の名に由来しているのだとか‥‥。
閑話休題──
何故俺がデュエルアカデミアに通う事になっているのかというと、アカデミアの入学実技試験から数日後、ホテルに滞在していた俺の許に合格通知が来たのだ。
実技担当最高責任者であるクロノス先生相手にワンキルを決めた事もあって、合格の自信は十二分にあった。
──が、それでも実際に合格通知が来た事に内心ホッとしたのはココだけの話‥‥。
その後は入学案内の指示に従い、学園の所有する島外の飛行場へと集合。
そこから専用の飛行機──どちらかというと大型のヘリだと思う──に乗って、太平洋に浮かぶ孤島に居を構える『デュエルアカデミア本校』へとやって来たのだ。
‥‥が、
「‥‥気持ち悪い」
〝グロッキー〟
飛行機から降りた今の俺の状態を簡潔に言い表した単語だ。
実を言うと俺は乗り物というモノがあまり得意な方ではない。
理由は単純、〝酔うから〟。
今は比較的慣れた車や電車も、最初の頃は本当に乗るのが億劫だったモノだ。
けど飛行機はまた別の話。
金持ちや芸能人でもない一般人であった俺に、そうそう乗る機会など無い。
家族旅行もほとんど車──遠方の場合は深夜に出発──で行っていたからな。
俺が初めて飛行機に乗ったのは、現実で死ぬ少し前に、高校の修学旅行でイギリスに行った時だ。
正直なところ日本を出ることにあまり気乗りはしなかったが、初海外ということもあって、ホンの少しばかりは楽しみにしていたと思う。
初飛行機もかなりの不安があったが、機内はエコノミーでもそれなりに居易く、酔いもあまり感じなかった。
〝なんだこんなものか〟と次第に気持ちが楽になり、不安も忘れて友人たちとの会話を楽しむことに勤しんだっけ。
そして日本を飛び立っておよそ13時間、流石に疲れていた自分の耳に、間もなくイギリスのヒースロー空港に到着するという機内アナウンスが聞こえてきた。
〝やっとか〟と息をつき、アナウンスに従ってシートベルトを締め、席でジッとしていると、その瞬間は訪れた。
着陸のために飛行機が高度を下げ始めた途端、猛烈な吐き気に襲われたのだ。
思わず前の座席の頭を掴んで顔を伏せ、まるで飛行機が墜落するかのようなポーズを取ってしまった。
周りの友人たちが心配して声を掛けてくれたらしいが、その時の俺にはそんな声を聞く余裕はなかっただろう。
現にそのことは後で友人たち自身に聞いて知ったくらいだ。
その後の修学旅行は楽しかったが、これだけはホントに最悪の経験だったな‥‥。
この経験を通して俺が学んだのは、〝俺に飛行機は無理〟ということだ。
修学旅行中のどんな楽しい思い出よりも強く心に残るくらい、二度と飛行機になど乗らないと誓ったのを覚えている。
‥‥まあ帰りも飛行機に乗って同じ経験をしたのだけれど。
また話が盛大に脱線しそうなので、再び閑話休題──
「今度こそホントに、二度と空を飛ぶモンには乗らねぇ‥‥」
こういうことはフラグになりそうであまり言いたくはないが、言わずにはいられない。
それだけこの〝酔い〟には勘弁してもらいたいのだ。
俺はしっかりと大地を踏み締め、数回ほど深呼吸をして気分を落ち着かせる。
その間にも生徒の誘導が始まっており、少々遅れながらもそれに従って校舎へと移動することとなった。
こうして俺は、改めて〝デュエルアカデミア〟へと足を踏み入れたのだった。
アカデミアの入学式を終えた俺は、晴れてデュエルアカデミアの生徒となった。
俺の所属は『ラーイエロー』。
所属とは、デュエルアカデミアにおいてのクラス分けのような物で、この学園には3つの所属があり、それぞれ別の色の制服を着用する。
赤い制服の『オシリスレッド』、黄色い制服の『ラーイエロー』、青い制服の『オベリスクブルー』の3つがそれだ。
ただし、所属するクラスは、それを受験前に志願したりするのではなく、完全な入試の成績によるクラス分けになっている。
いわゆる習熟度別学習制度というやつだ。
高等部受験者の中で、成績優秀者はラーイエロー、それ以外はオシリスレッドにそれぞれ振り分けられる。
もう1つのオベリスクブルーに配属されるのは、中等部から進学のエリートたち及び高等部受験の女子のみである。
そんなオベリスクブルー──通称ブルー寮の生徒たちは、一部の例外を除いてとにかくエリート思考が高く、成績が悪いオシリスレッド──通称レッド寮の生徒を見下している。
自分たちより成績が低いという点においては、ラーイエロー──通称イエロー寮の生徒もその対象外とはならない。
正直、俺はそういう奴らが嫌いだ。
だから俺は〝極力ブルーの生徒には関わらないようにしよう〟なんて事を考えていた。
ちなみに、ここまでの話は別に説明とかをしてるんじゃなく、イエロー寮までの道中でただ単に原作知識のお浚いをしていただけである。
こうでもしないと知識がまた曖昧になりそうだからな‥‥。
そうこうしているうちに、俺はこれから自分が生活をするイエロー寮に到着した。
外装は中々良さげなペントハウスといった感じで、内装もそれに劣らない。
原作のイエロー寮内の描写があんまり記憶に残って無いから、少し不安だったけど、十分満足できそうな生活空間だ。
俺は内心安堵しながら、自分の部屋へと向かい、ドアを開ける。
これから俺のプライベートルームとなる部屋も、外装等からの期待を裏切らない──悪く言えば何の変哲も無い──モノであった。
実を言えば俺はイエロー配属となって、内心では不安半分、安心半分だった。
不安点はさっき述べたとおり‥‥。
対する安心点は、残る2つの寮だ。
落ち零れクラスであるレッド寮は、今にも潰れてしまいそうなボロアパート風の寮。
エリートクラスであるブルー寮は、一転王様やお姫様が住んでいてもおかしくないような豪華絢爛な城風の寮。
‥‥いや、アレは最早〝寮〟ではなく〝城〟そのものだ。
そう感じさせるほどのモノなのだ。
だからこそ、俺は普通に普通で普通なペントハウス風の寮のイエローに配属されてよかったと思ってる。
──けどまあ正直な話、俺は寝ようと思えば何処でも寝られるのだけれど‥‥。
そんな思いを抱えながら、俺は自室となる部屋に入り、ドアを閉める。
《へぇ~‥‥中々良い部屋ですね》
部屋に入ってドアを閉めた途端、俺の腰に携えられているデッキケースから声が発せられた。
「おいおい、いきなり喋るなよ。びっくりするだろ?」
《いいじゃないですか。別に誰かに聞かれる訳でもないのに‥‥》
俺がその声に反応すると、突然、俺の隣に半透明の少女が現れた。
「確かにそうかも知れないけどさ、お前は一般人には見えないんだ‥‥。これだと俺が独り言言ってるようにしか見えねーだろ? 〝変な奴〟ってレッテルを張られでもしたらどうすんだよ」
俺は呆れた口調で言う。
‥‥が、
《ほほう‥‥そういうのも面白くていいかも知れませんね♪》
少し悪戯な笑みを浮かべ、まるで言葉の端に音符マークを付けて喋るかのように返された。
──よし、
「だったらもうお前とは口を利かない事にしよう。これで万事解決、無問題」
《すみませんすみません謝りますこの通りです‥‥許してください》
「‥‥‥‥‥」
《マスタぁ~~~‥‥》
涙目で訴えかける少女。
「‥‥ハァ~‥‥冗談だよ冗談」
《はぁ~~~‥‥よかったぁ~‥‥》
本当に安堵したようで、少女はその場に座り込んでしまった。
ここまでのやり取りでもわかるように、この少女が俺の精霊だ。
十代でいう所のハネクリボーだな。
《そんなマスター‥‥相棒だなんて‥‥》
少女は軽く頬を赤く染め、照れ笑いを見せる。
地の文に反応するな‥‥。
って言うか〝1人称〟の文ですよ?
お前も心を読んでるのか?
「ハァ~‥‥」
俺は再び溜息をつきながら、部屋のベッドに背中からダイブする。
《あの~、マスター? もう寝るんですか?》
「そんな訳ないだろ? ちょっと寛ぐだけだよ‥‥。さすがに立ったまま延々話聞かされちゃあな‥‥」
ベッドにダイブした理由は単純に〝疲れたから〟。
学校での式典などでは恒例であり、全校生徒が思う〝無くなればいいと思う学校行事ランキング(俺の独断&偏見調べ)〟で必ず上位に食い込むであろう〝校長の長話〟を延々1時間ほど、それも立ったまま聞かされればそりゃ疲れるというものだ‥‥。
アニメを見てた時はそんなに長い話する人には見えなかったから、その分、なおさらかも知れない。
そういえば十代が居眠りしてる描写なんかもあったな。
色々と思いを巡らせながら、俺は何ともなしに部屋の天井を見つめていた。
そんな俺に、
《寛ぐのはいいんですけど‥‥》
半透明の少女が声を掛ける。
《アレ、いいんですか?》
山積みにされたトランクを指差しながら‥‥。
「‥‥俺の心労をこれ以上増やさないでくれ」
《そんな事言われましても‥‥》
トランクの中身は勿論、大量のカード。
受験前に整理したカードを、段ボール箱から駅周辺で調達したトランクに移し替えたモノだ。
「はぁ~‥‥もう1回地獄の作業しなきゃな‥‥」
俺は三度溜息を吐く。
《手伝いましょうか?》
「どうやってだよ‥‥」
《うぅ‥‥すみません‥‥》
俺がジト目でツッコむと、少女が若干涙目で謝る。
──そんな顔しなくてもいいだろ、落ち込むぞ‥‥。
内心シュンとしながらも、俺は渋々地獄の作業を始めた。
数十分後‥‥
「ふぅ‥‥終わった‥‥」
《お疲れ様です》
俺は早くも地獄の作業を終えた。
元々整理していた事もあって、1回目ほど時間は掛からなかった。
それでも疲れる事に変わりはないが‥‥。
「歓迎会までまだ時間あるな‥‥。今度こそ寛ぐか‥‥」
歓迎会というのは、文字通り各寮で行われる新入生歓迎のパーティーのことである。
これも俺がイエロー寮でよかったと思う要因だ。
この寮の歓迎会は普通より少し豪華な会食といったところ。
歓迎会なんてそれで十分だと思うが、他の寮──特にブルー寮──に関しては当然そんなモノではない。
レッド寮のソレは普通以下の質素すぎる夕飯といった感じ。
育ち盛りな世代としては物足りないが、まあまだマシだ。
ブルー寮のソレは‥‥最早歓迎会ではない、〝社交界〟だ。
寮と言い食事と言い‥‥規模が馬鹿げているよ、ホント。
各寮の歓迎会の描写を思い出しながら、俺は再びベッドに背を預け、心身を癒そうとする。
その時、ふと、何を思ったのかある考えが浮かんだ。
「そう言えば‥‥俺、お前の事なんて呼べばいいと思う?」
《いきなりどうしたんですか?》
「いや、普通にカード名で呼んでもいいだけどさ‥‥なんかちょっと長いだろ? だったらこう‥‥愛称的なモノがあってもいいんじゃねーかな?って思ったんだよ。ヨハンの〝ルビー〟みたいにさ」
《うーん‥‥私としては普通に呼んでもらってもいいんですけど、そうですね‥‥》
少女は少し思案した後、俺の方を向いて言う。
《それじゃあ、マスターが愛称考えてくださいよ!》
「俺が? いいのか?」
《はい!》
少女は満面の笑みで答える。
俺が考える愛称に期待しているのかも‥‥。
うーん、どうすっかなぁ‥‥。
暫く考え込み、俺はその愛称を口にした。
「それじゃあ、『ヴェール』ってのはどうだ?」
《ヴェール、ですか?》
「ああ。元のカード名を少しモジッてヴェール。どうだ?」
俺は少女に感想を求める。
対する少女の返しは、
《うーん‥‥まあ、及第点ってトコですね》
──及第点かよ!? くっそぉ、なんかムカツク‥‥。
そんな俺の心中察したのか、少女が笑みを浮かべながら言葉を続ける。
《冗談ですよ冗談。マスターが真剣に考えてくれたんですから、どんな名前でも私は嬉しいです♪》
「そ、そうか?」
そこまで喜んでもらえるとは思わなかった。
それはそれで、なんだか気恥ずかしい‥‥。
「んんっ! じゃあ‥‥改めてよろしくな、ヴェール!」
《はい! マスター!》
俺は自身の精霊である『エフェクト・ヴェーラー』──ヴェールと拳を合わせた。
─ To Be Continued ─
後書き
という訳で、主人公の精霊は《エフェクト・ヴェーラー》です。
ネット上でも様々な議論が交わされていますが、私の中ではヴェーラーは〝女の子〟です。
可愛い女の子です。
そういうことで悪しからず‥‥。
ちなみに冒頭の方で出て来た〝乗り物酔い〟の話ですが、アレ私の実体験です。
ホントに吐くかと思いました‥‥(-"-;)
アレなんで酔うんですかね? 揺れ? 気圧?
まあそれはどっちでもいいとして‥‥次回はデュエルします。
入試で使った【聖刻】とは別のデッキが登場しますのでお楽しみに!
‥‥と言っても過去に読んだことがある方はご存知かもしれませんが(汗)
本作に関する感想・指摘・要望・質問等、お待ちしております。
では今回はこの辺で‥‥。
次回、TURN-03『ファーストデュエル』
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